OBT 人財マガジン

2007.05.16 : VOL22 UPDATED

この人に聞く

  • 株式会社モバイルファクトリー
    取締役 人事総務部長 深澤 祐馬さん

    創業期から拡大期へ。経営を支える組織の足場固めとは

    企業が創業期から拡大期へと発展していく過程では、業務の標準化やシステム化、社員の階層化や機能分担の整備など、さまざまな課題が派生するといわれています。事業の拡大を支えるために、人事に求められることは何か。株式会社モバイルファクトリー取締役・深澤祐馬さんに伺いました。

  • 株式会社モバイルファクトリーhttp://www.mobilefactory.jp/

    2001年設立。『モバイルファクトリーが制作するメディアサービスを通じて世界のユーザーに喜びと楽しみを提供する』ことを理念に、ブログを活用したクチコミ型プロモーションサービス「BloMotion」、3D仮想空間「Second Life」にて口コミ広告サービス「Second Buzz!!」、成果報酬型の携帯電話広告システム事業、ポッドキャスティングサービスや着メロの制作等、新サービスを次々と生み出し、急成長を続ける。代表の宮嶌裕二氏は今年、『Japan Venture Awards 2007』の起業家部門にて特別賞を受賞。

    YUMA FUKASAWA

    1976年生まれ。2000年にリクルートコスモス(現・コスモスイニシア)に入社し、以来一貫して人事畑を歩む。05年に独立し、3社の人事・採用コンサルティングを手掛け、06年に現社に入社、人事総務部部長に就任後、07年に取締役就任。

  • 経営者が示すのはゴールのみ。
    ボトムアップの風土が強い組織を作る。

    ────昨年の10月に入社されましたが、社内の第一印象はどのようなものでしたか。

    想像していた以上にモチベーションが高く、ベンチャー特有の荒削りで異端なにおいがし、初めから底力のようなものを感じました。私が経験したいくつかのベンチャー企業の中では圧倒的な「ぎらぎら感」を感じます。正直、入社当初はさほど期待していなかったんです。風土作りや社内モチベーションのコントロールが私の仕事でもありますから、まずは全体のモチベーションを上げていくことを自分の力でと思っていましたので、そういった意味ではうれしい大誤算でした(笑)。

    ────モチベーションの高さは、どのような場面で感じるのでしょうか。

    入社時の最初の一ヶ月半で現状把握のため、社員全員と面談を行いました。その中で感じたことは、本気で起業を狙っていたる人間が多いということ。よくベンチャーマインドをもった会社などといいますが、そのマインドはただのマインドではない。創業期からIPOが視野に入ってきているフェーズで集まってくる人間は、リスクをとって飛び込んでくる者たちばかり。

    例えば、大学院在学中に出会い、「いてもたってもいられない、3年で起業に必要なことを吸収したい」と、大学院を中退して入社してくる者がいたり、大手総合商社や外資の戦略系コンサルティング会社にいながら、そのブランドを捨て飛び込んでくる者、会計士でありながら、大手監査法人を飛び出してきた者、国際カンファレンスで講演する実力を持ち、世界を狙う20代前半の若手プログラマーなど、小さな会社にこれほど多様な人種が詰まっている環境もそうそうありませんね。一緒にいるだけで刺激を感じる環境なんです。

    役員も、「大手企業の体質は合わない」「会社のブランドよりも自分を磨ける環境が大事だ」と大手総合商社を辞めて飛び込んできています。経営層がハングリーなので、そこに魅力を感じる人間が多いのでしょう。ですからみんな、いつかは自分も起業したいとか、起業しないまでも経営センスを身につけたいとか、各自が自分の夢・志をもって突っ走っていますね。

    ────しかし、ハングリーなベンチャー企業に入社すればモチベーションを高く保てるのかというと、そうではないような気もします。社員の方々のモチベーションは、なぜそれほどまでに高いのでしょうか。

