OBT 人財マガジン
2013.02.13 : VOL157 UPDATED
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持続的な強さを生みだすものは何か!
ひとつの戦略が成功し、大きな市場を創造する企業がある。
そして、その市場で長らく競争優位を確保し成功を続けている企業がある。
企業の競争力という議論をすると、すぐ戦略の優劣等が話題となり、また、この種の企業を
評するとき、その優れた"ビジネスモデル"や"戦略"といった点に関心が集中する。
確かに、ビジネスモデルや戦略というと格好いいしビジネススクールやMBAが花盛りになるのも
その辺に理由があるのかもしれない。
然しながら、現実として多くの大組織で知的レベルの高い人達が集まって環境分析を精緻に
行って市場競争に勝つための立派な戦略を作っているにもかかわらず、同一業界内で勝ち組、
負け組が生じるのは何故だろうか?
また、一時的には成功を収めるものの、それが長期にわたって持続しないのは何故だろうか?
ひとつは、昨今は考え出された戦略自体に際だった独自性や斬新さ等はほとんどないのである。
仮に、独自性や斬新さがあって市場の中で先行したとしてもすぐ同種のものが出現し何らの
違いがなくなってしまうことも枚挙にいとまが無い。
例えば、コンピュ-タ-のデルやオフィス用品のアスクル等の例はまさにその格好な例であろう。
本来は、競合と差別化する為に考え出された戦略であるが、他社も同種の情報を入手し、
同じようなフレームで分析し考え出す戦略は、そのネーミングは異なるもののそこに何らの
明確な違いは存在しないのである。
顧客や競合を分析してきちんと論理に裏打ちされた戦略を構築すれば、競争に勝てる
という前提が、企業組織で経営やマネジメントの経験の無い、MBAを取得したての若者でも
一端に○○コンサルタント等でやれているという証左であろう。
もうひとつ、いかにきれいな絵になった戦略を作ってもそれを実施してきちんと成果に結実
出来なければ、全く話にならない。
きわめて大きな錯覚は、戦略や計画或いは制度等を作ることが目的となってしまい、
それを実践してきちんと成果につなげるプロセスの重要性が忘れ去られており、単に、綺麗な
絵を描けば業績が上がるというパラダイムが強くあることである。
そのため、絵の通りの成果が上がらないのは、それを実施する側である現場の能力や意識の
弱さにあるという点に帰結させ、戦略や制度の作り手は何らの責めを負うことがない。
大方の場合、評価が悪くなるのは、実施者である現場をマネジメントする管理者や第一線の
人達である。
このような視点で考えると、同一業界内での企業間格差というのは、勿論、戦略の優劣という点も
否定できないが、それよりもむしろ大きな要因は、戦略という絵を実現して成果に結びつける能力や
力の差が決定的といえるのではないだろうか。
然しながら、今や、ひとつの差別化で、持続的な優位性を築くこと等到底出来ない。
むしろ小さな差別化をいくつも持ち、それをきちと繋ぎ合わせることが強さにつながるのでは
ないだろうか。
ホームランではなくフォアーボールやセ-フテイバンドでもいいからつないで得点に結びつけること、
顧客ニーズを踏まえて競争相手より少しでも前に行くことなのではないだろうか。
目新しいイノベーティブな絵等ではなく、小さな違いを徹底して追及すること、競争力や強さはとは、
決して目新しさを追うことではなく、当たり前の事をきちんと徹底してやり続ける時間の長さと
それを追い求める深さからしか生まれない。
移り気な妥協から強さは決して生まれない。妥協から始まるのは転落である。
そう考えると強さの本質とは徹底ではないだろうか。
徹底から生まれる強さは、論理的には容易に解明出来ず、ましてや外からはよく見えない。
目に見えないものが戦略の構想をつくらせ、実行して業績に結実させる力なのである。
何故ならば、企業間の競争は、究極的には人と人の競争である。
最終的な優劣は、規模や資金でも、或いは知名度やグループ企業の支援でも無く実際に
仕事をしている人達の意識や能力に規定される。
きちんと整理された綺麗な戦略や華々しい事業の話題等では決してなく、人と人がつくる企業
体質や社風等が企業を発展させたり、衰退させたりする。
それが経営の本質ではないだろうか。
On the Business Training 協会 及川 昭