OBT 人財マガジン
2011.04.27 : VOL114 UPDATED
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株式会社ハマキョウレックス
代表取締役会長 大須賀 正孝さん企画側が作るべきは「ルール」ではなく、
現場が主体的に創意工夫する「環境」である(後編)各センターの日々の決算数字を現場社員に公開しているハマキョウレックス。それは問題の所在を明らかにするだけでなく、「問題を解決する当事者は現場であり、それが最も理に適っている」という考え方に基づく。組織の規模が大きくなれば仕事の姿勢等を共有するのは難しくなるが(インタビューの質問引用)、それは「上からの指示だけでやらせようとするから」だと語る大須賀会長。同社では収支日計表の書式は各センターに任せている。「『こうしなさい』と会社が・・・ひな形を作ったのでは、自分たちのものになりませんから」というのがその理由。ここには「状況を最も熟知しているのは現場であり、現場に知恵がたまり、その創意工夫を最大限に引き出すことがトップ・本社の役割だ」という姿勢が明確に伺える。一方、多くの企業では「トップや本社の言うことは正しいのだから、現場はそれをきちんとして実行しなさい」という風潮があるが、これは現場の主体性の喪失、思考停止に繋がらないだろうか。制度や仕組みを作ることにはさして価値があるわけではない。その運用によって社員が最大限の成果を生み出す環境を作れるかどうかに企画側の真価が問われる。 (聞き手:OBT協会 伊藤みづほ)
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株式会社ハマキョウレックス ( http://www.hamakyorex.co.jp/)
1971年に浜松協同運送株式会社を開業。トラック1台からスタートし、2年のうちに18台を抱える運送事業者に急成長するが、1973年のオイルショックの影響で大口の取引先が倒産。一夜にして8000万円の負債を抱え経営危機に陥る。これを機に、毎日の収支を管理する「収支日計表」を導入し、利益とコストの管理を徹底。1992年に株式会社ハマキョウレックスに商号変更。1993年に伊藤忠商事株式会社と合弁により株式会社スーパーレックスを設立。3PL(※1)事業に乗り出す。現場のスタッフ全員に班長を任せる「日替わり班長制度」や、物量に応じて人員を調整する「アコーディオン方式」などの独自の手法を編み出し、現場力を強化。業容の拡大を続けている。2001年に東証二部に、2003年に東証一部に上場。
企業データ/資本金:40億4505万円、従業員数/社員640名 臨時雇用者3099名(2010年3月末現在)、売上高/296億6614万円(2010年3月期)※1 サード・パーティー・ロジスティクスの略。
MASATAKA OSUKA
1941年生まれ。1956年にヤマハ発動機株式会社入社。青果仲介業などを経て、1971年浜松協同運送株式会社(現・ハマキョウレックス)を設立。2007年代表 取締役会長就任。日本3PL協会会長、全日本トラック協会常任理事、静岡県自動車会議所会長などを兼務。著書に「やらまいか!~トラック1台から超優良上場企業をつくった 破天荒な男の経営実践録」(ダイヤモンド社刊)。
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「大須賀塾」で、社員一人ひとりの悩みを受け止める
────「日々決算で常に現状を共有する」、「部下に仕事を任せても責任までは負わせない」など、大須賀会長が信条とされることは( 前編参照)、社内にどのようにして徹底されているのでしょうか。
私は月に一度、「大須賀塾」という勉強会を開いているんですよ。社員を交替でホテルに集めて、1泊2日でね。一人ひとりがみんなの前で仕事上 の課題や悩みを発表し、私がそれに答えて解決するという方式です。参加者は1回につき約40人。中には取るに足りない悩みもありますが、それを「くだらない」と言ってしま うと、次から本音が出て来なくなる。だから、どんな相談にも真剣に答えます。
コストのことだけを考えれば、私が各センターに出向けば私一人の旅費で済みます。それなのに、なぜみんなを集めるかといえば、その方が真剣 に参加するんですよ。日々の作業から離れて集中できますし、センターを代表して来ているという意識もある。戻ったら、学んだことを必ずセンターで発表することになって います。それを考えれば、コストなどは問題ではないんです。
