OBT 人財マガジン

2010.04.21 : VOL90 UPDATED

経営人語

  • 長寿企業が示唆するもの

    今、弊協会のメ-ルマガジンで「日本の長寿企業の特集」をしているが、
    長寿とは寿命の長いこと、また、物事が長く持続している様子のことを指す
    といわれている。

     

    そのような企業群には一体どのような特徴があるのだろうか。

     

    米国のフォーチュン誌の研究によると、40年前、フォーチュン500に
    取り上げられた企業の中で40年を経た現在でも未だ当時の社名のまま

    存在している企業は、約40%、残りの60%の企業は、買収、合併、倒産といった

    道を辿っているといわれている。
    人間の寿命が概ね75年歳以上とすると企業の寿命がいかに短いかということが

    わかる。

     

    日本でも、比較的長い間、好調な業績を謳歌している企業もあれば、数千億円

    にものぼる大赤字を出したり、不祥事を起こし容易に再建出来ない企業も多い中で、
    創業100年を超える企業は、商工リサーチの調査によると全国で約20,000社
    にのぼるといわれている。

    その中には、例えば、大阪の「金剛組」、聖徳太子の時代、西暦587年に創業

    された宮大工の会社で現在まで1400年以上の歴史を誇る企業である。
    他に建設業界では竹中工務店、同社は織田信長の家来であった竹中氏によって

    1610年、尾張の国で創業され、明治になって神戸・大阪に本拠を移し今日の

    総合建設業に脱皮、まもなく400年を迎える。


    さらに、清酒醸造業にも長寿命企業が見受けられる。
    1550年創業の伊丹の月桂冠ブランドの小西酒造、京都伏見にある1637年

    創業の大倉酒造(現社名月桂冠)、灘には1662年創業の白鹿の辰馬本家酒造、

    1711年の大関、1717年の沢の鶴、1743年の白鶴等。
    呉服では、1700年創業の外与、寝装品の西川は1566年創業、金属金箔の

    福田金属工業は1700年の創業といわれている。

     

    これらの長きにわたり生きてきた企業には、企業経営上、まさに学習すべき知恵が
    隠されているのである。

     

    ■時代の変化への適応

    時代の変化に敏感であるとともに、変化に対して自社の基軸を大切にしている。
    即ち、自社の伝承された技術やノウハウが利用できる範囲でしか仕事をしていない。
     
    ・清酒醸造業の多くは、明治になり全国市場が成立すると共に、瓶詰めの酒を出荷し、
      自社のブランドを確立した。
     戦後は、焼酎、地ビールやワイン等或いは他の酒類にも進出し、最近では、

     飲食業にも進出し、  酒だけではなく、飲酒文化を売り始めている。
     然しながら、多くの企業は、清酒事業や醸造業という基軸を大切にしている。

     

    ・金属金箔の福田金属工業ももともとは、仏壇や織物、蒔絵用の金箔や金分の

     製造・販売を  行っていたが、最近は携帯電話機用の金属箔に進出し環境の

     変化に対応している。

     

    ・外与ももともとは、呉服屋であったものの、最近は婦人服ファッション全般に

     事業を広げている

     

    ・金剛組も建築技術の変化に対して敏感である。
      近年は、木造だけではなく鉄筋コンクリートの寺社建築技術を生み出している。 

     

    技術の伝承は単に古い技術を守り続けるだけでなく、技術進歩や環境の変化に

    対して新しい技術を生み出し、習得することも含むのである。


    ■人を大切にする経営

    長寿企業は働く人々を大切にしている。これには2つの意味がある。

     

    ①予期出来ない危機への対応のためには人が重要となる
    危機に対応するためには、強靭な人を残しておくことが不可欠である。
    息子が有能でなければ、若隠居させ養子をとるということもしばしば行われている。
    企業独自の力の源泉となれるのは、企業の中に蓄積された技術やノウハウで

    あるが、それは多くの場合、人によって培われる。
    独自能力を残すためには、人を育てなければならなる

     

    ②長寿企業の人に対するもうひとつの共通点は、人の弱さを良く知っている

    という点である
    それがもっとも端的に表れているのが、後継選びと資産の継承についてである。
    複数の兄弟が継承した場合に生じがちな内紛をさけるという狙いがある。


    その一方で、企業の中には一見経営がうまくいっているようでも内情はひどい病に

    冒されている企業も多い。
    これは、日常的な風土に、その停滞傾向が明確に現れ一種の中毒的な症状を

    呈している場合も多い。
    企業として衰退していく原因のほとんどは、経営者が商品やサービスという

    業績面にのみ関心が行き過ぎ、企業としての本質が人間集団にあるということを

    忘れてしまっているのである。


    何時の時代であっても、事象や現象は大きく変化しても本質的なものや真理は

    変わらないということであろう。
    本質や真理を忘れて単なる流行りの手法やスキルに惑わされている企業や

    経営者の多いことか。


    On the Business Training 協会  及川 昭