OBT 人財マガジン
2011.07.13 : VOL119 UPDATED
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企業の経営管理手法、
現在は、ユニークな手法といわれるものが将来は主流に。株式会社21の実質的創業者である平本さんのお話をお聞きしていて、ある本を思いだした。神谷秀樹さんという方が書かれた「ニューヨーク流たった5人の『大きな会社』」という本である。著者は、大手邦銀、米国の金融グループで世界最大級の投資銀行に在職していたが、大手組織の非合理的な意思決定を目の当たりにして"自分が今後とも働き続ける組織ではない"ということで退職し、ニューヨークで自ら社員5人の投資銀行を設立。面白いのはその経営管理方法である。損益計算書に人件費という勘定科目がない。社員は株主か、契約社員のどちらかしかいないため、株主に対しては配当が、契約社員には手数料が支払われる。従っていわゆる人件費というものが存在しない。固定した給料を支払う必要がないので、たとえ一時的に収益を出せない仲間がいても解雇する必要はない。実力主義だが終身雇用なのである。神谷さんの考え方で強く共感を覚える点は、① 「人のリスク」はとらない事業の拡大を急ぎ、目の前にある収益機会を捉えるために、どんどん人を採用しては使いすてるというようなことは決してせず、会社の使命を頑なに守り、人材を厳選している。② 自分で自分を雇う損益計算書に「人件費」という項目を設けない。社員は全てIndependent Contractorとして独立しており、支払いは自分が手がけた案件収益からの「手数料」となるため、「給与」という支払項目は存在しないそうです。よって、給与やボーナスの査定をする必要もない。③ コモディティーにならない大量生産を前提とした工業社会から、知的資産を中心とした産業社会に移行しつつある現在、その知的生産の源泉は個人の頭脳である。知的資産の時代には、工場の設備や資金はもはや財やサービスの価値を産み出す主体ではなく、その地位はどこにあってもいくらでも取り替えがきく「コモディティー」に過ぎない。今後、あらゆる産業においてコモディティーは世界のベストテンに入る企業による寡占化されていく。なぜ、神谷さんはこのような仕組みを考えたのか。それは資本家に雇われたくない、過度な金銭によるインセンティブを与えて社員を働かせる手法と、一線を画したいと考えたからである。社員一人一人がゆとりをもち、熟成した考えと教養を持つことによって、真の価値ある金融サービスを追及する銀行家の集まりを目指すという高い理想を持っている。そして投資する分野も医療、金融サービス、教育と社会的意義が高い分野に絞りこんでいる。普通の人にはちょっと真似ができないかもしれない。高い水準のスキルを持つ本当に実力のあるプロフェッショナルしか働くことの出来ない厳しい組織であるが、志を同じくする仲間にとっては、最高の職場に違いない。しかし、成熟時代を迎えた今の社会にあって、企業、個人、社会のベクトルをあわせる企業統治の仕組みとしては注目に値する経営といえる。成熟化そして縮小、また多様化していく市場において、企業の経営管理手法も何を持ってしてオーソドックス、何を持ってしてユニークかという切り分けは極めて難しくなるであろう。例えば、現在の企業間競争は、自動車業界に代表されるが如く"規模は力なり"ということで"規模の拡大競争的"な様相を呈しているが、"規模は結果であり目的"ではないという認識が重要であり、逆にこのような時だからこそ、質を追求する経営が求められるのではないだろうか。現在、ユニークといわれている少数派の経営手法が将来は主流となるかもしれない。いずれにしても、これからの時代、既存の大手企業の大方がとっている極めて型通りな経営管理手法を根底から疑って見るべきであろう。