OBT 人財マガジン

2010.10.13 : VOL101 UPDATED

この人に聞く

  • オイシックス株式会社
    人事総務部部長 大谷昌継さん

    【長寿企業研究】設立から10年で48万人が利用。
    常識にとらわれない発想が生んだ独自のサービス(前編)

     

    オイシックスは、「つくった人が自分の子供に安心して食べさせることのできる食品」をコンセプトに、安全・安心な食品をインターネットで販売する会社です。2000年の設立以来、順調に購入者を増やし、10年間に約48万人が利用。2009年度は年間71億円(連結)を売り上げ、モノが売れないといわれる時代に右肩上がりに業績を伸ばしています。消費者の心をつかむサービスとは何か。じっくり伺いました。(聞き手:OBT協会 伊藤みづほ)。

  • オイシックス株式会社 http://www.oisix.com/)2000年に創業。外資系経営コンサルティング会社マッキンゼーでコンサルタントをしていた高島宏平氏が、インターネットによる健康にいい食品の宅配事業を立ち上げる。扱うのは、有機・特別栽培野菜や合成保存料・合成着色料を一切使用していない加工品など、安全・安心な食べ物。サイトでは生産現場のストーリーを丹念に紹介し、作り手が見えることも特徴。商品のクオリティと、入会金不要、一品から注文可能といった利便性の高さが消費者に評価されて、設立から10年で定期購入の会員は約4万人、購入者は累積で約48万人に上る。ポーター賞 (2008年受賞)、FOOD ACTION NIPPONアワード(2010年受賞)、モバイルコマース大賞(2010年受賞)など受賞歴多数。
    企業データ/資本金:3億円2430万円、従業員数/98名、売上高/71億円(2010年3月期連結決算)

    AKITSUGU OTANI

    1997年ソフトバンク株式会社に入社。2001年オイシックス株式会社に入社し、ロジスティクスチームマネージャーを経て2005年から現職。

  • 食品業界の未経験者だったからこそできた、ユニークなサービス

    ────御社は、農薬の使用を減らして栽培した野菜などをインターネットで販売するという、ユニークな事業を展開されています。どのようなきっかけで立ち上げられたのでしょうか。

    そもそもは「インターネットを使って何かしたい」ということが出発点でした。いろいろと調べていくと、食品とインターネットというのは、実は意外に親和性がありました。一つは、サプライチェーンの観点。食品は流通経路が複雑になっており、生産者とお客さまとの距離が遠くなっています。インターネットを使えば、その距離を縮められるのではないかということです。

    もう一つは、消費サイドの視点です。テレビ番組で「○○が健康にいい」と紹介されると、翌日にはそれが一斉に売り切れるということがよくありますよね。でも本来は、「食」や「健康」はもっとパーソナルなものであるはず。インターネットを使えば、例えばお客さま一人ひとりに栄養士がつくようなサービスも考えられます。弊社のサービスはまだそこには至っていませんが、そのような構想から「食」をテーマに選んだということです。

    ────扱う商品はどれも、「安全・安全」を打ちだされています。「健康志向、安全志向の食材の宅配」という観点で見ると、有名な先行企業がいくつかありますが、競合対策はどのようにお考えですか。

    私たちの中では、競合意識はまったくありません。ご利用いただく方は、それまでは普通のスーパーで買い物をされていた、いってみれば自然食品の初心者の方がほとんどです。30代、40代の小さなお子さまがいらっしゃるの主婦の方や、共働きでお子さまがいらっしゃらない方、ワーキングマザーの方など、子育てや仕事で忙しく時間がないという方が中心。他社とはお客さまが重なっていないんです。むしろ意識しているのは、お客さまとの満足度との競争ですね。

    ────御社は、日本オンラインショッピング大賞を始めとする数々の賞を受賞され、顧客満足度については対外的にも高い評価を得ておられます。消費者の満足度を高めるポイントは何でしょうか。

    弊社が追求しているのは、利便性と商品のクオリティの両立です。従来の有機野菜や自然食材の宅配は入会金が必要で、セットの野菜を定期的に買わなくてはいけないなど、どちらかといえば生産者を守ろうという作り手志向のサービスが多い。私たちは、入会金はいただきませんし、商品も一品から選んでいただける。そういった利便性の高さが、評価されているポイントではないかと思います。

