OBT 人財マガジン

2009.02.12 : VOL61 UPDATED

この人に聞く

  • 財団法人横浜市緑の協会
    理事長 橋本 繁さん

    大競争時代を乗り切るカギは「協働力」にあり(前編)

     

    独自性のある商品やサービスを打ち出そうにも、既存事業の延長線から抜け出せない──そんな閉塞感を打破する方法の一つに、社外のノウハウを利用するというものがあります。商品の共同開発や業務提携などはその大掛かりな例ですが、公益性の高いサービスの世界でも、規制緩和による競争激化を受けて、現場での取り組みがさまざまに動き出しています。横浜市の公園管理などを手がける横浜市緑の協会が進めるのは、地域や外部の力を借りた「協働」による事業の展開。「協働」を通じて新たなサービスを創出するとは? 橋本繁理事長に伺いました。

  • 財団法人 横浜市緑の協会 http://www.hama-midorinokyokai.or.jp/

    昭和51年に任意団体「横浜市公園協会」として発足、昭和59年に「よこはま緑の街づくり基金」が設置されたことに伴い現在の名称に変更。横浜市と連携して緑化事業などを展開するほか、指定管理事業として都市公園や「よこはま動物園ズーラシア」「野毛山動物園」「金沢動物園」の動物園3園、「外交官の家」に代表される山手西洋館7館等公園施設の管理運営を手がける。

    SHIGERU HASHIMOTO

    1946年生まれ。2003年横浜市青葉区長、2005年に横浜市環境創造局長への就任を経て現職。

  • 行政に民活が導入され、大競争時代に突入

    ────小泉政権のもとで公益法人の改革が推進されて以来、横浜市緑の協会を取り巻く環境も、さまざまに変化してこられたことと思います。具体的には、どのような環境変化に直面されているのでしょうか。

    当協会は、行政が設置した施設の管理・運営を主に行ってきた団体です。従来は、公の施設の管理は公益性の高い団体でなければできないとされていましたので、主に公園関係については、横浜市による直営以外には、当協会がほぼ専属的に管理運営をしてきました。

    しかし、ご承知のように平成15年に地方自治法が改正され、指定管理者制度というものができた。官の分野に民のいい面(利用者サービスの向上や経費の節減など)を取り入れようという、「民活導入」ですね。横浜市も、平成17年度に指定管理者制度に移行しました。公の施設の管理運営が民間事業者にもできることになったわけです。

    今後は、これまで管理運営してきた施設だからといって、われわれが引き続き管理できるとは限りません。ほかの事業者と一緒に公募に応募し、審査に選ばれなくては事業を継続することができない。協会の30年の歴史の中でも、これは一番大きな環境の変化だろうと思います。

    平成16年度、17年度、18年度に指定管理に移行した公園等が平成21年度に更新を迎えることになります。当協会が管理運営する公園等の中にも更新を迎えるものが数多くあり、競合する事業者に打ち勝てるかが試された年でもありました。その意味で、今年度は協会自体が相当変化に揺れ動いた年だといえますね。

    ────指定管理者の公募の倍率は、どの程度なのですか。

    単独の事業者しか応募しなかった公園もありましたが、当協会が応募した中での最大は4事業者。つまり4倍ですね。6事業者が応募したところもあったようです。

    ────その競争に勝ち残らなければいけないのですね。

    そうです。それも、単に行政の内部手続きで決まるわけではないんです。公園等の事業計画書を横浜市が設置する指定管理者委員会に提出して書類審査と面接を受け、その結果優先交渉権者となった団体を行政が議会にはかり、議会の承認を得て確定します。管理者の指定は議会の議決事項なんですね。それだけのステップを経てようやく、指定を受けることができるわけです。

    「選択と集中」で競合に打ち勝つ

    ────審査では、どのようなことが評価対象になるのでしょうか。

    一般的な行政の入札では、価格が優先されますね。1円でも安い事業者に決まります。ところが、指定管理者制度では経費も大きな要素ですが、事業計画の内容が非常に重視されます。行政に代わってどのような事業を展開するのか、どのようにして公園等を保存し、有用性のあるものにしていくのかというメニューを打ち出していかなければ評価されません。それだけに、事業計画の作成には相当の時間がかかります。

    そこで、今年度の大量更新では、協会が管理運営していた公園等のうちいくつかは応募を見送り、「選択と集中」をしたうえで応募に臨みました。応募する公園等を絞り、十分な事業計画を練らなければ、事業者として生き残ることができない。それだけわれわれも現状を厳しく受け止めて、臨んだわけです。結果として、14の施設に応募した中で2つは選にもれたのですが、そのほかは優先交渉権を確保することができました。十分とはいえないまでも、ほぼ満足のいく結果が出せたのではないかと思います。

    ────勝因は何でしょうか。

    公園ごとの特色をいかに打ち出すか、ということですね。一つひとつの公園について約70ページに及ぶ事業計画書を作成しますが、当協会の紹介といった共通する部分を除いて、実際の事業計画の内容はすべて違います。施設の特色や立地特性をふまえて、どのように管理運営するかという考え方を打ち出すわけです。

