OBT 人財マガジン

2007.02.28 : VOL17 UPDATED

経営人語

  • 企業経営と認知的節約!

    昨今、"経営やマネジメントもその本質は心理学である"といわれているが、これらがすべからく人によって行われ、その影響を受けるのも人であることを考えると、まさに云いえて妙といえる。

    心理学といえば、人間には"認知的節約"という願望があるという。
    認知的節約とは、ある成果を得ようとする場合に、成果に至るプロセスを省いて、省略して一気に成果に辿り着きたいという願望だそうだ。
    言葉を換えれば、どのような成果であってもそれらを手にするためには、一定の努力や手間ひまが必要であるが、それらを省略して即欲しい成果を手にしたいという志向であろう。

    このような観点で考えてみると、この手の事象は我々の回りの至るところで見受けられる。最近強い非難を受けている、あるテレビ番組が高視聴率を得ていたというのも、健康器具や英会話教材等の広告に誘引される心理も、さらには裏口入学や公共工事の談合等への行動等は、すべからく認知的節約といえるだろう。また、成功企業について書かれたビジネス本の氾濫等も、その会社の経営やマネジメントの中に秘策を見出して自社でも実施し、競争力のある企業になりたいという心理であろう。
    要は、成果を得られるような能力を日々培うために努力するとか、強い企業体質作りに向けて時間をかけて取り組むという志向ではなく、近道して汗をかくことなく成果に結実させたい。といういずれも"認知的節約"の心理といえよう。

    これはまた、思考面でも同様のことがいえる。
    人間というのは、手馴れた思考の範囲内では無意識のうちにも実に多くの情報を処理しながら、多くの仕事を器用にこなすことが出来る。
    然しながら、慣れていない考え方や不慣れなやり方となると、思考がゆっくりとしか働かなくなる。
    ゆっくりとしか働かなくなると、時間を要するのでそのプロセスを省き、時間と労力を節約しようとする。
    結果として、即結論に飛躍したり、テーマを変えようとするのである。
    この「考える時間と労力を節約しようとする」考え方が、失敗する人間や組織に共通するパターンである。
    要は、ここでも認知的節約をしようとしているのである。

    これまでの状況では「A」という考え方や行動の仕方が有効であったが、別の環境では本来「B」という考え方や行動をしなければ適確な対応が出来ないにもかかわらず、これまでの状況や環境で通用してきた考え方ややり方が、別の状況でも通用すると考え、思考ややり方を変えずに対応するので失敗するのである。

    厄介なことは、経営でもマネジメントでも、人生でも何時でも同じ考え方や行動の仕方が使えるわけでは決してない。
    重要なことは、「状況や環境というのは、自分達の考え方や行動の仕方に対応するように起きているわけでは決してない」ということである。

    素人とプロの違いは、その状況や環境の理解度と対応の仕方を見ると大方わかる。
    素人は、差し迫った問題や今生じている問題そして自分が関心ある事柄のみに集中したがる。
    そして、そのような行動がやがてもたらすであろう副次的な問題については考えないのである。
    この副次的な問題は、直ぐに目に見える形で現れる場合もあれば、かなりの時間を経過した後にその影響が出てくるという場合も多い。

    経営やマネジメントにおいて課題や問題に適切な判断や対応するために大事なことは、知的能力を開発することではなく、いかに常識を開発・発達させることではないだろうか。

    優れた常識のみが、経営やマネジメントから認知的節約を排除出来る、唯一の答えではないだろうか。


                                   OBT協会   及川 昭