OBT 人財マガジン
2011.10.26 : VOL126 UPDATED
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勝者と敗者を分けるもの
世界第二位の経済大国に安住し、築きあげたブランドの上に座っている内に、日本企業は大切なものを失っていった。新興国の名も無い企業が先進国の巨大企業に立ち向かえるもっとも効果的な戦法「それは圧倒的な低価格」である。あっと驚く価格をつければ消費者はつられて手を出し、「この価格でこの品質なら悪くない」と満足感を与えられれば攻め込める。かつてのソニーもホンダもみなそうやって世界に名を打ってきた。だが、先進国の巨大企業となった日本勢は、新興企業から価格でチャレンジを受ける立場となり、かつての日本企業のそれのように「価格プラスアルファ」をしかけられている。これに対して、多くの識者は、"激戦区のボリュームゾーンから逃げ、高級品で効率よく稼ぐべきである"とご託宣を述べる。それができればメーカーは楽だが、戦いに背を向けた企業には未来が無いことを歴史が教えている。安く売る努力を忘れた企業は、メーカーとしての基礎体力を失い、やがては国際競争力から脱落していく。RCAは、中国のTCL集団、ゼニスは韓国のLGグループに買収された。例えば、イスラエルの後発薬メーカー、テバ・ファーマース-ティカル・インダストリーズ。売上高は、2008年、約1兆800億円に達した。日本で1兆円を超える医薬メーカーは武田薬品のみ。テバは、今世界の医薬市場でメルク、ファイザーといった巨人を脅かす存在である。テバの後発薬はただ安いだけではない。主力の喘息治療薬は本家の新薬よりも患者の体内への吸収率を高めてある。新薬よりも価格が安く、効き目も上なら患者にとって、それは福音である。テバ曰く「我々が得意なのは、R&DのD」である。Rだけでは製品は生まれない。消費者からみればDにもRと同様の価値がある。テバが狙うのは安価な薬を待ちわびる新興国である。日本を含めた先進国の製薬大手が競う新薬開発のコストは、今や一件で1000億円を超すこともあり、膨大な開発コストを捻出するため、先進国のメーカーは再編を繰り返してきた。しかし、金に糸目をつけずにかき集めてきた新薬は、新興国の患者や途上国の庶民から見ると、まるで宝石のように高く絶望的な金額である。ソニーの盛田氏は、かつて日本製品が米国で売れた理由をこう語っていたそうである。「我々は、決して米国市場を侵略したわけではなく、最新、最上の商品を米国に送り、その品質と価格が米国の顧客に認められたのである。」「信頼」「安全」「品質」そして「安さ」。日本企業がもう一度、モノで世界を驚かせるにはこれらの全ての条件を満たす必要がある。まさに特定の技術や事業モデルで成功しすぎた故に、次の時代の波に乗り遅れるというイノベーションのジレンマ的な落とし穴は、国にも、企業にもそして個人にも当てはまる名言であり、心したいものである。そのためには、経験値の範囲内から抜け出すように、敢えて意図的に強めにアクセルを踏むことを心掛けないと次第に弱体化していく。非常識の常識化、非常識の定石化であり、そういう新しいトレンドが常識の壁を破り、事業の可能性を変えていく。まさに常識を捨てろである。常識外から新しい可能性が生まれてくるのは、ビジネスでも経営でも勝負事でも存在する。そういう新しさに鋭敏でないと最前線では戦えない。