OBT 人財マガジン
2012.07.11 : VOL143 UPDATED
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株式会社日本レーザー
代表取締役社長 近藤 宣之さん人事制度をいくら変えても、
会社に対する「参画意識」がなければ、社員は満足しない(前編)社員から上がる不満への対処として人事制度を変えようとする企業は多いが、制度を変えれば本当に社員は満足するだろうか。MEBO(Management Employee Buyout)によって親会社の日本電子から独立した日本レーザーは社員全員が株主であることで知られているが、注目すべきは社員のモチベーションと会社へのロイヤリティの高さだ。独立時に社内に出資を募ったところ社員枠の2.4倍の応募が集まり、各自の出資希望額をカットせざるを得なかったという逸話がそれを物語る。どの様にして社員のモチベーション、ロイヤリティを高めたのかー同社独自の人事制度が機能したから、とも言えるが、突き詰めていくと「働くことで喜びを得る場を提供するために企業は存続する」という近藤社長の社員に対する考えに行き着く。会社への参画意識がなければ、どのような人事制度を持ち込んでも、社員は新たな不満の種を見つける。本当に必要なのは「制度をどう変えるか」ではなく、「社員の会社への参画意識をどの様にして高めるか」という視点ではないだろうか。
(聞き手:OBT協会代表 及川 昭)
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[及川昭の視点]
株式会社日本レーザーの近藤社長の経営観に接してつくづく考えさせられたことは、"会社は一体誰のものか"ということである。
会社の資本関係を規定している唯一の法律である"会社法"は、会社は株主のものであると明確な規定をしている。
法的には勿論、これは正しいであろうし、それを否定するつもりは全くないが、本当にこれが実態を正確に表しているのだろうか。特に、我々日本人の気持ちを正確に反映しているといえるのだろうか。例えば、単に勤めているだけ、雇われているだけと考えている社員に"自分の会社だと思って仕事をしろ"とか"社長になったつもりで考えろ"等といくら声高に叫んでも誰も本気にはならないであろう。
何故ならば、それは現実ではないからである。
自らの財布からお金を出して、自らが出資して自らリスクをかけて始めて心から本気になるのである。 何故ならば、会社の利益イコール自分の利益であるから、そこに甘えは全くなくなる。
人は、誰しも名実ともに自分のものであるという認識があれば、自ら進んで将来性のあるいい会社にしようと本気で考えて行動するのであろう。聞き手:OBT協会 及川 昭
企業の持続的な競争力強化に向けて、「人財の革新」と「組織変革」をサポート。現場の社員や次期幹部に対して、自社の現実の課題を題材に議論をコーディネートし、具体的な解決策を導き出すというプロセス(On the Business Training)を展開している。 -
株式会社日本レーザー (http://www.japanlaser.co.jp/)
1968年、個人株主10名でレーザーの輸入販売商社として設立。1971年に日本電子(株)の100%出資子会社に。レーザー技術を日本市場に紹介したパイオニア的存在として知られる。顧客の要望にきめ細かく対応する"スーパーニッチ"を標榜し、商社でありながら正社員40名のうち6名の博士・修士に加えて8名のエンジニアを抱え、カスタムオーダー(特注)やアフターサービスに注力している。2007年にMEBOによって日本電子(株)から独立。派遣、パート以外の社員全員が株主を兼ねる企業として、業界内外の注目を集めている。2011年に第1回「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞・中小企業庁長官賞を受賞。
企業データ/資本金:3000万円、従業員数:59名(2012年1月現在)、売上高:34億円(2011年度実績)NOBUYUKI KONDO
1944年生まれ。慶応大学工学部卒業後、日本電子に入社。1972年、28歳で日本電子連合労働組合執行委員長に就任。83年まで同職を務める。その後、総合企画室次長、アメリカ法人支配人、取締役営業副担当などを経て、94年から現職。2007年に役員・社員の持株会などから構成されるJLCホールディングスを設立し、MEBOを実施。日本電子からの独立を果たす。
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「社員を犠牲にする経営」に反旗をひるがえす
────企業の経営に一つの真理があるとすれば、ここに行き着くのではないかと思うテーマがあります。それは、「会社は誰のものか」ということです。例えば2005年にライブドアがニッポン放送を買収したときも、「企業は誰のものか」という議論が世間を賑わせました。当時の世論調査で圧倒的に多かった見解は「会社は社員のものだ」というものでしたが、これは「会社は株主のものである」とする会社法とは随分異なります。近藤社長がなさってきた経営を拝見すると、やはりここに行き着くような気がするんです。
そうですね。法律の定義とは違いますね。
