OBT 人財マガジン

2009.08.26 : VOL74 UPDATED

この人に聞く

  • ホーユー株式会社
    代表取締役社長 水野 新平さん

    得意分野に資源を集中する深堀り経営(後編)

     

    今年、創業104年目を迎えたホーユーは、自宅で手軽に白髪を染めるという習慣を日本の生活に定着させ、さらにファッションとしてのヘアカラー市場を開拓することで、ヘアカラーの文化を育ててきました。家庭用ヘアカラーでは国内トップのシェアを誇ります。ナンバーワンであり続ける競争力の秘訣はどこにあるのか。ホーユー株式会社代表取締役社長、水野新平さんに伺いました。

  • ホーユー株式会社 http://www.hoyu.co.jp/

    1905年に家庭薬製造販売業『水野甘苦堂』として創業。1921年に、数時間かかっていた染毛時間を30分に短縮する画期的な白髪染め『元禄』を発売。73年間のロングセラーとなる。1923年に「株式会社朋友商会」を設立。1957年に、ホーユーの代名詞となる粉末白髪染め『ビゲン』を発売。1991年には、イギリスの有名ヘアカラーリスト、ダニエル・ギャルビン氏との提携ブランドを立ち上げ、プロ向け市場でも確固たるポジションを築く。トップシェアを誇る家庭向け市場では、Bigen(ビゲン)、CIELO(シエロ)などの6ブランド、プロ向け市場ではPROMASTER (プロマスター) 、QUALITIS (クオリティス)などの11ブランドを展開。海外9カ国にも拠点を持ち、約70カ国に製品を輸出。海外戦略も積極的に展開している。
    企業データ/資本金:9800万円、従業員数/853名(2009年2月現在)、売上高/409億円 (2008年10月期)

    SHIMPEI MIZUNO

    1956年生まれ。1980年にホーユーに入社。1986年に取締役に就任。副社長を経て、1997年に父・金平氏の後を継ぎ3代目社長に就任。

  • 『スピード』と『品質』のさらなる追求が今後のテーマ

    ────ヘアカラー市場が成熟した今、消費者には新たなアプローチが必要になってきているということですね。

    そうですね。さらに、変化のスピードが非常に速くなっている。これも、実感することです。まず、ファッションとしてのヘアカラーが広まったことで、若いお客さまが増えました。白髪染めのお客さまは、一度ご満足いただければ長く愛用くださるのですが、若い人たちは次々と新しいものを求めますね。時代の流れも、どんどん速くなっています。それに比して我々も、製品開発や売り方を変えていく必要がある。それは、速さに対応できる企業風土を作っていくということでもあるんですね。

    しかし、例えば商品サイクルを短縮化しても、当然のことながら品質はしっかり保ち、今までいただいてきたご支持や信頼感にお応えできるものを提供していかなくてはいけません。スピードを速めることで、これまでの当社の良い面が失われることがあってはいけないわけです。これが、今の一番の課題かもしれませんね。

    ────変化のスピードに対応しつつ、商品やサービスの品質を守る。2つのテーマを両立するのは容易ではありませんね。

    そこにおいては、時代が変化していく中で、当社の良い社風をいかに損なわずに発揮していくかという問題もあります。どういうことかといいますと、自由に何にでもチャレンジできる社風があることが当社の強みの1つですが、その良い面が出にくくなっているように思うんですね。昔は何にでもチャレンジできたけれども、今は失敗を恐れて躊躇する場面が増えてきたのではないか。そう感じています。

    製造現場でいえば、例えばオートメーション化が進んだことがその一因です。機械化が進んでいなかった時代なら、何か1つ失敗してもロスはそのときに作った1個で済みます。けれども、今の生産ラインで何かのミスがあったら、膨大な数の不良品ができてしまうわけです。

    営業の現場でも、同じことが起こっています。昔は『セット』といって、ヘアカラー商品をセットにした段ボール箱をかついで、薬店ごとに営業に回っていましたから、交渉が不成立でもその店にそのセットが売れなかったというだけ。しかし、今や商談の場はドラッグストアチェーンの本部に移り、交渉する相手はバイヤーの方々。交渉の結果によっては、売り上げが大きく変わることになります。それに対するストレスや失敗できないというプレッシャーが、思いきったチャレンジを阻止しかねないわけです。

    変化のスピードが速くなっただけでなく、一人ひとりの仕事の重みが、昔に比べて非常に大きくなっている。その中で、みんな本当によくやっていると思います。昔とは比べものにならないくらい、みんな勉強していますし、頑張っています。しかし問題は、その頑張りが変化への対応に結びついているかどうかということなんですね。

    教育の早期化で、変化に対応できる人財を育成する

    ────『先が読めない時代』ということもよくいわれますが、そのような時代に対応できる人財は、どうすれば育てることができるのでしょうか。

    大きな方向性はトップが示さなくてはいけませんが、現場では現場の変化がさまざまに起こります。そこにおいては、担当者は担当者なりに答えを見出して進まなくてはいけません。それは、いわれた通りに動くだけでは対応できないことですね。変化に合わせて自分の判断で決断しなくてはいけない場面は、今後ますます増えるでしょう。

