OBT 人財マガジン
2008.06.25 : VOL48 UPDATED
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企業経営における規模のパラドックス!
日本市場の持続的縮小圧力に対応するために規模の拡大を目指して経営統合や合併等を志向する企業は非常に多い。
然しながら、本当に初期に意図した効果が上がっているのだろうか、甚だ疑問が残るところである。
規模の大きさがシェアやコスト等といった生産性や効率等といった面に有利に働くという前提であろうが、本当なのだろうか。
そして大きくなった組織を管理するための基本的組織原理は、ピラミッド型組織である。
それは上に行くほど幅が狭くなり、この頂上めがけて上り詰める少数のものには報いるが
同時に他方では、途中の踊り場や平場にとどまってしまったり、脱落したりする数多くの者は勤労意欲を失ってしまう。
この種の組織の中間層やその下にいて、誰もが彼らの意見を聞こうとせず、また、誰からも何の説明も受けない普通の社員たちからは、会社は一体どのような貢献を期待できるだろう?
彼らに影響力のある意思決定は全部が上層部で行われることを知っている。
普通の社員たちには、来る年も来る年も特別の努力を要求され、その代償によくやったというねぎらいの言葉や時として業績給が支給されるといった今日的な企業経営の在り方は本当に時代の流れに合っているのだろうか。
本質的には、複雑な製造工程を多数の単純作業に分解し、そのひとつひとつを作業員に割り当てその全てを厳格な職務記述によって組織化した科学的管理法のティラー主義の時代からの価値観が未だに今日の企業経営の根底にあるわけで、進歩がほとんどないのに驚かされる。
テイラー主義のこの殺風景な組織マネジメントの在り方は、何も製造業の生産現場に限ったことではなく金融、流通、航空、建設・土木等といった多くの業界で見受けられるものである。
それは、現場で働く人間の持つ可能性を抑えつけ、仕事をもっとも豊かで楽しくする可能性を疎外する結果を生み、現場の誰もがやる気を失わせているという事実。
ピラミッドの頂上にいる経営幹部諸侯はこのような現場の実態がきちんと理解できているのだろうか?
規模の経済という考え方は、ビジネスの世界で最も過大に評価された考え方といえるのではないだろうか。
然しながら、現実には、意外に早く規模の不経済という状況にとって代わられる。
例えば、スーパーのイオン、家電のヤマダ電機、両社に共通するのは「路線修正」である。
規模の拡大から収益重視へと転換。
全国のスーパーの売上は10年連続して前年割れ。
2007年の売上はピークから2兆8000億減少。
店舗面積は、90年から17年で約2倍に増加。
「面積は2倍となり、売上高は逆戻り」というようにスーパーの経営効率は悪化。
低迷を続ける国内の出店投資を従来より減少させ、代わりに中国を中心とするアジアの成長市場に振り向ける。
連結売上3兆円を目指し、年間30-40店の他店舗出店を続けてきたヤマダにも転機が訪れる。
圧倒的な売上高を武器にメーカーから有利な条件を勝ち取ってきた長年続けてきた元旦営業も中止。
元旦は、年間有数の売上が期待できる初売りの日。最大100億円の減収懸念もある。
「仕事と生活の調和に配慮する」という判断でパートを含む、全30000人を休みにする。
さらに休日の拡大を目指すという。
イオンも同じく規模の拡大のほころびが見えてきた。
人手不足感が進む中で労働環境の改善を優先する判断が迫られたものである。
マネジメントの多くは低下する生産性への究極の治療薬でもあるかのように、最新流行の経営手法やファッション的なやり方にあまりにも飛びつきすぎる。
現代という時代を生き抜くには、企業は時代の変化をきちんと受け止め、権威やルールではなく、人間への真の尊敬心から生まれるような経営哲学や組織構造を持たなければならない。
言葉を換えれば、これからの成功する企業とは、人の生活の質を最優先する企業である。
まず、この目標の実現に努力すれば、商品の質、サービスの質、社員の生産性、会社全体の利益というものは自然とついてくるものである。
重要なのは自社の経営姿勢が外に向かってきちんと開かれていて、社員を信じることである。
"真の成長とは単なる売り上げ規模や社員の数の増加といった膨張とは異なる、成長とは膨張ではない"という認識が重要である。