OBT 人財マガジン

2009.08.26 : VOL74 UPDATED

経営人語

  • 監視されている緊張感が経営の質を高める

    ここにきて上場企業の間で株式の持ち合いが増加し持ち合い比率は3年連続で上昇しているとのこと。

     

    持合いの目的は、
    ・提携関係の強化
    ・グループ内の持ち合い
    ・買収に備えた安定株主づくり

     

    のいずれかであろう。

     

    バブル崩壊後1990年の始めから金融機関が株式の持ち合い解消に取り組んだため

    持ち合い比率は一貫して低下していたが、2007年のスティールパートナーズによるブルドックソース買収と

    一連の事件以降、再び増加している。


    なぜなら、ブルドックソース事件以降、買収防衛策の決議で多数の株主の意思が重視される流れが強まり

    企業が多くの株主を味方につけなければならない状況になってきたからだ。

    そこで、特に敵対的買収の脅威にさらされている企業同士が、必ずしも事業に関連性がなくとも

    株を相互保有し合うケースが増加してきた。

     

    持合いによる相互の取引の大等のメリットは期待しうるであろうが、その反面で持合いの経済的効果が

    不明確なこと更に株式評価損のリスクも高まるし、議決権の一部が凍結されてしまうため経営上の緊張感を

    阻害するといった問題も内包されている。

     

    「従前の株式の持ち合いで生まれた物言わぬ株主」が出席する株主総会は終わり、配当や買収防衛策、

    役員選任等に異議が唱えられるようなシビアな総会の出現は、投資ファンドの存在感が加速度的に強まり、

    また彼らが唱える主張に共鳴する個人株主が増えているからである。

     

    個人株主の持ち株比率が平均で2割を超え、個人の小さな一票が経営を左右する時代、

    個人株主に対するきちんとした対応が非常に重要となってくる。

    株式の持ち合いが経営陣の立場を擁護することにつながり内向きな経営の醸成と

    個人株主軽視という方向につながりがちなリスクがあるということを忘れてはならない。

     

    このような実態が個人投資家を株式市場よりも定期預金に動かされる要因にもなっているであろう。

     

    もはや、企業間で云々といった時代ではなく、経済も政治もビジネスもすべからく一人一人の

    個人の価値観に大きな影響を受ける時代となってきている。

     

    日本企業の収益構造が海外依存度を一段と高めて連結営業利益に占める海外比率は通期で3割を超え

    収益構造や収益と世界景気との連関性等からするとグローバル化が進展しているといえるが、経営のパラダイムの実態としては未だ内向きな安定といったところから脱却出来ていない。

     

    買収から自社を守るために株を持ち合うということは、短期的には合理的な施策といえるかもしれないが

    その一方で内向きな企業体質を醸成し弱体化につながるという視点は持てているのだろうか。

     

    短期的には合理的な判断を繰り返すことが、長期的には決して正しい結果にはつながらないという経営観が重要なのである。

     

    社外取締役等の仕組みをどれだけ取り入れても機能しない。

     

    市場からのシビアな目、市場からの脅威等外部の視点の活かし方次第で組織の緊張感や強さ等経営の質を高めていくことにつながるはずである。