OBT 人財マガジン

2006.11.29 : VOL12 UPDATED

この人に聞く

  • 株式会社ウエスタンコーポレーション
    営業本部 人材開発グループCSチーム
    マネージャー 鈴木 幸子さん

    現場の主体性無くして、企業風土改革は実現しない(後編)

    夢を抱いて入社した若手社員の顔から、年次を重ねるごとに笑顔が消えていく。この現状に対する問題意識から端を発した同社の風土改革。真っ先に取り組んだのが、アルバイトを含む全従業員を対象に実施した、会社や上司に対するアンケート調査だ。専務(当時)によると、「我々が想定する以上の不満や納得がいかないという意見」が出てきたという。そして組織が沈滞した原因の根幹はトップダウンの風土にあった。現場の主体性を取り戻すべく、公募で募った社員によって構造改革プロジェクトを敢行。その後、事務局の尽力もあって社員の意識に徐々に改革の火が灯っていく。成功した要因として専務はこう語っている。「まずは向かうべき先があるか、それを社員に示せているかということ・・・そして、それに向かうための高い意識が社員にあるか」。風土改革は現場の士気なくして実現成し得ない、という思いをどれだけ社員に示せるかにかかっている。
    ウエスタンコーポレーションの西野晃透専務のインタビューに続き、人材開発グループの鈴木幸子マネジャーにお話を伺いました。(※役職は当時)

  • 株式会社ウエスタンコーポレーションhttp://www.western777.co.jp/

    1971年設立。東京都と千葉県を中心に、『パチンコWESTERN』を展開。「顧客満足・社員満足・社会満足(貢献)」を理念に、「誰もが安心して楽しめるレジャーとしてのパチンコ」というテーマを掲げる。会員制を導入し、会員数は6万人強と成長中。地域に貢献できる店づくりに取り組む、業界では異色の企業。

    SACHIKO SUZUKI

    1961年生まれ。93年株式会社ウエスタンコーポレーション入社 97年にCSトレーナー就任、2003年人材開発グループへの就任を経て現職

  • 人事が本気にならなければ、
    現場を巻き込んだ風土改革はできない。

    ────風土改革に先立って、アルバイトも含めた全社員にアンケートを実施されたと伺いました。どのようなアンケートを実施されたのか、まずはそこからお聞かせいただけますか。

    設問としては250問のアンケートを実施しました。組織のことだけではなく、仕事や上司について思っていることや、改革に対する意識を聞く選択形式の設問を用意し、最後に1枚、会社や直属の上司について気づいたことを書いてくださいという記述式の設問をつけたんです。

    ────アンケートはどのように設計されたのですか。

    現場の社員を各階層から抜粋して事前にインタビューを行い、それをもとに項目を作りました。インタビューやアンケートの作成は、当社をよく知る外部の研修トレーナーの方に依頼したんですが、昨年の5月に事前インタビューを行い、議論を重ねてアンケートが完成したのが7月の後半。準備にかかったのは実質3カ月でしたが、実はアンケートの計画は一昨年の年末から動かし始めていたんです。

    計画を最初に専務の西野に相談したのは、一昨年の忘年会。改まるより、お酒の席がいいかと思いまして(笑)。社員の意識を調査するアンケートを考えていますと相談しましたら、専務が「そういうことなら僕も動きましょう」と言ってくれました。私は日ごろから店舗回りをしていますし、社内研修のトレーナーも務めていますので、「現場のことは分かっているだろう」と。経営側としても現場の情報は求めているし、本音で取り組みましょうということになりました。

    ────そもそも、なぜアンケートを提案されたのですか。

    私は、毎年、新入社員教育に携わっていまして、彼ら彼女らが描く思いを肌で感じているのですが、そういう人たちのモチベーションが年々下がっていく。中には辞めていく人もいます。それに対して、何かしたいと思ったんです。それが、ウエスタンコーポレーションで、仲間に支えられてやってきた私にできることだと思ったんですね。

    あるマネジャーに「トレーナーは、この風土改革でどうなったら満足なんですか」と、聞かれたこともありました。それに対しては、「一人でも多くの笑顔が見られたら、それが私の満足ですね」と話しました。それが2年後、3年後でもいいんです。あのときにやってよかったねという声が聞けたら、それで十分ですね。