    一つは代表宮嶌の経営スタイルにあると思います。モバイルファクトリーという会社には、創業フェーズのベンチャーには珍しくボトムアップの風土があるんです。意思さえあれば、挑戦できるフィールドがいくらでもある。宮嶌自身も、「ボトムアップ」という言葉をよく口にしています。一方ベンチャー企業の多くは強烈なリーダーシップのもと、経営者が現場レベルの決裁権まで握っていたりします。実際に配置されている部門長は、しかるべき決裁権を持たされておらず形骸化している。創業期のベンチャー企業においてこのような状況はよく見かけるのですが、こういった経営者の圧倒的なカリスマ性が、若手の可能性をつぶしているケースも少なくありません。意志ある人間が「自ら考え、自ら決める」ことのできる風土がモバイルファクトリーのモチベーションの根っこにあると感じますね。

    ────御社は次々と新しいサービスを打ち出されていますが、それらもボトムアップで現場から生まれたものなのですか。

    現場からの場合もありますが、宮嶌がアイデアマンですので、現状のサービスは、自身のアイデアが発端というケースが一番多いようです。しかし宮嶌の役割はPDCAサイクルの前段階である「What」。実際にサービスを企画・実行していくのは現場です。言い換えると、ビジネスモデルの種を宮嶌は複数持っている。どうやってその種から芽を出し大きな花を咲かせるかは、現場が自ら考え、自らの意志判断によって創りあげていくんです。

    ────意識して現場に任せておられるのでしょうか。

    それはすごく感じますね。宮嶌自ら入れば成功する確率は高まるのでしょうし、そうしたい気持ちを常にもっているようです。しかし、だからといって入りすぎると現場が成長の機会を失います。長期的な組織力の向上や企業としての成長は、『現場のちから』にかかっていますから、その点で現場に任せたいと考えているようです。もちろん経営の数字は追っていますから、うまくいっていなかったりすると、手を差し伸べたくなる気持ちもあるのだと思いますが、基本的には任せるし我慢もする。辛抱強さも経営には必要なんだと、近くにいて勉強になります。

    ────そうやって、ボトムアップの風土が根付いていらっしゃるのですね。

    そうですね。こういった良き風土の中で若手は自由に才覚を発揮し成長しますから、今後も大切にしていきたいと考えています。将来モバイルファクトリーから数々の有能な経営者が排出されるような、そんな『人材輩出企業』を目指したいと考えています。

    創業期を経て、拡大期へ。
    組織の足場固めが次の課題。

    ここ数年は対前年比200%の急激な伸びで成長してきました。何かアクションすればそれが成果につながる、利益を生み出す。これは楽しくて仕方がないですよね。こういう時期でしたので、会社としてモチベーションをコントロールする施策はいらなかった。創業期の成長ベンチャー、昨今だと人材やIT関連企業ベンチャーに多く見られる現象です。

    しかしこういった時期に、人事として次の一手を打っておかなければならないんです。人間も体が大きくなればいろんな悩みや病気が増えてくるのと同様に、会社も規模が大きくなれば社長との距離も離れてきますし、セクショナリズムも起きてくる。いろんな問題が起きてくるんです。『人事の仕事は処方ではなく、予防すること』。私は次の『事業拡大フェーズ』を想定し、成長に頼らないモチベーションコントロールができる制度作りをミッションに掲げ、『予防策』に務めています。

    また、当社は中途入社者の比率が約75%を占めています。意欲の高い即戦力の人材が力を発揮してくれている現状は、創業期の成長フェーズとしては適していたと思います。しかし今後の組織急拡大を想定したときに、社員の会社に対するコミット力が規模を支える力となってきますので、そういった意味でコミット力の強い新卒採用を強化することだったり、中途入社者をはじめとするマネジメント力の強化が不可欠となってくるわけです。

    このように、今後は人事として教育制度や採用戦略、給与制度や評価制度など、制度・戦略の力も借りながら組織運用をしていくことが大事。組織の拡大期に備えてこうした足場固めをすることが、今一番の課題です。

    ────具体的には、どのような取り組みをしておられるのですか。

    入社してまず行ったのは、社内の共通言語になる「スローガン」を設定することでした。モバイルファクトリーという会社がどこを目指しているのか、従業員の皆が何を目指しているのか、その重なる部分は何なのか。強い会社には、語られる社内言語が複数存在しています。まずは経営陣の思いの詰まった言語を引き出し、共有化を図ろうと考えたのです。

