OBT 人財マガジン
2011.10.26 : VOL126 UPDATED
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ブックオフコーポレーション株式会社
取締役会長 橋本 真由美さん「制度・仕組み」は「情緒」があって、初めて機能する(後編)
従業員数9,630名の内、パート・アルバイトは8,634名。設立から14年で東証一部に上場したブックオフコーポレーションの成長は、従業員の約9割を占めるパート・アルバイトのスタッフによって支えられている。正社員の育成にも苦心する企業が少なくない中、非正社員をどのように戦力化してきたのか。その背景には緻密に設計されたキャリアパスプラン等の『システム』と、スタッフの心の機微に配慮する『情緒』が共存する。橋本会長はこう語っている。「情緒性が土台にあって、自らがやって見せ、思いを語る。そこにキャリアパスプランをプラスしたから、何とか動いているのではないかと思います。最初から、「キャリアパスプランはこういうものです」と言ったって、それでは機能しないですし、第一、人は育ちません」制度や仕組みをいくら変えても、その根底にそれらを動かす「人」への思い・配慮がない限り、決して運用はうまくいかない。
(聞き手:OBT協会代表 及川 昭)
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[及川昭の視点] 若い時の過ごし方で一生が決まる
結果を出すためには行動の量を増やすしかない。頑張って10万キロ走ってもそれは自慢にはならない。行動の量がなければ運も転がり込んでこない。チャンスをつかむには、やはり行動を最大化するしかないのである。まさに、偶然は必然である。勿論、行動の質を高めることは大事であるが、ただ、若い時から行動の効率化からスタートすると、行動の最大化することの重要性から目をそむけてしまう。20代、30代は行動量を増やすことを認識すべきである。20代、30代の経験は、後の仕事観に大きな影響を与える。この時期をどう過ごし、何を考えるのか。若いうちはそれによって自分の一生が決まるというぐらいの覚悟を持って、目の前の仕事に全力をあげて取り組むべきである。
ブックオフ会長、橋本真由美さんのお話は、若い人達へのメッセージにも思える。聞き手:OBT協会 及川 昭
企業の持続的な競争力強化に向けて、「人財の革新」と「組織変革」をサポート。現場の社員や次期幹部に対して、自社の現実の課題を題材に議論をコーディネートし、具体的な解決策を導き出すというプロセス(On the Business Training)を展開している。 -
ブックオフコーポレーション株式会社
1990年創業。1991年にブックオフコーポレーション株式会社を設立、同年にフランチャイズ展開もスタート。本の目利きが必要とされていた古本業界に風穴を開け、採用されたばかりのアルバイト店員でも買い取りや販売価格の設定ができる明快な基準を設定。買い取った古本は新刊同様に磨き上げ、明るく清潔な店内に並べる。これまでにない業態が消費者の心をつかみ、創業4年目に100店舗を達成。1999年から本以外のリユース事業に参入し、洋服やスポーツ用品など取扱商品を拡大。『捨てない人のブックオフ』をミッションに掲げて、循環型社会の実現に取り組む。2004年に東証二部、2005年に東証一部に上場。
企業データ/資本金:25億6400万円、売上高/連結733億4500万円(2011年3月期実績)、従業員数/996名、パート・アルバイトスタッフ 8,634名(2011年3月末現在)MAYUMI HASHIMOTO
1949年生まれ。短大卒業後、給食会社に栄養士として就職。その後、病院勤務を経て結婚。二女をもうけて育児に専念し、1990年に18年ぶりに再就職。ブックオフ直営1号店にオープニングスタッフとしてパート入社する。91年に正社員に登用、94年に取締役、2003年に常務取締役、2006年に代表取締役社長兼COOに就任。2007年から現職。著書に「1日1回の『声がけ』で売り上げが伸びる!」(すばる舎)、「お母さん社長が行く!」(日経BP社)。
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中古ビジネスの面白さを、いかに次の世代に伝えるか
────パートでご入社された当時から、「この店を潰すわけにいかない」と使命感を抱かれた、そのお気持ちの中にあったものは何だったのでしょうか。
ポイントは3つあると思っています。1つには、私はそれまで18年間、立派な専業主婦だったのですが(笑)、私個人を認めてもらえるということが、パートに出て初めてわかったんです。『橋本真由美』を認めてもらえるのは、とてもうれしいことなんですね。