────ええ。ただ私は、これがやはり日本人の偽らざる感覚なのだと思うんですね。それは情緒的な話ではなくて、論理的にも、会社は資本の集合体であると同時に、働く人たちの集合体でもある。そう捉えたときに、企業の競争力や持続性は、社員が会社にロイヤリティを持ち、高いモチベーションを発揮しなければなし得ません。近藤社長は「会社は社員のものである」と明言されていますが、この考えに行き着かれた最も大きな要因は何だったのでしょうか。
「会社は社員のものであり、お客様のものでもある」。日本レーザーのホームページには、はっきりとそう書いています。もちろん法律的には株主のものですが、当社では全社員が株主ですから、会社は株主のものであり、社員のものでもある。これが両立している会社は、日本では当社しかありません。
なぜこうした会社をつくったかといえば、私は日本レーザーを含めて企業再建に3回関わり、その過程で人を犠牲にした経営をさんざん見てきたわけです。その経験が原点にあるんですよ。
一度目は、当社の元親会社、日本電子での体験です。「第二のソニー、ホンダ」といわれた企業でしたが、1974年にオイルショックの影響で業績が突然悪化してしまった。当時は「リストラ」という言葉はありませんでしたが、社員を子会社に移籍させ、希望退職を募り、最後は指名解雇に近いことまでやりました。
私は、労働組合の委員長としてこのリストラに関ったんです。入社当時、社内では二つの組合が対立していました。しかし、私が片方の組合の執行委員長に就任してからの一年で、過激な労働運動で荒れた職場は見事に立ち直りました。その直後にリストラです。そのときに思ったのは、「本当の理由は何なのか」と。会社は「ニクソンショックだ、オイルショックだ」と言うけれど、そんなものは本当の理由じゃない。原因はすべて内部にあるんですよ。
────まったくそうですね。経営が傾いた例を見ると、外部要因よりも内部要因が原因になっていることがほとんどですからね。変化する事業環境に内部要因が対応できなったという。
労働組合が会社を守るためにどんなに貢献しても、経営がしっかりしていなければ雇用は守れない。そのときに犠牲になるのは、最も生活費のかかる中高年だと。この悲劇を痛感したわけです。
2度目の希望退職者は715人に上りました。その多くは40代、50代の人たちです。私は当時30歳でしたが、組合の委員長として全員と面接し、ある人からこう言われたんです。「自分は55歳で、定年まであとわずか。課長にもなれず、30年間組合費を払ってきた。長く組合費を払った人間が、大切にされるべきではないのか」と。これはもう、グサッときましたね。
その後39歳で委員長を引退し、アメリカの関連会社に赴任して、そこで二度のリストラを経験しました。一つはニュージャージーの現地法人。経営が破たんし、全員解雇という大手術です。ただ、これは典型的なアメリカ的経営の会社でしたから、荒っぽいけれど仕方がないという面もあったのですが、こたえたのは次に赴任したボストンでのリストラです。
ここは日本的経営の会社で、レイオフはそのときが初めて。人員を15%削減することになり、私はアメリカの総支配人として、対象になった社員に解雇を通告しなくてはなりませんでした。本人と面接すると、「レイオフがないから入社したのに」とアメリカ人のドクターが泣くんです。これは辛かったですね。
────そうした経験が、日本レーザーの再建にあたって「雇用は守る」と宣言されたことにつながるわけですね。
そうです。社長として会社を再建するときは、肩叩きは絶対にしないと決めていたんです。
MEBOで親会社から独立。経営の自主性を守る
────そういった考えを前提に親会社と子会社の関係を考えたときに、これからの子会社はどうあるべきだと思われますか。
まず問題は、親会社は何のために子会社をつくるかということです。子会社の方が小回りがきくなど、いろいろな理由がありますが、一番大きいのは人件費が安いということですね。つまり、親会社が利益を上げる手段として子会社をつくる。親会社のあぶれた人材を吸収する受け皿、天下り先としての役割もあります。
そうなると、子会社の社長は常に親会社から来ますし、金庫番の経理部長も親会社から来る。子会社は、何をするにも親会社にお伺いを立てなければならない。つまり、常にガラスの天井があるんです。これでは、子会社の社員のモチベーションは上がりません。今後のあるべき姿でいえば、親会社は子会社の独自性を尊重し、子会社は親会社とは違うビジネスモデルを確立する。そういった関係が必要だと思いますね。
日本レーザーも、5代目の社長である私を含めて歴代のトップは、みんな日本電子から来て、プロパーの社員は部長止まりという時代が続いていました。私の代になってからプロパーの役員を誕生させたものの、親会社に交渉したときは「若すぎる」と言われましてね。47歳の部長でしたが、「日本電子では55歳以上でなければ役員にしない」と言うんです。でも、3000名の会社と30名の会社とでは違うでしょう。何かにつけてそうした抵抗を受けるわけです。
日本レーザーが高収益を上げた年に、親会社に過去最高の5割の配当をして、社員にも報いようと10年ぶりの社員旅行を行ったら、「とんでもない」と始末書を書かされたりね。そういう制約があるんですよ。
多様な社員をどう活かすかが出発点
────そういう意味では、親会社の中で社員の活用やモチベーションの向上を考えることよりも、それを子会社でやることの方がはるかに難しいですね。制約条件が大きいですから。