    ────先行企業とはターゲットが異なることを意識して、利便性を高めてこられたということでしょうか。

    ターゲットを意識したというよりは、主婦の方々の声を反映することで生まれたサービスです。弊社は、今でこそ社員の約半数が女性ですが、創業当時は20代の男性ばかりで、食品業界の経験者はゼロ。主婦の方々に話を聞く中で、「自然食品に興味はあるけれど、利用しにくいので手が出ない」といった声が多くあり、不便を解決すれば利用していただけるのではないかと考えて作り込んでいったということなんです。

    商品のクオリティを追求する姿勢も、食品業界の経験者ではないからこそのものだといえるかもしれません。生産の現場を訪ねると、作った人が「自分では食べない」というものがたくさんあって驚いたんです。でもそれは農家の方が悪いわけではなくて、流通側がそういった指導をしているんですね。「見た目がきれいなもの、形の揃ったものを作ってくれ」と。だから農薬などを使わざるを得ず、出荷用と自家用と畑を分けておられる農家の方も多くいらっしゃいました。

    私たちは、そういったものは扱いたくない。「安心宣言」として掲げる、「つくった人が自分の子供に安心して食べさせることのできる食品」を取り扱うというコンセプトは、こういった思いが原点になっています。そのために独自の基準を作成して、それをクリアしたものだけをご提供しているんです。

    3つのステップで利便性を高める

    ────ご創業の年には、学識経験者と消費者の代表で構成する「食質監査委員会」を設置され、食の安全を担保する仕組みを早い段階から構築しておられます。

    当時はちょうど、大手乳業メーカーの集団食中毒事件など、食の安全を脅かす問題が起こった時期でした。調べてみると、そういった企業も品質のマニュアルはしっかり作っておられるのですが、マニュアルを守り続ける仕組みがなかった。そこで、弊社の基準を守り続ける仕組みを作るために立ち上げたのが食質監査委員会です。

    ────第三者の目を入れるという発想は、他社にはないものですね。

    ルールを守り続ける仕組みを社内に持ちたいと思っていた頃、ある監査法人さんと出会ったこともきっかけです。監査法人というのは、絶対に嘘をつくことはできない人たちなんですね。そういう方々と接すると、こちらも嘘がつけない状況になるといいますか、自らを律するようなる。これってすごいな、と。第三者の目は大事だと思いますね。

    ────監査法人との出会いから得られたことを、ご本業の仕組みに活かされたわけですね。御社の食質監査委員会の監査は、どの程度の強制力があるのですか。

    食質監査委員会は、加工食品の原材料や添加物が弊社の安全基準を満たしているかをチェックしますが、厳しいですよ。例えば、社長がいくら「この商品を扱いたい」といっても、食質監査委員会がOKしないと売ることができません。

    ────もう一つの強みである「利便性」は、どのように高めてこられたのでしょうか。

    サービスは、3段階のステップで改善を重ねています。第1のステップは、買い物時間の短縮です。2006年から開始した「マイセット」という機能がそれで、いつもお買い上げいただく商品をあらかじめ買い物カゴに入れておけるというものです。スーパーでいえば、カゴを持ったら、毎週買う牛乳と卵が最初から入っているという状態をイメージしていただくとわかりやすいかもしれません。いつも買うものは、毎回その売り場にいかなくてもいいようにしたサービスです。

    第2のステップは、「マイセット」で買い物を効率化することで生まれた時間で、ご自分の嗜好に合う商品に出会っていただくためのサービスです。具体的には、2007年からスタートさせた「コレスキ?」という機能で、お客さまが「お気に入り」に登録した商品をもとに、お気に召すかもしれない商品を画面上でお勧めするというものです。

    第3のステップは、2009年12月から開始した「ウレシピ」というサービス。弊社が運営するレシピ・ブログサイト「Oixi(オイシィ)」と連動して、オイシックスで購入できる食材を使ったレシピを紹介する機能です。いつも使う食材をたまには違う食べ方で味わいたい、どう料理していいかわからない新しい食材に挑戦したいといったニーズにお応えする機能です。

