OBT 人財マガジン

2007.11.21 : VOL35 UPDATED

経営人語

  • 内向きな競争が企業の競争力にもたらすもの!

    企業組織における人材の分類方法はいろいろな方策があるが、
    例えば、仕事の成果をその基準においた場合、
    「稼ぐ人」「安い人」「余る人」の三層のような分類方法も成立する。

    稼ぐ人とは、ビジネスを創り出せるようなハイパフォーマー
    安い人とは、ごく当たり前の成果しか出せないアベレージパフォマー
    余る人とは、何の成果も出せないローパフォーマー
    といえる。

    これから先、安い人は人件費の削減対象、余る人とは全く仕事が
    なくなっていく人になる可能性も極めて高い。

    日本の企業組織の多くの人達は、安い人にもなりきれず、さりとて稼ぐ人
    にもなりきれないというのが実態ではないだろうか。
    つまりその大半は、余る人ということになる。

    要は、そこそこの社会人ということだけであって
    決してビジネスマンとはいえない。

    今、どこの企業でも成果主義を導入している。
    雑誌や新聞等でも「こんなユニークな人事制度を導入した」という
    紹介記事はよく見かけるが、「成果主義を導入しこんなに競争力が高まった」
    という成功事例にはついぞお目にかかったことがない。
    これが、日本の企業組織における成果主義の実態であろう。

    その原因は、「成果主義的な制度を作り自社に導入することを最終ゴール」
    と単純に位置づけてしまい、競争力のアップや組織力の強化を最終ゴールと
    していない企業が多いからである。

    多くの企業が成果主義を導入の最終ゴールとしているのは、

    ●成果の大きさに応じて社員の評価・給与にメリハリをつける
    ●成果を生み出さない人材の給与・ポジションをアップさせない。
    ●より客観的で正確な評価が出来る管理者を育成する。

    然しながら、これらはあくまでも成果主義を導入する上での
    インフラにしか過ぎない。

    成果主義はあくまでも手段であって目的は、企業としての競争力を
    高めることにある。
    その競争力とは、人件費の削減による財務的な競争力ではなく、
    人財そのものの競争力である。
    より競争力があり、市場価値の高い人財が育ってこそその制度が
    成功したといえる。

    社員が「新しい制度をその通りきちんと運用すれば、成功」と考えている
    企業がいかに多いことか。

    経営サイドや人事部門がそのような勘違いをして、やたら面談や
    書類提出を組み込んだ制度を導入し、それを確実に実施することを
    現場に強く求めているケースが非常に多い。

    この場合、制度としては完璧かもしれないが、これだけの制度を運用
    しようと思ったら、評価の時期に管理者は部下の評価をつけることに
    忙殺されてしまう。
    管理者の最大の責任は、担当組織やチームの成果を最大限向上させる
    ことにあるにもかかわらず、経営サイドや人事部門の論理だけで考えられた
    制度といえる。
    これでは、競争力どころか、管理者のエネルギーは、社内事情にばかり
    割かれ、結果的に組織や人財の競争力を下げてしまうことにつながる。

    多くの調査でも業績評価制度、つまり成果主義を導入した企業の内、
    うまくいっていると答えた企業は、わずか1割程度にとどまっている。
    逆に、
    ●社員の評価に対する納得感が得られていない。
    ●評価によって労働意欲が低下している。    

    手段と目的をはきちがえた成果主義は組織や人財の競争力はおろか
    かえって混乱を招いているだけである。

    成果主義がうまく機能しないもうひとつの要因は、評価者である管理者の
    マネジメント能力の強化を最終ゴールにしたことにある。
    多くの企業は、評価者の評価能力の向上に力を入れており、評価の責任の
    100%は評価者に帰結するという考え方である。
    客観的に評価し、それを本人にフィードバックして納得させるところまで全てが
    評価者の責任とされている。
    然しながら、本来、いちいち上司から評価されなくても、自分の貢献度、
    能力ぐらいは自分で理解できるようなセルフマネジメント力が重要で
    日常の業務を遂行する中でそのことを強化することが最も大事なことなのである。

    評価への納得感を高めるためには、本人がどのような貢献が必要なのかを
    自分で理解し、言われなくてもそれを達成するための行動を自ら起こす。
    もうひとつ、大事なことは「説明責任」であろう。
    自分が生み出した成果や自分が取った行動を具体的にきちんと周囲に
    説明出来るということいえる。

    このような力を高めることこそ組織や人財の競争力を強化する本質なのである。

    いずれにしても、企業組織という囲いの中で単に評価や給与にメリハリを
    つけるというレベルで競争力等つくのだろうか?

    見方を変えると単なる内向きの競争を加速しているに過ぎないといえる。

    On The Buisiness Training 協会  及川 昭