2つ目は、収益が伴うということ。これも大きいです。主人のお給料でやりくりできないことはない。でもそこにプラスして、給料日にいくらかのお金が入ってくるのは、とても魅力的なことでした。
3つ目には、『中古』はやはり面白いんですね。新刊本と違って、私どもはお客さまから買わせていただかないと仕入れが成り立たちません。ですから、どうしたら持ってきていただけるかと。待っていてもダメですし、「買ってやる」という上から目線ではお客さまはきてくださらない。「どうか本をお持ちください」という、謙虚な気持ちが大切なんです。
ブックオフ各店で見られる「お売り下さい」のキャッチコピーは、パート入社して間もない時期に橋本氏が創業メンバーと考案したもの。消費者にアピールするだけでなく、買い取りには謙虚な姿勢で臨むという企業姿勢をスタッフに示す役割も果たしている(写真はブックオフ五反田店)。
また、モノを売るのは何となく気恥ずかしいものですよね。どうすれば、気楽に持ってきていただける店になるだろうと。そこで考えたのは、例えば、駐車場でトランクから本を出そうとされているお客さまがいたらすぐに走り寄って、「お売りいただける商品ですか。台車を持ってきます」とお声をかけなさいと。それから、今は節電で照度を落としていますが、『独身の女性でも入りやすい店』をコンセプトに、明るい店づくりを徹底してきました。
そういうようなことに気を使って、買わせていただいたものを粉だらけになって加工して値段をつけて、それが売れたときはものすごくうれしいんですね。「あの商品は私が買ったのよ」とか、「私があの棚に並べたから売れたのよ」という喜びが芽生えるんです。
そして大事なのは、店長が必ずそれをキャッチするということ。バックヤードで先月の売り上げのグラフつくってたって、終わったものを分析しても売り上げなんて上がらないですよね。それよりも、スタッフさんが一所懸命にやっているのをちゃんと見て、本が売れたら「やったね」と。スタッフさんのモチベーションを上げるというのはそういうことで、常に細かく気づいてあげるのが店長の力。そうすると「またがんばろう」と思えるじゃないですか。実際はそんな単純なことばかりでもないんですが、でも、そういうことのくり返しなんですね。
1万人のスタッフを『親子関係』の絆で結ぶ
────一般的には組織が大きくなりますと、橋本さんのように経験から学習して現場がわかっていくというようなことが難しくなると思いますが、そういうような課題に対してなさっていることは何かおありですか。
分身といいますか、そういう風にして伝えてきた人たちが今、現場のトップにいますので、その人がまた次の人に伝えるということですね。ですから、誰に育成されたかで『血筋』がわかるんですよ(笑)。
────ご著書で『親子制度(※)』と書かれていたものですか?
そう、親子制度ですね。今はもう社員が増えましたのでなかなか全員は覚えられなくて、「○○店の○○です」と挨拶されると「育成担当者は誰?」と聞くんです。すると「△△さんです」と。最近は、私からすると『ひ孫』くらいまでいってしまうのですが(笑)、△△さんは△△店の人だから、その血筋ねと。そういう分身をつくっていくということですかね。
※ブックオフの『親子制度』:橋本氏の著書「おかあさん社長が行く!」より。
「たとえばヤマダさんという新人がいたとします。新人には必ず『親』がつき、仕事を手取り足取り教えます。(中略)ヤマダさんの親にイチカワさんが付いたとすると、(中略)入社して何年経っても、2人ともが異動して勤務店が変わっても、イチカワさんはヤマダさんの親であり、ヤマダさんはイチカワさんの子なのです」────入社時の配属店の店長さんが『親』になるのですか。
誰でもいいんです。育成担当者が親でもいいのですが、そうすると弊害もありましてね。相性が合えばいいのですが、合わない場合もありますから、育成担当者だけが親じゃないよと。隣の店舗の人でもいいし、違う事業部の人でもいい。誰でもいいとういうことにしているんです。途中で変わっていく人もいますしね。
────『親子制度』という言葉は、社内でもよく使われるのですか。
今はあまり使わなくなりましたが、入社して何年経ってもやっぱり親を慕うというのは今でもそうですね。親にとっても、育てた社員はずっと可愛いし、心配なんですよ。異動して離れても、「あいつ、すごいな」と噂が聞こえてくると、自分が褒められたように嬉しいですし。
────組織が大きくなっても、そうした1対1の関係を大切にするというのは、大事なことですね。
