OBT 人財マガジン

2011.07.13 : VOL119 UPDATED

この人に聞く

  • 株式会社21
    相談役 平本 清さん

    「出資者」と「労働者」と「経営者」を社員が兼務
    ――究極のオープン経営がもたらす合理性 (前編)

     

    大方の企業には経営者と社員との間に「考えるのは上の人」「実行するのが下の人たち」という暗黙ルールが存在する。しかしながら、広島を中心にメガネの販売チェーン『メガネ21(トゥーワン)』を展開する株式会社21は全くの逆。財務や人事評価など会社運営のすべてを社内に公開している。そこには「現場でやっている人たちが一番アイデアを持っている」という創業からの考えがある。また、もう一点特筆すべきは社員が出資する『共同出資方式』を採っていることだ。自分の身銭を切ってこそ初めて経営への参画意識が芽生え、また、本当の意味で平等になれる。但し同社が本質的に凄い点は広島だけで社員から11億円(当時)出資を募っていることである。果たして、我が社に出資したい社員はどれだけいるだろうか。
    (聞き手:OBT協会代表 及川 昭)。

  • [及川昭の視点]

    『株式会社21』は、一般的な企業とはまったく逆の経営手法を取り入れ、成功されている企業だ。例えば銀行からの融資は受けず、必要な資金は社員からの出資でまかなっておられる。通常、社内株主制度はあっても、出資という形をとる企業は稀である。しかし、社員が出資しているからこそガラス張り経営が求められ、そのことが経営陣への牽制にもなっている。「出資したからには!」と、社員のモチベーションも高まる。同社の施策は、通常の企業ではありえないものばかりだ。ただ、だからといってその正否を論じることはできない。それらは意図されたものではなく、生き残りをかけた模索の中から結果として誕生したものだという。経営の仕組みとは、既成の形式を取り入れればよいのではなく、内発的に生まれるべきものである。そのことを、我々は同社から学ばなくてはならない。

    聞き手:OBT協会  及川 昭
    企業の持続的な競争力強化に向けて、「人財の革新」と「組織変革」をサポート。現場の社員や次期幹部に対して、自社の現実の課題を題材に議論をコーディネートし、具体的な解決策を導き出すというプロセス(On the Business Training)を展開している。

  • 株式会社21 http://www.two-one.co.jp/a21/
    1986年設立。広島県内で6割近いシェアを持つ大手メガネチェーンを解雇された同僚4人で創業。「会社に利益を残さず、お客さまと社員に還元する」ことを経営方針に、利益はすべて値下げと社員の賞与の原資に。社員が株主となり、会社運営のすべてをイントラネットを通じて社内にオープンにする『丸見え経営』で、全員参加の経営を実現。社員が高いモラルとモチベーションを持って働き、業績が社員に還元されるという好循環で事業を伸ばし、創業時の2店舗から、広島を中心に全国120店舗以上、年商85億円のチェーンを展開するまでに成長している(数値はいずれもグループ連結)。
    企業データ/資本金:5000万円、売上高/42億3467万円(単独、2011年2月期実績)、従業員数/197名(単独、2011年4月現在)

    KIYOSHI HIRAMOTO

    1950年生まれ。高校卒業後、広島最大手のメガネチェーンに入社。高い業績を挙げ、26歳で本店副店長に就任し、商品部長や電算室長を歴任。その後、社長交代劇に巻き込まれ、86年に解雇される。同じく解雇された同僚4人で「メガネ21」を設立。2010年に定年退職し、現在は非常勤の相談役として勤務。著書に「お金を会社に残さない!」(大和書房)、「丸見え経営」(ソフトバンククリエイティブ)。

  • 当たり前のことを当たり前に追求していたら
    真似のできないシステムが生まれた

    ────私どもは、さまざまな企業の風土改革や人財育成に関わってきましたが、特にこの5、6年、ある問題意識を強く持つようになりました。「人こそ最大の経営資産」とおっしゃる経営者が多い一方で、その経営施策が結果的に社員を疲弊させている企業が少なくありません。例えば、アメリカ型の精緻な戦略や過度の効率化、成果主義型の人事制度といったものが前線の士気を低下させているように思います。かたや御社では、独自の経営スタイルで取り組んでおられるさまざまなことが、社員の方々のやりがいや意欲にすべて結びついておられます。その背景にどのような経営観がおありなのか、今日はその点をぜひ伺えればと思います。

