OBT 人財マガジン
2012.07.25 : VOL144 UPDATED
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第二回【成長の瞬間】背景を理解することで成長する
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NKSJシステムズ株式会社
開発第二本部
満期・証券グループ
主任システムズ・エンジニア
有賀 千恵美さん
"育つ人と育たない人"の差は何なのか?OBT協会では、人が成長するのは仕事の場での経験・体験だと考えています。そこで、今回我々は第一線で働くビジネスマン達にどのようなプロセスを経て育ってきたのか、その成長の軌跡について伺いました。(聞き手:伊藤みづほ、菅原加良子)
【プロフィール】
有賀 千恵美(CHIEMI ARUGA)
1976年生まれ。短期大学卒業後、ニッカシステム開発(現:NKSJシステムズ)に入社。入社以来火災保険をはじめとした損害保険の契約満了時に関わるシステム(満期システム)の開発・保守に携わる。
NKSJシステムズ株式会社(http://www.nksj-sys.com/)
コンピュータおよび関連機器による情報処理サービスの受託業務、ソフトウェアの開発受託および販売業務等幅広く手がける。2011年4月 株式会社損保ジャパン・システムソリューションとエヌ・ケイ・システムズ株式会社が合併し、「NKSJシステムズ株式会社」に社名変更。
資本金/7,000万円、従業員数/1,311名(2012年4月1日現在)、売上高/307億232万円(2011年3月期)チャンスを活かす
────今回は"人が育つ成長プロセスとは"というテーマで皆さんに取材をさせていただいております。同じものを見てもそこから何か気づける人と、何も気づけない人。そして、同じ環境にいても自ら育っていく人と育たない人がいます。その違いは何なのか?我々は、その真理を探るべく、実際に育ってきた人達にインタビューをし、どういったプロセスを経て成長したのかをお伺いしたいと思っております。是非、有賀さんご自身の成長についてお話をお聞かせください。まず、有賀さんの成長に大きく影響を与えたものや出来事はなんだと思いますか?
一番影響を受けたものは職場の環境です。たまたま、恵まれた部署に所属していたと思います。システム開発は「システム化要件定義」「外部設計」「内部設計」・・・(以降省略)と段階を踏んで開発が進んでいきますが、昨年合併するまでは、外部設計以降の工程を主な業務とする部署に所属していました。そういった環境の中で私はシステム開発では上流工程と呼ばれるシステム化要件定義を行う親会社の情報システム部門で仕事をする機会を2回頂けたんです。それが、仕事の流れ全体を見るよい経験であったと思います。
1回目は入社して2年目からの3年間でした。自社の仕事内容もあまり理解していない状態でしたので、実際には雑務や電話応対がほとんどでした。ただ、上流工程の仕事をする方々を間近で見ることで、自社に戻ってからどういう過程を経てその仕事が依頼されたのか背景を意識するきっかけとなりました。2回目は入社7年目の時で、自社での経験を積み、上流工程で必要なことがイメージできる状況でした。その上で実際にユーザーとの折衝や、社内の関連部署との調整などを経験させていただき、具体的に必要なことがわかるようになりました。入社以来、担当するシステムは変わっていませんが、システム開発における全工程を経験したことが、背景を含め全体を考えることに繋がっていると思います。再度自社に戻った時に、全段階に携われた経験からわかった様々なことでシステム開発を考える視野が広くなり、積極的に提案などが出来るようになりました。
────部分だけを見て仕事をするのと、全体を知った上で部分の仕事をするのでは、仕事の捉え方が変わり、今まで繰り返し行ってきた仕事であっても、いろいろと気づくことがあるかと思います。出向は全体を見る非常にいい経験になったんですね。しかし、そういった経験をみなさんされているのでしょうか?
いえ。ずっと同じ仕事を担当している社員もたくさんいます。私は、たまたま短期大学で情報処理を専攻していたので、入社時のシステム開発研修では優秀に見られていたと思うんですね。入社前に勉強していたからですけれども(笑)。そのため、親会社の情報システム部門から人員の要望があった時に、上流工程を勉強するのもいいだろう。行かせてみようと言っていただけるきっかけがあって。運がよかったと思います。ただ、私自身もなるべくそれに応えたいと思い、多少辛くても諦めなかったところはありますね。そこで『ダメだ、出来ません』といってしまったら次のチャンスはなくなっていたと思います。
────自分の限界を自分で決めないということですね。しかし、やはり無理だと感じる案件なども少なからずあると思うのですが、そういった際はどうされたのですか?
その時には同僚や周りの先輩に相談をして、乗り越えてきましたね。自分一人では出来ないことでも、とりあえずは引き受けてみる。全部出来ることが一番よいのですが、"全部出来る"か、"全然出来ない"ではなく、"何が出来るか"を探すことを心掛けています。出来ないことはそれに代わる提案をしたり、自分だけでは難しい部分は他の人に協力してもらうなど出来る限り期待に応えていくことが次のチャンスに繋がると思います。
難しい問題に直面した時に、必要な知識や経験を与えて協力してくれる上司や同僚にタイミングよく巡り合ったと思いますね。自分自身で何かを勉強して成長したというよりも、周りに助けられて乗り越えてきました。よい仕事をしようと高い意識を持った方々と一緒に仕事を出来たことで、考え方が変わったのだと思います。
────何かを学ぶ、また、成長する上で、上司との関わりは非常に大きいと思うのですが、上司はどういった方だったのでしょうか?