────会長にとっては、現場の情報を収集する機会になりますね。
そう。1泊2日で悩みに答えていくと、誰が何を考えているのか、全部わかります。お互いのことを知らなければ、いくら私が「頑張れ」と言った って、言われた方は右から左ですが、みんな顔を知っていますからね。だから、必死になるんですよ。
企業や人の成長には「緊張感」が不可欠
「大須賀塾」では、みんなに緊張感を持たせることも意識しています。円相場が1ドル90円になったときの勉強会では、こんな話しをしました。「 非常に大変な事態。これから日本経済は空洞化しかねないよ」と。でも、そう言うだけでは伝わらない。意味を説明しなければいけないんです。例えば、1ドル90円のときは輸 入品のシーツが1枚500円で売られるとしましょう。これをクリーニングに出すと550円かかる。とすると、わざわざ洗う人はいませんね。買った方が安いんですから。
でも550円のクリーニング代は、人件費を考えると決して高くはない。円が高すぎるから、海外で作ったものが安くなって、国内のサービスを高く 感じてしまうんです。こんな風にわかるように説明すれば、みんな新聞を読むようになります。1ドル80円台に突入したと聞けば、日本経済がもっと大変な事になると、緊張感 が生まれるんです。
────その緊張感が、現場の創意工夫を生むのですね。
そうです。何も説明せずに「円高だから大変だ」と言っても伝わらない。「頑張れ」と言うだけなら、誰でもできます。自分たちにどう関係する のかがわかれば、一所懸命にやるようになるんです。
もう1つ、緊張感を保つためのルールがあります。それは、無借金経営はダメだということ。借り入れがないと、新しいことに挑戦する意欲がなく なって、守りに入ってしまうんです。ただし借りていいのは、設備投資を2年間中止したら無借金に戻せるだけの金額。それ以上は1円たりともいかん、と。こういうルールに してあるんです。
これを守っていれば、会社は安泰です。新規の案件も、投資金額によって請けるかどうかを判断できます。ルールを超える借金をして失敗したら 、社員が路頭に迷いますからね。株式市場などでは無借金経営が評価される傾向にありますが、それは気にしなくていいと社内には言っています。周囲の評価がどうであれ、 会社が成長する環境を作ることが大切。そう話しているんです。
努力を押しつけるのではなく、自発的なやる気を引き出す
────社員にプレッシャーを与えて成果を引き出そうとする企業は多くありますが、それによって疲弊している現場も少なくありません 。御社の皆さまが前向きに緊張感を受け止められるのはなぜでしょうか。
大事なのは、頑張ろうという気持ちを自然と起こさせることです。会社が努力を押しつけるのではなくてね。ですから、私はコミュニケーション を大事にします。上から「こうしろ」ということは一切やりません。例えば、こんなことがありました。お客さんから5%のコストダウンの要請があった。そこで、営業が現場 に「コストを5%削減してください」と指示し、現場は「はい」と答えた──これではダメだよと言うんです。「コストを5%削減したい。できますか」と、聞かなくてはいけ ない。そこで初めて、「できるわけがない」と意見が出てくるんです。だって、これまでも一所懸命にコストを削減してきているんですから。そうしたら、仕方がありません 。「この仕事はお断りしよう」となる。現場にこれ以上の無理は言えませんからね。
でもそうなると、ハッとみんなの目の色が変わるんですよ。こういうご時世ですから、仕事を1つなくしたら、どうなるかわからない。「コストダ ウンなんてできるわけがない」と抵抗していた人が、「ちょっと待って、やってみる」と言いだすんです。そうして、みんなが一所懸命になってやると、できてしまう。これ がコミュニケーションだと思うんですよ。ですから、うちでは上から「こうしろ」「ああしろ」というのは、一切ありません。
────「この仕事は断る」と言えば、みなさんが逆にやる気になると考えて、そうおっしゃるわけでしょうか。
そんな計算をこちらがしたら、相手は真剣になってくれませんよ。現場も「断ろう」と言えば、その案件はお断りします。仕事をするのは私では なく、現場です。現場ができないというものを請けたら、赤字になりますからね。しかし「やる」となったら、私も一緒になって考えます。普段は任せていますが、「できそ うにないときは、必ず私に言いなさい。一緒にやるから」と言ってあるんです。
