OBT 人財マガジン
2009.04.08 : VOL65 UPDATED
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西川産業株式会社
代表取締役社長 西川 八一行さん
創業443年の老舗企業に学ぶ、
「変えるもの」と「変えないもの」(前編)帝国データバンクの調査によると、2008年の一年間に倒産した企業は1万2681件(※)。負債総額は11兆9113億200万円と戦後7番目の水準を記録し、大型倒産の増加がデータからも見てとれます。会社はつくるよりも、継続させるほうが難しい。そのことを、今ほど考えさせられる時代はありません。そのような経済状況の中、今年創業443年を迎え、寝装寝具業界のシェアトップを守り続ける西川産業は、新ブランドや新商品を次々と投入し、攻めの経営を展開しています。400年を超えて事業を継続させてきた秘けつとは。老舗・西川産業を率いる若き経営者、西川八一行さんに伺いました。
※負債額1,000万円以上の倒産を集計したもの。
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西川産業株式会社 ( http://www.nishikawasangyo.co.jp/)
1566年創業。初代・西川家の仁右衛門が19歳で蚊帳・生活用品の行商を開業したのが西川産業の始まり。1615年には江戸進出を果たし、日本橋通りに支店を出店。主力商品であった蚊帳や畳表に加え、1738年には弓問屋を買収して事業を拡大。並行して、江戸の大火で店舗を焼失した経験から再建費用の積立金制度を創設するなど、経営体質の強化に努める。現在の主力商品である寝具を扱い始めたのは、1887年(明治20年)ごろのこと。寝具の機能面を重視する商品開発を貫き、「健康睡眠」をキーワードに「ムアツふとん」に代表されるヒット商品を次々と打ち出している。
YASUYUKI NISHIKAWA
1967年生まれ。大手銀行のニューヨーク支店勤務などを経て、1995年に西川産業に入社。1996年に取締役、2000年に代表取締役副社長、2006年に代表取締役社長に就任。
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歴史と伝統は、長所にも短所にもなる
────創業から443年という長きに渡って事業を継続してこられた、企業としての強さの秘けつを、今日は一つでも多く伺えればと思っています。西川社長は1995年に28歳でご入社されましたが、当時、西川産業という会社をどのようにご覧になられましたか。
私は異業界から参りましたので、いろいろな意味で文化の違いを感じましたね。まず、ものづくりに対して、非常に誠実で真摯な姿勢がある。業界水準よりはるかに高い品質検査の仕組みを持ち、商品開発も高度に完成されています。さまざまな商品を次々と開発する意欲も非常に高く、本当にいい原料を使って質のいいものをつくるという職人的な気質が根づいている。そういった印象を強く受けました。
同時に、強みが弱みにもなりかねないということを感じる場面もありました。例えば、いいものをつくるということに力が入りすぎると、お客さまが本当に求めていることが見えにくくなる場合があります。布地を織る糸の番手(太さ)のわずかな差にもこだわるといった熱意は非常に素晴らしいのですが、お客さまにはその違いがあまりわからないものも中にはあるわけです。つくり手は「糸の番手がよくなりました」といっても、お客さまからすれば「番手がいいと、何がよくなるんですか」というね。
あるいは、「西川」というブランドネームに強い誇りを持っている一方で、ブランドがあることが当たり前になっている面もあり、長所は短所にもなる可能性がある。そういったことを感じました。
社史を振り返ると、会社の強みが見えてくる
しかし当社には、さまざまな節目を乗り越えてきた443年の歴史があります。今も経済不況がいわれていますが、これまでの歴史の中では、戦争や疫病や地震や明治維新といった、今よりももっと厳しい局面に何度も直面してきたわけです。その中を生き残ってきたというのは、何か原点があるはずなんですね。
