OBT 人財マガジン
2006.11.15 : VOL11 UPDATED
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株式会社ウエスタンコーポレーション
専務取締役 西野 晃透さん
現場の主体性無くして、企業風土改革は実現しない(前編)
夢を抱いて入社した若手社員の顔から、年次を重ねるごとに笑顔が消えていく。この現状に対する問題意識から端を発した同社の風土改革。真っ先に取り組んだのが、アルバイトを含む全従業員を対象に実施した、会社や上司に対するアンケート調査だ。専務(当時)によると、「我々が想定する以上の不満や納得がいかないという意見」が出てきたという。そして組織が沈滞した原因の根幹はトップダウンの風土にあった。現場の主体性を取り戻すべく、公募で募った社員によって構造改革プロジェクトを敢行。その後、事務局の尽力もあって社員の意識に徐々に改革の火が灯っていく。成功した要因として専務はこう語っている。「まずは向かうべき先があるか、それを社員に示せているかということ・・・そして、それに向かうための高い意識が社員にあるか」。風土改革は現場の士気なくして実現成し得ない、という思いをどれだけ社員に示せるかにかかっている。(※役職は当時)
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株式会社ウエスタンコーポレーション (http://www.western777.co.jp/)
1971年設立。東京都と千葉県を中心に、『パチンコWESTERN』を展開。「顧客満足・社員満足・社会満足(貢献)」を理念に、「誰もが安心して楽しめるレジャーとしてのパチンコ」というテーマを掲げる。会員制を導入し、会員数は6万人強と成長中。地域に貢献できる店づくりに取り組む、業界では異色の企業。
TERUYUKI NISHINO
1963年生まれ。87年、株式会社ウエスタンレーン(現・ウエスタンコーポレーション)に入社、常務取締役に就任。05年12月、専務取締役に就任し、現在に至る。
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組織の健康診断で明らかになった現場の本音。
────昨年から風土改革のプロジェクトを進めていらっしゃると伺っています。改革に取り組むきっかけは、どのようなことだったのでしょうか。
当社は、顧客満足、社会満足(社会貢献)、社員満足と3つを企業理念に掲げています。顧客満足と社会貢献についてはさまざまな取り組みをしていまして、結果として、厳しい市場環境の中でも売上げ目標や利益目標の達成を続けているのですが、3つの理念の一番大きな軸である社員の満足はどうなのか。目標達成のために、社員に負担がかかっているのではないかという懸念から、社員満足を検証しようと考えたことが発端です。
具体的には、まず、会社や上司に対する意見を聞くアンケート調査を実施しました。2005年の8月のことです。ある外部機関に調査を依頼し、オリジナルに作成した設問はざっと250問。アルバイトも含めた全スタッフに答えてもらいました。こういうことは業績が悪いときにやってもモチベーションを下げるだけ。業績が良いとはいえないまでも、目標を達成できているときに会社の健康診断をして、売り上げや収益という見かけの数値ではなく、組織の中身がどうなっているのかを見てみようと考えたのです。
社員に伝えたのは、本音で答えて欲しいということ。上司に気を使った意見では実態は見えないし、検証が中途半端になります。だから、本音を言って欲しい、アンケートに書いたことについては、何も咎めないよと(笑)。
そうしたら、出てきましたね。ある程度は予想していましたが、我々が想定する以上の不満や、納得がいかないという意見が出てきました。個々には、自分を棚に上げた不満もあるわけなんですが、それはそれとして、まずは我々もそれらを受け入れていこうと。生の声が聞けたことはありがたかったんですが、多少、ショックな部分もありましたね(笑)。
────具体的には、どんな意見があったのですか。
多かったのは、給料水準に関するものですね。これは、恐らくどの企業にもあるのではないでしょうか。評価が適正になされているのかというものもありました。これも、当然あるだろうなと。ただ、想定外だったのは、内容ではなくその数の多さ(笑)。圧倒的な数に非常にショックを受けて、かなり深刻な問題だと実感しました。
