OBT 人財マガジン
2010.08.11 : VOL97 UPDATED
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盛衰の分岐点はリスクから獲得しえた知覚的知識!
「金融危機に端を発した消費者心理の冷え込み」を業績不振の理由に挙げている百貨
店や総合スーパーの経営者は多いが、果たしてそれは本質であろうか。
勿論、そうした影響はあるであろうが、それが彼らが苦境にあえぐ背景にあるものがどう
か非常に疑問が残る。
一方で、このような状況の中でもファーストリティリング、ニトリ、良品計画といった企業群
はマーケットの支持を得て業績が非常に堅調である。
この理由として、この3社がSPA(製造小売り)業態であるからと結論づけられているが、
この結論も極めて短絡的過ぎるように思えるが、いかがなものだろうか。
ひとつには、これまでの日本企業で多く見受けられたパターンは、単に取扱商品や製品
の多様化、多品種化であり、他社よりもいかに多くの商品を市場に投入するかといったこ
とが優劣を決する。そのために問屋を組織化し、多くの小売業に販路を拡大、リベートや派
遣店員等の販売促進策をより多く活用した企業が市場シェアを拡大していくといったパラ
ダイムである。これは、サプライチェーン全体の機能を分化させ、参加企業が分化した機
能の一端を担うことにより、それぞれのリスクがヘッジ出来、生産性もよかったのである。
ファーストリティリング、ニトリ、良品計画の戦略を「リスクを賭けた縦の総合化」だとすれ
ば、百貨店や総合スーパーのそれは「自社にとって生産性の高い横の総合化」といえ
る。未だに品揃えや取り扱い商品の種類を増やすといった、単にこの横の総合化にこだわ
った戦い方をしている企業はことのほか多い。
横の総合化の場合、サプライチェーンの中の特定機能を自社が担い、他の機能は第三
者に委ねるという形になるために、得ているものも多いが逆に失っているものも多いので
ある。
例えば、メーカーであれば、在庫リスクや販売コスト等の負担からは免れるもののその一
方で「顧客のシーズやニーズ」或いは「マーケットの微妙な変化」等を把握できない。単に、
問屋の営業マンや小売業のバイヤー等に『いかに売り込むか』のスキルが強化されるだけ
に過ぎない。
また、小売業であれば、「売れる商品を創造する」「顧客価値のある商品をつくる」という
行為を第三者に委ねているため、確かに「市場変動に迅速に対応しうる」といったメリット
はあるものの、その一方で、「商品に関する技術的知識とその蓄積」がないために川上
が作ったものを「物理的なスペース介在をさせて流して通すだけ」といった単に、場所貸し
と見せ方や陳列の仕方といったスキルが強化されるのみで一体どこに付加価値がある
のか全く見えてこない。
一方で「リスクを賭けた縦の総合化」の場合、サプライチェーン全体に関わる知識が単な
る数字や頭の表層的なものだけではなく、経験を通じて獲得された体感的、或いは知覚的
な知識の蓄積が競争優位として働いているのである。
縦の総合化の代表例のひとつに通信販売業がある。
この通信販売市場が、コンビニや百貨店の市場規模を超えたという事実は、まさに変化
の潮流の一旦を示す象徴的な出来事であろう。
かつて、娯楽が不足していた時代の日本のように、休日に家族で百貨店内で一日を過ご
すといった時代はとうに終わり、成熟化経済の時代には、出来るだけ短い時間の中で、リ
スクなく、合理的な買い物をしたいという時間の価値が飛躍的に高まっている証左であろ
う。
様変わりしつつある日本、高齢化を背景とした無職世帯数が一般のホワイトカラー数と
肩を並べ、2世帯は一千万世帯を超えているという家計調査が示唆するものは、夫婦と
子供2人といったかっての標準世帯をモデルとした家族の姿の大変貌であろう。
消費の現場が、「小売業というお店」から「消費の居場所」に移りつつあるという事象の根
底にある変化に本当に気がついているのだろうか。