OBT 人財マガジン
2010.06.23 : VOL94 UPDATED
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経営者の評価と役員報酬の開示、経営者は何で評価すべきか
日本の上場企業で年間報酬額が1億円以上の役員の氏名が近く明らかになる。2010年3月期決算を終えた企業は、6月の株主総会後に提出する有価証券報告書に、賞与やストックオプションを含む前期報酬が1億円以上の取締役や監査役などの氏名と金額を記載する。従来は全取締役の総額開示でよかった。欧米で企業役員の高額報酬批判が強まる中、日本でも投資家の個別開示の要望が高まり、法令改正に結び付いた。経営者の報酬についても今後は、従業員と同様に成果主義や業績比例の割合がますます高まることは避けられない流れであろう。商法では「報酬委員会」は、社外取締役が過半数を占め、取締役や執行役員の報酬を決定する委員会と定められている。社外の方にも納得してもらえるような報酬決定の透明性が求められ、必然的に経営者評価の妥当性、客観性も必要となる。然しながら、現実的には、多くの日本企業にあって、経営者一人一人に対する評価がどのように行われているのか必ずしも明らかではなく、責任体制の面でも集団的で曖昧な面が多いといわざるを得ない。また、報酬についても不透明な部分が多く、従業員の延長的色彩が強いとともに年功的な要素も大きい。これまでは、経営者の業績評価において重視されているのは、財務指標では、売上高、経常利益、営業利益、マーケットシエア等量的拡大を示す指標やコスト削減であり、また、非財務指標では顧客満足度、組織及び事業改革、品質等である。これに対して今後のあるべき評価基準として重要度が高まるのは、収益性に関わる指標キャッシュフロー、ROE(株主資本利益率),ROA(総資産利益率),等のウエイトが高まる。また、非財務指標では、顧客満足度、組織、事業改革のスピード、に加えて企業倫理という社会的な評価基準が重視されてくる。然しながら、話はそれほど単純ではない。① 顧客満足度や従業員満足度を犠牲にして短期的な業績を優先させた経営者をどう
評価するのか。
② リストラ等により一時的な損失を計上させても、その後の中長期的な成長の礎を
築いた経営者はどう評価されるべきか
③ 同業他社が軒並み最高益を更新している中でわずかに、最高益を更新させた経営者と同業他社では倒産すら生じている中で、利益水準を維持している経営者はどちらがすぐれているか要は、業績はひとつの目安にはなっても、それだけで決して企業や経営者の評価が出来るわけでは決してない。しかし、だからといって株価や顧客満足度等の物差しを増やしていけば事足りるというものでもない。このテーマはいずれにしても、今後の企業経営やコーポレートガバナンスにとってもかぎとなる部分である。日本企業の経営者に対する業績評価基準の変化の方向性は、現在の米国企業が採用している指標に近づいていくことを示しているが、米国スタイルの「他律型統治システム」は一方で大きな弊害を内包していることも留意しておくべきであろう。いずれにしても、経営者の使命が「企業の持続的成長のための収益の確保」であることは明らかである。厳しい企業環境の中で高い業績を上げるために「経営目標」を掲げ、それを達成するための戦略を明示し、推進することが経営者の手腕である。経営者は強い使命感を持つとともに経営の質、レベルを高めるための改革を常に断行しなければならない。そのためには短期的な業績のみならず、長期的或いは将来の業績を高めることも経営者の使命である。「経営者の意欲を高めるための高額な報酬は当然であり、堂々と開示すべき」という主張はその通りであるが、開示すべき、開示すべきでないという議論の前に経営者がリーダーシップを発揮して将来に向けた企業改革を行う必要があり、そのためにまず役員から改革を始めるべきである。何故ならば、企業に対する評価はまさに経営者に対する評価そのものだからである。