もう一つショックだったのが、若手の不満です。当社は、新卒採用を始めて10年近くになります。会社説明会では、『社員の提案を汲んで、いい意見は経営に反映する会社だ』と伝え、そのことにやりがいを感じて入社してきた社員から、「何を言っても無駄」「もう提案したくない」といったネガティブな不満が多く聞かれたんです。実際にいろいろと提案してみたものの、会社から何のフィードバックもないというんですね。
頑張っても役職に就けないという不満もありました。このご時勢ですから、毎年新規出店があるわけでもないという問題に起因している部分もあったのですが、社員にその事が伝わっていなかったんですね。しかし、説明さえしっかりしていれば不満にはならなかったはずで、運用に原因があったと言うこともできます。
当然ですが、こういうアンケートって賛辞されることは少ないですよね(笑)。しかし、1割や2割は「素晴らしい会社だ」といった声があることを期待していたんですが、本音を言ってくれと周知徹底したことによって、結果的には非常に多くの不満があがってきまして。ショックではありつつも、今後を考えたらこれは非常に大きな財産だと、すごくありがたいという感じはしましたよね。
風土が沈殿した原因の根幹は、
トップダウンの経営にあった。────社員の方の社歴による不満の違いなど、アンケートにお感じになった特徴は何かありましたか。
特徴的だったのは中間管理職、つまり店長を中心とした受発信の風通しの悪さへの不満が多かったことです。その下の社員達からも、「何かを提案しても跳ね返ってこない」という声が出てはいましたが、その提案する先というのは中間管理職なわけです。そこが跳ね返せないでいる。その先には、中間管理職がその上の社員に物を言えずにいたり、上の者が明確な答えを返さないから中間管理職も現場に返せないという現状がある。アンケートから、当社の風土が非常によく分かりました。
個々の店長が良いとか悪いという問題ではなく、結局は店長が非常に大きなキーポイントなんですね。現場と本部との橋渡しになる層ですから、そこがうまく機能しないと組織の風通しが悪くなる。現場と本部との間に非常に高い壁があることが、大きな問題の一つだったんです。
────その壁はなぜ生まれたのでしょうか。
現場の声が上がってこない雰囲気作りを誰がしていたかというと、最終的には我々経営者です。まず私は、自分を反省したんです。役職の上位者にも、社長や私の顔色を伺っている者が少なからずいます。つまり、この風土を生んだ一番の原因は、我々経営者にある。アンケートの不満も集約すれば、『ウエスタンは管理統制型の組織になっているのではないか』ということ。社員満足といいながらも、トップダウン型の組織になっているということなんです。
────アンケート結果は、社員の皆さんにも報告されたのですか。
しました。ただし、誰がどんな意見を言ったかは追求しないルールでしたから、原本は見ていません。筆跡が分からないように、調査を依頼した外部機関で集計したものを全社に回覧しました。アンケートの回答率が非常に高く、ほぼすべての社員が回答してくれましたので、集計のボリュームも結構なものでしたが、編集は一切なし。一字一句をそのまま転記したものを回覧しました。健康診断というからには、裸にならないと診断になりませんからね。
他の社員が書いたことを読んで、現場の不満がエスカレートした面もありました。自分では気づいていなかったけれども、言われてみればそうだよなと。一時的には、風土がより悪くなった(笑)。でも、悪くはなったけれども、今まではこういうことってなかったよねという空気は生まれていたように思います。
────アンケート集計の回覧は、そういった影響も覚悟の上でされたのですか。
仕方がないですよね(笑)。何しろスタートを切りたかったんです。スタートを切るためには、すべてを土俵に上げなくてはいけない。それなくしては、課題も明確になりませんし、中途半端な課題だったら、改革の途中段階で新たな課題が出てきて振り出しに戻ることも出てくるだろうなと思いましたので。
風土の問題を解決できるのは、現場主導の改革。
ですから、これは担当者任せではいけないと。私が旗を掲げて『構造改革推進委員会』というものを組織し、役員である私が自ら委員長となりました。委員会のメンバーは部長と店長の上位職であるエリアマネジャーとその上の統括マネジャー、そして人材開発の担当マネジャーの計8名です。
しかし、今までと同じようにトップダウンで解決したのでは、何も変わりません。現場は、トップダウンの管理統制型の組織運営をネガティブに捉えています。良い取り組みであっても、「上にいいようにされるのではないか」というような、非常に悪い風土になってしまっていたわけです。
