OBT 人財マガジン
2011.10.12 : VOL125 UPDATED
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ブックオフコーポレーション株式会社
取締役会長 橋本 真由美さん「制度・仕組み」は「情緒」があって、初めて機能する(前編)
従業員数9,630名の内、パート・アルバイトは8,634名。設立から14年で東証一部に上場したブックオフコーポレーションの成長は、従業員の約9割を占めるパート・アルバイトのスタッフによって支えられている。正社員の育成にも苦心する企業が少なくない中、非正社員をどのように戦力化してきたのか。その背景には緻密に設計されたキャリアパスプラン等の『システム』と、スタッフの心の機微に配慮する『情緒』が共存する。橋本会長はこう語っている。「情緒性が土台にあって、自らがやって見せ、思いを語る。そこにキャリアパスプランをプラスしたから、何とか動いているのではないかと思います。最初から、「キャリアパスプランはこういうものです」と言ったって、それでは機能しないですし、第一、人は育ちません」制度や仕組みをいくら変えても、その根底にそれらを動かす「人」への思い・配慮がない限り、決して運用はうまくいかない。
(聞き手:OBT協会代表 及川 昭)
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[及川昭の視点] 若い時の過ごし方で一生が決まる
結果を出すためには行動の量を増やすしかない。 頑張って10万キロ走ってもそれは自慢にはならない。 行動の量がなければ運も転がり込んでこない。 チャンスをつかむには、やはり行動を最大化するしかないのである。 まさに、偶然は必然である。 勿論、行動の質を高めることは大事であるが、ただ、若い時から行動の効率化からスタートすると、行動の最大化することの重要性から目をそむけてしまう。 20代、30代は行動量を増やすことを認識すべきである。 20代、30代の経験は、後の仕事観に大きな影響を与える。 この時期をどう過ごし、何を考えるのか。 若いうちはそれによって自分の一生が決まるというぐらいの覚悟を持って、目の前の仕事に全力をあげて取り組むべきである。
ブックオフ会長、橋本真由美さんのお話は、若い人達へのメッセージにも思える。聞き手:OBT協会 及川 昭
企業の持続的な競争力強化に向けて、「人財の革新」と「組織変革」をサポート。現場の社員や次期幹部に対して、自社の現実の課題を題材に議論をコーディネートし、具体的な解決策を導き出すというプロセス(On the Business Training)を展開している。 -
ブックオフコーポレーション株式会社 ( http://www.bookoff.co.jp/)
1990年創業。1991年にブックオフコーポレーション株式会社を設立、同年にフランチャイズ展開もスタート。本の目利きが必要とされていた古本業界に風穴を開け、採用されたばかりのアルバイト店員でも買い取りや販売価格の設定ができる明快な基準を設定。買い取った古本は新刊同様に磨き上げ、明るく清潔な店内に並べる。これまでにない業態が消費者の心をつかみ、創業4年目に100店舗を達成。1999年から本以外のリユース事業に参入し、洋服やスポーツ用品など取扱商品を拡大。『捨てない人のブックオフ』をミッションに掲げて、循環型社会の実現に取り組む。2004年に東証二部、2005年に東証一部に上場。
企業データ/資本金:25億6400万円、売上高/連結733億4500万円(2011年3月期実績)、従業員数/996名、パート・アルバイトスタッフ 8,634名(2011年3月末現在)MAYUMI HASHIMOTO
1949年生まれ。短大卒業後、給食会社に栄養士として就職。その後、病院勤務を経て結婚。二女をもうけて育児に専念し、1990年に18年ぶりに再就職。ブックオフ直営1号店にオープニングスタッフとしてパート入社する。91年に正社員に登用、94年に取締役、2003年に常務取締役、2006年に代表取締役社長兼COOに就任。2007年から現職。著書に「1日1回の『声がけ』で売り上げが伸びる!」(すばる舎)、「お母さん社長が行く!」(日経BP社)。
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成長のステップを具体的に示し、アルバイトを戦力化
