OBT 人財マガジン
2007.06.13 : VOL24 UPDATED
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セコム株式会社
顧問 加藤 善治郎さん
『収穫逓増型』の事業を生み出した経営の秘けつとは(後編)
事業規模が拡大するにつれて投資効率がよくなり、利益率も高まる──IT時代の象徴の一つとして『収穫逓増型』といわれるビジネスモデルが注目されています。『収穫逓増型』のビジネスを生み出し、高い競争力を持って同業他社を凌駕する秘けつは何か。セコム株式会社の顧問であり、『セコム 創る・育てる・また創る』(東洋経済新報社刊)の著者でもある加藤善治郎さんに伺いました。
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セコム株式会社 (http://www.secom.co.jp/)
1962年に日本で初めてのセキュリティ会社として創業。66年にはこれも日本で初めて、オンラインによる安全システムを開発。以来、セキュリティ事業を中核に医療、保険、地理情報サービスなど独自の技術開発力やネットワークを武器に多方面に事業を展開。"あらゆる不安のない社会"の実現に向けて「社会システム産業」の構築を目指す。
ZENJIRO KATO
1933年生まれ。岩手日報、アド電通を経て、70年に日本警備保障(現セコム)に入社。73年には広報室長に就任し、一貫して広報業務の責任者を務める。76年にセキュリティワールド社長就任、90年にセコムの宣伝・広報担当顧問に就任。NPO法人日本リスクマネジャー&コンサルタント協会の理事長も務める。著書に『セコム 創る・育てる・また創る』(東洋経済新報社刊)。
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『協働』と『現状打破』の精神で、新サービスを開発。
────次々と新しいサービスを生み出す御社の社風というのは、どのようなものなのでしょうか。
創業の当時から、誰もしていない事業を始めたわけですからね。自分たちで考えて、自分たちで新しい方法を作らなければいけない。これが基本的な宿命です。そのときに大切なのは、『独自性のあるサービスは何か。それを実現するにはどうすればいいか』ということ。「これはダメだ」とか「規制があるからできない」とか、そんなことばかりいっていると、誰も新しいことに挑戦しなくなりますね。
そうしますとね、発案者を中心としたグループができる。これは、新しいサービスを開発する場合に恒常的に取る方法です。事業部を超えて、セキュリティ事業、医療事業、保険事業、情報通信事業、地理情報サービス、教育事業などのスタッフが横断的に協働することもよくあります。例えば、私が提案した『加藤案』があるとしますね。私だけでは広報の力しかないから、IT、法務、営業などの各方面の専門家も入れて、5人くらいのグループで『加藤案』について議論をする。そうすると、規制や条例に触れるといった問題があると、法務の専門家がすぐパーンと指摘してくるわけです。けれども、抵触するということが分かればね、極端な話、その規制を変えればいいわけです。変えるためには、サービスをよくすればいいわけですね。
医療サービスも、医療の専門家だけで開発するわけではありません。セコムでは『トータルパッケージ方式』と呼んでいますが、医療の専門家の研究グループの中に、警備の専門家も入ります。機器の製造やメンテナンスの専門家も入るし、営業の専門家も入る。新聞などでの報道に、よく、『最新鋭のハイテク機器を利用しているのに事故が発生し、巨額の損失を受けた』、といったことがありますね。ハイテク機器の使い方に間違いがあったとか、システムの一部が整合性に欠けていたなど、原因はさまざまでしょうが、『トータルパッケージ方式』は、このような欠落を排除し、信頼性を維持することを狙っているんですね。しかも、チームで協働すれば、一人では考えつかない新しいアイデアが生まれ、3倍も4倍も速くできます。
『協働する組織風土』と、障害があってもあきらめない『現状打破の精神』。これが、新しいことを始めるためには大切なように思いますね。
今までにない新しいサービスを