    その意味では、人財育成の早期化やテーマの見直しが必要だと感じています。例えば管理職の研修を課長になってから行うのではなく、新入社員のときからリーダーシップのあり方を教える。そういったことも、今後は必要になってくるのだろうと思います。管理職になってからリーダー研修を受けさせたのでは、もう間に合わない。最近は特にそう感じますね。

    それも、総合職や幹部候補のための特殊な教育ではなく、昔でいうところの一般職的な社員も、判断力や後輩指導力、人を動かす力といった能力を、入社したときから身に付けていくぐらいの育成の方向性を持つことが必要です。

    人財育成の方向性を見直すにあたって、当社は今期、人事制度を改定しました。従来は『総合職』『一般職』と呼んでいた職掌を、『Gコース』『Aコース』という新たな名称に変更し、各職掌の定義も改定しました。

    『Gコース』は、従来の総合職にあたるもの。全国勤務が可能で、高度な判断力・管理力・専門能力を必要とする業務を担当する職掌です。『Aコース』は、主に定型業務を担うとされていたこれまでの一般職から位置付けを変え、特定分野で深い知識を必要とする業務を担当する職掌と定義しました。役職も課長まで昇進できるようにしましたので、今後は『Aコース』の社員にも判断力や人を動かす力が必要になります。今後は、入社時からそういった能力を身に付けられるような育成が必要になってくるのだろうと思います。

    組織のキーマンに求めるのは『自覚』

    ────時代の変化に対応するには、個々の現場力を高めると同時に、変革の中核を担うキーマンの育成も重要になってくるかと思います。キーマンにどのようなことを期待するか。お考えをお聞かせください。

    ひと言でいうならば『自覚』、ですね。組織の中で自分はどういう存在なのかを自覚するということです。昔は、『愛社精神』というものがありましたね。それは当社に限ったことではなく、日本社会の共通の価値観ともいえるような確固たるものとしての『愛社精神』があった。それを、そのままの形でノスタルジックに求めるべきではないかもしれませんが、少なくとも組織の中での自分を定位させていくことはこれからも変わらず必要であり、そこがすべてのスタートになるのだろうと思います。しかし、世の中全体を見ても、今はそういったことが弱くなっているように感じますね。

    ────『就社』から『就職』へと、若い人たちの就職観が変化しているということもよくいわれます。

    そういった意識の変化が起こっているとしても、やはり『会社』というものはあるわけです。また、仕事を離れても人間である以上は、何らかの人との関わりを持つことになります。家に帰れば家庭があり、町内会があり、趣味のサークルに入ればそこにも組織がある。社会というものがあってそこでの人との交わりの中で活動をしているのが、人間という動物なのです。

    その意味では、組織の中で自分はどうあるべきなのかを自覚することは普遍的なテーマなのだろうと思いますね。ましてや企業においては、そこがすべてのスタート地点になります。企業である以上は組織として成果を出さなくてはいけない。そうしたときにキーマンに期待するのは、組織のリーダーとしての役割です。その役割を自覚することを期待しています。

    金銭的な豊かさだけでなく、心の豊かさを評価軸に持つ

    ────成果主義の行きすぎが見直されたように、変化のスピードが速くなっていることも、いずれ揺り戻しがくるのではないでしょうか。

    それはあるかもしれませんし、恐らくはそうならないと、地球温暖化問題といったことも含めて、いろいろな問題が起こってくるのではないかと思いますね。といっても、業界や企業にとっての活力の源はやはり成長ですから、売上高や利益の拡大はもちろん追求すべきことですが、それとは別の評価軸も必要ではないかという気がしています。

    例えば、働く人にとっての『働き甲斐』や、お客さまにとっての『安心感』や『満足感』といった心理的なものを、一つの尺度として考えてもいいかもしれません。『働き甲斐』というのは、当社の社員に限ったことでなく、我々の製品を扱っていただいているヘアサロンや小売店の方々も含めての話。そこで働くとステータスが上がる、働くことにもっと誇りを感じるといった『働き甲斐』のある場に美容業界全体がなる。お客さまには、今よりももっと喜びや楽しみを感じていただけるように、美容業界全体の魅力を高める。そういった観点で、業界の成長を評価する軸があってもいいと思うんですね。

    美容業界は、人を美しくする産業です。物理的な尺度だけで見れば、少子化で人口は減少の一途をたどるといった暗い要素も抱えてはいるものの、心を豊かにする産業という観点で見ると、非常に有望で明るい未来が描ける業界です。

    ────2005年には、『COLOR YOUR HEART <心に彩りを>』というコーポレートスローガンを打ち出されました。この言葉にも、水野社長の思いが込められているのでしょうか。

    私の思いももちろん入っていますが、これは全社アンケートを実施し、寄せられた意見を社内のプロジェクトチームがまとめて作ったスローガンです。『商品やサービスの提供を通じて「心からの豊かな美」を創造し続ける』という、ホーユーの理念が込められた言葉ですね。

    つまるところ、我々がやっているのは笑顔を増やすための仕事です。幸せな仕事に就いて いるなと思いますね。同時に、売上や利益の拡大いう命題もあるわけですが、成長するには、まずは足元が安定していなければなりません。より働き甲斐のある企業を目指してまずは我々の心を豊かにし、それによって『心からの豊かな美』をお客さまにご提供する。そんな企業活動を今後も展開できればと思います。

    ────ありがとうございました。

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