────今日は御社の人材育成や組織のあり方が、企業としての成長力や競争力とどうつながっておられるのかという点を中心にお話を伺えればと思っています。私どもは、人財の革新や組織の変革を通じて、さまざまな企業の競争力強化のお手伝いをさせていただいていますが、ここ数年、特に大手の企業に閉塞感や停滞感が非常に強く漂っていることを感じています。職場で何か新しい提案をしてもなかなか動かない、挨拶も会話もなく人間関係が希薄になっている。そのような環境を放置したままでは、組織の勢いなんていうものは出てこないと思うんですね。
例えば掃除でも何でもいいのですが、何か一つの共同作業をすることがお互いの接着剤になって、組織の勢いにつながっていく。そういったことが、現実にはたくさんあるわけですが、そんな観点で御社を拝見したときに、店舗の方は皆さん元気があって、挨拶も非常にしっかりとしてくださる。そういうところに経営の原点があるのではないかと感じ、お話をお聞きできればと考えた次第です。
まずはじめに、橋本会長が入社された頃に、この業態がこんなに大きく成長するということは予測されていたのでしょうか。
いいえ、まったくですね。まだ一軒の古本屋でしたし、子どもの学費の足しになればと思って入っただけでしたから。当時は、何もなかったんです。知恵もない、経営資源といわれるヒト・モノ・カネもない。何よりノウハウがありませんでした。そこから、ああだこうだと皆でやりながらつくってきましたので、苦労はありましたが、反対にそれが強みといえば強みでしょうか。
────ここまで大きく成長された要因は、たくさんあるかとは思いますが、橋本さんがお感じになられている最大のものは何でしょうか。
ブックオフのキャリアパスプラン。第1ステップの『トレーニー』から、サブ店長クラスの『マネージャー』まで、7段階のランクが設定されている。
やはり『人』ですね。特に、私どもの店舗はパート・アルバイトさんの比率が高いものですから、その人たちの育成が原点にあると思います。
────そうした人の戦力化は、ご創業当時から感じておられたことだったのですか。
直営の3号店あたりまでは、口伝えで教えればいいと思っていたんです。ところが、フランチャイズ募集を始めて出店が加速し、どうがんばっても口伝えでは無理だと。そして、これは人を戦力化しなければやっていけないビジネスだと。当時の社長(※1)がそう見抜きまして、マクドナルドの銀座1号店を立ち上げられた林先生(※2)という方がいらっしゃるのですが、その先生のコンサルティングを受けて、『キャリアパスプラン』というスタッフ戦力化のシステムを導入したんです。
※1 ブックオフ創業者の坂本孝氏。2007年6月に代表取締役会長兼CEOを退任。
※2 故・林 俊範氏。米国マクドナルドでオペレーションを学び、日本マクドナルドのオペレーションシステムマニュアルを築き上げる。1988年にピープルビジネススクールを設立。────いつ頃導入されたのですか。
創業の2年後くらいでしょうか。これまでの道のりを『けもの道』や『カーナビ型』と名づけて整理しているのですが、当初は『けもの道』だったんですね。馬車馬のように、朝から朝まで。朝から晩まで、ではないんですよ。「とにかくやりなさい、骨は拾ってあげるから」と(笑)。いわゆる体育会のノリでしたが、楽しかったですね。
でもそれでは結局、体力のある元気な人だけが残るんですね。いい人財もたくさんなくしたと思います。そこで今度は『カーナビ型』に切り替えて、キャリアパスプランを導入し、方向性をきちんと示した育成の仕方に変えてきたということです。
────そういう意味では、『けもの道』の時代がなければ、『カーナビ型』の必要性が見えなかったのかもしれないということですね。
そうかもしれませんね。ただ、システムの導入は簡単ではなくて、名前だけで機能しなかったりと、何度も挫折しそうになりました。やはり『けもの道』の方が楽しいし、楽なんですよ。私は特に、人をシステム化することに拒否反応があり、当時、私が中心になってパートのおばさんたちがクーデターを起こしたんです。「こんなの、やってられないわよ」と。コンサルタントの方にも、「現場もできないのに何?」という思いがあって(笑)。
────よくわかります(笑)。
そうした抵抗感が、導入の壁になったように思いますね。
────その後システムが定着されたのには、何かきっかけがあったのでしょうか。