    そこで、経営層とミーティングを重ね、『"Dream"Mobile Factory』というスローガンを作りました。宮嶌は常に、社員それぞれの夢を実現させることのできる会社でありたい、という思いを強く持ち社員に発信しています。そんな宮嶌の思いがこのスローガンとなって表現されています。『"Dream"Mobile Factory』。この言葉は現在採用ページや会社概要、社内にもいたるところに張っています。

    また、私が入社した翌月から360度評価が試験導入されたのですが、その項目の見直しも検討中です。評価項目は経営からのメッセージですから、他社からの借り物ではなく、モバイルファクトリー流である必要があるんです。この4月からは考課体系の大幅な変更にも着手し、今期試験導入を行っています。また同時に職能資格制度も導入し、働き方や求められる役割、給与テーブルの整備などを行っています。この規模からこういった制度運用を徐々に始めておくことがポイントだと思っています。その他、この半期で導入した施策は多数ありますが、いずれも長期的に経過を追っていかなくてはならないものが多いため、辛抱強く制度運用を行い、基盤作りに務めています。

    一方、成果としては一番形になっているものが、採用です。新卒採用を成功させることが、私の最初のミッションでした。先ほど、中途入社者の比率が高いという話をしましたが、即戦力として実力を存分に発揮している中途入社者に加えて、組織拡大の強烈な下支えになってくるのは会社に対するコミット力の強い新入社員の存在。新卒を育てることによって会社独自の文化を生み出すことが、強い組織づくりには必要なんです。

    組織の足場固めの第一は、新卒採用の強化。

    新卒採用での課題は、優秀な学生を採用すること。過去の採用経験で得た知恵を振り絞って提案、企画をしてきました。まずは、学生の母数を増やすこと。媒体の選定やデザイン、メッセージの推敲などのすべてにおいて、会社の視点ではなく学生の視点になって、企業のどのような点を学生にアピールすることが重要なのかを議論し企画しました。

    結果として予想をはるかに超える約7000名からエントリーがあり、1350名と接触、その中から優秀な10名を採用することができました。昨年は655名のエントリーで約208名と接触、10名の採用ですから、エントリーで1000%超、接触600%超、採用倍率は135倍という高倍率の中での採用という、未上場ベンチャー企業では異例の結果です。優秀な採用スタッフにも恵まれ、とても良い経験をさせていただきましたね。

    ────学生にはどのような点をアピールされたのですか。

    まず、学生と会社が最初に触合う媒体では、温度感のあるヒューマンタッチなデザインやウエットなキャッチを心がけ、学生との距離感を縮めることに集中しました。就職活動中の学生にとって、社会人というのは、小学生のときの中学生、中学生のときの高校生を見る目と似ていて、買いかぶり目線があります。それは憧れの存在であったりもしますが、一方で何もしなくても威圧的に感じられたりもするんです。そうなると、社会人と学生との間には社会人からは見えにくい『距離』が生まれていることになる。まずその距離を埋めることに意識を向けました。逆に、会社の技術力や業績は、興味をもってくれた後に知りたくなる内容ですから、ファーストタッチではあまり強調しすぎないようにしました。

    また、学生は社員のありのままを見たいという思いが強いですから、それに応える姿勢に魅力を感じてくれることが多いんです。ですから、例えば採用担当者のブログで、社員の誕生日会や季節ごとのイベントといったリアルな社内情報をアウトプットすることも、人事採用担当者が意識的に行っている重要なアピール方法です。当社は、風土や雰囲気をそのままウリにできる会社ですから、バイアスをかけないように、ありのままの社内の風景を意識して出していきました。採用マンの教育にも力を入れましたね。

    ────どんな風に教育されたのですか。

    採用マンは、会社の顔であり、会社と学生をつなぐコーディネーター。人と人との価値観をぶつけ合い、人を追及していく奥深い仕事なんです。スキルや知識、仕組みだけで上手くいく仕事ではないですし、適正試験などのツールだけでは偏った側面しか評価できない。だから泥臭く、体で覚えていくことが必要なんです。その意味で採用は、専門性の高い、職人的な仕事なんじゃないかと思います。

