OBT 人財マガジン

2007.11.06 : VOL34 UPDATED

経営人語

  • 日本の競争力低下の背景にあるもの!

    世界経済フォーラムの「2007年版世界競争力報告」によると日本の競争力が
    八位に後退したということである。

    -ドラスティックな改革の必要性-
    競争力を何で定義するかによってその結果は大いに異なるであろうが、
    極めて感覚的な捉え方ではあるが現状の日本にはとても国際競争力など
    あるとは思えない。

    因みに企業組織を例にとって考えても、仕事柄「社員に危機意識を持たせたい」
    「組織を活性化したい」と言われる経営者の方々にお会いする機会は多い。
    そのような場合、私は必ずといっていいほど「では思いきって新旧交代させて
    ドラスチックに若手を登用したらどうですか?」と提案すると大方、交代させら
    れた古手や登用されなかった他の社員モラルダウンが必ず議論に上がる。
    そして「そのようなやり方はウチには合わない」というのが常套な回答である。

    然しながら、企業にインパクトを与えるようなモラルダウンが本当に生じるか
    ということになると非常に疑問であるし、そしてどのようなやり方なら我が社に
    フイットするというのであろうか。

    こういった経営者の方々の背景にあるのは、本質的にはドラスチックな変化を
    望んでいないのである。ドラスチックな変革を行わずして
    "どのようにして社員に危機感を持たせるのだろうか?"
    "組織を活性化するのだろうか?"

    いい方策があるなら逆に教えて欲しいと思うのである。

    全員一緒にという考え方は確かに美しいが、
    多くの企業が「優勝劣敗のルールを変えて戦いに勝ち残るか」
    或いは「皆で痛みを分け合いながら戦いに負けるか」という選択を迫られている
    という認識が欠如しているのではないだろうか。

    本質的な問題は、
    「皆仲良くできるだけ脱落者を出さないようにという考え方やスタイル」が
    自らの競争力を大きく低下させているのということである。

    -生産性の向上、競争力強化のために-
    1997年のアジア経済危機が発生してから10年を経過。
    中国は成長を安定軌道に乗せ、韓国は経済危機をいち早く脱し
    強い経済基盤を作った。
    両国に共通するのは大規制緩和や徹底した競争原理の導入であり、
    国内での競争条件を確保してこそ始めて世界で通用する強い企業や
    人材が育つという考え方に立脚している。

    日本の場合、競争原理の導入等言った途端に地域格差や所得格差の議論が
    生じ競争がいかにも悪のごとき言われ方をする。
    それは、まさに共同体意識の"内部が有利"だった時代のパラダイムといえる。

    格差社会を云々するのではなく、生産性が低い地域や分野から付加価値が
    生じる地域や分野へ人材を再配置していけば、日本全体の生産性は
    間違いなく向上すると考えられる。

    付加価値が高い分野と生産性が低い分野を同居させている日本、付加価値の
    高い仕事をしている人材と生産性の低い仕事しかしていない人材を
    同居させている企業等""いずれも全体の競争力を低下させている"という
    認識が非常に薄い。

    そのことが"上昇意欲のない若者""自己啓発意欲のないビジネスマン"
    "自律性のない依存的な人種等"そこそこの人生でいい"という価値観を
    醸成させているのである。

    -リアリズムと危機意識-
    今、日本企業の中で成果主義の悪弊を指摘する人達もかなり多いが、
    日本の大手企業の中での競争等は所詮"競争ごっこ"にしか過ぎない。

    競争に負けたからといって一時的に評価が下がるか、左遷されるといった
    程度のもので首になるわけでもなく、家族が路頭に迷うわけでもない。

    然しながら、自ら創業し金融機関に個人保障を行い、企業を経営している
    人間は、失敗したら社会人として瀕死のダメージを受けるし、全てを失い
    家族を路頭に迷わせたり生命保険で借金を返済するべく自殺する人も
    現実に存在する。
    この種の人間は、競争の怖さや凄さを体でわかっているので本当の
    危機意識を持っている。

    このような人間から見ると、今の日本の政策や企業内の競争等は
    "全てバーチャルな戦い"に見える。バーチャルだから甘いのである。

    また、危機意識等といっても全く経験に裏打ちされたリアリズムがないので
    これもまた単なるバーチャルな世界の話に等しい。
    だから本物の危機意識が持てないのである。

    -動物園からサファリへ-
    危機意識を持たせ競争力を持ちたいなら、組織を離れ、後ろ盾もブランドも
    使えない中でシビアな世の中の風にあたり自分一人の意欲と力だけで自分の
    給料を稼ぐことの大変さを味わってみるべきである。
    そのリアリズムを持つことが紛れもなく危機意識や競争力に結実していくのである。

    "動物園に囲い込まれ定期的に食事を支給されている動物のだらんとした
    メタボリックな体質"から"アフリカのサファリの常に危険な状況の中で
    自らの餌は自らの知恵と力で勝ち取るというスリムな体質"に転換しない限り
    真の危機意識は生じないし競争力は向上しないであろう。

    "保護措置は競争力を喪失させ危機感を喪失させる"ということが
    本質的な問題なのである。

    変革のための改革とは"動物園をやめてサファリに移行する"ことから始まる。

    On The Buisiness Training 協会  及川 昭