出店が加速して、もう限界だったんですね。教えたことがまったく伝わっていなかったり、店長の言うことをよく聞くスタッフの時給が上がって、一所懸命にやっている人が評価されなかったり。やはりツールがなければ無理だということになり、これを導入したんです。
────外食産業や小売業など、チェーンオペレーションを展開する企業は多くありますが、そういった企業のオペレーションと御社との違いは何でしょうか。
当社のキャリアパスプランは、作業指示ではないんですね。努力の方向性を示し、結果に対して正当な評価をするためのものなんです。ですから、ランクは時給と連動しています。といっても、昇給額はそれほど高いわけではありません。1時間あたり20円や30円ですから、1日にしても缶ジュースが飲めるかどうかというくらい。それでも、ランクを認めてもらえるのは嬉しいものがあって、『チャレンジャーC』になれば、次は『B』を目指そうと。そうして、向上心を持ってやっていくためのものなんです。
キャリアパスプランの抜粋。画像はキャリアの第一段階の『トレーニー』のもの。『役割』、『やってはいけないこと』、『次のランクへのチャレンジ目標』と、求める行動が具体的に書かれている。各ランクの在籍期間が、『30シフト=195時間』などと明記されているのも特長。育成担当者は、この期間内に次に進めるようにスタッフを育てなければならない。
業績は人財のレベルで決まる
店舗のQSC基準の抜粋。下から2番目の『レベル2』は、「チャレンジャーB以上のP/A(パート・アルバイト)リーダーが2名以上育成されている」ことが基準の一つ。スタッフの成長が店のレベルアップと連動するように設計されている。
そしてここがポイントですが、スタッフの時給が上がっても、店舗の売り上げが伸びなければ意味がありませんよね。研修などもそうで、人が育っても業績が上がらなければ、その研修は無駄なんです。
ですから、キャリアパスプランは店舗のQSC基準に連動させています。QSCのレベルは1から4までの4段階あり、例えばチャレンジャーB以上の人を2名以上認定するためには、QSCレベルが下から2番目の『2』まで上がっていなければいけません。時給が上がるということは、スタッフのレベルが上がる。そして、店舗のレベルも上がるという仕組みになっているんです。
────ということは、逆にいいますと、キャリアパスプランが正しく運用されていれば、業績は上がるということですね。
必ず上がります。新卒かアルバイトか、女性か男性かに関わらず、レベルが高い人が不振店に入るとガラッと生まれ変わります。その反対もあります。面白いくらに、対前年比でバーッと変わりますね。
────人のレベルが組織のパフォーマンスを決めるという考え方を、言葉としてはたくさん耳にしますが、現実に制度として取り入れている企業は、僕は、恐らく非常に少ないと思いますね。小売業界では市場環境や消費動向、エリアの特性といったことが大きな要因として考えられる場合が多いじゃないですか。ということよりも、やはり人なんだということですね。
現状はそうですね。ですから、時給ばかりが上がって、店舗のQSCレベルが上がらなければ、店長のスタッフに対する評価がおかしいんです。もっといえば、評価というよりはトレーニングですね。店長の仕事の9割はトレーニングですから。
店長がレベルの低いアルバイトさんしか育成できなければ、全部自分でやらなければいけませんから、クタクタなんですね。でも早く人を育成すれば、今度はその人が下の人を育成できます。そうすると、店長は空いた時間をマネジメントに使えますでしょう。販促をどうしようかとかね。
というように、新卒やパート・アルバイトの成長と店舗のレベルアップを連動させているのですが、ずっと店長のままだと「その次に自分はどうなるんだろう」という閉塞感が出てきますね。
そこで、ずっと店長としてキャリアを積んできたベテラン店長の次のステップであるエリアマネジャーに『Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ』とランクを設け、キャリアパスプランにセカンドステージをつくりました。その上には統括エリアマネジャー、ディストリクトマネジャー(地域社長)、役員というステップがあり、その中で「自分はここを目指そう」と。次の目標が持てれば、閉塞感がなくなるのではないかと考えています。
