OBT 人財マガジン
2006.08.09 : VOL5 UPDATED
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株式会社コスモスイニシア
横浜支社長(前管理本部総務グループ長) 渡邉 典彦さん
管理本部総務グループ 課長 土屋浩史さん「新しい価値を生み出す組織」をつくる新人事制度
モノやサービスが溢れる今の時代は、他社にない独創的な価値を生み出すことが、勝ち残りの秘けつの一つといわれています。バブル崩壊以降の効率重視の経営から創造的なアイデアが生まれる組織に変革するには、どうすればよいのか。株式会社コスモスイニシア(2006年9月1日に株式会社リクルートコスモスより社名変更)の渡邉典彦・横浜支社長(前管理本部総務グループ長)と土屋浩史・総務グループ課長にお話を伺いました。
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株式会社コスモスイニシア (http://www.cigr.co.jp/)
1969年設立。2005年5月にリクルートグループの不動産会社としての歴史に幕を閉じ、MBOによる独立を果たす。2006年9月に株式会社コスモスイニシアに社名変更し、第二創業期として既成概念に捉われない価値の創造に取り組む。
NORIHIKO WATANABE
1957年生まれ。81年リクルートに入社。86年にリクルートコスモスに移り、広報室課長、銀座支社渋谷支店長、アセットマネジメント事業部統括部長を歴任し、2004年1月に総務グループ長に就任。2006年7月から現職(横浜支社長)。
HIROSHI TSUCHIYA
1968年生まれ。1992年リクルートコスモス入社。アセットマネジメント事業部法人営業部、北関東支社営業部を経て95年から総務人事部。2004年に総務人事課長に就任し、主に採用・教育・人事制度を担当。
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社員のモチベーションが高くないという問題意識からの出発。
────この4月に人事制度を改定されました。どのような改定をされたのか、その背景は何だったのか、お聞かせいただけますか。
渡邉 2年半前に総務グループ長に就任した以前、私はアセットマネジメント事業という、不動産の賃貸や仲介を行う事業部で統括を担当していました。当然のことながら、考課や異動関連で人事とやり取りすることが多かったわけですね。
現場にいますと、もっとこんな風に仕向けてくれれば社員のモチベーションが上がるのにと思うことが目につきます。それを人事に進言していましたら、そのことがきっかけかどうかは分かりませんが、2年半前に総務人事を担当することになりまして。そこで総務グループのメンバーと話してみると、彼らも同じ問題を感じていたことが分かった。しかし当時は、生産性を重視してスタッフ部門は縮小化される傾向にあり、現場の問題にも手が回らないというのが実情でした。多かれ少なかれ、世の中の会社はみんな、そんな時期だったのではないかとも思います。
────そうですね。
渡邉 そこで、人事として何をしたいかという話をしましたら、社員一人ひとりが高いモチベーションを持てる組織にしたいという意見が出まして、それならばどんな制度や仕組みがあればいいのかということを、相当な時間をかけて総務グループ内で議論しました。
その過程でいくつかの課題が明確になりました。1つは、人材のポテンシャルの高さが業績に発揮できていないということ。手前味噌のようですが、人材のポテンシャルはそれなりに高いと自負しています。しかし、それがパフォーマンスにつながっていない。何がそうさせていないのかと考えると、一人ひとりのモチベーションが必ずしも高くない状態にある。仮に個人のモチベーションは高いとしても、それが組織力の集合体にはなっていない。この2つが、課題として大きいという結論に達したんです。
年齢構成のひずみ、成果主義の弊害。
硬直した組織の問題を直視する。────組織がそのような状態になった原因は何だったのでしょうか。
渡邉 93年頃のバブルの崩壊が、1つの方向転換だったと思います。92年に新卒を7名採用した後は、業績が厳しくなったために採用をストップしました。オイルショック時に採用を止めた企業が、その後に組織の弊害を抱えているといったことは耳にしていたのですが、そんなこともいっていられない時代でした。採用を再開したのは、96年です。結果として、93年から95年の3年間を谷間とする社員の年齢構成のピラミッドが鮮明にある。いわゆる「ふたこぶらくだ」といわれる年齢分布です。
その状況下で年功序列的に管理職のポストを与えた、改定前の状況としては従業員の約4割が管理職。本来の組織構成上難しい割合です。管理職と呼ぶわけですから部下を束ねる構成ができてないといけないはずなのに、部下がいないプレイングマネジャーがたくさん生まれていたんです。
