OBT 人財マガジン

2012.04.25 : VOL138 UPDATED

経営人語

  • 企業の中で人を育てるということ!

    昨今、日本企業で「人はいるが人財がいない」と嘆く企業はことのほか多い。
    要は人が育たない、育っていないということである。

    本来、 企業が人を育て戦力化していくためには、教育に相当な投資を
    しなければならない。
     
    ところが日本では、教育や研修が人財育成に効果を発揮しているとは
    お世辞にも言い難いし、教育や研修で人が育つとは最初から思って
    いない幹部も非常に多い。
     
    例えば、部下の前で平気で「研修は役に立たない」等と発言しているのが
    日本企業の正直な実態なのである。
    また、本来であれば、最も有能な人財を教育の担当者として配置すべきで
    あるにもかかわらず、どちらかというと定年が近い中高年であったり、
    若手の場合であっても第一線の仕事では不適性と看做された人間が
    担当する等、要は全てにわたって片手間なのである。

    日本の企業はそもそも業績が悪化したからではなく、人財育成そのものに
    対する戦略が無いので、ここに対する経営資源の投入、特にお金を
    かけてこなかったのである。
    そして、すぐ効果が現れる目の前の仕事に必要なスキルを獲得
    させるためだけの経費的育成にしか予算を割いてこなかったという
    のが実態である。

    これでは"仕事のやり方"は教えられても、それはあくまでも
    "スキルレベル"のことや作業レベルのことを教えるのであって、
    ただ"無価値な熟練者"を量産するという結果を招いているに過ぎない。

    目まぐるしく変化する環境下ではスキルはすぐ陳腐化してしまうので
    スキルそのものを教え込むということ以上に、これからは思考・行動特性
    の方が育成上の大事なポイントになっていくであろう。

    では、人財が育てられない、育たない背景にはどのような要因があるのだろうか。
    ひとつには、「企業として人財を育てるということに対する本質的な
    考え方や長期的戦略が無いままひたすら手段に走ってしまっていること」
    「もうひとつは上下序列のOJTで人が育つという前提があるから
    に他ならない。
     
    これをOJTという領域で考えて見ると

    ・教える側と教えられる側の育った環境の違い、例えば経済が一定の
      成長していた時代と全く成長しない時代の違い、バブル経済自体も
      知らない世代の増加。そのために今の時代、教える側の経験が必ずしも
      有効性を持たなくなってきている。

    ・日常、育てるということを本気で考えていない。
      育成責任という認識が希薄。単なる仕事の割り振りと結果の確認を
      しているだけで、人は仕事を通じて成長するという前提で仕事の割り
      振りや配置・ローテーションを考えているかということになると
      非常に疑問。
     
    ・部下の雇用形態、勤務形態の多様化等が進み標準的な育成方法の
      確立が困難になってきている。

    ・育成に時間をかけても会社から適正に評価されないし単に
     「彼は育てるのが上手」といったレベルの看做し方。

    ・会社がOJTに対して明確な方針を示しておらず、個々の管理者に
      任せっきり。

    ・管理者も目標を抱えていたり、多忙で手が回らない。

    上述のようにOJTが機能しない理由のほとんどは管理、監督者に
    関するものであるが、この問題を「管理者だけの責任に帰すのか」、
    「組織としての問題」として捉えるのか。
     
    本来、企業の問題には、「個人」の力では乗り越えて行けるものと
    そうでないものがある。
    往々にして組織は「組織が組織全体で取り組まなければならない
    課題」を「個人が乗り越えなければならない課題」へとすりかえ
    がちなのである。

    企業において人を育てるという活動は、上司・部下2者間の間で
    行われるものとして捉えるのではなく、本来は、組織として
    取り組まなければならない課題なのである。
     
    それが非常に欠落しているというのが、人財が育たない最も大きな
    要因なのである。

    On the Business Training 協会  及川 昭