    まず、ここ(本部)にいる彼女たち(※)は、この会社が異質だと思ってはいないですね。大学の先生やいろいろな企業の方が話を聞きに来られて、彼女たちは「どうしてみなさん真似されないんですかね」と。結局、来られて話を聞いても真似ができないんですね。けれども、決して奇をてらったわけではなく、社員が困っていることを1つずつ解決していったら、こういうシステムになったということなんです。

    ※メガネ21の本部は一般職の女性社員だけで構成されている。人事、総務といった専門部署はおかず、採用、広報、広告宣伝、経理といった本社業務を全員がマルチタスクで兼務している。

    ────ご創業時から今のような構想を描いておられたわけではないのですか。

    それができていたら、私はたぶん天才だと思います。実際は、1つずつ解決していったということです。

    ────そのときに平本さんが一番大事にされたのは、どのようなことだったのでしょうか。

    前の会社の先代社長が急成長させたときの教えを守ることです。その方は、一代で会社を大きくされた素晴らしい方でした。私も含めてうちの創業メンバーは会社がまだ小さいころから、その社長と一緒になって100店舗以上にまで伸ばしたわけですが、会社が小さいうちはいい人財がなかなか集められないんですね。

    ですから一所懸命に給料を出し、大卒が入ってくるともう嬉しくて大切にするわけです。そうやって大切にされると、社員も一所懸命に働きます。しかし2代目になると、今度は入社を希望する学生さんを「ダメ」、「よし」と。こうなるわけです。「入社していただく」という気持ちがあれば、自分の給料を少しがまんしてでも、社員にボーナスを出しますよね。それが「入れてあげる」になると、給与はこの規定通りでいいでしょ、と。残った利益は経営者のもの、ということになってしまうんです。

    では、その先代社長の教えはどなたからのものかというと、松下幸之助さんといった方々です。社員を大切にしなければと企業は大きくならない。それも、モラルの高い人を育てようとすると、経営者のモラルが高くなければいけない。それを一番よく知っているのは、やはり創業者じゃないですか。

    出資者と労働者と経営者を、社員が兼務する

    また、さきほど言われた欧米型の経営は、支配する思想が強いですね。サボる人間をチェックして、たくさん働いたらインセンティブを出すというように。けれども、日本は農耕民族ですから、一つの田んぼにみんなで一緒に田植えをする。中には働かない者もいるけれど、まあ目をつぶろうじゃないかと。そういった、「みんなで何とかしよう」という考え方でいた方が、楽しく働けると思うんです。

    ですからうちでは、出資者と労働者と経営者を、みんなで兼務しましょうと。これが、対峙する形になるとうまくいきませんからね。今、広島だけで社員から11億円くらい集めていますよ。

    ────社員の方々からの直接金融として実施されている「社員借り入れ」制度の残高ということですか。

    そうです。昔はいつ倒産するかわかりませんでしたから、女性社員(一般職)からの融資は受け付けていなかったんです。けれども、それでは差別だということになって、今は女性社員は200万円、そのほかの社員は1000万円を上限にしています。役員は無限で、恐らく私が一番多くて8000万円か9000万円くらいでしょうか。利息は、最初のうちは払えませんでしたが、今はきちんと支払っていますよ。

    ────今の日本の多くの企業では、御社とは逆に、経営者と社員との区別が暗黙のうちに非常にはっきりしているような気がします。考えるのは上の人たちで、考えたことを実行するのが下の人たちだと。これそのものが、とても大きな弊害だと私は思っているんです。

    完全にそうですね。現場でやっている人たちが、一番アイデアを持っているんですから。それを、社長は最大の情報源を持っていながら、その人たちには情報を制限して、「どうしてお前たちは俺と同じように先見性がないのか」といっても、情報弱者にしているわけです。「俺と同じようにアイデアを出せ」というのは失礼ですね。だから、私たちはすべて情報を公開します。そうすると、本当に実力がある人はアイデアを持ってきますし、「こうしたらいい、ああしたらいい」と、方向性を示してくれますよ。