あるとき、前年の利益に1000万円を上乗せするという目標を掲げていたセンター長が、「できません」と言ってきたことがありましてね。私はこ う話したんです。1000万円を12カ月で割ったら、ひと月90万円もしない。社員とパートの人数で日割にしたら、1人1日300円だぞ、と。すると、「それならできます」と、パッ と顔が明るくなるんです。1人1日20分残業を減らせば、300円以上のコスト削減になる。段ボール箱を有効利用するとか、まだ知恵があるかもしれない。ここから先は2人で話 しても答えが出ないから、センターに戻って「1人1日300円」という話を伝えてみんなで考えよう、と。
そうしてみんなで考えて真剣にやれば、できてしまうんですよ。「なぜ達成できない」と責めても、それでやる気になる人はいません。だから、 こちらも一緒になって考える。それでもたまに、達成できないときがありますが、そのときも「なぜできない」とは絶対に言いません。「来月は頑張って達成しよう」と。そ してまた私も一緒になってやるから、そんな思いをさせてはいけないと、みんながもっと真剣になる。そうすると、できてしまうんですよ。この姿勢が、トップの基本だと思 いますね。「やれ」と言ってできるなら、誰でもトップが務まります。
当たり前のことを、当たり前にやり続ける
────今後の展望としてお考えのことをお聞かせください。
私が「今後の展望」などと言うと、社員に対して押し付けになってしまいますからね......。それに世の中は動いていますから、自然体で、社会の 動きを見ながら進んでいくということですよ。「こうします」などと言って、そのように事が運ばなければ、社員がプレッシャーを感じて委縮してしまいますのでね。
────しかし上場されますと、株主から四半期ごとに業績を問われるかと思います。
それは会社の器であって、何とかしようとすると粉飾決算といったことにもなる。自然体でいるしかないんです。一所懸命に努力して、それでだ めなら仕方がありませんよ。けれども、みんなで真剣にやれば必ず成果につながるんです。事実、当社は単体で見ればずっと右肩上がり。自然体で焦らずに、みんなで目標を 持って、真剣に取り組んできた結果です。
────今回が、シリーズ「強い企業をつくる」の最終回になります。これまでご登場いただいた他社様も「当たり前のことを、当たり前 にやり続けることが大切だ」と、おっしゃっておられました。今日のお話でも、そのことを強く感じます。
何か特別なことを考えようと思っても、何も知恵は出てきませんからね。毎日のことを一所懸命に考えてやっていれば、「えっ」という答えが出 てくるんです。
例えば、当社にはグループ会社が15社あります(平成22年11月2日現在)。その中には、グループ入りしたことで、赤字から黒字に転換した会社が 何社もあります。そういう会社も、経営陣はそのままです。私は最初にこう言うんです。「事業のやり方がよくなかったから赤字になった。日々決算などの管理方法を教える から、それを取り入れてくれるなら、引き続き社長をお願いしたい」と。交替するものとばかり思っていた社長の中には、そう聞いて驚く人もいます。
そしてこう伝えるんです。「どんなことでも応援する」と。でも、経営に口は出さない。うちから役員を派遣するということもしない。リストラ をするかしないかも、自分たちで判断してくださいと。儲けをどう分配するかも自由。当社は株主ですから、配当はしてもらいますが、ほかは社長の給料も社員のボーナスも 自由。儲けたなら、親会社よりたくさんもらっても構いません。そうすると、自分たちの会社だと思うから頑張るんですよ。その結果、みんな黒字になるんです。
社員もパートも、みんなが自分の会社だと思って、みんなで目標を共有して、どうすれば達成できるかを真剣に考える。だから知恵が出てくるん です。そして焦らずに、信頼して自信を持たせる。そうすれば、大抵のことはできてしまうんですよ。
────人が持つ可能性を信じることの大切さを教えていただきました。本日は貴重なお話をありがとうございました。
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聞き手:OBT協会 伊藤みづほ
OBTとは・・・ 現場のマネジャーや次世代リーターに対して、自社の経営課題をテーマに具体的な解決策を導きだすプロセス(On the Business Training)を支援することにより、企業の持 続的な競争力強化に向けた『人財の革新』と『組織変革』を実現している。
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