OBT 人財マガジン
2011.02.23 : VOL110 UPDATED
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株式会社ガリバーインターナショナル
代表取締役会長 羽鳥 兼市さん従来の業界の旨みを捨て、顧客の支持を獲得
高みを目指す「挑戦する経営」(後編)中古車業界に後発参入し、社員1名からスタート。設立からわずか4年で店頭公開、東証一部上場も8年10ヶ月という異例のスピードで実現したガリバーインターナショナル。その成功の背景には「買取専門」「オークションで販売」といった新たなビジネスモデルの存在もあるが、注目すべきは、買取価格を本部一括査定、最低の根拠をオープンとして標準化している点である。要は従来の業界も旨みを捨て、完全に顧客サイドに立脚しているのである。これが、結果的に顧客の支持を獲得し、一躍中古車買い取りの最大手へと成長した。大方の場合、売り手と顧客の利益は相反するケースが多い。ガリバーインターナショナルの事例は、不利益を利益に転換することこそが経営に求められる知恵だということを示唆している。(聞き手:OBT協会代表 及川昭)
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株式会社ガリバーインターナショナル ( http://www.glv.co.jp/)1994年設立。東京マイカー販売株式会社の車買取部門としてガリバー1号店安積店をオープン。不透明だった買い取り価格を標準化し、消費者が安心して取り引きできる業界に改革することを使命に、中古車業界で初めて「買い取り専門」という新しいビジネスモデルを立ち上げる。1996年に商号を株式会社ガリバーインターナショナルに変更。1998年に店頭公開、2000年に東証二部、2003年後に東証一部に上場。2004年に初の海外拠点としてGulliver USA, Inc.を設立。2009年には電気自動車の研究開発を手がける株式会社SIM-Driveの設立に参画。コンバージョンEV(改造電気自動車)の普及を支援し、中古車の新時代を切り開いている。
企業データ/資本金:41億5700万円、従業員数/2253人(2010年2月28日現在)、売上高/1,448億5,300万円(2010年2月期連結)KENICHI HATORI
1940年生まれ。高校卒業後、父が立ち上げた羽鳥自動車工業に入社。事業を大きく育てるも1975年に詐欺にあい倒産し、3億円の負債をかかえて中古車販売の東京マイカー販売を設立。1994年に買取専門のガリバーを立ち上げる。2008年、長男の羽鳥由宇介専務、次男の羽鳥貴夫専務の代表取締役社長への昇格に伴い、代表取締役会長に就任。
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聞き手:OBT協会 及川 昭
企業の持続的な競争力強化に向けて、「人財の革新」と「組織変革」をサポート。現場の社員や次期幹部に対して、自社の現実の課題を題材に議論をコーディネートし、具体的な解決策を導き出すというプロセス(On the Business Training)を展開している。
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我欲を捨てれば、夢は必ず実現する
────御社では、返品サービスや最長10年のアフター保証といった前例のないサービスを手がけておられますが、これはどのような発想から生まれるのでしょうか。
本部の社員はほとんどが異業界から来た人ですから(前編参照)、消費者側に立って物を考えることができるんですね。自分なら10年保証があれば安心して買えるなとか、すべて消費者の視点でつくっているんです。
────やってみたもののうまくいかなかった、というものもありますか。
たくさんあります。挑戦するということは、いろんな失敗をすることとイコールですから。画像で車を販売するドルフィネットも12年前に始めて、もう本当に失敗して、失敗して。なかなか売れない時代がありました。でも、諦めたら失敗は失敗ですが、挑戦している間は、失敗は経験なんです。ですから失敗というよりも、そういった意味での経験はたくさんしていますね。
────異業界から来られた方のご提案の中には、これは今一つだなというものもあるかと思います。そういったときには、どう対応されるのですか。
社員たちには、入社してくるときにこう言いますね。「どんどん提案しなさい。ただし、どんどん却下しますよ」と。提案が却下されるのは当たり前というような、タフな人間にならないとだめですね。信念があれば、何回でも提案してくるはずです。そうなればどちらが根負けするかであって、「そこまで言うならやってみるか」となるかもしれません。だから、どんどん提案しなさいと。でも、どんどん却下しますよと(笑)。
────どのくらいの思いがあるかが、最終な判断基準になるということですね。
そういうことです。仕事でも何でも、「命を懸ける」なんていうレベルでは甘いんです。社員には、「命を捨てなさい」と。命を捨てるというのは、すべての我欲を捨てるということです。見栄とか、失敗したらどうしようとか。そんなことを考えていたら、成功しないでしょう。全部捨てて本気で取り組んだときは、失敗するかもしれない事業でも成功してしまいますよね。命を捨てれば、夢は必ず実現するんです。
社員の不安や悩みを取り除いて、やる気にスイッチを入れる