    協会が管理運営する公園の一つである「馬場花木園」では、散策教室や写生会など年間70日を超えるイベントを企画。植生の管理には、地域のボランティアが多数参加する。充実したサービスや地域との連携が評価され、平成20年度の「第24回都市公園コンクール」において(社)「日本公園緑地協会会長賞」(管理運営部門)を受賞。指定管理者の更新でも、引き続き指定されることが決定した。

    地域の特性を活かした事業を企画するためには、まずは現場を知る必要があります。そこで今回の更新では協会の中でプロジェクトを組み、各公園の責任者を決めて、現場を分析することから始めて事業計画を作り上げました。獲得できなかった公園で競合したのは、地元の事業者でした。彼らのほうが、現場をよく知っていたということなんですね。

    ただし、指定管理事業は毎年行政のチェックを受けますから、バラ色の計画を打ち立てればいいというものでもない。事業が計画書通りに実施されていないと、「書いてあるのにやってないじゃないか」ということになります。当然といえば当然ですが、指定を受けて一段落しても、それで終わりではないんですね。

    また、選にもれた施設については現実をきちんと受け止めて、何が至らなかったのかを記録に留めておくようにスタッフに指示しています。次に公募があるときに前回の敗因がわからないのでは、策が立てられませんからね。何が足りなかったのか、次回はどのような肉づけをすればいいのか。そういった分析は、結果が出た直後にきちんとやっておく必要があるわけです。

    規制緩和の功罪を併せ呑む

    ────公園ごとの詳細な事業計画が求められるようになったのは、指定管理者制度が導入されてからのことですか。

    そうですね。以前は、公益団体として自動的に管理運営できる立場にありましたから、今ほどの詳しい事業計画は打ち出していませんでしたね。極端にいってしまえば、「ここに公園があります。管理は緑の協会が行っています。どうぞ自由に使ってください」と。それで終わってしまっていた。

    それが、指定管理制度が導入されたことによって、常に質の高い事業を打ち出してお客さまの満足を高めていくことが、求められるようになりました。そのために、改めて各公園をつぶさに調べて計画を立てることができたのは、良いことだったと思いますね。

    競争性が取り入れられたことで、勝ち残るためにはどうすべきかを常に考えるようにもなりました。事業計画書の内容を着実に実行していれば、次の指定管理権も自動的に取れるかというと、そうではないんですね。サービスの水準を常に維持しながら、同時にサービスの向上も追求し続けないと、勝ち残ることはできません。

    それに、5年間の指定期間が終わる直前に次の5年の計画を立てようとしても、もう遅いんですね。名乗りを上げようとする事業者はその前から、われわれのやっていることをよく承知して、それに対する準備をしているわけです。見えない事業者と競合するためには、サービスの充実やメニューの多様化を常に考えていかなくてはなりません。なおかつ、それが自己満足ではなく、お客さま満足につながらなければならない。指定管理者制度が導入されたことによるプラスの影響は、非常に多くあります。

    その一方で4年、5年と事業を続ける中では、事業者サイドから見た制度の課題というものも、明らかになってきているんですね。

    ────どのような課題があるのですか。

    一番大きな課題は、指定期間が5年間に限られているということです。どういうことかといいますと、施設で働く職員にとっては、当面働ける期間は5年間だということになるんですね。期限の定めのない雇用であったとしても、事業の契約期間は制度に基づいて5年という年限で区切られる。経営サイドにとってもスタッフにとっても、雇用の不安を常に抱えることになるわけです。

    これは当協会だけの課題ではなくて、全国的な課題です。専門性の高い施設では、専門職員の確保も非常に難しくなります。地方の芸術性の高い施設の中には、スタッフが確保できないという理由で、自治体の運営に戻したケースもある。これが一つの課題ですね。

    もう一つ、専門性の高い施設の場合は、5年のスパンでは事業ができないという問題もあります。当協会が管理する施設の例ではありませんが、例えば著名な音楽会や美術展といったものは、数年先まで予定が埋まっていることもあるわけです。企画を実現させるための準備に、何年もかかるということだってあります。

    われわれの施設でいえば、動物園がそれに近いのかなと思いますね。飼育員の勤務地は動物園しかありませんから、その意味では5年後はどうなるかわからないという雇用の不安を常に抱えています。また、動物が好きで、動物をよく知らなければ飼育はできませんが、5年で事業者が変わって飼育員が入れ替わるとなると、動物と人との信頼関係も構築できません。

    さりとて現行の制度の中では、われわれとしても如何ともしがたい部分があります。ですから、緑の協会としての経営母体を維持し、雇用を確保するためには、充実したサービスや多様なメニューを常に打ち出していかなければならないということなんです。

    サービスを充実させ、多様なメニューを打ち出すために協会が重視するのが、地域や外部の力をうまく借りた「協働」による事業展開。後半では、事業の具体例や事業を支える人財について伺います。

*続きは後編でどうぞ。
  大競争時代を乗り切るカギは「協働力」にあり(後編)

「この人に聞く」過去の記事

全記事一覧