開発するための答えは現場にある。そうやっていくと、面白いことも起こります。人的サービスによる警備から、情報通信と人的サービスを組み合わせた警備が中心となったのは昭和47年からですが、それ以前、昭和41年や42年ごろから、大手外資系のシステム会社や通信キャリア、大手電機メーカーなどから技術系の専門家が、人数は少ないですが、入社し始めたんです。そして、どういうセキュリティシステムを開発するか、どういう機器を作るかということを議論し始めたわけです。
そして「こういう新しいサービスを始めたい」と、幹部の会議に提案をした。そうしたら警備をしている、いってみれば情報通信の素人がそれを見て一言、「この機械は機能が多すぎて、コストが高い。しかも、泥棒はこれじゃつかまりませんよ」と。「もう少し単純なものを、安く作ったほうがいい」というわけです。そうしたら、我こそは大手外資系から来たという連中が、「ぎゃふん」となってね(笑)。
このことで分かったのは、技術系の専門家だけじゃダメだということです。ですから、先ほどお話した「トータルパッケージ」には、必ず現場の人間が入るんですね。情報技術の専門家だけでは、「こういう機能もある」「こういう電子レーダーが云々」と、要するにサービス過剰。そこに現場の人間が入って、毎日の警備で困っていることを「何とかなりませんかね」と持ちかけたら、やはり技術屋さんは頭の中が違います。「それ、できるよ。作ってみよう」と、すぐに開発が始めるわけです。
研究所の活動も、研究所の中だけに留まりません。研究所の人間と現場の人間との混成チームで、10日に一回など定期的に集まるんです。そして、現場が困っている問題を一緒に議論する。私が現役の当時は、夕方の5時から夜の8時ごろまで、3時間くらいだったでしょうか。夕飯は会社が持ってね。それをまとめて、担当役員に「こういう結果が出ましたのでやってみたい」と持っていく。そしたら「いいじゃないか、やってみよう」と。だって、担当役員は分からないんだもの(笑)。何ていったって、新しいことでしょう。役員だから何でも知っているかっていうと、そうではなくて、知っているのは実際に前線にいる人間です。
ですから、技術の専門家と警備の専門家とが一緒になって、『トータルパッケージ』でもって新しいサービスを作ってきた。セコムは、そういう組織なんです。
────現場重視の風土でいらっしゃるのですね。
現場重視といいますか、現場の人間を大事にしていますね。お客さまのところに行ってサービスを提供させていただくのは現場ですから。現場をいい加減に扱っては、お客さまから見放されます。ですから、新しいサービスや新しい仕組みを作るためには、どういう進め方をするかということが大事なんですね。
徹底した『加点主義』で、社員の自主性と意欲を引き出す。
────御社が求める人材像とは、どのようなものなのでしょうか。
基本的には、さきほどいったような『新しい考え方を進める』とか『諦めずにがんばる』とかね、そういう前向きさは必要でしょうね。
────そういった『新しい何かをやりたい』というような人を、重点的に採用されているのでしょうか。
いやいや。もちろん、採用担当者は社会人としての基準を見て採用していますが、それ以上のことは面接だけでは分かりません。学校の成績のいい人や優秀な会社から来た人を評価するかというと、それもない。なぜかといいますと、創業者自身がね、優秀な学校で優秀な成績で......というタイプではないんですね。それでも、会社をここまで作りあげてきたわけです。
上場して企業規模が大きくなると、セコムに応募する人もかなり増えました。有名な大学の学生も来たし、有名な会社に勤めていたマネジメントクラスの人なんかも来るようになった。そんな中で一時期、有名大学の成績優秀な学生から順番に採用していた時代があったそうです。そうしたら創業者が「なぜ、そんなことをするか」と。「そういう優秀な人材が来てくれたのは喜ばしいことではあるけれど、創業当時から一緒に会社を大きくしてきた社員たちが、学校の成績優秀な人ばかりだったかというと、そうではなかった」と。こういうこともいっていましたね。「面接で目が輝いている人間、これはOK」と。「中身は分からないけど、目が輝いている人間は頑張るぞ」と。これは一理あるんじゃないでしょうか。
────真義なのかもしれませんね。
そういう人間は、その気になれば3倍の能力を発揮します。創業当時は警備員しかいないわけですから、「あなたはどういう経歴?」と聞いたら、「私はアメリカ軍の警備員をしていまして、警備会社ができたので来ました」とか、「トラックの運転手をしていましたが、こちらのほうが給与がよいので入社しました」とかね。そんな人たちが、いつの間にか幹部社員になっているわけでしょう。