広い視野を持っている上司や、仕事を任せてくれる上司が多かったんです。例えば、私の視野を広げるきっかけとなった上流工程に携わる経験を今度は後輩にも経験させたいと思い上司に相談したところ、すぐに機会を作っていただけました。それも、上司の方で全部手続きをするというわけではなく、『有賀さんの提案はよいことだと思うから、組織全体への効果もよく考えて正式に提案書を書きなさい』と。自分で最後まで責任を持ってやり遂げることを大事にしていただけたことが、成長に繋がったと思います。
────任されることによってモチベーションが上がりますよね。それと同時に責任感もより一層強くなると思いますが。
そうですね。実際に書いてみると会社に提案するには考えが浅い部分がたくさんありましたが、不足する部分には、私自身が納得できる答えを導きだせるまで繰り返しアドバイスを頂きました。誰かに言われたのではなく自分自身の考えで作ったものですし、また、任せてくれた方のためにも、提案書を実現するために自ら行動しようと思う気持ちも増しました。このような出来事を何度か繰り返すうちに経営層の方々にも名前を覚えていただくことができ、社内のプロジェクトに参加させてもらうということもありました。その時はいろいろな部署の方や、経営層の方とも話しをする機会があって、そこからまたいろいろな考え方を学べたと思います。
────上の方と話をすることによって、見え方や考え方が変わる経験はありましたか?
そうですね。通常システム開発をしていると、なぜそのシステムを作っているのかというよりも、目先の仕事を完成させることに目が行ってしまい、言われたことだけをやり遂げようと注力してしまうことがよくあります。このシステムはユーザーにどのように活かされるのか、どのような効果があるのか...そういうことを忘れがちになってしまうんですね。
ただ、上の方はもっと広い視野で見ていて、"お客様に満足いただく為にはどうするか"、小さいシステム一つ一つの開発についてではなく、広く全体を見て何をすべきか考えていらっしゃいます。そのような話を直接聞く機会に恵まれたことがよかったと思います。この経験が新たに仕事を任された時に、担当するシステムだけでなく、関連する他のシステムや、最終的に使用するお客様から見た時の効果等を考えながら仕事するきっかけとなりました。
────しかし、いくら上司に恵まれていても、そのチャンスを活かせる人と活かせない人がいると思います。有賀さんは元々、積極的に行動をするタイプなのでしょうか?
いいえ。どちらかといえば消極的だったと思います。若い頃、一緒に仕事をしていた先輩に行動力のある方が多かったため、仕事は積極的に取組むべきものだと考えるようになりました。それはリーダー層だけではなく年代の近い先輩方が手本を示してくれたため、仕事を進めるために必要な行動の仕方が自然と身に付く環境だったと思います。
周りの人を通して、今の自分を知る
────仕事に対する目線や基準が高い方々が周囲にいたんですね。
そうですね。社内を見てもたまたま私のグループにはそういうメンバーが多かったと思います。当時、会社の部署の中で1.2を争う忙しさで、配属が決まるとみんなショックを受けるという大変なところだったんです(笑)。でも、大変だからこそ、みんなで助け合っていこう、どうしたらもっと仕事や職場環境がよくなるのかを考える機会が多かったのだと思います。多忙な中でも、効率的に質の高い仕事をするために様々な取組をしている先輩や、ヤル気のある後輩に囲まれて、"頑張らなくてはいけない"と常に考えるようになりました。
ただ、その結果、頑張りすぎてしまい4~5年前にダウンして長くお休みをいただいたんですね。その後復帰してみたら、休んでいる間も後輩がそつなく仕事を進めていてくれて、今まで何をそこまで頑張っていたのか自分を見つめなおす機会となりました。自分だけで"頑張る"ことに意味はない。人に任せるところは任せなくてはいけないんだ、とその時初めて感じましたね。それからはあまり気負わなくなりました。
────頑張り方が変わったということですね。具体的にはどのように変わったのでしょうか?
やはり組織で仕事をしているので、一人ひとりが頑張るのではなく、全体の頑張りが力になるのだと気付きました。みんなでどう頑張っていくか、より一層チームワークを考えるようになってきましたね。休む前までは、自分が旗を振って、みんながそれについて来ればいいと思っていました。そうではなく、私がやるべきことは、チームとして最大限の力を発揮するためにどうすればよいかを考え、行動すること。それは、後輩が自分で考えて行動できるように手助けをすることだったり、みんなが考えた中で最もいいものを選んでやっていこうとか。良い方向へ仕事を進めるためには、チーム全体のバランスを見ながら一人ひとりの能力を活かすことや伸ばしていくことを考えることが大切なんだと気付きました。それがわかった時にチームで仕事をするということがすごく大事なんだなって改めて思いましたね。
────そうですね。一人では限界がありますよね。企業では組織力強化が重要課題になってきています。有賀さんは組織の中で、自分が頑張ればいいという立場から、人を育てていくことが求められる立場に変わっていったと思いますが、それは大きな転換期だと思います。難しいことや、大変だったこと等はありますか?
