OBT 人財マガジン

2008.09.24 : VOL53 UPDATED

この人に聞く

  • 未来工業株式会社
    取締役相談役 山田 昭男さん

    後発からシェアトップを実現した「社員を感動させる経営」(前編)

     

    混迷する経済状況の中、企業経営には様々な障害がつきまとう。とりわけ中小企業には厳しい時代が続いているが、常識に反する型破りな経営で未来工業は成長してきた。業界最大手の寡占市場に挑戦し、商品によってはシェア8割を占めるまでに成長した原動力は、社員の意欲を引き出す「社員を感動させる経営」にある。また、差別化を常に考える社風から生まれた製品は、今や2万点を超える。売れ筋商品に絞る他社の逆を行くことで、「未来工業ならどんな資材もそろう」と、ユーザーの支持を得た。重要なのは先行する大手企業と同じ事をしていては勝てない、という状況認識である。変化が激しい今の時代においては、業界の大方の企業の戦い方ではなく、極めて非合理な戦略が、ある種の合理性を獲得していくのではないだろうか。

  • 未来工業株式会社http://www.mirai.co.jp/

    1965年創立。山田氏が、当時熱中していた演劇の仲間を募って4人で起業。実家が営む電気設備資材メーカーを「仕事もせず劇団に入れ込み過ぎる」と勘当同然にクビになったことが起業のきっかけ。社名は劇団名の「未来座」から命名した。資本金は50万円。仕入れ先も顧客もなく、競合するのは「世界のナショナル(松下電工)」という逆風のスタートから、常識に逆らう型破り経営で急成長を遂げ、1991年には名古屋証券取引所第2部に上場。2008年3月期の売上高は319億7300万円、経常利益は39億6000万円(いずれも連結)、2007年3月期までは16期連続増収、8期連続増益という優良企業に成長した。

    AKIO YAMADA

    1931年、上海生まれ。旧制大垣中学校を卒業後、家業の山田電線製造所に入社。家業の傍ら劇団「未来座」を主宰し、 1965年に劇団仲間4人で未来工業を設立。1991年、名古屋証券取引所第2部に上場。2000年から取締役相談役。岐阜県中小企業同友会代表理事、同会長、岐阜県電機工業会会長などを歴任。著書に「楽して、儲ける!」(中経出版)。

  • 社内のすべてに「差別化」の発想を持ち込む

    ────ご著書「楽して、儲ける!」の中で、後発から先発企業に勝つには「差別化が必要である」と書かれ、その結果として多くの独自商品を生み出されました。どのようにして、差別化を実現されたのでしょうか。

    まず一つやったのは、一から十まですべて人がやることの反対をしようということでしたね。未来工業の商品である電設資材は、規格が法律(電気用品取締法)で決められているので、そもそも工夫はしてはいけないことになっとるんです。これは辛いですよ。工夫を考えてはいけないんだから。その条件のもとで、4人で会社を立ち上げたわけですが、敵は何万人、何兆円の松下電工。ものすごいブランドです。一方で、未来工業のブランドはゼロ。日本中で誰も、未来工業のことは知らない。そこから差別化が始まったわけです。

    といっても、そんな零細企業に入社してくるのは凡人に決まっとります。賢いのはみんな大企業に行くんだから。だから商品は差別化しなくてはいけないけれども、凡人だから考えようがない。しかし、考えなくてはいけないという宿命を負った。で、どうするか。一から十まですべて人がやることの反対をしてみようと。これが差別化の始まりです。

    極端な例では、「トイレに行っても手を洗うな」と。そんなこともいいましたね(笑)。それも差別化だから。もちろんみんな手は洗っていましたけど、そうやって差別化するクセをつけておくと、商品の差別化を考えるときにいくつかはアイデアが出るだろうと思ったわけです。

    そのほかにも、うちの会社には「日本で唯一」というものがいくつもありますよ。どこもやってないことをやれば、それが差別化になりますから。あるときテレビ局がうちの会社の「日本一」を取材したいといってきたから紙に書き出したら、40ぐらいあったこともありましたね。