そうです。そこでMEBOによって親会社から独立したわけですが、これは、それ以前にいろいろな努力をして社員のモチベーションを高めていたからできたことなんです。そうでなければ、社員は出資しませんからね。そして独立したことで、もともと高かったモチベーションがさらに高くなった。そういう関係です。ですから、実はMEBO以前にやるべきことがたくさんあるんですよ。
また、身体障害者1級の人も正社員として働いているとか、女性や外国人も活躍しているとか、定年再雇用を行っているといったことで、「日本でいちばん大切にしたい会社」だと評価していただいています(※)。これを意図的にやったなら褒められたことだと思うのですが、実際は意図したわけではなく、結果としてそうなったということなんです。
※2011年に第1回「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞・中小企業庁長官賞を受賞。
なぜなら、中小企業は人が採れないんです。知名度もない、私が最初来た当時は債務超過で給料も高くない。それで新聞広告を出したって、誰も来やしません。採用できるのは、学歴でいえば高卒や専門学校。大卒でも、有名ではない大学ですね。海外放浪の旅に出ていたとか、中国人留学生で横浜国大のマスターを出たけれど就職できなくて、もう国に帰るしかないという人もいました。今は東大卒や京大卒のドクター、マスターも活躍していますが、優秀な人が集まり始めたのは2005年くらいからのことです。当社の社員が、学歴・国籍・性別不問で活躍しているのは、こういった背景があるんですよ。
社員の働きがいを高める「進化した日本的経営」
────では、そうした多様な方々のモチベーションをどのようにして高め、成長させるかということが課題になりますね。
そうです。そこで私は「3主義」を打ち出したんです。これは、「能力主義」「業績主義」「理念主義」の3つの主義からなる人事制度です。
能力主義では、「実務能力」と「基礎能力」の2つの面から社員の能力を見ます。実務能力とは、営業や技術、経理など、それぞれの実務に必要な能力のこと。基礎能力はどのポジションにも必要な能力のことで、「英語力」と「ITスキル」、そしてもう1つ、これは極めてユニークなのですが「性格」も基礎能力に位置づけているんです。
性格を性格として見るから、変えられないんですよ。「自分は引っ込み思案だ、暗い性格だ」と。それを私は、「対人対応能力」と定義づけたんです。そう考えると、改善できるんですね。「常に笑顔でいる」とか、「常に他人を思いやっている」という風にね。
────具体的な行動に落とせば、能力として捉えることができますね。
そういうことです。これを「情意考課」と呼んで、時代遅れだという人もいるけれど、とんでもない。これこそ、人間の評価の中で一番大事なことなんですよ。
────私は、時代遅れというよりはむしろ、日本の企業が失ってしまったものだと思いますね。日本企業が競争力を喪失し、長期に渡って停滞してしまっているのは、あまりにもアメリカナイズしてしまったからで、こういったものを全部失ったことが原因だと思うんです。
おっしゃる通りです。ですから、結論からいえば私が目指しているのは「進化した日本的経営」なんです。対人対応能力を重視するのは、まさに日本的経営です。これには複数の評価項目があって、例えば「朝会ったら上司から先に挨拶をする」というのもその一つ。偉い人たちは、部下から挨拶されるのが当たり前だと思っている。それ自体が問題だということです。
「応援団が多い」という項目もあります。よく「B to B、B to C」と言いますが、「B to S」や「B to F」もあるんです。これは「Business to Supporter」「Business to Fan」のこと。お客さまやパートナー会社、大学の教授などが、日本レーザーを応援してくれる。そういう関係を築いて初めて業績が上げられるわけです。だから「B to S」が大切なんです。
事実、対人対応能力が高い社員は、応援団が多いですね。社内も応援団です。営業が注文を取ってくるから技術は仕事ができるし、営業は技術の支援があるから受注できる。お互いにサポーターなんですよ。上司と部下の関係も同じで、上司が応援団になってくれれば部下は育ちますよね。社内外の人たちとそういった関係を持てるかどうかは、対人対応能力で決まります。これを精神論でいってもダメで、当社では能力を5段階評価し、ランクによって手当を支給しています。
この「能力主義」に、「業績主義」「理念主義」を加えた「3主義」を通じて、「進化した日本的経営」を目指す。これが、世界に通用する新しいグローバルスタンダードになると、私は考えているんです。
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コミュニケーションを重視する同社では、オフィスは大部屋主義。仕切りのないワンフロアに、すべての部署が集まる(写真左)。社長室もつくらず、近藤社長はフロア全体が見渡せる席に座る(写真右)。
かつて日本的経営は、戦後の高度成長を成し遂げた奇蹟の手法として、世界から注目されました。今、その利点を改めて見直し、進化させることが今後の活路になると近藤社長は話します。「進化した日本的経営」とは何か。後編では、3主義を構成する「成果主義」と「理念主義」、そこから見える「進化した日本的経営」のあり方についてうかがいます。
*続きは後編でどうぞ。
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