OBT 人財マガジン
2008.01.30 : VOL38 UPDATED
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企業経営を律する本当の力は何か
相次ぐ企業の不祥事の発生に対して日本版SOX法をはじめとする一連の内部統制やコンプライアンスのために各種の施策や法令が相次いで打ち出され企業として遵守しなければならない多くのルールが制定され、各企業ともその推進に多大なパワーを費やしている。
いろいろな問題が生じる中で企業が社会的責任や道義的責任を全うしなければならないことはいうまでもないことであり、ルールを守らなければならないことも至極当然のことではある。
然しながら、企業改革法を始めとするこれらの施策や法令を遵守すれば本当に不祥事は生じないのであろうか。
極めて疑問が残る。
企業に社会的倫理や道徳的規律の遵守を強く求めれば求めるほどルールを守るということが目的化してしまい、内部告発が生じる本質的な要因である"組織の脆弱性"への関心が遠のいてしまうことが懸念されるからである。
何故ならばこれらの不祥事のほとんどは組織内部からの告発といわれているからである。
組織の中で生じている不正や違反に直接・間接的に接している社員や非正規雇用者からの情報であるから真相に近いであろうし且つその全体像もたちまち世間に知れ渡ってしまう。人事制度を改定すれば、成果主義を導入すれば"組織の競争力と社員の活性化がもたらされる"という誤解が招いたものは、"競争力でも活性化でもなく我が社からの社員の急速な帰属意識の薄れ"という皮肉な結果であった。
これにより、もはや"不正や違反に目をつぶるといった旧来型の社員の忠誠心"は期待すべくもない状況であり、とすると今後も内部からの告発は増え続けるであろうし、これがある種のガバナンスとして不正抑止効果として機能する可能性も大である。
組織内部の不正やミスが告発されるという状況は企業経営にとっては極めてショッキングなことであるが、これらの不正やミスは、必ずしも昨今になって生じていることではないということを前提に考えた場合、その有効な対策は本当に各種の施策や法令の制定なのであろうか。
また、これらの施策や法令等を機能させるためのコンプライアンスへの対応の仕組みはどこの企業でも簡単に作れるが、それらが本来の目的どおり機能しうるかどうかは、社員の活力とモラル意識を高め、社員が不正やリスクを自発的に対応しそれを低減させていくような風通しのいい企業風土を体質化
させていくことが不可欠なのである。運用は、まさにその企業の風土に規定されるし組織の実態そのものといえる。
社員一人一人がコーポレートブランドの「小さいが大きい窓」になっていること、即ち社員一人一人の言動そのものが顧客をはじめとする社外のステークホルダーに対するイメージやコーポレートブランドの大きな毀損等を決定づけることをきちんと認識することが重要なのである。
人事制度の改定や成果主義の導入が、組織や人財に予期せぬ悪影響を与えたように、各種の施策や法令の制定のみに終始することが、企業経営を律することにつながるのであろうか。
経営や組織の本質的な課題解決への関心を遠ざけ、単なる"その場しのぎ"に終わってしまうことを危惧するのは我々だけであろうか。