    ────例えばどのような「日本で唯一」があるのですか。

    株主総会は仏滅にやります。横並びではいけないというのは商売の鉄則ですが、他社はたいてい大安にやるでしょう。だから、当社は仏滅。今どき、横並びではメシは食えません。本社の廊下に一日中電気をつけないというのも、日本中で当社ぐらいではないですか。それから、本社には社員が350人いますがコピー機は1台。廊下の消灯とコピー機1台は、あちこちのテレビ局がずいぶん取材にきましたよ(笑)。なぜ電気をつけないか、なぜコピー機が1台かというと、無駄だから。そして、これも差別化だからです。

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    差別化を常に考える社風から生まれた製品は、今や2万点を超える。売れ筋商品に絞る他社の逆を行くことで、「未来工業ならどんな資材もそろう」と、ユーザーの支持を得た。「シェアを取るための"ムダ"」(「楽して、儲ける!」より)だという。
    2万点の製品は、どれも独自の工夫がなされたもの。徹底するのは、小さなアイデアを大事にすることだ。壁面に取り付けるためのねじ穴が他社は2穴のところを、より固定しやすい4穴にするなど、規格が法律で定められている製品でも「徹底すれば工夫のネタはいくらでも出てくる」(同)という。
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    お客様を感動させるために、まずは社員を感動させる

    ────商品開発に直結しないようなところでも、差別化を徹底されているのですね。

    そうです。そこで大事なのは、差別化のクセをつけることに加えて、社員を感動させるということです。私は経営者が集まる講演に呼ばれることが多いのですが、そこで必ずいうのが、社員は「人材」ではないということ。人材の「ざい」は、財産の「財」でなくてはいけない。「材」の字を使うのは、材料です。材料とは木や紙や鉄のことで、これには感情がない。でも、人間には「感情」があります。お金を儲けるという「勘定」もある。それを材料と一緒にするなよ、ということなんです。

    誰が、材料扱いされて「頑張ろう」という気になりますか。人間には「頭にくる」という感情もあるんだから、「誰が働くか」と思うでしょう。しかし、「この会社のために働こう」という感情を持ったときには、「儲けよう」という勘定もできるようになるわけです。つまり、今流行りの言葉でいえば、社員の「モチベーション」を高めなくてはいけない。では、モチベーションを高めるにはどうするか。それには「モチ」が必要。社員に「餅」を与えるということです。

    ────「餅」を与えるとは、どうすることをいうのですか。

    社員を喜ばせるということです。つまり、社員を感動させればいいんです。そもそも、商売というのは、お客様に商品を買っていただいて成り立つもの。そのためにはお客様を満足させて、喜ばせんといかん。お客様を感動させなくてはいけないわけです。では、お客様を感動させるのは誰かといえば、それは社員です。それならば、まずは社員を感動させなくてはいかん。社員を感動させるためには、餅が必要。それが私の持論です。

    だから、当社には「日本で唯一」がたくさんあるといいましたが、そのほとんどは「どうすれば社員を感動させられるか」を考えて生まれたものです。例えば、年間休日数は、日本で最多の140日。勤務時間は8時30分から16時45分までで、残業は禁止です。140日も休ませれば社員は喜びますよ。なぜかって、社員というのは働きたくないものなんだから。本当は、働かずに給料をもらえるのが理想。だから、休みが多ければ感動します。それも中途半端にやっちゃダメ。感動するところまで喜ばせなくてはいかんわけだから、当社の年間休日は日本で最多にしているんです。

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    そのほかにも未来工業には、社員を感動させるための次のような制度や仕組みがある。

    ●経費を徹底的に節約する一方で、5年に一度の社員旅行(海外)は全額会社負担。毎回1億円以上を支出する。
    ●工場も含めて制服はなく、全員私服で勤務可。ただし私服が汚れることを配慮し、年に一度「制服代」として被服費を支給する。
    ●70歳定年制。60歳以降も再雇用扱いにはせず、減給は一切なし。
    ●育児休暇は最長3年間取得可能。
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    「権利主義」ではなく「義務主義」が、社員の意欲を高める