もう1つの原因は、5年前に導入した成果主義。個人の業績を重視するあまり、自分さえ業績を挙げていればそれでよいという風潮ができていました。加えてリストラによる人件費の圧縮もありまして、バブル崩壊以降はなかなか厳しい時代を乗り越えてきたわけなんです。
そのことで、もともとは面白い会社だったはずなのに、やりたい事もできないという空気が蔓延していたように思います。重い荷物を抱えていた会社の財務状況を改善するために、当該期間の利益を最大化することが最優先。そのためには一番効率的であるマンション分譲事業を中心にしようとシフトしましたので、新しい事業に人材や資金を投資する余裕がなかったというのが実情です。そういうことって従業員にしてみれば新たな仕事にチャレンジすることで得られる働き甲斐を制限されることになり、面白くない仕事ということになりがちですよね。
そんな中、昨年の6月にMBOスキームによってリクルートグループから独立し、投資ファンドや機関投資家からの出資を受け入れたことによって、重い荷物が一気になくなった。ちょうど、私が人事を手がけることになった1年半後のことです。それによって、我々が提供できる新しい価値とは何だろということを考えられる機運になり、人事施策もそれを支援するものに変えていこうと。新しい価値を生むことを評価できる仕組みを作って、新しい会社になるんだという方向へ、一気に弾みがついたように思います。
多様なキャリアステップを認め、
業績に現れない取り組みも評価。────具体的には、制度をどう改定されたのですか。
渡邉 まず提案したのは、全員が管理職を目指すのではなく、組織を率いることで組織業績を挙げる人と自らの仕事で業績を挙げる人とに分けようということです。現場の管理職に話を聞いてみると、必ずしも全員が組織を率いることに関心が高いわけではなく、自らが不動産マーケットの最前線にでて業績を挙げることが会社に対する自分の貢献力だという人もいるんです。そういう人に、無理に課長や部長という組織上の役割を与える必要はないのではないかと。
そこで制定したのが、組織的な業績の向上を担う人をマネジメント職群、個人の業績で会社に貢献する人をマスター職群とする、2軸に分けた職群制度です。そして、多様な働き方(職群)を各自が目指すにはどんな評価体系が必要かということから発想して、いろいろな仕組みを作っていきました。
────具体的には、どのような評価体系にされたのですか。
渡邉 これまでは業績は高く評価するものの、業績に現れない頑張りにはなかなかスポットが当たらない仕組みでした。けれどもそういった取り組みも、実はものすごく大切なことだと思うんですね。そこで、短期間の業績だけを評価する仕組みは見直しましょうと。評価に占める業績の割合はどれ位のバランスがいいかということを相当議論しまして、最終的には6対4の割合で評価しませんかと提案しました。6が業績ですね。
残りの4割はコンピテンシー、業績を挙げるために必要であろう行動です。大きくは、業績行動と能力拡張と組織への影響力に分かれます。能力拡張とは、上司から能力拡張目標として与えられた課題に対して、考課期間の間にどこまで能力を伸ばせたかを評価するもの。組織への影響力は自組織に対するものと他組織に対するものに分け、業績行動、能力拡張、組織影響1(自組織)、組織影響2(他組織)の4項目のコンピテンシーを、評価の4割とする制度に変えたのです。
マネジャーの役割は、稼ぎ頭から人材育成の担い手へ。
────それ以前はどんな制度だったのですか。
渡邉 それ以前も、プロセスと役割行動からなる評価項目はありました。本来であれば、その仕組みでも構わないんです。問題だったのは、プロセスと役割行動はほぼ自動的に考課点が与えられるという下駄を履いた状態でスタートし、これに業績の評価が加算される制度だったということ。
全体で20点の考課点があるうちプロセスと役割行動が7点、そこに目標設定通りの業績であれば3点が加えられて10点になる。10点は基準点ですから、業績が高い社員は12点や15点などがつき、究極は20点もありえるという仕組みでした。
────プロセスや役割行動の評価にも、さらに細かい項目があるのですか。
渡邉 職級ごとに、これができることという項目があります。
────それを見れば、社員の方々は何を期待されているか分かるわけですね。
渡邉 ある程度はそうですね。ただし、ほぼ自動的に7点が与えられることがまかり通っていたんです。本来はマネジャーが目標設定し、その結果を評価をするべきところが、できていなかった。ですから、問題は制度ではなく運用にあったのかもしれません。
土屋 ただ、運用だけを変えるのは非常に困難ですので、仕組みを変えることでパラダイムを変えるという方法をとりました。さらに手を加えたのが、コンピテンシーは共通のモノサシではなく「あなた基準」でつけてくださいということ。絶対的な基準はなく、マネジャーとして期待したレベルを基準にしてくださいと、評価の方法を変えたのです。
これまでの運用では、頑張った部下がいても業績に現れない限りは評価のしようがないんですね。ですから、マネジャーは業績ばかりを問う。そうすると、メンバーもとにかく短期業績に直結することをやらなくてはという発想になってしまう。それでは育成の観点は生まれません。
