OBT 人財マガジン

2011.10.12 : VOL125 UPDATED

経営人語

  • 真に現場を動かせるリーダーを輩出するために

    この国のリーダーであるべき政治家の内、約40人が松下政経塾の出身であるという。
    特に現政権を担う民主党の要職にある人達はこの塾の出身者が多い。

    然しながら、考えるべきは、この塾なるものが日本の新たなリーダーを輩出する場と
    なりうるのかということである。
    この場はあくまでも政治家を志す人達の場ではあるものの、リーダーを育てる場、
    鍛える場にはならないであろう。

    政治家としての足がかりは与えてくれるものの、そこで学習したからといって
    リーダーとして成長しうるものでは決してない。

    リーダーとして、政治家として育つためには、たくさんの修羅場や試練を乗り越える
    中で体験的に獲得していくものであろう。

    日本でもビジネススクール、MBAが珍しくなくなってきた昨今、「経営に様々な
    フレームワークやスキーム」を駆使することは当たり前の時代になってきている。

    どの企業でも、頭のいい人達が集まってこの手のものを駆使して立派な成長戦略
    や事業戦略を作り上げているにも関わらずに、そこに勝者、敗者が生まれるのは、
    一体何故なのだろうか?

    成長戦略や事業戦略がいかに卓越したものであっても、最終的には実行する力が
    業績の決め手となってくる。

    分析やロジックに優れ、客観的で論理的なプレゼンテーションが出来れば、MBAを
    取り立ての若造でもコンサルタントが務まる時代である。
    しかし彼らは、どろどろした言葉で説明出来ず、わかりあえるまでに時間のかかる人
    の気持ちの部分は後回しであったり、軽視しているためにそこには全く現場感が
    存在しない。

    人間の非合理な面、気持ちや感情の領域には踏み込めていないというのが実態である。

    何故なのであろうか?

    要は、現場で培った試練や修羅場の経験がなく、頭の中だけの知識しかないからである。

    特に、20代、30代の経験は、後の仕事観に大きな影響を与えるし、成果や結果を
    出すために費やした行動の量と質を通じて獲得した体験や経験は、何物にも代える
    ことが出来ないほど説得力がある。

    ビジネスマンも政治家も基本的には「育つ」もので簡単に育てられるものでは決してない。

    人は仕事の場の大きさと深さに応じて育ち方が決まるので、良質な経験を可能と
    する場をいかにして与えられるか、そしてそれに相応しい環境をいかにして整えら
    れるかにかかっている。

    特に、リーダーシップというのは、主として仕事経験の連鎖の中で一皮向けるような
    転換や時期等の場を経験して次第に身につけていく。

    経験を通じて獲得してきた力と単なる知識のみで得たものでは、全くレベルが違う
    というのは、ある種の必然である。
    経験や体験で培ってきたものだからこそ、周囲や現場に対しても納得感が高い。

    そのため、より上位レベルで必要となる能力は、下位層の時代に育成されたスキルや
    能力とは、質的に異なったものが必要とされる。
    上位職で必要となる能力を獲得するためには、下位の仕事をしている間に、上位者
    として必要となる力を体験的に学習させる必要がある。

    例えば、お隣の中国等でも若手を地方の要職を担わせ行政の経験を積ませている。

    重要なことは、経営幹部の人達が、自らの経営幹部に至るまでの仕事経験を振り
    返り、自分が経験した仕事の中から自分達なりのリーダーシップ経験を読み取り、
    その節目で学習したこと、獲得しえたもの等を体系化していく。
    そして、それらを人財の発掘、育成、配置等に活用していく。

    中長期にわたる教育効果の高い良質な経験をいかにデザインしていくかという点に
    焦点をあわせ、これを様々な能力開発の支援要素として位置づけるかということに
    かかる。

     "現場がモチベーション高く行動する" "現場が経営施策を積極的に推進していく"ため
    には、理屈や論理ではなく"良質な現場経験を通じて育ったリーダー"のリーダーシップ
    無しでは容易に現場を動かしえないであろう。