    ────新しいサービスのアイデアは、何をヒントにされるのですか。

    基本的にはお客さまの声です。お寄せいただくご意見を見ていくと、どんなサービスがあったらいいのかがわかってきますので、それを一つひとつ実現していったということです。

    「農家・オブザイヤー」で、作り手の努力を評価

    ────お話を伺っていますと、非常にシステマチックに事業を構築してこられたという印象を受けます。ご創業当時から、現在に至るロードマップを描かれていたのでしょうか。

    ある程度の構想は描いてスタートしたと思いますが、始めてみたら問題ばかりだったというのが実際のところです。お客さまに宅急便で商品を送ったら、卵は割れるし、ほうれん草は傷んでとろけてしまうし......。毎日、何かしらの問題が起こっていました。それを少しずつ改善していったんです。

    ──── 一番ご苦労されたのは、どのようなことですか。

    すべてですが(笑)、創業時のことでいえば、売ることが大変なのはわかっていたものの、商品を買うことも大変でした。何のコネもありませんでしたから、卸売市場に行って有機野菜の段ボール箱を探し、そこに書かれている電話番号に電話をかけて畑に伺って。「インターネットで野菜を売りたいので、買わせてください」とお願いしても、「意味がわからないから帰ってくれ」と、追い帰されてしまうんです。

    でも、商品を仕入れなければ始まりませんから、農家の方のもとに何度も通って、昼から一緒にお酒を飲んで。そうするうちに、「よくわからないけど、お前らも若いのに可哀想だな」という感じになって(笑)、仕入れさせてもらえるようになったんです。立ちあげ時の仕入れ先はご理解いただいた1件のみ。野菜20品からスタートしました。

    ────どのようにして生産者の方々との関係を築かれたのですか。

    意識したのは、お客さまの声をお届けするということです。当初は、農家の方にしてみれば、「よくわからない若者がやっているインターネットのサービス」という程度の認識だったと思うんですね。インターネットが何かをご存じない方もいました。そんな中では、私たちが考えていることを訴えるよりも、第三者の声を届けた方が説得力があると思ったんです。

    農家の方々は、いつもは家族や親せきの声しか聞けませんから、「おいしかった」というお客さまの感想を伝えると、やはり喜んでくださいます。中には厳しい意見もありますので、「俺の野菜がわかっていない」と怒り出す方もいらっしゃいますが、「今、お客さまが求めているのは、こういう野菜なんです」と地道に伝え続けることで、少しずつ関係を築いてきました。

    さらにその延長線上として、2004年から「農家・オブザイヤー」という表彰制度を運営しています。これは、お客さまからの「おいしい」という声が、年間を通して多かった農家の方の野菜を表彰するというもの。受賞した野菜は、サイトの商品画面に「農家・オブザイヤー ○年受賞」と表示しますから、お客さまの注目も集まります。評価を受けたことによってモチベーションが上がるだけでなく、売り上げが伸びるという経済的なバックもある制度なんです。

    2009-2010年の「農家・オブザイヤー」の表彰式での寄せ書き。「世界に広がる日本の農業の原点になるぞ」「2011はグランプリをとるぞ」など、作り手の意気込みが綴られている。

    これまでの農業界では、農家さんの経営手腕や技術を表彰するものはあっても、おいしさを評価する制度はありませんでした。市場では見た目がきれいなものは高く買われても、味や安全性はあまり評価されないんです。けれども、弊社が作っていただいている農家の方々は、安心・安全だけでなく、おいしさを競われる方が多い。それをきちんと評価する制度を作ったというわけです。今では、約1000件の農家の方々と取引きがあり、「農家・オブザイヤーで表彰されることを目指して作っています」といってくださる方もたくさんいます。

    商品のクオリティとサービスの利便性を追求して、「続けられる健康食生活」を提唱する同社は、売上高の伸びに伴って、社員数も100名近い規模にまで成長しました。創業の理念をどのようにして社員と共有しているのか。後編では、オイシックスの組織と人事について伺います。

*続きは後編でどうぞ。
  設立から10年で48万人が利用。 常識にとらわれない発想が生んだ独自のサービス(後編)

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