────新しい考課制度は、部下育成の強制ギプスのようですね。
渡邉 マネジャー達は、自分も稼げといわれていましたので、発想の転換をはかる必要があります。稼がなくていいというわけではないのですが、部下を育成することで会社の業績を伸ばしていくということへの意識改革です。
────目指すべきマネジャー像は、どのようにしてマネジャーの方々と共有されたのですか。
渡邉 制度改定の準備段階の議論で、どういう人がどういう風に評価されているかということがすごく問題になりまして、役員会で社員の昇格が議論される際の言葉を人事マネジャーたちが全部書き取ってみたんです。例えば、A君という人が俎上に乗ったとします。そうすると、「彼はなかなかタフだ」とか、「バランス感覚があっていい」とか、逆に「線が細いからもう少し強くなってほしい」とか。評価されること、されないことを全部言葉に書きまして、そこから当社が目指しているマネジャー像を認識していきました。
土屋 それらの言葉の整理には外部の力も借り、3000語のベース言語を持つデータベースを用いて統計解析して整理すると、リクルートコスモス用語とでもいうべき108の言語が拾えたんです。
渡邉 その言葉の体系にもとづいて約260項目のアセスメントも作成しまして、管理職と昇格一歩手前の社員全員に自己アセスメントを実施し、仕事に対する姿勢を認識させました。管理職には、他者アセスメントも行いました。そうすると、本人が浮き彫りになるんです。自分ではマネジメントをしているつもりでも、周囲はそう思っていないということがデータとして出ますから。
土屋 また、1回目の説明会でマネジメント職群、マスター職群と職群を分けるという話をしたところ、「マネジメントだけする人を作ってどうするんですか」という質問が一部のメンバーから出ました。マネジャー研修で改めて考課の説明をすると、マネジャーってここまでやらなければいけないのかという反応もあった。我々が意味するマネジメントとは違う理解がされていたんです。ですからアセスメントのもう1つの目的は、あるべきマネジャー像を提示することで、マネジメントへの意識を植え付けたかったということがあります。
改革をリストラと誤解する社員も。
懐疑的な反応を崩す、地道な努力を続ける。────社員の皆さんには、新人事制度をどのように伝えたのですか。
渡邉 まず、役員会で大まかな方向性に承認が得られた段階で、従業員が受け入れるかどうか試行の説明会を行い、組織の現状と問題点を伝えました。人材のポテンシャルがパフォーマンスに生かせてないことや、ふたこぶらくだの年齢構成のもとで管理職が4割もいるという現状ですね。その後に、新制度の内容を伝える説明会を支社ごとに3回。今年の4月から始めた管理職向けの研修が2巡目に入りましたので、メンバーには4回、管理職には6回の説明会や研修を行いました。
────当初から4〜6回は必要だと計算されていたのですか。
渡邉 いいえ、違います。手厚く、3回位はやろうかなんていっていたのが、結果としてその倍以上実施したことになりますね(笑)。
────最初の頃のみなさんの反応はどうでしたか。
渡邉 「趣旨が分からない、なぜ今そんなことをするのか」という反応でした。始めのうちは、説明すべき事が膨大にあるものですから、ややもすると説明に終始してしまうんですね。ですから後になって資料にある事を質問してきたり、説明の意味を勘違いしてそれはないんじゃないかといってきたり。
リクルートグループからの独立を経た頃からは、「ファンドから人件費削減を要求されているのだろう」という声がどんどん入ってきまして。ですから、それ以降の説明会では、冒頭で私が「いいですか、みなさん。これはリストラではありません。私はファンドの方とは一度もお会いしていないし、経営からも何もいわれていない。みんながやる気になれる仕組みを作りたいんです」と、そういう話をするようにしていました。
そういった声や質問に丁寧に答えることで理解が進んだ手ごたえはありますが、人事がやることはしょせんリストラなんだろうという反応があったのは、非常に淋しかったですね。
────マネジャーの方々の反応はいかがでしたか。
土屋 我々の思想である「組織力を高めるためにマネジャーの役割が変わる」ということを、とにかく伝えていきました。しかし当初の反応は同様で、総論は理解できるが各論が分からないというもの。それが、4月からの研修では、半年後にはやってくる考課という実務を通じてとらえることで、現実味を帯びて受け止められるようになってきたなという感じがしています。
人事と現場との信頼関係を築くことが改革成功には不可欠。
────新しい人事制度を現場にうまく浸透させるためは、どのようなことが大切だとお感じになりますか。
渡邉 社員の処遇はどうなるのか、福利厚生はどうなるのかという目線をもっと盛り込みながら進めたほうがスムーズだったかもしれないと、振り返って思うところはあります。人事制度のあるべき姿といった形式から入ってしまいましたので。