    教育プロジェクトも立ち上げていましたが、教育はあくまでも枝葉。根の部分の問題に取り組まないと、どんなに教育にお金をかけても果実は実りません。専務からは、年が明けたら改めてお話しましょうということになりまして、その後、上層部にも提案するという流れで進んでいきました。

    ────上層部のご意見はいかがでしたか。

    さまざまな懸念を持たれていたようです。労組的な動きではないのかと聞かれたこともありました。

    ────経営陣と社員との対立構造が生まれるのではないかというご心配ですね。

    そうです。確かに、その危険ははらんでいたと思います。私の直属の上司もその面で心配しまして、電話で夜中に何時間も話したこともありました。けれども、私は言ったんです。「そうではないです」、と。「これは会社のためにやらなくてはいけないことであって、社員の甘えを増長させるものではない。会社に何かを要求すれば、それだけ自分たちにも責任がついてくるわけですから、お互いにそこを覚悟しなければこの先は生き残れません」と。

    社員アンケートを実施する前に、
    全店を訪れて、思いを現場に訴えた。

    ────そして実施された社員アンケートは回答率も高く、予想を超える本音が寄せられたと伺いました。

    はい。しかし当初は、本音をどこまで引き出せるのかという不安がありましたので、各店で社員さんを集めていただいて、事前に私から自分の思いを伝えました。「会社を変えたい、大きな岩は一人では転がせないから、力を貸して欲しい」と。そのことで思いの分かる仲間が増えて、本音を答えてくれるに至ったのかなと思っています。

    ────お店は営業がありますから、集まっていただくのは難しかったのではないですか。

    アンケートの趣旨をみなさんにきちっと伝えたいと、事前にマネジャー(店長)に話してありましたので、シフトで休日にあたっていたスタッフも出てきてくれました。欠席者がいた場合は、本人の携帯電話に連絡して日時を再設定して、再度出向きました。

    ────合計では、何回くらい足を運ばれたのですか。

    店舗によっては、早番と遅番に分かれて二度足を運んだところもありますので、10店舗に対して、合計20回くらいでしょうか。

    ────お店を回って直接説明するというのはご自身の判断ですか。

    そうですね。どういう風に進めたら、一番スムーズに実施できるかを考えたんです。アンケート結果が出なければ、その後の改革もできません。マネジャー会議で「アンケート結果をもとに風土改革を実施したい」と伝えても、なかなか思いを共感できない。それなら、自分で各店を回って、直接説明しようと思ったんです。

    風土改革というと、みんな難しく捉えるんですね。「また会社が何かやろうとしている」と。「アンケートを取ったって、何も変わらない」という人もいました。でも実際に、みんなのモチベーションが下がっていたり、会社が人を育てないという不満があった。その一方で、上からは「教育しても何も身につかない」と見られていたり。それって、何なんだろうねと問いかけました。みんな、スキルも能力もあると私は思う。環境がそうさせているのではないのかと。だから、「会社に対して思っていることを伝えることは大事だよね」という話をさせていただきました。私は人事だけれども、部外者ではない。「みんなと一緒だよ」という気持ちで、まずは自分が感じていることを話そうと試みました。

    ─────その場の雰囲気は、どのようなものでしたか。

    最初は、みんな口を閉ざしていましたね。「何を言い出すんだろう」という様子で。会社を変えるなんてできるんだろうかと、問題の大きさに、構えていたような気がします。

    ─────そして全店舗に約20回通われて、説明を終えての手ごたえはいかがでしたか。

    「意識が変わった」と感じた社員は、全体の7割ほどでしょうか。残りの3割は、まだ構えていましたね。アンケートは無記名だと説明していたのですが、回収確認する為に用紙に連番を振ることにしていたんですね。そうすると、「それでは誰が書いたか分かるのではないか」という質問の電話がきて、理解してもらうのに時間がかかった人もいました。

    ─────みなさんは何を恐れていたのでしょうか。

    今までの学習効果なのだと思います。上司の好き嫌いで人事が決まる、それが評価にも結びついてしまうといったことを、とても懸念されていたんです。もちろん、そういう事実はないんですよ。人事異動や人事考課について今まで説明不足だったことが、誤解を招いていました。