そこで、創業430周年を迎えたときのことでしたが、周年行事として社史を編纂し、社是をまとめたカードも作成して、「なぜわれわれは生き残ってこられたのか」という、今では当たり前になっている西川の本当の価値を改めて認識しようということをやりました。
西川産業の社是と企業理念をまとめた「Corporate Philosophy」カード。社員全員が、このカードを常に携帯する。カードの中では、社是を「社会」「消費者」「お取引先」「社内」の4つのカテゴリーにわけ、例えば「消費者」に対してなら、「エンドユーザー第一主義を認識して、会社の論理をすべてエンドユーザーの笑顔のために働こう」とするなど、毎日の行動に置きかえた具体的な解説がなされている。
創業430年周年の周年行事の一環として作成した、社史「躍動の軌跡」。「パイオニア精神」「創意工夫の精神」「卓越した経営感覚」といったキーワードをもとに、430年の歴史がまとめられている。西川産業の「原点」を確認できる一冊だ。同様の内容は自社サイトでも公開されている。 http://www.nishikawasangyo.co.jp/company/kiseki_index.html
そこから明らかになった「商売の原点」をひと言でいえば、そのときどきの環境や時代にあった商売の仕方をしてきたということです。どういうことかといいますと、ご存じない方も多いかもしれませんが、寝具を扱うようになったのは当社の歴史の中では最近のこと。もともとは天秤棒を担いで麻布や蚊帳などを行商する近江商人からスタートしています。
その後、近江に店を構えて商いが大きくなってきたところに、江戸が開幕しました。そこで初代・西川家の仁右衛門は、江戸に支店を出すという決断をします。まだ江戸がへき地で、栄えるかどうかもわからないときの話です。今のような移動手段や便利な決済システムはもちろんありませんから、一週間以上かけて徒歩で、商品もお金も自分たちで江戸まで運ばなくてはならない。大きなリスクがあったはずで、今思えば非常に大胆な選択です。当社の原点には、そういったフロンティア精神やチャレンジ精神があるんですね。
もう一つ歴史に残る話に、「箱根越えの夢の掲示」というものがあります。2代目の当主である西川甚五郎が、江戸に向かって箱根越えをしている途中に、疲れて休んでうたた寝をした。そのときに夢で見た、緑のつたかずらが一面に広がる風景からヒントを得て、当時は何の着色もされていなかった蚊帳を萌黄色に染めたら、それが非常に売れるようになり、西川はそこから大きく成長していきました。
蚊をよけるという単なる道具に、涼感の演出という付加価値をつけることによって企業が発展した。そのことを思い出そうね、ということです。なおかつ、江戸時代は畳表や弓も扱い、戦争中は軍事物資を扱っていたこともありました。これは、生活様式や政治経済の環境に柔軟に対応してきた証拠なんですね。
また当社の社是は、「誠実・親切・共栄」の3つですが、これは近江商人に古くから伝わる「三方よし(売り手よし・買い手よし・世間よし)」の考え通じるものでもあります。今でいえば「CSR」といった横文字でいろいろいわれていることや、特にこの数年に関しては偽装問題や、ステークホルダーが絡む「企業は誰のものか」といった問題など、社会的な課題としてあがってきていることに対する考え方が、日本語でわかりやすく、非常に明快な言葉で書かれている。このカードは、それをもう一度再認識するためにつくったわけです。
先人が残した知恵と規律が、改革のより所になる
────社史の編纂や「Corporate Philosophy」カードの作成は、社長のご発案でなさったことなのですか。
そうですね。つくったのは社長に就任する以前のことですが、私が考えたというよりは、悩みの中から出てきたといったほうがいいかもしれません。どういうことかといいますと、入社当初に違和感を抱いたことを改善するにあたっての根拠が必要だったということです。
社員の納得を得るには、「西川八一行はこう思う」というのではなくて、企業の憲法に照らしてどうかという観点で考えなくてはらない。そのために、先人の知恵をお借りしようと思ったということが実情なんですね。