    世襲は禁止。社長は4年で交代する任期制

    一般に会社の社長といえば、アメリカのプレジデントみたいに、もう天才ですからね。外交も親善も担わなくてはいけない、パワーを見せて指揮命令もしなくてはいけない。でも日本には天皇がいて、総理大臣がころころ変わっても周りがどうにか支えてね。うちはこのやり方に近いんです。社長は4年の任期制で、大きな権限はありませんから、誰も社長になりたいとか、選挙をしたいということはないんです。日本風だと思いますね。

    ────社長といえども、ある意味では「機能」だということですね。

    名誉職です。ですから今も、社長は店にいますよ。また、私自身は一度も社長になっていないんです。私は、仕事はできる方ですし、アイデアもしっかり出しますが、私がすべてをやると、何といいますかカリスマに近くなるんです。それともう一つ、社長だから仕事ができるとか、社長という名前をもらったら能力が高まるといったことはありません。社長でなくても提案をして、それがみんなに認められれば実行できる。そのことを見せたいという思いもあります。

    ────先ほど私が「機能」と申し上げたのは、一般的に企業人はみんなそうだと思うのですが、「役職が上の人間の方が、能力がある」という暗黙の前提があるような気がするんですね。ですから、経営者でいえば「なぜ自分がいった通りにやらないのだ」という話が出てくるわけです。これが、「能力」ではなく単なる「機能」なのだと合理的に捉えれば、御社のようなシステムに行きつくのではないかと思います。

    社長も、年を取れば鈍くなってきますから、ずっと能力があるといったことはいえませんね。それに優れた社長は、若くて学歴がない社員も力があれば出世させますが、能力に欠けた人が社長になると、それでは社長の体面が守れなくなる。社員が競争相手になって、本当の評価ができなくなるんです。それでは、会社はうまくいきません。

    そういう関係をつくらないようにするには、世襲制はない方がいいですし、株式の全体保有もないほうがいい。ですから、私は定年になったときに、それまでは筆頭株主でしたが、すべて額面で社員に売却しました。

    ────平本さんにとって、こういった組織体をつくられた一番の前提になったものは、何だったのでしょうか。

    やはり前の会社で、あれだけ優れた社長が世襲制にしてしまったということですね。「今は小さなパイだけど、みんなで大きくして、みんなで食べよう」とがんばってきて、さあ大きくなったと思ったらなくなるわけです。マスコミからすごいといわれた経営者でも、年を取っておかしくなった方はたくさんいますね。それほどの方々でもそうなら、私は100%そうなる。それがわかっているから、世襲は禁止、定年したら株はすべて売り渡すといったことを定めたのです。

    定年後の再雇用は、現場の後輩が決める

    私どもでは60歳で定年ですが、その後は再雇用といって、引き続き働いて欲しいと思う人には後輩からオファーを出す。クビにしたければいつでもできる。そういう仕組みにしてあるんです。

    ────先輩の仕事を後輩が評価する。それが大事だということですね。

    再任を誰が選ぶかということなんです。社長が選べば、みんな社長の顔色を伺うようになります。その点、わが社では後輩が選びますから、定年前になったら先輩たちは誰も横柄な態度はとりません(笑)。けれども、給料をたくさんくれと言われると、後輩も来てほしくないですね。ですから、再雇用後の月収は14万円と決めています。私もその給与で働いていますよ。

    ────こういった組織体をつくられたことで、社内が活性化しているなというご実感はありますか。

    活性化しているメンバーの率は、一般の会社よりも多いと思います。しかし、そうでない人もいます。仕事の成果があがらない、メンバー同士の相性が悪いといったことはありますから、全員というのは無理です。例えばある店では、そこの若い責任者が女性社員から「ギブアップ(※)」と言われました。うちではそれも全部オープンにしているんです。

    ※メガネ21では、一緒に働きたなくない上司や社員がいれば人事異動を要求できる「ギブアップ宣言制度」を設けている。

    そうなったら責任者であっても、他店に異動させます。ただ、どちらが悪いかは問わず、異動させやすい方を配置転換することになっていますので、言った本人が動く可能性もありますが。

    ────どんな方がギブアップを宣告されるのですか。

    やはり、実力以上に威張った態度を取るとか、みんなが元気にならないような采配をする人ですね。それにも関わらず給料をたくさんもらっているのは、みんなわかるわけですから。そういう人も、ギブアップが3回目くらいになれば、楽になりますよ。「あなたは多くの人と合わないのではないですか」と言えますから。「次は引き取り手がないかもしれませんよ」と。