────一般的には、あるべき論から入るパターンは多いかもしれませんね。
渡邉 そうですね。ただし、あるべき論でないと問題の所在は分からないとも思います。例えば考課制度一つにしても、評価がいい人は問題を感じていません。たくさん給料をもらって別に不都合はないと。その人たちに改定の趣旨を伝えるには、目指すものは何かというあるべき論に戻らなくてはならない。ですからその方法しかなかったとは考えるものの、説明はもう少し分かりやすいやり方があったかもしれないなとは思いますね。
土屋 1つよかったと思うことは、2年半前に渡邉が総務グループ長に着任したことによる変化ですね。人事担当のグループ長が変わること自体、社員にとって見ればインパクトのあることですし、そこからの2年半の間で、渡邉は部長クラスをはじめ百数十人と個別に面談を行っています。グループ長自らが時間をつくって面談するという姿勢に、人事は何かをしようとしている、現場サイドに立とうとしていると見る社員も増えてきたのではないかと感じています。
────そういった部長による個別面談は、それまではないことだったんですか。
土屋 多くはなかったですね。1年に1回くらいは一人ずつと会話をしたいものの、なかなか状況が許さないと渡邉に話したところ、やるべきだったらやろうよと。
────それは、人事とはどうあるべきかという問いかけにも通じることかもしれませんね。
渡邉 そうですね。そうやって一人ひとりと話をしていると、さまざまなことを指摘されますし、心情を吐露する人もいます。もちろん、人事がフォローできることはフォローしました。例えば、組織の最大効率を狙っていた時期は、あまり人事異動をしないんですね。効率が落ちるのが怖いですから。そうすると、自分を変えるチャンスが得られないという社員もいるわけです。そういった長期滞留している社員は、なるべく優先的に異動させることを積極的に行いました。そのことで、よどんでいる組織に新しい風が入り、本人も活性化します。こういったことを通して、人事に対する現場の理解が進んだのかもしません。
────制度改定までの2年半の準備期間には、現場を巻き込む工夫もされたのですか。
渡邉 現場を巻き込んだのは、説明会以降ですね。実際の運用が近づくと、コンピテンシーをどう運用に乗せるのか、業績の基準を見直したほうがいいのではないか、相対評価といっても支社ごとの目線合わせはどうするのかなど、ラインスタッフが非常に興味関心を持つようになり、我々からの働きかけについても、真剣に一緒に議論をしてくれるようになりました。
元気に仕事をして、業績も挙がる組織へ。
パラダイムの変革が実現しつつある。────今は、渡邉さんが描かれた組織の理想像に近づきつつあるのでしょうか。
渡邉 理想論としては近づきつつあるといっていいのではないでしょうか。運用はこれからですが、今回、私は横浜支社長に就任しましたので、現場で試しながら本当にフィットするものに仕上げていければと思っています。私が好きな言葉があるんですが、「元気に仕事をする」ということ。みんなで、元気に仕事しようよと。結局のところは、これができる組織にしたいんですね。
例えば、マスコミからも注目された最近の新事業に、企業の社宅を一棟まるごと分譲マンションにリノベーションするプロジェクトがあります。そこでメンバーに問いかけたんです。どうして注目されるのか分かる?と。世の中に価値が認められているからだよ、こういう新しい価値を作ることって大事だよねと。新しい価値を作り出すことが組織の活性化にもつながるということが、みんなにも実感として伝わってきたなという手ごたえを感じます。
────楽しくやることと業績が挙がることは別の話だというパラダイムがかつてはあったように思いますが、それは両立できるのだということを見せていただいたように思います。
土屋 説明会でも、こう話せば伝わるんだなと感じたことがありました。それは、「一緒にやりましょう」ということ。完璧な仕組みができているわけではないけれども、目指すところに一緒に行きたいんです。ぜひ一緒に行きましょうと。制度や運用で変えたほうがいいことがあればいって下さい、マイナーチェンジは積極的に行いますと。
渡邉 最初に行った試行の説明会から全員にアンケート取りまして、次の説明会ではどういう意見が出たかを開示して、それに対応してここは改定したということを見せながら、進めていったんですよ。
だから、決めたものをただ下ろすのではないことは社員も分かっていて、人事が行くと「また来たの?今度は何?」と、最後はこんな感じになりつつもあって(笑)。人事はみなさんのいうことを聞く用意があるというスタンスを守りましたから、嫌な制度を一方的に導入されたという抵抗感はないと思いますね。
────思想と事務局の思い、この2つが非常に重要ですね。組織を変えていくということのヒントをお聞かせいただいたように思います。長いお時間、ありがとうございました。
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