それでしか伝わらないですからね。ただキャリア(中途採用)の方はちょっと大変で、「文化が違う」といって、なかなか受け入れられなかった時代がありました。生え抜きの人だけがわかっているといった感じでね。辞めていかれたもったいない人もたくさんいたと思います。でも今は、そういう人たちの力を借りることが必要だという風潮になってきました。アパレルやいろいろなところで経験を積んでこられているわけですから、すごい力をお持ちだということを認めて、受け入れる土壌ができてきましたね。
ブックオフモデルは海外でも通用する
────海外でも、同じようなやり方でやっていらっしゃるんですか。
そうですね。最初は日本から店長を派遣しましたが、そのうちに現地のアルバイトさんが社員になりましてね。ただ、私たちはチームプレーでしょう。これはフランスでの話ですが、「そうじゃない」と言うんです。セバスチャンという日本語が話せるスタッフでしたけれど、『ブックオフ唱和』というのがあって「今日も一日、私たちは自信と情熱を持って~」と毎日唱和するのを、「ボスのためには働くけども、そんなものはやらない」と。
これには苦労しましたね。日本から行った店長が、こんこんと言って聞かせて。でも今は、セバスチャンが店長としてフランス語に訳した唱和を一所懸命にやってくれています。「ボスのためにしか働かない」と言われたときにはどうしようかと思いましたが(笑)、今はブックオフの考え方が伝わっていますね。
────スタッフの方々の育成方法も、日本と同じなんですね。
一緒です。ただ、アピアランス(服装・身だしなみ)については、海外は派手な人もいましてね。鮮やかなピンクの洋服を着てみたり、髪型もすごくて(笑)。何だかブックオフじゃないみたいだなと思って、最初は直そうとしましたが、やはり土地柄ですから仕方がないなと。今はもう許していますね。
────事業のやり方も、日本と同じですか。
まったく同じです。最初は赤道を通って日本の本を船で運びましたが、あれっと思ったのは、オープンと同時に青い目の方が入ってこられるんです。ですから、向こうで買って向こうで売るという、うちのシステムと同じことをやってもいいのではないかと。そこで、最初3スパン(※)くらいを洋書にしてやっていくうちに、とうとう全部が洋書の店舗をつくったり、日本の書籍と混ぜたりということをやっています。今、フランスにある3店舗のうち2店舗は洋書のお店ですね。
※スパン:棚を数える単位。1スパンは、1つの棚の片面。
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海外は、アメリカ、フランス、カナダ、韓国に13店舗を展開(2011年3月現在)。写真左はBOOKOFFニューヨーク西45丁目店、右はBOOKOFFパリキャトーセブタンブル店。
経営者の責任として、社員のやり場を次々とつくる
────著書には、上場後に会社の風土が少し変わられて、古い社員の方の中には去っていかれた方もおられたとありましたが、具体的にはどのような変化があったのでしょうか。
キャリアパスプランや店舗のQSC基準シートといったツールは活用しつつも、創業当時からの『けもの道』(前編参照)の風土も残っていたんです。けれども、やはりそうではないと。上場企業としてコンプライアンスを推進していかなくてはいけないということになって、働き方が変わりました。
それまでは深夜までやって、夜中に「やったぞ、乾杯!」とかね。だから棚もいいものができるんです。けれども会社が変わるためには、それを改めなくてはいけない。でも、誰も強制されてやっていたわけではありませんから、スタッフはやりたいんですね。もっとやれば、この棚ができるじゃないかと。私にしても、「できるまでがんばろう」と言っていたのが「いつまで残ってるの」と言うわけですから、古い社員は「今までの橋本さんの言ってることと違うよ」と。それが、今はジレンマですね。
────コンプライアンスも確かに大事ですが、一般的にあるのは「これをしてはダメ、あれもダメ」と。「ダメ」が非常に多くなりますね。それがマイナスになる部分も大きいのではないですか。
そうですね。私どもの大切な一つの手法として、『出し切り』という言葉があります。お客さまから今日買わせていただいたものは、今日のうちに売り場に出すというルールですが、今は本が残っていても時間になったら帰らなくてはいけないわけです。ほかにもいろいろな施策が入ってくるけれども、時間がない。その消化不良をどう改善していったらいいのかと。コンサルの方たちは「生産性を上げればいい」とおっしゃるのでしょうが、そう簡単には割り切れないんですね。
────そういう何か相克のようなものが、どうしても出てきますね。
ありますね。
────今のお話で実感しましたが、例えば朝まで仕事することを厭わない人たちがいる。だからこそ強いともいえるじゃないですか。
そうですね。