    ────インセンティブ制度を導入する、人事考課制度を再構築して公正な評価に努めるなどして、社員の動機づけに力を入れる企業が多くありますが、こういったことも「餅」を与えることにつながるのでしょうか。

    成果主義を導入する会社も多いですが、それは違うんですよ。「馬にニンジン」という言葉がありますね。馬なら走ればニンジンをやればいいけれども、社員は人間です。馬と一緒にするなよといいたいですね。「これだけの働きをすれば、これだけの報酬をあげますよ」というのは、「走ったらニンジンをあげますよ」というのと同じこと。社員を喜ばせようという気持ちがあることはわかりますが、そんなことをやっていて人を使えるわけがないんです。

    成果主義には目標やノルマがありますが、ノルマが効果を発揮するのは何万人という大企業の場合であって、中小企業には絶対に価値がないというのが私の持論。中小企業にくるような社員は凡人であって、大企業の社員とは違うわけですよ。成果主義は、成果を挙げなければ給料がもらえない。そうすると「お金はいらないから、働かない」という人が絶対出てくるんです。働いた人には、お金をもらう権利がある。それに対して、お金がいらない人には、働かない権利がある。これを「権利主義」といいます。

    大企業のように、年収1500万円や2000万円という待遇を与えられえるならノルマにも価値があるけれど、中小企業は社長だってそれくらいの報酬を得られるかどうかあやしい会社も多いでしょう。ましてや社員は、課長になったって部長になったって、平社員と大して変わらんのですよ。働きも変わらんし、給料の中味も大して変わらん。それだったら「金はいらないから働かないよ」となるんです。

    未来工業では成果主義は禁止、年功序列です。売らなくても一定の給料を払います。その代り、売っても給料は増えません。だからといって全員一律に安い給料では社員は感動しないわけで、給与水準は地域で一番になるように設定しています。そうすると、どうなるか。「これだけもらっているのだから、売らなくちゃ悪いな」と思うようになるんです。これを「義務主義」といいます。

    「給料に見合うだけの働きをしなくては悪い」と。これを思えるのが、日本人の特徴なんですよ。なぜかといえば、日本人は儒教の精神を持っているから。今はもう学校で儒教を教たりましませんが、生まれる前から遺伝子を持っているんです。狩猟民族に儒教の遺伝子はないけれど、農耕民族である日本人にはその遺伝子がある。だから、「やらないと悪いな」と思えるわけです。

    ────やってもやらなくても給料が同じなら、サボろうと思う方はいないのですか。

    みなさん、それをいいますね。社員は「2:6:2」で優劣が分かれるという理論を持ち出す人もおる。けれども、「みんながやる」という風土をつくっておけば、評論家がいうような「2:6:2」ということはありえません。サボると居たたまれないんですよ、本人が。周囲はみんなやっとるんだから。農耕民族の最大の特徴は横並びですから、結局はつられてやるものなんです。

    では、成果をあげても給与が増えないというのはどうなのか。そういうことを聞いてくる人もいます。それは私にいわせれば、「勝手に成果をあげて、給料をくれというな」ということなんですよ(笑)。現に、私は社員に「やれ」とか「頑張れ」なんてひと言もいいません。それでも、やるやつはやる。そうすると、私が怒鳴りつけるわけです。「バカたれ、誰がやれといった。やるなよ」と(笑)。でも、「やるな」といわれてやらないかといえば、絶対やるんですよ。なぜかといえば、日本人というものは、やることによって自己満足感を持つものだから。だから「やるな」といっても、働くんです。

    「年間休日140日」「残業禁止」「定年70歳」「成果主義の禁止」といった施策は、部分的に導入しても「効果はない」と山田さんはいいます。では、個々の施策を考える以外にどのような発想が必要なのか。後編では、山田さんの人間観、経営観を伺います。

*続きは後編でどうぞ。
  後発からシェアトップを実現した「社員を感動させる経営」(後編)

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