    ────異動先から拒否されることもあるのですか。

    あります。そうなったら仕方がありませんから、「僕のそばで働きなさい」と。そして数年経ったら、また店に「誰か引き取ってくれないか」といってね。そんなこともありました。

    ────そういった異動のローテーションは、会議が何かで決定されるのですか。

    一緒に仕事をすれば、どういうタイプの人かわかるじゃないですか。それをいちいち、会議をする必要はないですね。異動先がなければ、「では私が引き取りましょう」という正義感のある人もいますし、そうやって引き取ってもらった人は、感謝して一所懸命働く可能性が高くなります。ギブアップが続けば本人も発言しなくなりますし、周りも「あの人はそういう人」という目で見るようになりますしね。

    ────自然の摂理のようなものですね。

    そうです。農家で一緒に畑仕事して、「あそこの次男坊はちっとも仕事しない」というのはみんな知っていても、しょうがないなと。「あそこのお父さんはすごく働くから」とか「嫁さんがいいから」と、何とか許しますよね。ただ、その人がたくさんの分け前をくれと言ったら、みんな反対すると思うんです。うちでは分け前まですべてオープンですから。

    オープン経営は究極の合理的な経営

    ────御社では管理職をつくらず、人事や経理などの専門部署も設けておられません。こうした一連のシステムを「人事破壊」と呼んでおられますが、「破壊」の目的は何だったのでしょうか。

    創業したときには資金がありませんでしたから、無駄なことは一切できなかったということです。広島県で6割のシェアを握るメガネチェーンを解雇になってメガネ店を出しましたから、潰されないためにはどうしたらいいか。前の会社が出せない販売価格でやろうと考えたわけです。そのために利益を全部なくし、高額な報酬を得る役員もなくして、中間管理職も全部廃止しようと。つまり、非生産者をなくさない限りはやられてしまうということです。

    ────競争力という意味で「やられてしまう」ということですね。

    そうです。先輩たちは「値引き競争で、大きな会社に勝てるはずがない」と反対しましたが、私は「違う」と。タダで売ったらどちらが損をしますか。うちは小さな店でしたから、1日40人接客して40本タダにすればいい。でも相手は、4万本をタダにしないといけない。ということは、ギリギリの線でやれば我々は勝てるんです。

    ────では「人事破壊」は、経費節減のためのであると。

    そうです。それ以外に何もありませんよ。ただ、よくこう言われますね。うちでは会社のお金をすべて本部の女性社員に預けていますので、「平本さん、大丈夫なんですか」と。だから私はこう言うんです。「それは確率の問題です」と。会社の金を盗んで海外逃亡する確率は、女性社員と私のどちらが高いか。当然、私の方が高い(笑)。それなら、彼女たちに渡しておく方が正しいでしょうと。

    ────「大丈夫か」という発想は、「監督者はいなければいけない」ということですね。

    そうです。でも悪いことをするのは、たいていは監督者ですからね。うちでも創業間もないころは、経営幹部の間で資金運用をめぐるトラブルがありました。そういった問題を一つずつ解決して、オープン経営に至ったわけです。ただ、社員にとっては厳しい会社ですよ。誰が利益をあげているかが、全部わかりますからね。

    ────初めからいろいろなことを考えていたと、後付けでおっしゃる方もいますが、平本さんのお話はとてもよく納得できます。

    それなら天才ですね。本を2冊出しましたが、そこに書いてあることが全部ではなく、やってきたことはものすごく沢山あります。そういうものの積み上げが、今なんです。私はその一つひとつを全部考えてきましたから、どれも必ずリンクしています。つじつまが合わないということがない。すべてが有機的につながっているんです。

    創業後に直面した問題を一つひとつ解決していったら、『人事破壊』『オープン経営』に行きついたと平本氏は語ります。しかし世の中を見渡せば、創業時の理念や体制を貫き続ける企業は多くはありません。成長してもなお、経営効率と働きがいを両立されている秘けつは何か。後編でご紹介します。

*続きは後編でどうぞ。
  「出資者」と「労働者」と「経営者」を社員が兼務――究極のオープン経営がもたらす合理性(後編)

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