ですから当時は、ごく普通の人の中から、目の輝きがあって意欲的だと思う人を採用していたんですね。そういう人は、必ず転機を迎えて、ガラッと人が変わったように頑張り始めます。自分の考え方が新しいサービスとしてシステム化されるわけですから、やっていて一番楽しいのは当事者なんですよ。で、楽しいから夢中になってやる。もう、「やめろ」っていったってきかない(笑)。そうするとね、「あれ、この人はこんなことができるのか」と思われるようなアイデアを提案したり、新しい仕組みの中心人物になったりね。
────そういう環境を実現する、文化や風土が根付いておられるのですね。
そうですね。経営理念や経営指針は創業者が作りましたが、「それに基づいて自由にやれ」という風土があります。いや、人間がガラッと変わるときというのは、見えるんですね。セコムの社員として中心的に活躍する人間に変わったなということがね。
────それはどんなときなのですか。
自分で提案したことを、上から「やってみろ」といわれて、そうすると散々苦労しますよね。誰もやってない仕事をやるわけですから。ですから、それを一つ成し遂げますと、「あ、そうか」と。「自分にはこういうパワーがあるんだ」ということを自覚するんです。そうすると、またやってみたいと思うようになる。実現するまでは大変ですが、本人は一生懸命に集中力を持ってやっていますから、「逃げたい」とか「ごまかそう」とか、そういう感覚は全くないですね。それに、新サービスの開発はダメでもともと。成功すれば評価されますが、失敗しても給料下がるとかボーナスが下がるといった減点はないんです。
────加点主義なんですね。
徹底した加点主義です。よく「会社で失敗すると減点されて評価が下がるから、余計なことはしないほうがいい」という姿勢の人が世の中にはいるようですが、セコムではそういったことはない。誰もやっていない初めてのことは、やってみなければわかりませんからね。「あんな失敗をしたのに、給料も下がらないし、地位も下がらない」という例は、いくらでもあります。一方で入社して間がなくても。いい仕事をすればトントンと昇進したりね。
グループ総数4万人の企業になっても、
『社会システム産業』を目指すハングリー精神は変わらない。────これからの御社のありようについては、どのように見ていらっしゃいますか。
社員数が国内外のグループ全体で4万人ぐらいになりましたからね。この4万人が、基本的なセコムの考え方を守って、『トータルパッケージ』で協働して、新しいものを作り出していこうと。そこは、変わりませんね。
────企業規模が拡大するにつれて大企業病に陥る企業も多くありますが、御社が自由な風土を保っておられる秘けつはどこにあるのでしょうか。
『大企業病』が何を指すのかはよく分りませんが、セコムはゼロから始まっていますからね。2人きりで昭和37年に始めて、1000名になったのが昭和43年。当時の売り上げが32億円でした。それが昭和49年に2500名、150億円になった。売り上げで見ると、6年で5倍になりました。それが今、4万人、6020億円でしょう。
考えてみますと仕事の領域は広がりましたが、目指していることは今も同じなんですね。『社会システム産業』を成立させるために、新しいサービスを生み出していく。しかもそれを、全て自分たちで作っていく。ですから、企業規模が大きくなったとはいっても、満足している状況ではないんです。『社会システム産業』が成り立つまで、やっている本人たちは不満足の連続でしょうね。
────いい意味で『不満足』なんですね。
そう。なり足りない。ですから、私なども広報の責任者をしていた時代は、夜も昼もありませんでしたね。広報物の原稿を社長に出しても、「お前がいいと思えば、それでいいんだ」と、指摘もない。信頼されて任されるわけですから、それなりのレベルにしなくてはいけないという責任があるわけですね。
────その風土を、規模の如何に関わらず今も保っておられるのは、大変なことですね。
そういう意味では、非常に変わった会社なのかもしれませんね(笑)。
────ありがとうございました。
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