    社員アンケート実施後にぶつかった壁。
    どうすれば、社員の本気に火がつくのか。

    ─────アンケート結果が出た後は、どのようにされたのですか。

    筆跡が分からないように外部の機関で転記したものを、全店に回覧しました。そして、全店に足を運んで、結果のフィードバックもしました。結果も、直接説明しないと伝わらないと思ったんです。そこで、専務が委員長となって『構造改革推進委員会』を立ち上げたことや、福利厚生などの問題の討議を始めていること、大きな問題に対して今後どうするかを議論しているところですと、会社の動きも伝えました。

    けれども、委員会で議論している間の動きは、現場にはなかなか伝わりません。そのことで、「また上が何かやっているだけだ」とならないように、マネジャーの有志と集まって会社の今後を話し合ったりもしました。改革にはこの層が重要なんです。本部と現場の間に入っているのがマネジャーですから。

    その議論の中で、営業の上層部も交えて集まろうという話が出まして、昨年の11月頃だったでしょうか、営業の上層部とマネジャーたちを集めて、「何でも言おう会」という会を開いたんです。8月にアンケートを取ってから3カ月後のことです。

    ─────そこでは、どんなご意見が出たのですか。

    お互いに本部と現場に対する意見を出し合って、では何が問題なのかのところにいくと、解決策が出てこない。結局、「本部はもっと現場に情報を開示してください」といったことで終わってしまって。これでは何も変わらないと思いましたね。問題点を羅列してもそれが何か表面的で、最終的には自責で捉えておしまいになってしまったんです。「これは自分たちの問題だよね」と、みんなそこに置き換えてしまうんですね。

    ─────自己責任が強くて、良い事に思えますが。

    そう思いますよね。でも、違いますよ。「自責で捉える」と言葉で言ったって、自責でなんて捉えられるわけがなくて、個人のせいにしない仕組みにしない限り問題はなくならないんです。マネジャーの有志の集まりでは本音が出るんですよ。でも、営業の上層部も交えたテーブルにつくと、そうでなくなってしまう。どうして誰も言わないのかと、もどかしかったですね。

    ─────本音が出なかったのは、マネジャーの方々の危機感が薄かったのか、立場を守りたいというお気持ちだったのか。どちらだったのでしょうか。

    守りたいという気持ちだったと思います。最近でこそ、風土改革を経てマネジャー会議もかなり活発になりましたが、それまでのマネジャー会議はただの報告会。「何か言えば否定されるだろう」というあきらめ感が、ものすごく強かったんですね。

    ─────アンケートに答えることで、みなさんの問題意識は喚起されなかったのでしょうか。

    風土を変えるのは無理だろうという意識が、まだ強く残っていたと思います。十数年の積み重ねは、手ごわいなと思いましたね。アンケートの記述の中にも、「これを機会に会社が変わってくれることを望みます」といったものが目立ちました。変わってくれることを望むのではなくて、一緒に変えていこうという流れには、なかなかならないんですね。

    そういえば、何でも言おう会の後に、面白いことをやりました。上層部とマネジャー、その下のチーフ職に、改めてアンケートを取ったんです。「3年後の自分はどうなっていたいですか」「風土改革をしなければ、3年後はどうなっていると思いますか」と。何でも言おう会の翌月、昨年の12月のことですね。構造改革推進委員会の議論が見えず、また上が何かやっているだけというあきらめ感が広がっていたので、風土改革の必要性をもう一度認識して欲しかったんです。5年後や10年後では先のことすぎるだろうし、1年後ではたいした目標が持てない。3年後だからこそ、自分から動かないと達成できないという目標が持てるはず。その趣旨もお伝えして、書いてもらいました。

    ─────みなさん、答えてくださいましたか。

    はい、答えてくれました(笑)。「今の自分は惰性でやっている」といった、意見も多かったです。マネジャーやチーフがそうだったら、「部下にはどう写るのか」ということですよね。

    ─────この第二弾のアンケートで、みなさんの心に火をつけようと思われたんですね。

    そうです。そして、火はつきました。その後、構造改革プロジェクトを公募したときに手を挙げたメンバーは、とても多くいましたから。

    ─────西野専務からは、10店舗中7店舗で手が上がらなかったお聞きしています。

    プロジェクトの参加資格は、監督職(チーフ・サブチーフ)以上という規定がありまして、店でいえばナンバー2、3以上の方。遠慮があった方も多かったのですが、最初の公募の後に店に足を運んで趣旨を再度説明したところ、全体で25名、手が上がりましたね。実は、その下の一般職の中にも、自分も参加したいという勢いのある方が多かったんです。