この風土を変えるために、どういう組織を作ればいいのか。そこで考えたのが、公募でやる気のある社員を募る方法でした。『改革案』を、現場に一番近い社員から我々にぶつけて欲しい。我々も、できるかできないかはきちんと答え、いいものであれば受け入れていこうということで、『構造改革プロジェクト』という名のもとに社内公募を行い、プロジェクトを立ち上げたんです。
────プロジェクトの公募は、アンケート実施からどれくらい経ってからのことだったのですか。
アンケートの実施が2005年の8月、プロジェクトの公募が2006年の1月です。その間には、アンケート結果を分析しながら、プロジェクトを待たずともできることは解決しようと、交通費や食事といった福利厚生や待遇の問題への対応に費やしていました。
そして、本格的に動き出したのが、2006年の年明け。当社の事業は年中無休ですから社員が一同に集まる機会はないのですが、今回はアンケートを受けて改革していこうという流れがあり、社長が交代した時期でもありましたので、新年に社員を集めようということになったんです。「これからの会社の方針」と、こういう会社作りをしていきたいという「メッセージ」をトップから直接伝えようと。全社員を一度に集めることは叶いませんでしたが、2班に分けてホテルで社員総会を行いました。
その後各店を回ってどうだったかと社員に聞いたところ、非常にいい反応が返ってきましてね。会社というのは今まで店のことであって、会社全体を体感することができないでいたというんです。会社の方針も社内報に書かれているし、店長からもある程度は聞くこともできたが、社長や専務といった会社のトップから生で聞くことで、より体感できた。この機会は、ぜひ来年以降も続けてくださいという声を多く聞いて、これはもう、必ず来年以降も開催しようと思っています。
その社員総会の場で、「プロジェクトを立ち上げる」ということと、ついては、「明日以降に案内を送るので、各店に1人ずつ、会社を変えたいと思っている人に手を上げてほしい」という告知をしました。ただ実際は、すぐには手が上がらなかったんですが(笑)。
────総勢で何人のメンバーを公募されたのですか。
やる気のある社員には全員入ってもらいたいところですが、人数が増えると船頭が多くなり、まとまるものもまとまりません。そこで、現場の社員は監督職(ナンバー2のチーフクラス)以上に限定して、各店から1人。店長は、10店舗・10人の中から3人。本部スタッフから3人の合計16人の構成です。
────すぐに手が上がったのは何人くらいだったのでしょうか。
本部の3人と店長の3人は比較的すぐ決まりましたが、問題だったのは各店1人の現場からのメンバー。最初に手が上がったのは3店でした。それも偏りがありまして、手が上がった店には、実は他にも4、5人立候補者がいて、店長が1人に絞っていた。それに対して、誰も手が上がらない店が7店あったんです。そこでもう一度店に趣旨を伝えたところ、最終的にはそれほど難航せずに集めることはできました。
────プロジェクトはどのように進行されたのですか。
まずは、アンケートに端を発した問題点を分析し、それをもとにして課題を集約していきました。そして、その課題を「どのように解決したらよいかという提案」を、我々、構造改革推進委員会に(プロジェクトの最終段階で)プレンゼンテーションする。大まかには、このような流れになります。
プロジェクトとして集まったのは、全10回。1回につき6〜8時間ほどでしょうか、根をつめて議論しました。短時間に分けて何回もやるよりも、密度の濃い時間を集中的に設けたほうがいいだろうと考えたんです。
私も、何回かは参加しました。本音の議論が大切で、私が出席することによるマイナスもありますので毎回ではありませんが、議論の軌道修正や、今の段階で私から情報提供したほうがよいこともあると考えて、何度かはお話させていただく機会も設けるようにしました。
本気で取り組んだプロジェクトを通して、
自己責任の意識が生まれた。────専務が出席されると、皆さんは緊張するのではないですか。 人にもよりますが、私がいるときだからこそ同じことをもう一度大きい声でいっている社員もいましたね(笑)。一方で、極端に発言しなくなる社員もいたりと、そこはいろいろでした。