    自社採用未経験者の採用プロジェクトチームでしたから、採用経験者である私自身のもつノウハウを伝え、分身を早く多く作ることが、会社の採用力につながる。ですから、学生と面談した後は、採用マンとすり合わせの時間をできる限りつくることを心がけました。説明会後の時間、個別面談後の時間。学生を言語化し、人間分析をする。「なぜここがよいと思うのか」「何を根拠にこの評価が出てくるのか」など、納得するまで何度も議論しました。

    教育する中で、採用マンに伝えていたのは、「ジャッジは主観ではなく、客観的であること」。といっても採用マンも人間ですから、いきなり客観的、分析的に人を見ることはできません。しかし目線にバイアスがかかってしまうと、せっかくのいい人材を逃すことにもなりかねない。採用を行う上では、自分の主観だけでなく、「学生にとって」「会社にとって」、この両方の視点からマッチングをはかれる力が必要なんです。この感覚を身につけられるようになるまでは、採用マンと一緒に面談に入って、一人ひとりフィードバックの機会をもうけ、すり合わせの時間を多くとりながら採用チーム全体の目線をそろえていくようにしました。

    もうひとつ、伝えたのは「ヒアリングの重要さ」です。学生と接している時間の半分以上はヒアリングに費やさなくてはいけないんです。とにかく徹底的に聞いて、学生の価値観やものの見方、考え方を引き出す。これができなければ、学生の琴線が分からないわけですから、会社にマッチする学生なのかどうかすら分かりませんし、こちらがいくら会社のアピールをしても響きません。採用担当者が学生を理解しようとする、そのプロセスで学生は会社に惹かれるんです。いかに学生を理解してあげるかがポイント。これは、営業の基本でもありますよね。

    組織の足場固めの第二は、マネジメント力の向上。

    ────社内全体の人材育成で、今後注力されたいのはどのような点ですか。

    『マネジメント力』です。今は、平均年齢が26歳代の若い組織ということもあり、個々の成長意欲は非常に高いのですが、それが『チームや会社全体の成果』よりも『個人の成果』に向けられがちなように感じています。組織である以上は『1+1=2』ではなくて『2の2乗』になるシナジーを生み出すことが大事。それを伝えるためには、経営層の分身であるマネジメント層が、個の成果に執着しない全体視点を持つことが必要なんです。

    ですから、まずはマネジャーとプレイヤーでは役割が違うということを再認識して、メンバー間のシナジーを意識的に作り出せる人材教育をしていきたいと考えています。特に新卒入社者は最初にどんな先輩や上司の下で仕事をするかが後の社会人人生に大きく影響しますので、マネジメント層の育成は急務です。また、マネジメント層は経営者の分身である必要がありますので、マネジャー同士のより強固な一体感も作りたいと考えています。

    ────具体的に、何か計画されていることはあるのですか。

    一つ、『ライフライン』というプログラムをご紹介します。自分の人生観や夢をお互いに語り合う場を通して参加者同志のグリップ感を強くする研修です。例えば、お互いの人生の浮き沈みみたいなものを共有して、「幼少期にこんなことがあって、私のモチベーションの源泉はここにある」「将来こんなことを実現したい」というような内容を真剣に語る研修です。これをアレンジしたものを今年の新入社員研修で実施したのですが、同期の一体感を作る上で非常に高い効果を得ることができました。年次や年齢に関係なく効果を発揮できる内容ですから、マネジメント層にも実施していくことを検討中です。みんなで会社のビジョンや夢を語る機会をもっと多くし、一緒に方向性を握ったうえで前進していくことが、より高い成果につながると信じています。

    ────お互いが分かり合っているつもりでいて、よく話してみると実は分かっていなかったということは、よくありますね。

    分かった「つもり」になっていることって多いですよね。信頼し任せることは大事ですが、任せているつもりで実は放置しているだけのマネージャーは意外と多いのではないでしょうか。気づくと上司部下のコミュニケーションが少なくなって、そこから小さな溝ができてしまう。『分かり合っているつもり』のズレが積もると、時に大きなミスを生み出し、会社が大きく傾いてしまうなんてこともある。傾いてしまってから処方箋を打っても手遅れ、もしくはものすごい労力がかかる。そうならないように予防することが大切なんです。そのためにはマネジメントがいかに大切かということを、経営陣も巻き込んで徹底していくことが、これからの課題だと思っています。