日本ではやはり、マネジメントや経営をするにあたって年齢の差が障壁になるということが、まだあります。私ですらそれを感じるということは、年代が職位と逆転している課長や部長はもっとそう思うはず。そのときに、年上の部下に対しても「こうしよう」というための根拠を用意したかったという目的もあります。
ただし、社是は非常に明快で単純な言葉なだけに、取り方によってはいろいろに解釈できてしまいます。それに対して、かみ砕くとどういうことなのかを説明するために、4つのキーワードを新たに設けました。
1つは、「社会」に対して「誠実」なのか、「親切」なのか、「共栄」の意識があるかということ。2つ目は、「消費者」に対してどうかということ。「消費者」という言葉はあまり適切ではないのですが、私どもの場合は小売店舗さまが一次的なお客さまになりますので、エンドユーザーの方々を意識しようということで「消費者」としています。
そして3つ目が、「お取引先」に対して。これは小売店さまだけでなく、協力工場や私どもの子会社といった、生産サイドも含めたお取引先に対する「誠実・親切・共栄」を考えようということです。そして、最後に「社内」に対してどうかということ。
なぜ4つがこの順なのかといいますと、「誠実・親切・共栄」というのは、違った受け取り方をしてしまうと単に「人がいい」という解釈もできてしまう。それがよくない方向にいくと、慣れ合いの組織になってしまうわけです。
そうではなくて、何に意識を向けるべきかといったときに、それはまず「社会」であり、エンドユーザーである「消費者」であり、「お取引先」であると。組織の和も大切ですが、優先させるべきは社会やお客さまである。それを会社の憲法である「社是」として改めて明確にし、社員全員に配って朝礼などで読み上げて確認しています。
────例えば「社会」についてなら「社会への貢献を意識して、世界的な基準や手法を取り入れ、プロとしての誇りを持とう」など、社是がかなり具体的に解説されていますね。
単なる概念ですと、丸暗記になってしまいますからね。さらに、ただ全部を読むのではなく、4つのキーワードの中で「今はどれが大切か」を、みんなで考えるようにしています。例えば、偽装事件が起きたときには、「社会」「お客さま」「お取引先」「社内」の、どこに対しての「誠実・親切・共栄」を見直さなくてはいけないか。
社是というのは、何か事にあたったときに、そこに立ち戻れる場所のようなものであって、「原点回帰」の「原点」は何かということを、もう一度みんなに意識してもらうことが大切ではないかと思っています。
伝統とは、革新の連続である
────「誠実・親切・共栄」という社是は、いつごろ誕生したものなのでしょうか。
いつという記録は残っていませんが、200年以上前に書かれた書物の中にも、同じような項目が書きとめられています。かなり古くからあったものだと思いますね。
────マーケティングや商品開発は時代に合わせて変えていく一方で、「誠実・親切・共栄」という姿勢は不変のものとして守り続けることが大切になるのですね。
その通りです。私どもの現会長である14代当主の西川甚五郎は常々、「伝統とは、革新の連続の結果として築かれるものである」といっています。ダーウィンの「種の起源」にも、進化の過程の中で生き残っていくためには、ただ大きいとか賢いというだけでなく、変化に対応できるものだけが生き残るという話がありますね。まさに、そういうことだと思うんです。それも、誰か一人が変化に気づくというのではなく、社員一人ひとりが気づいて、自らイノベーションを起こす。そういった組織でありたいと考えています。
ただしその中でも、「変えない勇気」と「変える勇気」が必要です。社是や商いの原点は、変えずに守っていく。一方で変えるべきものは、なぜ変わらなくてはいけないのかという明確な根拠を示し、わかりやすい仕組みでもって変えていくことが大切だと思います。
西川産業にとっての「原点回帰」の「原点」は何かを明らかにした後、西川八一行社長は、人事制度に新しい評価の仕組みを取り入れ、商品ブランドを見直すといった改革に着手します。具体的には、どのような課題にどんな手を打ったのか。後編では、400年を超える歴史と伝統を次代につなぐための改革について伺います。
*続きは後編でどうぞ。
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