プロジェクトでの議論を聞いていて、いいなと思ったことが一つありましてね。問題を解決するために始まったプロジェクトですので、当然ながら、ネガティブなところからスタートしたわけなんですが、回を重ねるにつれて、自分を棚に上げるという部分がなくなってきたんです。プレゼンテーションすることに対する責任感が生まれたのでしょうか、当初はただ不満を出し合うだけだったのが、どう解決すればいいのかという議論に変わっていったんです。「これは自分たちのワガママだった」、「こちらからもっと働きかければよかった」といった風に。不満が自分たちへの反省に変わり、プレゼンテーションに向けて議論するプロセスの中で、意識改革が行われたんですね。
私は、このことがすごくよかったと思っているんです。ただし、あまりそれを言い過ぎるとプロジェクトに参加したメンバーは、「プロジェクトといいながら、結局は研修をさせられたのだ」となりかねませんので、私の胸のうちに留めていたのですが(笑)。経営者からすれば、実利を担って取り組むからこそ修練になるということなんですが、中には「これは研修だ」と拒否反応を示した社員もいたんです。しかし最終的には、本気でやったからこそ意識改革が生まれて、社員が自立していってくれた。そのことが、非常に頼もしく感じましたね。
当初は、相当に振り子を振ったプレゼンテーションが来るのではないかと思っていました。ところが、言葉は悪いですが、最終的には優等生的な内容になりまして(笑)。経営に要求するからには、自己責任も負わねばという責任感を持ってくれたんでしょうね。「もっとこう改善してくれ」という刃のような部分が削れて(それは何となくみんなの胸に仕舞い込んでしまった)、経営幹部の中には、「この程度でいいの?」と言った者もいたほどです。そこで、私からはこう言ったんです。「プレゼンテーションしてプロジェクトが終わりではなく、ここがスタート地点。今後も感じたことは意見してほしい」と。そして、今は、次のプロジェクトにバトンを渡して走り始めているところです。
────プレゼンテーションでは、どのような提案がなされたのですか。
最もクローズアップされたのは、人事制度でした。「適正な評価がなされる評価制度」や、「評価するからにはしっかりと見るという運用」、「風通しのよい組織を作る仕組」や、「社員のステップアップの方法は何が最適なのか」といったことなど、言ってしまえば当たり前のことですが、それを当たり前にやって欲しいと。それに対して、『構造改革推進委員会』のメンバーを中心に『人事制度改革プロジェクト』を新たに立ち上げて、今、議論をしているところです。
────プロジェクトメンバーの方々が自己責任を抱くような仕掛けも何かされたのですか。
仕掛けはないですね。構造改革プロジェクトを立ち上げる以前から、人財プロジェクトという場を設けて、ウエスタンがどういう社員像を求めているかという議論を続けてきたことが基盤になったのではないかと感じています。話は外れますが、このマガジン名にもあるように人材は人財です。やる気を縦軸、スキルを横軸にしたマトリックスがあるとすると、やる気もスキルもない人材は、犯罪の罪。やる気だけあっても、材料の材にしかならない、やる気もスキルも伴って初めて会社にとっての財産になるという話を、常々社員にしています。そういったことが、ベースにあったのだと思いますね。
────経営側のお立場として、プロジェクトに対してはどのような関わり方を心がけておられたのですか。
改革にタブーはないということが、基本姿勢です。人事制度に問題があるなら、制度を一から考え直して構わない。ただし、制度が悪いのか運用ができていないのか、そこはぜひ議論をして欲しいとはお願いしました。その結果として制度に問題があるなら、制度を変えようと。どうせ議論したって制度は変わらないとかそういったことではなく、経営としてはそこまで考えているよと。変えるべきものがあれば、今回は本気で変えるつもりでした。
私なりに人事制度の勉強もして腹案も持ってはいたんですが、結果的には制度は微修正に留まって、一番の課題は運用にあるというのが現在の議論です。最終的には人なんですよね。社員の意識が変われば運用も変わるだろうし、生き生きとした風土につながるんだろうなと。それでダメなら、今度は本当に制度の問題。安易に制度のせいにしないところまで、何とか引き上げたいなと思っているところなんです。
────プロジェクトで議論をお聞きになっているときに、トップダウンで介入したくなったことはありませんでしたか。
ありましたよ(笑)。それは、いっぱいありますよね。でも、トップダウンは止めようというところから始まっているのが今回のプロジェクトです。ここで発言しては同じことになってしまうわけで、答えは持っているんですが最後まで出さないでグッと我慢です。その代わり、プレゼンテーションを受けたときには、構造改革に関わるメンバーの一人として、こうしてはどうかということはお話させていただきました。ただし、私の発言がそのまま決定事項になりかねない風土でしたので、答えを言うというのではなく、こういう考え方もあるのではないかという「考え方の一つ」として伝えることは心がけました。
