OBT 人財マガジン

2013.03.27 : VOL160 UPDATED

経営人語

  • 人の意欲・やる気とは

    昔から言い尽くされてきたことではあるが、人が仕事に対して意欲的になる源は
    一体何だろうか?
    今回、株式会社JR東日本テクノハートTESSEIの人達にお会いして改めて感じたことである。

    意欲的になる源は、給与等の経済的なものというよりも、自分がやっている
    仕事自体の面白さや醍醐味、仕事を通じての自己成長の実感、そして仲間との
    切磋琢磨、顧客からの感謝などがあげられる。
    これらは、決して経済的なものとは別の仕事をすることから得られる報酬といえる。

    この種の報酬は、使えば使うほど減る金銭的なものとは異なり、
    深く取り組めば取り組むほど、やればやるほどに価値が増えるというのが特徴であろう。
    例えば、仕事の面白みというのは、踏み込めば踏み込むほど面白くなるだろうし、
    仕事仲間との協働という作業を通じてお互いに対する感謝の念や切磋琢磨を
    促す刺激などが生じる。

    このためには、組織内に感謝や知的触発が生じる仕組みを作り、
    或いは、働いている人達がお互いに認め合う関係を育めば育むほどに、
    組織風土としての蓄積が進んでいく。

    金銭的な報酬とは、単に「どのように配分するかという論理」であるが、
    上述の非経済的なものは、蓄積され増殖していくという特徴を持っている。
    何故ならば、非経済的なものは、個人に配分されて消えてしまうものではなく、
    企業文化や競争力として組織内に蓄積されていく。
    そして、他社が簡単に摸倣することが不可能な見えざる資産として
    競争優位性につながっていく。

    その一方で、このような非経済的なリソースを組織に作り上げるのは容易ではない。
    その理由は、非経済的なリソースを作り上げるためには、かなり時間を要する反面で、
    崩れ去るには時間を要しない。
    そのため非経済的リソースを作り上げるためには、長期的な時間と我慢を必要とする。
    したがって、非経済的原動力の構築には、経営者として容易にブレない長期的な
    コミットメントが求められる。
    また、非経済的リソースというのは、どちらかというと、ビジョンや価値観等といった
    観念的な世界である。
    そのために、観念ばかりが先行しがちとなり、実効性の高い仕組みが整わなければ
    働いている人達は幻滅したり、『口先だけではないか』と信用されなくなってしまう。
    要は、現場で働いている人達は、冷静なのである。

    そのためには、観念論ではなく仕組み、信念と忍耐力を持って長期的なコミット、
    そして、競争力とモチベーションとの統合が必要になる。ということである。

    世の中には、お金にはなるがつまらない仕事、また、面白いけどお金にならない仕事等は、
    どこでも普通にある仕事である。
    そこには、大きなジレンマが存在するものの、そのジレンマを超えて、
    双方を高いレベルで追求するところに、働く個々人が目指す理想がある。

    同時に、経営にとっても高い業績と高いモチベーションが連動するセグメントにこそ
    目指す理想がある。

    働く人達にとって、その会社で働くことの価値とは、金銭的な報酬と非経済的なもの
    との合計である。
    モチベーションを生み出すには両方の報酬が必要であり、言い換えると両者をともに
    追求するところに難しさと共に面白ささがあるといえる。

    金銭的なリソースにしろ、非経済的なものにしろ、どちらか一方に偏向した
    経営は危険である。
    金銭的報酬のみで個々人のモチベーションを吊りあげていく経営は、
    組織として築き上げてきた良質な文化や強さ等を破たんに追い込む危険性がある。
    逆に非経済的なリソースのみでは、緊張感や危機意識に欠如した甘い企業体質に
    陥ってしまうリスクもある。

    大事なことは、この両方のバランス感覚ではないだろうか。


    On the Business Training 協会  及川 昭


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