    有志を公募してプロジェクトを結成。
    時間をかけて、改革意識を高めていった。

    ─────そのようにして公募で結成されたプロジェクトは、活発に活動が進んだのですか。

    いいえ。最初の4、5回目くらいまでは、なかなか軌道に乗りませんでした。二歩進んだら三歩下がって(笑)。

    明らかに態度に出るんですね。公募したと言っても、否定的な方はいるんです。アンケートを作っていただいた社外機関のトレーナーにプロジェクト進行もお手伝いいただきましたから、メンバーにしてみれば「これは研修なのか」と。そんな受け止め方では、何のために手を上げたのか分かりませんよね。プロジェクトでも、今出ている問題を解決すればいいんだろうと。本質は会社を今後どうしていくかにあるんですが、そこに議論が行かない。プロジェクトメンバーには本部スタッフも入っているのですが、私に聞こえるように、「あんなのはレールに敷かれた研修であって、プロジェクトでも何でもない」と言われたこともありました。

    こんなことで何ができるのだろうと思いましたし、この先どうなるのかも見えなくなって、私は、ただ焦るだけでした。

    ─────どのように方向修正されたのですか。

    それはもう、とことん話しましたね。その本部スタッフとも話しました。そうしていく中で、メンバーの姿勢が変わってきたように思います。「自分たちが動かなければ変わらない」ということを本当に理解するためには、人ってこんなに時間もパワーもかかるんだということを実感した経験でした。

    プロジェクトと現場をつなげる仕掛けにも、
    時間と手間をかける。

    ─────構造改革プロジェクトで何が行われているかは、一般社員の方々にも伝わっていたのですか。

    監督職(チーフ・サブチーフ)以下ですと、状況が見えないし話も伝わってこないという状況はありました。プロジェクトメンバーには、議事録は全員に見せてくださいと伝えてあったんですが、なかなか徹底されなくて。プロジェクトが始まって3、4回目くらいまでは、店舗に話が伝わっていないということが多くありました。

    私は日ごろ店舗を回っていますので、そのときに一般職にヒアリングするんです。「改革プロジェクトのことはどんな風に聞いてる?」と。聞かされていない店舗は、プロジェクトメンバーに対して「あなたの役割は何か」と、とことん言いました。プロジェクトメンバーがうまく伝えられない場合は、私が店舗ミーティングに参加して、「いまプロジェクトではこうなっていますよ」という説明をしました。

    ─────プロジェクトは作って終わりではなく、その後も積極的に関わることが大切なんですね。

    そうですね。そして、プロジェクトだけでは手が回らない問題もあるだろうと考えて、各店のナンバー2のチーフ層だけを集めまして『チーフミーティング』という名のもとに、月1回のミーティングも開催しています。

    ─────これも、今まではなかったものなのですか。

    ありませんでした。構造改革プロジェクトの情報をもとに、チーフとしてどう考えるのかということを仕掛けたかったんです。立ち上げにあたっては、全店に足を運んでマネジャーに趣旨を説明し、チーフたちにもこういう場がいるという必要性を理解してもらいました。けれど最初の2、3回は、出てくるチーフもいたり、出てこないチーフもいたり。さまざまでしたね。

    ─────ミーティングの雰囲気は、どのようなものでしたか。

    何をやるのかなという構えがありましたし、誰からも意見が出ませんでした。でも店舗の中でチーフというのは、アルバイトを含めたスタッフの中心人物なんです。マネジャーが売上げの責任者を負う一方で、人の中心はチーフ。ならばアルバイト雇用やCS(顧客満足)の問題など議論することはいろいろあるはず。自分たちが中心だという意識を持ってもらうことからのスタートでした。

    そうすると、他の士気の高いチーフたちも働きかけてくれるんです。出てこないチーフにも、何しろ一回出席して欲しい、チーフミーティングのあり方を話すからと。今は、自分たちで次の日程を決めて集まって、新人の教育マニュアルを自分たちで作り変えるという議論をするところにまでなってきました。