────「我欲を捨てる」というレベルに至る以前に、そもそも社員のやる気にスイッチが入らないという悩みを持つ経営者の方も少なくありません。
そこが一番の大変なところではないでしょうか。会社の経営というのはね。筑波大学名誉教授の村上和雄先生の研究によれば、人間の遺伝子にはオンとオフのスイッチがあって、オンになれば何倍もの能力を発揮できるのに、ほとんどの人はオフのまま一生を終えてしまうそうです。
では、どうすればオンになるのか。それはやはり、命を捨てたときだと思いますね。火事場の馬鹿力というように、すべてを集中したときには、とんでもない力を発揮するんです。一生この仕事で生きていくのだという気持ちを持てば、絶対にみんなが成功していきますよ。
────社員の方々にそういった気持ちを持ってもらうために、羽鳥会長が大切にされているのはどのようなことでしょうか。
コミュニケーションですね。どんなことで悩んでいるのかとか、社員とはよく話します。そうすると、つまらない問題で悩んでいることがあるんですね。でも問題というのは、自分に解決できるレベルのものしか起きません。それなのにそこから逃げたら、どんどん小さな人間になってしまうんです。
問題を1つ解決すると、今度は必ずもっと大きな壁にぶつかりますが、それも逃げないでチャレンジする。それでも解決できない問題も当然ありますが、それは時間が解決してくれるんです。だから人生、悩む必要は何もないんですよ。
先日もうちのある店舗に行ったら、一人の営業マンが暗い顔をしているんです。聞くと、「最近、商談がうまくいきません」と言う。「あなた年はいくつ?」「41です」、「お子さんは?」「高校生の息子が1人います」と。話を聞いてみると、どうやら奥さんとのことで悩みがあって、それを引きずって仕事に入っているんですね。
────会長になられた今も、そうして全国の店舗を回っておられるのですか。
回りますね。その彼には、こう話しました。「40にもなってプライベートな悩みを引きずって仕事場に入るのは、本気で取り組んでないからだ」と。でも、「ガリバーが好きで、ガリバーの仕事に惚れています」と言うから、だったらもっと自信のある顔になりなさいと。
そのためには、うちの会社は健康第一、仕事は第二。「あんたはちょっと暗いから、走りなさい」と(笑)。当社では、毎日1時間のランニングは業務と見なします。健康でなければ、マイナス思考になって、いい仕事はできませんからね。
もう1つ違う例を言えば、昨年は新車にだけ国から購入支援の補助があって、中古車が売れないという人もいました。でも、そんなこと言ったってしょうがないじゃないですか、国が決めたことですから。これはもうプラス思考で捉えなくちゃならない。
私は、うちの社員にはこう言うんです。新車は川上であって、我々の中古車のビジネスは川下。川上に雨が降らなければ、川下に水は流れて来ないんだよと。新車がどんどん売れれば、中古車がどんどん流れてくる。国の補助で新車を安く買われていますから、中古車になったときも安く流出できるわけです。そう考えれば、ありがたいことなんです。プラス思考で捉えたら、悩むことなんて何もないんですよ。
高みを目指す組織は、ゆらがない
────今回は「強い企業をつくる」をテーマにお話を伺っています。企業の強さというものは、ビジネスモデルの戦略的な優位性だけでなく、企業内部の組織力や人財の能力も非常に大切です。そういった観点で、御社の強さの秘けつはどのようなところにあるとお考えですか。
やはり、高い志を持つ社員たちで構成されて、全社一丸となっているということでしょうね。我々は今、中古車の流通において世界一を目指しています。世界一になれば流通量がそれだけ多いわけですから、適正な値段で提供できて、みなさんに喜んでもらえる企業になれる。そこをみんなが目指しているから、ゆらがないんですね。
私はよくこう例えるのですが、我々は世界一のエベレストの頂上を目指しているんです。16年かけてやっと麓にベースキャンプができた。今は第2の創業として、頂上を目指して登り始めたところで、これからが本当に険しい大変な道になります。滑り落ちて大けがをするかもしれない。凍傷で指を失うかもしれない。これが、挑戦なんです。
例えば、近所の裏山で転んで指を切断したとしたら、大変な騒ぎになりますね。「登らなければよかった」と。でもエベレストから帰ってきた人は、指を失ったとしても「登らなければよかった」とは言いません。「お陰様で成功しました、ありがとう」と、涙を流して感動するでしょう。同じ指を失っても、高い志でやった人とそうでない人とでは、痛さが違う。うちの社員たちが強いのは、そこです。世界一を目指しているから強いんです。
非常識な発想がなければ、企業は飛躍しない
────第2の創業期というお話が出ましたが、羽鳥会長は2008年に社長から会長になられ、今、社長はお2人いらっしゃいますね。
これがまたユニークな会社でしてね。社長2人体制、まして息子を2人とも社長にしたというのは、東証一部上場企業では歴史上一回もないようです。それだけ面白い会社なんですね。常識を越えた非常識な発想で常に経営をしていかなければ、会社を大きく発展させることはできないというのが私の信条です。経営体制でいえば、本当は社長は2人でも3人でもいいかもしれない。これにチャレンジしていないだけなんですね。
