OBT 人財マガジン

2010.03.24 : VOL88 UPDATED

経営人語

  • 人という生き物への理解に対する無知と無策が組織を衰退させる!

    経営改革案や経営施策を社内に公表してからその計画の推進に大幅な

    狂いを生じさせる企業が多い。

     

    いろいろな要因はあるであろうが、この手の企業に共通する問題がある。

    それは、組織の中で日々仕事をする人間の本質に対する理解がなされないまま

    経営やマネジメントが行われ、各種分析資料が添えられた、分厚く、きらびやかな

    言葉がおどる改革案や施策を作るということには関心は深いものの、それを推進

    して実現するというプロセスになると非常に弱いのである。
    単に、改革案や施策を発表して階層を通じて下に降ろすといった旧来型の

    コミュニケーションスタイルに終始して、計画が進展していないと、現場の責任に

    帰結させているだけという実態である。

     

    要は何もわかっていないのである。

     

    1. 企業の業績とは、社員の意識と行動の有機的な結合の結果である。
       もし、彼らの気持ちや心が病んでいたら間違いなく業績も低迷する。
       原因は全ての社員の意識に存在している。
       だから、その解決策もまた、彼らの胸のうちにある、腹の内にある。

     

    2.経営改革や経営施策を達成した時、或いはそのプロセスにあるマイルストーンに

        到達した時、
     ・我が社は一体どのような状態になっているのか。
     ・我が社の風土はどうなっているのか。
     ・どのような組織にどんなリーダーが存在しているのか。
     ・そこにはどのような可能性があるのか。

    社員の立場から言えばその時「私はどのようになっているのか」等等、改革や施策に

    人の匂いや人の体温等が感じられるものでなければ人は心から動かない。
    自分達の明日が描ける計画でなければ人は決して本気になって動かないのである。 

     

    然しながら、圧倒的に多いパターンは、事業別、目標数値、課題の羅列であって

    無味乾燥な数値と字面は、ほとんどの社員の関心を惹かないのである。
    関心が無い現場、関心が薄い社員の問題ではなく、関心を持たせられない経営
    やマネジメントに問題があるのである。

     

    3.経営施策や経営改革といってはいるが、その内容は、従来路線の一部修正

      或い、は大きな木に例えれば数十本の中の数本の木をいじる程度で根や幹、

      土壌等、根本や前提を変えるにはほど遠いものも多い。
      要は、改革のためではなく、現状の延命策に過ぎないのである。
      そのために、本質的な要因に触れることはなく、表面的なパッチワークで終る。
      こういうレベルのことが続くと、労あって益なしの事実がひとつひとつ積み

      重なってくる。

     

    「何も変わらない」「どうせ変わらない」という実感だけが次第に組織の隅々までに

    行きわたる。

    何も変わらなければ、仕事のやり方も変わらないし、業績が悪い組織では

    業績も改善しない。
    そして負け戦が続くだけ。

     

    そうなると人は、もう前を向いて動くということをしなくなる。
    改革に向けての参画はおろか、逆に不信と不安感が醸成され人も組織も疲弊して

    いくだけとなる。

     

    4.職制を通して上がってくる情報に基づき物事を判断したりなすべきことを決断したり

       そしてそれがまた、職制を通して下に伝達される。
      このような組織の頂上で行われる会議や職制を通して頂上付近でなされる報連相

      等は、そのほとんどが全く意味を持たない。
      経営トップや幹部が、組織の頂きや8合目、7合目にとどまっていること自体、組織

      がすでに正常に機能しているとは言い難いのである。
      さらに、現場に足を運ぶことも欠如しているならば、それはトップの存在価値の消滅

      を意味している。

     

    改革は、経営トップが現場と共に歩まなければ実現しない。
    現場の人と目線の高さを同じくして胸と胸、胸と腹を合わせて目標を語り合う、明日を

    語り合う、なすべきことを語り合い共有化する。
    議論し、そこで起こっている問題点を確認し、その要因を見出す。
    その打開策をその場で即決定する
    そしてひとつひとつの結論を出して実行を約束する。
    実行のための支援をギャランティする。
    やれば出来るという事実を組織の中に作り、小さな成功体験を積ませる。
    成果を評価しあって共有する。
    そのようなトップの姿と行動に接して、はじめて人の心は動く。
    その火は、他の多くの現場にも次ぎつぎと飛び火する。
    自分の持てる時間の7割以上を社員の考え方と行動を変えることに傾注する。
    これこそ改革を成功に導く、トップのもっともプライオリティの高い仕事である。

     

    5.経営改革の処方箋と手の施し方は、それまでの経営の裏返しと反対方向に

      なすべき答えがあるのである。
      改革というのは、既存の体制、枠組み、システムを否定し、破壊して新しい会社と

      組織に作り変えることである。
      その方向に向かって、これまでの経営の体質と在り様を転換することである。

     

    人は、経営改革案に網羅されたきらびやかな言葉や絵に感動すること等は

    決してない。

     

    人間は、皆、頭と胸と腹を持っている
    頭は、論理、知、読み書き、計算、損得。
    胸は、志、魂、情熱、熱意、気迫
    腹は、決断力、実行力、責任感

     

    胸と腹は情意である。
    頭と情意、どちらが人の本質かといえば、間違いなくそれは情意にあるのである。

     

    才知に富んだ人、頭のいい人は一般的にシャープな人、切れる人と言われる。

     

    しかし、「あの人は度量がある」「器が大きい」「人間性がいい」「あの人となら一緒

    に仕事が出来る、苦労が出来る」「あの人の話を聞いて目から鱗が落ちた。感動した」

    等といった話は、いずれも胸と腹に対する評価であって、決して頭に

    対する評価を意味してはいない。

     

    感動という言葉がある通り、人は情意を情意で感じて始めて動くのである。
    これが人間の本質である。

     

    いかにして、働いている人達の本質に働きかけられるかで全てが決まる。


    On the Business Training 協会  及川 昭