    ─────チーフミーティングの雰囲気が変わってきたと思われたのは、どれくらい経ってからですか。

    4、5回が経った頃でしょうか。チーフたちの中に、これではいけないという意識が芽生えてきたようで、私がやれと言ったからやるのではなくて、チーフミーティングが本当に必要なのかどうかを、自分たちで議論しようという流れになった頃から変わってきたと思います。

    ─────社員の方々に自発的になっていただくためのポイントは、どのようなことなのでしょうか。

    自分たちが問題だと思うことに取り組んでもらうことですね。教育マニュアルも、みんなの意識が高まってきた頃に、私から聞いたんです。「マニュアルって必要かな? 内容が古いから、私自身も新入社員研修で使ってないんだけど、現場ではどうなんだろう?」と。「なるほど、使ってないですね」という声が聞こえたとたんに、「じゃあ、いらないか」という話になる。すると、「でも、必要だ」という人もいて、そこから自分たちで動き出す。マネジャー会議では、教育マニュアルの改訂は人材開発グループがやるべきではないのかと言われたんですが、そうではないと思うんです。自分たちで使うものは自分たちの手で作らなければ、結局は使われなくなってしまう。現場が主になって、新人に何を教えたいかということを自分たちの手で作ることが大事だと思うんです。

    社員一人ひとりに、思いをどれだけ伝えられるか。

    ─────一連の取り組みを経てこられて、現場の雰囲気の変化はいかがですか。

    変わってきたと感じます。特に変わったのが、マネジャー会議。今までは「報告会」だったのが、「議論」がなされるようになりました。これは、先日のマネジャー会議を見た専務も、「議論の内容の良し悪しは別にして、マネジャーたちの思いをどう受け止めるかを考えましょう」と話していました。

    『構造改革プロジェクト』を受けて立ち上がった『人事制度改定プロジェクト』の効果も出ています。先日、上司から一般社員に人事考課のフィードバックがあったんですが、社員の満足度はものすごく高かったです。

    ─────振り返ってみて、現場を巻き込むために一番大切なことは、何だと思われますか。

    現場と考えるというよりも、一人ひとり、ですね。一人ひとりに自分の思いがどれだけ伝わるか。足を運んで思いを伝えることの大切さを感じます。人間なので、やはり、人対人。書面を流しても、それでは伝わらないんです。立場や役割を超えて、同じウエスタンコーポレーションの一員なのだという姿勢で、伝えていくということだと思います。

    ─────正直なところ、プロジェクトの途中で、嫌になったことはありませんでしたか。

    ありましたよ。そうすると、これがまたありがたいことに、マネジャーやチーフに、「トレーナー、あきらめかけていませんか」と、指摘されてしまうんです。伝わるんですね。「トレーナーの最初の思いは何でしたか」と言われて、これではいけないなあと思いましたね。「一人ひとりの存在価値を認めてもらいたかったんだ」と、初心に戻れましたから。

    ─────いつ頃が、スランプの時期だったんですか。

    一番ピークだったのが、1月にプロジェクトを立ち上げて、8月にプレゼンテーションするまでの中間、5月、6月頃でしょうか。議論が何とも進まないし、不平や不満しか聞こえてこない。「プロジェクトメンバーを変えたほうがいい」といった批判が、社内から聞こえたこともありました。でも、みんなの会社じゃないですか。だから、私はこう言ったんです。「この風土を作ったのは、間違いなく全員が当事者。でも、みんな評論家ですよね。当事者として何か働きかけはしてくれたんでしょうか」と。そうしたら、みなさん黙っちゃいましたけど(笑)。

    ─────言葉が悪いようですが、なぜそこまで腹がくくれるのですか。

    腹はくくりましたね。そのことは、専務にも伝えました。「私がウエスタンコーポレーションで10数年仕事をさせていただいた、最後の大仕事だと思っています」と。

    ─────人事が本気にならなければ、社員も本気にならないということを実感します。

    そうですね。本気が伝われば、動いてくれますね。でも、こう言われたこともありました。「トレーナーは女性だから腹がくくれる。自分たちは家庭がある」と。それも真実だと思います。

    ここまでを振り返って本当に感謝しているのは、会社がこの機会を与えてくれたことなんです。専務は、毎月のマネジャー会議の冒頭で必ず風土改革について触れてくれています。そうした支えが、ものすごく心強かったと感じています。

    ─────ありがとうございました。

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