といっても、「社長を自分たち2人にやらせて欲しい」と彼らから話があったときには、考えました。「何を言っているんだ」と。しかし、「非常識の発想でいえば社長は2人がベストだ」と言い切るんですね。1人では間違った判断をするかもしれない。2人ならとことん議論して闘って、ベストな判断ができると。
2人が同じ力関係でないと闘えませんが、私は彼らが学生のときに同時に学生店長をやらせたんです。株も同じ株数を持たせています。長男と次男ではあるけれど、年の差は関係ない。入社も持ち株も一緒。ただ、違う考えを持っていないといい答えが出せませんが、幸いにも2人は性格が違う。これがベストだからやらせて欲しいと言うわけです。
そうはいっても「企業を私物化している」と、これはマスコミに相当叩かれるよと言ったのですが、「一番大事なのは50年、100年と続く会社をつくることだ」と。そう言うものですから「一週間考えさせろ」と。真剣に考えました。でも、これからは非常識な発想が必要なのだから、トライさせる価値はあるなと。それも、失敗したら私が戻れる体力があるうちがいいと思い、叩かれるのを覚悟でやらせましてね。今のところは、大きな問題は起きていないですね。
────ご子息からそういうご提案が出るのは、うれしいことですね。
そうですね。私が息子を社長にしたように思われていますがまったく逆で、私は80歳、90歳まで、現役を続けようと思っていたんですけれどもね。
────今はかなりお任せになられているのですか。
ほぼ99%、任せていますね。どうかなと思うときはアドバイスしますが、若い人にはもう、発想が叶わないですね。
70歳でユーラシア大陸走破に挑み、「挑戦」を自ら示す
────羽鳥会長にとって、ガリバーインターナショナルはどのような存在でしょうか。
自分の命ですね。ガリバーは挑戦を常に大切する会社ですが、誰が見ても無理だろうということに挑むのが挑戦です。挑戦するからには、命を捨てて取り組まなくちゃならない。私は、2005年に北米大陸横断マラソンを完走し、今年はユーラシア大陸の走破に挑戦しますが、これも何のためにやるかといえば、挑戦を自らやって見せようということなんです。
今年の7月にフランスからスタートして東京まで15000㎞。1年をかけて、毎日50㎞を休まず走ります。これまでに成功したのは2人、フランスのセルジュ・ジラールという方が51歳で走破して、あとは今年の1月に間寛平さんが地球を一周する「アースマラソン」を見事に完走されましたね。ユーラシア大陸の走破は、私が3番目です。これから100歳、120歳まで生きる時代になるんですから、70歳なんてまだまだ青年。社員にも70歳でこんなに頑張っているのだから、若い者も挑戦しなさいというのを、身を持って示そうと。それが今度のユーラシア大陸横断マラソンなんです。
人間は、やはり苦労をたくさんしたほうが強くなりますね。苦労は遺伝子のスイッチがオンになるチャンスなんです。でもみんな、辛いからといって逃げでしまうでしょう。それを乗り越えたときに、スイッチがオンになるんです。
────何かを成し遂げる人とそうでない人は、そこが違うのですね。
昨年は自殺者が3万2000人を超えましたが、死んだ気になってもう1回やってみようと考えたら、遺伝子がオンになるんです。何十倍もの力が発揮できて、まったく違う人生が待っているのに、今までの人生がそのまま続くと思い込んでいる。自殺しようと覚悟を決めた人なら、遺伝子がオンになるんですよ。私は倒産を経験して、遺伝子がオンになりました。倒産しなければ、つまらない人生を送っていたと思いますね。
────35歳のときに詐欺にあわれて、3億円の負債を抱えて倒産されたと伺いました。
そうです。ですから私にとっては、倒産はありがたいことなんです。
────その試練を乗り越えるか、挫けるか。そこが分かれ道なのですね。
そう。だから挫けてしまうのは、本当にもったいないですよね。ただ、ユーラシア大陸マラソンでいえば、走ることが好きだからといって走れる距離はせいぜい500㎞なんです。これは、私が以前アメリカ大陸横断に挑戦する前に、フォークシンガーの高石ともやさん(※)からお聞きした話ですが、「何くそ頑張るぞという気持ちでは、500㎞しか走れませんよ」と。これまでに3000名以上の若いアスリートが挑戦して、みんなその辺りでリタイヤしているそうなんです。走破したのは過去5年前で28名だけで、私が29番目。それしかゴールできていないんです。
※高石ともや氏は1993年に51歳日本人で初めて北米大陸横断マラソンを完走。羽鳥兼市氏は2007年に64歳で同レースを完走した。
「では、どうすればゴールできますか」と聞いたら、「毎日、すべてに感謝しなさい」と。太陽が熱くても太陽に感謝。雨が降っても、雨のお陰で植物が生きられることに感謝する。道路をつくってくれた開拓者に感謝する。すべてに感謝しないとゴールできないということを、高石ともやさんから教えてもらいましてね。
これは仕事にも人生にも、すべてに共通するんです。仕事ができない人ほどできない理由を被けて、人のせいにする。そうではなくて、すべてに感謝れば成功するんです。119日かかりましたが北米大陸の横断に成功して、今度はユーラシアです。何でも、中途半端にやるならつまらないですよ。本気で挑戦するから楽しいし、人生、面白いんですね。
────ユーラシア大陸マラソンのご無事とご成功を、心からお祈りいたします。本日は貴重なお話をありがとうございました。
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