OBT 人財マガジン
2010.10.13 : VOL101 UPDATED
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経営は一日にして成らず!
先日、日本の食品業界のあるカテゴリーにおいては、NO.1の市場シェアを有する企業の経営者とお話する機会があった。本企業は、当然のことながら様々な形でマスコミに取り上げられおり、強さを支えているものとして「商品開発力の強さ」と「きめ細かい消費者ニーズへの対応」等が言われている。然しながら、お会いした経営者のお話や案内して頂いたオフィスの状況から推察するに、強さと言われている「商品開発力」と「消費者ニーズへの対応」を生みだしている背景にあるものは間違いなく顧客志向という同社の企業文化のように思えた。何故ならば、「強い商品開発力」も「消費者ニーズへのきめ細かい対応」もいずれも市場や顧客からの強い支持以外の何物でも無いからである。同社の主力商品である「割れないチップス」「生鮮チップス」等は、業界の中ではまさに先進的なコンセプトといえる。繰り返すが、このような先進的コンセプトを輩出しうるのは、まさに組織の中に強い顧客志向がないと実現出来ない。顧客志向の実現には長い長い時間がかかる。それは、企業の文化として組織全体に行き届かなければならないし、また、環境の変化に対しても絶対的なものとして組織内に作り上げられなければ、同社のような強さには行きつかないからである。今や顧客志向を標榜しない企業は皆無といえる。しかし、そのほとんどは、お題目として、形だけで顧客志向を掲げている場合が多い。ここでは、経営の繰り出す施策が現場に浸透していないのである。現場が動かない経営施策なんて全く意味をなさない。形だけ、お題目だけの顧客志向と実際に顧客志向を追求し、実行している場合とはその結果に大きな違いが生じる。顧客志向の実現には、長い時間がかかるとすれば、実現される顧客志向の具体的な形は、費やしたその時間の長さに規定される。そして、それは組織にとってかけがえのない競争優位性となる。何故ならば、結果だけをみて競合がそれを模倣したとしても、その時間や企業として経験した経路までを模倣することは出来ないからである。これらを模倣するためには、同じ経路をたどり同じ時間を費やさなければならない。先行して顧客志向の文化や仕組みを整えた企業は、後から顧客志向を目指すことになった企業に対して当然、その分だけ優位に立つことができる。また、顧客志向の1つのプロセスである情報普及の仕組みは、こうした時間に依存した競争優位性に直結している。このような情報普及の仕組みを整えるためには、多くの情報を組織の中に蓄積し、効率的に利用することができるようになっていなくてはならない。これを促進するのもまた、企業としての文化である。然しながら、官僚的体質の企業、ヒエラルキーの強い組織、そして経営の指示や意向に過剰に適応しようとする体質の企業では、真の顧客志向の実現等望むべくもない。他社でもやっているからそろそろ我が社でもといったように形だけ真似ても何らの強さや競争優位性には結実しないのである。前述の経営者が最後に私に「官僚主義の組織体質は、バランスシートを悪化させる」と言われた。これは、とても示唆に富む言葉であり、多くの企業の経営リーダーの方々は肝に銘ずべきことであろう。「やっている」ということと「優位性」とは全く次元が異なるのである。