────キャリアパスプランに多様性を導入されたという理解でよろしいですか。
そうですね。次の目標を明確にしたといいますか、『やり場』をつくったということです。
規模が拡大しても『現場が主役』を貫く
────日本の企業は、かなり前から「現場力が大事」だと言っていますが、現場が活性化している企業は非常に少ないと感じています。組織が大きくなって階層が増え、マネジメントする側と現場との距離が遠くなってしまっている。そうなると、マネジメントがどうなるかといえば、いわゆる『管理』ですよね。数字だけに関心がいって、結果的に現場の元気がなくなっているような気がするんです。一方で御社の現場は、先ほども申し上げたように、お店一つを見ても挨拶の声が非常によく出ていますし、活性化されているように感じるのですが、何が違うのでしょうか。
私たちは現場が稼いでいるものですから、現場が主役でなければ回らないんです。そこが特長的なところかなと思いますね。ですからうちでは、調整は少し入るとは思いますが、店舗の計画はすべて自分たちで立てます。自由度を与えて、やり場をつくると言いますかね。その代わり責任もあります。それに、仕事の報酬は次の仕事と言うように、閉塞感を感じている暇がないんです。それは、上に立つ人たちが社員のやり場を次々とつくっているからだと思いますね。
また、役員室はもちろんなくて、皆と同じフロア。島の端っこにそれぞれの机があるだけで、私の席は日が当たる窓際です(笑)。金曜日や土曜日は、私も現場に入ります。でないと、わからないんですね。店のレイアウトがおかしいとか、チャレンジャーAのスタッフがたくさんいるのに店舗のレベルが対応していないといったことがね。
────お店に入られて、パッと見るだけで何が問題かがすぐおわかりになる。
3秒ですね。現場にいた人間はだいたいわかると思いますよ。パッと見たときにもう一瞬で、ここと、こことを直せば改善できるなと。
経営トップが現場の肌感覚を持ち続ける
────お店のどういうところをご覧になるのですか。
入り口から全体を見るんです。注目するのは、スタッフの動きですね。カウンターの中に集まっておしゃべりに興じていたら、もうそれでNG。おしゃべりするなとは言いません。「○○さん、レジをお願い!」というような声はアリです。でも、「昨日のテレビ観た?」というのは、どんなに小さな声でもお客さまには耳触りです。「動くときは小走りで」ということも言っていますが、別に小走りでなくても機敏な動きができる店舗と、仕方なく時給で働いているような店舗とでは全然違う。店に入った瞬間にわかります。
挨拶一つとっても、マニュアルには「『いらっしゃいませ』と言う」と書いてあるだけですが、ただ元気よく言えばいいわけではないんです。昔、挨拶の声が大きくて耳触りだというクレームが入ったことがありましてね。遠くにいるお客さまには、大きな声で「いらっしゃいませ!」、レジで目の前にいる方には心地よい大きさの声で「いらっしゃいませ」と、使い分けなくてはいけない。そういうことは、現場でなければわからないですね。
────これが、僕はとても大事なことだと思うんです。マネジメントされる方が現場を肌感覚でわかっているということは、とても大事ですね。経営トップが数字を見るだけでは、実態を正確に把握出来ないですからね。
そうですね。現場をよく見て、アルバイトさんがきちんと評価されるようにして、この店のためにがんばろう、店長を助けようという気持ちになってもらわないと、いくらマニュアルを整備しても店はよくならないですね。
────そうして現場で培われたノウハウを形にしたものが、キャリアパスプランだということですね。
そうです。マニュアルをつくろうと考えて作成したわけではなく、もう本当に悩みながら。商品はない、人の育成はうまくいかない、辞めていく人もいる・・・・・・、ということをくり返す中で、どうしたらアルバイトさんに一所懸命に働いてもらえるのか、商品はどうやったら集まるのかと。そういう試行錯誤の積み重ねを集約したものなんです。
────キャリアパスプランの『トレーニー』の欄には、レジの開け締めや入金業務が書かれていますが、御社では入社したばかりの方にお金に関することを任されるのですか。