ミドルアップ・ミドルダウンが理想の姿。
────そうは言いましても企業にはトップダウンが必要な側面もあるかと思います。トップダウンであるべき部分と、トップダウンであってはならない部分、それぞれについて、どのようにお考えになりますか。
企業理念の一つである顧客満足を考えると、お客様に一番接しているのは現場の社員ですから、ここはトップダウンではいけない領域です。何か施策を打とうと思ったときの材料は、ボトムアップであるべきだと思うんです。
一方で組織全体としては、ミドルアップ・ミドルダウンが、ベストとは言いませんがベターだと考えています。ミドル層は現場の情報を吸収できる層であり、経営者との意見交換をしっかりできる層。ここを活性化させることが、一番のキーポイントだと思います。つまり、現場は基本的にはボトムアップであって、ミドル層がボトムアップの材料を集中的に把握してトップに伝え、トップダウンで答えるのが理想の姿。最悪は、現場の情報が入らない中でのトップダウンです。
ただし、トップダウンが大事な要素を持つものもあります。今、社会的にもコンプライアンス(法令遵守)の必要性が言われています。ここだけは、今後もトップダウンの大切さを実感しています。現場は、どうしても売り上げやお客様の顔が浮かびますから、顧客満足の視点で厳しい判断が下せないこともある。それに対して、ダメなことはダメという厳しい判断は経営者にしかできません。法令を犯して監督官庁から指導されたときに、一番困るのはお客様であり社員です。そうならないために姿勢を正すということが当社の理念の根幹。今後も、コンプライアンスはトップダウンの重要な領域なのだと思っています。
自分が満足していない者が、周囲に満足は与えられない。
理念の実現に不可欠は、社員の満足。────最後に、風土を改革するために大切なことは何だと思われますでしょうか。
いくつかありますが、まずは向かうべき先があるか、それを社員に示せているかということだと思います。そして、それに向かうための高い意識が社員にあるか。意識があったとしても向かっていける組織体制になっているのか。当たり前のことですが、当たり前が一番大切なんですね。そのためには、福利厚生や評価の仕組み、言いたいことが言える雰囲気など、すべてが絡んできます。仕組みがあってもそこにいる人間がダメでは何もならないでしょうし、当社はきっとその状態だったのだと思いますね。
理念は明確に持っているが社内には伝わっていないところからスタートして、それが徐々に社員に浸透し、ある意味で一段上がった。そうすると、顧客満足・社会満足・社員満足という3つの理念を掲げているけれども、「社員である自分たちは満足していない」という、一段上がった不満が社員からも出てきます。
実際、顧客満足は営業に一番関わる部分ですので、真っ先に着手したということがあります。発想をすべて変えまして、営業の一番の目標を売り上げや利益ではなく、顧客満足にしたんです。どんな企業にも売り上げ至上主義や利益至上主義が多かれ少なかれありますが、それを当社からは取り除こうと。顧客満足度が高まれば、売り上げや利益もついてくるはずだということです。
社会満足も同様です。多くの店舗で実施している駅前清掃に始まって、AED(自動体外式除細動器:心臓電気ショックの装置)を各店に設置して、何人かのスタッフには応急救護の資格も取らせ、お客様だけでなく地域の方々の不測の事態にも対応できるような環境を整えています。また、地域への還元として地元の少年野球などの支援をしたり──これは決してパフォーマンスに受け取られる事のないように地道な活動として真剣に行っていきたいと思います。
しかし、顧客満足や社会満足の推進力になっているのは誰かといったら、社員。自分が満足していない人間が、周囲に満足を与えることはできません。それに取り組んだのが今回のプロジェクトなんです。3つの満足はそれぞれに影響しあうもの。どれか一つが欠けても成り立ちません。近江商人の商売の心得として「三方よし」というものがありますね。「売り手よし、買い手よし、世間よし」と。当社の理念もまさにそれなんですね。これは、今後も恐らく永遠に変わらないし、変えてはいけない部分だと思っています。
────ありがとうございました。
*続きは後編でどうぞ。
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