────企業って、僕はそうだと思っているんです。それが上場によってコンプライアンスやいろいろな問題でそういうことができなくなっていくと、本当の強さみたいなものがなくなっていくように思うんですね。
ちょうど今は、その狭間だと思いますね。もちろん、長時間働くことはいいことではありませんから、時間を短縮する中でも思いは消さないで、DNAを引き継いでいきたいと思っています。そのためには、過去を振り返って「あのときはよかった」と言うだけでは、ただの戯言になってしまいますから、5年後、10年後もブックオフグループが生き残っていくためには何をすべきかを考えて、次の事をやっていこうと。
社員には、キャリアパスプランといったツールを使いながら、「もっと次の道があるんだよ」と。ブックオフという業態も今のままでいつまでも続くとは限りませんから、次の業態を育てていかなくてはいけない。次から次と課題があるから、それに向かうエネルギーに変えていくといいますかね。そうしてDNAを繋げでいきたいと思っているんです。
────御社のビジネスモデルに本以外のものを乗せるというのは、当然おやりになっているわけですが、さらに多角化していかれるということですか。
本とCDは、創業から21年間ずっとやってきまして、12年前に第2の柱として子ども用品やスポーツ用品といったものを扱うリユース事業立ち上げました。その他に貴金属なども扱って、ノウハウを蓄積しているところです。本は後ろに定価がついていますが、ベビーカーや洋服は値札なんてつけて使いませんでしょう。だから難しいんですね。
*
2009年に大型リユース複合店「BOOKOFF SUPER BAZAAR」の1号店をオープン。1000坪前後の広い売り場に婦人服や靴、バッグ、スポーツ用品、楽器、貴金属など、幅広い商品を揃える。写真はどちらもBOOKOFF SUPER BAZAAR 409号川崎港町店。
ですから先ほど申し上げましたように、キャリアの方々の力を借りていこうと。今までは「GAPにいました」といっても、「ブックオフの文化も知らないで」という目で見られがちだったのが、「GAPではどういうディスプレイをしていたの?」と。ブックオフしか知らない人間にとってみれば、照明一つとっても学ぶことがあるんですね。先日は、ブランド品のエリアにヒノキのいい香りを流すというアイデアを出した担当者もいて、私たちだけでは気づかないものを取り入れて進化してきています。
そうやって新しい分野を深堀りして育てていくと、閉塞感なんていっていられないんですよ。新しいことにどんどん挑戦して、やり場をつくっていくことは、経営の責任だと思いますね。会社が生き残っていくためには、人財が育たなければ困るわけですから。
人生は自分がやったことしか残らない
────ブックオフと橋本さんとのたまたまの出会いが、このようなすごい形になられたのだと思うのですが、そう考えますとブックオフという会社は、橋本さんにとってどのような存在ですか。
本当にひょんなことから40歳で入社しましたが、もう、それから死ぬまでの自分の人生そのものですね。
────いいですね。そういう風におっしゃれるのは、僕はとても大事だなと思います。
寝ても覚めても、そればっかりでね。そして、この年になっても働かせてもらえるというのは、若い人にはわからないでしょうけれど、自分が本当に苦労しながらはいずり回ってやってきた、その体験があるからなんですね。
店で「この棚はおかしいよ」と言えるのは、私が『取締役店長』といわれながら、現場でやってきた体験があるから。「スタッフさんとうまくいかない」と店長から相談されても、そんな経験はごまんとしていますから、「私も同じことがあって、こうしたらうまくいったのよ」と、スッとアドバイスできるんです。それはつまり、自分がやってきた結果だと思うんですね。50のことをすれば50が返ってきますし、逆にいえば50しかしなければ50以上は返ってこないともいえますし。そう考えて現場でやってきたことが今、私の仕事の中で生きていますし、それしかないのかなと思っていますので。
────おっしゃる通りですね。やったことしか自分に残らないし、そのことしか自分に戻ってこない。そういうことって、今の若い人にもわかっていてほしいなと思います。
目の前にあることを一所懸命にやってれいば、その体験が必ず血となり肉となって、自分の人生にプラスになります。自分が生き残っていくための糧といいますかね。人は、自分がやったことの結果しか手にすることができない。そう思いますね。
────本当によくわかります。言うは易しで、なかなかできないことだと思いますが。今日は貴重なお話をありがとうございました。
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