OBT 人財マガジン

2011.09.14 : VOL123 UPDATED

経営人語

  • ビジネスモデル転換における経営リーダーの意思決定とは

    今、日本企業の多くが、かつて遭遇したことのない環境変化に直面しているが、
    生き残るためには抜本的な改革が必要であることは論をまたない。

    その中でも、最も重要なのは、これまでのビジネスモデルの転換であろう。

    旧来のビジネスモデルから新しいビジネスモデルへの転換は、短期的には、
    トレードオフいわゆる矛盾の連続という事態を生じさせる。

    例えば、付加価値を高めて赤字を覚悟するか、
    それとも利益を優先して顧客に対するサービスを落とすかという選択に必ず直面する。
     
    ここで利益を優先すれば、コストを下げるために付加価値の質を低下させることになる。
    これは一時的には収益を改善出来るが、その結果としてサービスの質が上がらず、
    顧客を増やすことにはならない。 

    利益に起点を置いて、利益を優先するという意思決定をするか、利益を犠牲にして
    付加価値の提供を優先するという判断をするか。

    このように新しいことはそのほとんどが矛盾の連続であろう。

    然しながら、この矛盾の中で、新しいビジネスモデルを定着させるためには、
    このように利益と付加価値という矛盾を解決しなければならない。
    短期的には、利益とサービスという対立や矛盾があったとしても長期的にどちらを
    目指すのかということに尽きるであろう。

    このような意思決定をすれば、将来このような姿になるといった保証等どこにもない。

    経営戦略論の創始者の一人「アンゾフ」が「戦略的意思決定とは、
    部分的無知の下での意思決定である」と言っているが極めて当を得た指摘といえる。

    部分的といっても、
    既知のものよりも無知の部分の方が圧倒的に多い状況での意思決定である。

    では、「運を天に任せての意思決定」を行っているのだろうか? 
    或いは 「気合いに近い形で意思決定」しているのか?

    決してそうではない。

    外から見ると一見かなり感覚的で、直感的に行われるように見えていても、
    経営リーダーの側にはかなりの確信があるのである。

    この確信はどこから来るのだろうか?

    ① 深く考えていることからくる確信

     ひたすら考えることによる確信である。
     考えることによって未知への将来への予測精度が高まるということではない。
     考える過程で選択のリスクに気づくのである。
     いくつかの選択肢についてとことん考える、
     ひたすら考えることから確信が生み出されるのである。

    ② 能動的戦略観

     将来は予測できないが、創ることは出来るという能動的な意思である。
     将来を予測してそれに適応するのではなく、将来は自らの力で切り拓いていくもの
     という価値観である。
     成否を決めるひとつの要因として、このような能動的なチャレンジ精神が
     ベースであることは間違いのないところであろう。

    ③ リーダー自身の判断力を支える知性

     優れたリーダーは、間違いなくよく勉強している。
     専門知識というよりも、新しい知識と現場での長い経験の交流から
     生まれる知恵や知慮といえる。


    企業の浮沈が一人の経営リーダーの手腕にかかっていることを考えると
    経営リーダーの能力の重要性については、説いても説いても過ぎることはない。

    対立概念にあること、トレードオフにあるような矛盾を解決することが
    経営リーダーの最も重要な仕事といえるのではないだろうか。