    ────上場して会社が公のものになることで、組織が持っていた弱さが露呈する企業もあります。上場前にしっかりと組織固めをしておくことは非常に重要ですね。

    そうですね。それはとても意識していますね。

    改革の火を灯し続ける強い意志が、組織を変える。

    ────人事が手掛ける改革に対して、社員の方々が敏感に反応される企業も多くあります。

    「どんな仕組みを導入しても運用する人の気持ちがついていかない限りは失敗する」とよく言われますが、それをすごく実感しますね。制度や仕組みがなくても、みんなの気持ちさえ一つにできれば会社はいくらでもうまく回るんです。けれども、組織が急速に拡大するフェーズでは、やはり制度の力を借りる必要が出てくる。敏感に反応する社員はどんな会社でもいますし、当社も例外ではありません。しかし粘り強く信念をもって言い続けることで、組織は変わっていくんです。

    改革の成功失敗は、形式だけではなく、従業員一人ひとりの心が握っています。ひたすら人事の理想論を熱く語っている私のような姿を見せ続けることも大事ですし、ビジョンを語りつづける役員や、会社に対する熱い思いを発信しつづける若手社員の姿も大事。こうしたことを続けていく中で、一人ひとりの心がひとつになったとき、蒔いた種が芽を出しきれいな花を咲かせるんです。

    ────仮にコンサルタントや教育会社など外部の力を借りたとしても、結局は、改革の火種をどんなときにも消さない方が社内にいないと、何をしても効果は上がりませんね。

    そうなんです。火を灯し続ける強い意志を持った人の存在は、本当に大切です。何かをやりきるということにおいて、特殊な能力っていらないと思うんですね。『思いの強さ』があれば実現できると信じています。人事の仕事は黒子ですが、仕掛け人として、まずは人事が自ら燃えなければなりません。社長に対しても火を消さないように押し上げていく努力だったり、社員に対しても諦めずにいろんなところで常に種をまいていくことだったり。その思いがじわりじわりと周囲へ伝播していく。そこから効果が生まれてくるんだと思います。何年か経って、「会社が変わったな」と、黒子としてほくそ笑めれば幸せですね(笑)。

    ────『人事は黒子』というのは、本当にそうですね。

    人事総務部のメンバーにもよく『人事は黒子だよ』と言っています。表に出る部隊ではありませんから。裏でコツコツと準備をして、会社が前に進むために何通りもの手法を考えるのが仕事ですし、その種を蒔くまでが私達の仕事。芽を出すのは社員の力なんです。経営陣は「組織をすぐに変えたい」と言いますがが、変化に対し従業員は軋轢を感じるもの。この板ばさみの中で改革を起こすのが、人事の仕事です。しかし改革は成果が出るまで時間がかかりますから、結局僕達のアクションって、同じ人事以外からは中々評価されないんですよね。そういうストイックなところにジレンマを感じず、逆に楽しめる心が黒子として求められるのかもしれませんね。

    人の心は変えにくいものですし、それが集団化して文化になると、その文化を変えることはさらに難易度が高い。正論を言ったところで、周囲が納得し、変化するには1年以上はかかります。時間をかけなくてはいけないこともあるんです。ですから、社内で改革をプレゼンしたときは、「3年計画でやりますよ」と。「3年で文化を変えていく」ということを、全社に向けてプレゼンテーションしました。

    ────あともう1年改革を続ければ成果が上がるのに、待てなくてやめてしまう企業も多いですね。

    それは、夢の大きさがそこまでだったのだろうなと思いますね。本気なら、決して逃げないはずですから。人事は、きれいごとではないと思うんです。ドロドロになって、言い続けて、やり続けて、ぶつかり続けて。突破するまでやるということが、結局は大事であって。私自身、強い人間ではありませんし、迷いはあります。軋轢が生まれると「どうしよう」と思ってしまうこともありますし、尊敬する経営者や先輩人事の方々からすれば「絶対に正しい」と主張できるほどの経験もありませんから、一度やると決めた以上は、白黒ちゃんと結果が出るまでは貫こうと思っています。泥臭いです、とても。でも、そういう毎日が刺激的で楽しいんですよね。

    ────ありがとうございました。

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