フランチャイズに加盟いただく企業さんが、最初に質問されるのはそこですね。アルバイトにお金を触らせていいのかと。でも実は、しっかりした責任感のあるアルバイトさんはとても多いんです。ですから、任せるんですよ。任せることによって信頼関係ができるんです。「アルバイトだから任せない」といったのでは、その人は不正を考えるかもしれませんしね。ただ段階はありますが、それもキャリアパスプランでオープンにしています。そうして、自由度とやり場を与えることが大切なんです。
────ここまでの形にされるまでに、どのくらいの時間がかかられたのですか。
創業からの21年間、しっかりかかっています。キャリアパスプランのセカンドステージは、最近つくったものですし。内容は、一見するととても単純なものですが、これも現場のエリアマネジャーや統括から出てきた言葉を形にしたものです。
育てる側に『情緒』がなければ、人は育たない
────社員に積極性や当事者意識をどうすれば持たせられるかに悩む経営者も多くおられますが、御社のキャリアパスプランは、その意味でも有効なものだとお感じですか。
先ほどもお話しましたように、キャリアのランクが上がるということは、時給にして20円や30円であってもうれしいもので、それが次を目指そうという向上心につながるのだと思います。
ただ中には、「私はもうランクアップしなくてもいい」という人もいます。その方は、それでも仕方がありませんが、何年もずっと向上心が生まれないというのは、トレーニングする方が悪いことが多いですね。店長が声もかけずに、本人にまったく刺激を与えなければ、結局は私たちが求めるレベルよりも下がっていってしまいます。
そうではなくて、「会社が求める基準にはこういうランクがあるよ。どこまでできた? 次を目指してる?」と。「まだです」といえば、「じゃあ、これをがんばってみよう」と。そう声をかけてあげれば、その人は私たちが求めるレベルからはみ出して上を目指すようになります。それが人財育成なんですね。
────お話をお聞きしていますと、橋本さんの中に、人は情緒がないと動かないというような、何か情緒性が一貫して流れているように思います。
もう、それがすべてですね。システムは、情緒がないと機能しないと思います。
────私は、そのお考えに大賛成なんです。今、日本の大手といわれる企業に最も欠けているのはそういったことだと、私は思っているんです。アメリカからきた成果主義というようなものを導入して、論理的にきちっとしたスタンダードにまとめていますが、そこに情緒や人の気持ちに対する配慮といったものが、非常に欠けているなと。それが、先ほど申し上げた停滞感につながっているという気がして仕方がないんですけれどもね。
うちはそればかりでやってきましたからね。私の口癖が、「なにぶったるんでるの」という言葉なんですが、ある加盟企業さんでは二度目に訪問したら、「ぶったるんでんじゃないわよ」と書いたものが応接室に貼ってありましてね(笑)。「これが今、うちに欠けている」とオーナーさまがおっしゃって。ただ、直営店だけでアルバイトさんが1万人近い規模になると、それだけでは進まないんですね。
ですから情緒性が土台にあって、自らがやって見せ、思いを語る。そこにキャリアパスプランをプラスしたから、何とか動いているのではないかと思います。最初から、「キャリアパスプランはこういうものです」と言ったって、それでは機能しないですし、第一、人は育ちません。その根底にあるのは何かと言えば、「いちがい」という言葉はご存知ですか?
────ええ、知っています。
そうですか、田舎の言葉かと思っていましたが(笑)、私は、「いちがいにやらなくては」と思い込むところがあるんです。「何としてもこの店は潰すわけにいかない」という思いがあって、今はそれが会社全体に対して、なんですね。絶対に会社を潰せない。上場した以上は計画に応えたい。寝ても覚めてもそれがあり、そうした思いにプラスしてシステムを乗せるということでないと、うまくいかないのかなと思いますね。
「いちがい」とは、橋本会長が生まれ育った福井県の方言で、「まっすぐな」という意味の言葉。何事にもまっすぐに、のめり込むようにしてきた結果が今につながっていると、橋本会長はいいます。従業員数が1万人に迫る規模になり、海外展開も進む中でその思いをどう伝えていくのか。後編ではブックオフのDNAの伝え方や、東証一部上場企業として新たに抱える課題などについてお話を伺いました。
*続きは後編でどうぞ。
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