ありますね。私がリーダーとなって数名の後輩と一緒に開発をする場面では、みんな一人ひとり苦手なところは違うし、同じように教えても同じようには伸びていかない。なぜ出来ないのかわからずに悩むこともありました。
問題を解決するために当時は"リーダーシップとは"とかいうハウツー本を買ったりだとか、"会議をするときには"、"効率的にするためにはどうするか"という本を読んだりしていました。それでもなかなか解決には結びつかなくて、私はリーダーには向いてないなと、限界を感じていました。そんな時期に、会社からOBT協会さんの次世代リーダー研修に参加するよう声を掛けていただいたので、なぜ選んでいただけたのか不思議に思っていました。
────初めの自己紹介の時にもそうおっしゃっていましたよね(笑)
そうですね。でも、研修を受けてわかったことは、自分が学ぼうとしていた範囲が狭かったとか、答えを求めようとしすぎていた。考え方を学ぶのではなく、問題をすぐに解決できるような知識ばかりを求めていたことがいけなかったと気が付きました。それに、システム開発は一般常識を知らなくても言語とかシステム周りの知識、またユーザーの業務に関する知識があればできると思っていたんですね。
でも、それじゃ本当に質の高い物は作れなくて。よい物を作るためには、一般常識的なことはもちろん広く世の中を知って、自分や会社、今の仕事は世の中の流れに沿っているのかを考えるようにもなりました。自分自身の限界ではなく、今までの学び方に限界があった。まだやるべきことは沢山あるとわかりました。
────研修を受けて自分が変わっていく実感ってありましたか?
それはありましたね。全8回の研修でしたが、初めの頃は今まで自分で勉強してきたことと全く異なる講義内容に戸惑いばかりで、受講するのが憂鬱でした。それが回を重ねる毎にちょっとずつ楽しいかもって(笑)。世の中の見方や物事の考え方が広がるのを感じました。それと、研修の一環として職場に戻ってメンバーに(上司、同僚、部下を交えて)フィードバックすることが宿題でしたよね。研修受講当初は業務が忙しい時期だったので、少人数で実施するつもりだったのですが、上司からもっと人数を増すよう言っていただいたので、その後押しがあって、人数を集めてじっくり話し合いをすることが出来ました。
その中で私の考えと違った様々な話しを聞くことができ、また新しい考え方を学ぶことができました。特に後輩からの今の業務に置換えた意見や提案には、とても刺激を受けました。改めて、考え方、発想の豊かさなどは年齢や社歴に関係ない。怠けていてはすぐに追い抜かれてしまうと感じています。研修で学んだ内容を通して、周囲の方々と時間を共有し、会社や組織全体を考えるきっかけができたこともよかったと思います。
────研修で学んだことが少しずつでも職場で波及していると聞くと我々も非常に嬉しいです。本来、研修で考え方が変わっても職場に戻ると、日々の業務に追われ、折角得た新たな物の見方、考え方が元に戻ってしまうことはよくあることです。しかし、職場全体で考え方が変わって行けば、会社は確実に変わると思います。最後に有賀さんが仕事で大事にしていることってなんですか?
どんな仕事でも、その背景を深く知ることが重要です。物事の本質がわからないと本当によい仕事は出来ないと思いますね。あとは、楽しんで仕事をすることも大切にしています。生計を成り立たせる上で不可欠だから仕事をしているというのがホンネです。ただ、それをイヤイヤやるのではなく、いかに楽しめるかで日々の充足感は変わってくると思います。
私にとって"楽しむ"ということは、楽をすることではなくやりがいのある仕事をすること。少し難しいことにチャレンジして成功した時の達成感です。周囲から感謝の言葉をいただいたり、携わった仕事がキチンと役に立っていることがわかった時が、自身の成長を感じ、楽しいと思う瞬間です。後輩にも同じように仕事を楽しいと感じる機会を持ってもらいたい。そのために、少しでも手助けができればいいなと思っています。
────有賀さんは様々なきっかけを通して、物事の背景や本質を知る重要性を学んで来られたんですね。貴重なお話をありがとうございました。
インタビュー後記
日々行うルーティンワークは、馴れで出来てしまう。それを自分は仕事が出来ると思い込んでいる人はことのほか多い。然しながら、それは"無価値な熟練"を行っているだけで、自身の能力が上がっているかというとそうではない。同じ作業をするのであっても、表面的なものの理解で仕事をする人と、背景を理解して仕事をする人では、おのずと結果は違って来る。つまり、どれだけ高く・広い視点で自分の仕事を捉えられるかで、仕事の完成度も変わってくるのだ。然しながら、これらは見ようとしなければ、見れないのだ。今の自分の仕事に満足をしている様では、新たな気付きは入ってこない。常に、周りを意識するアンテナを立てることが自身の成長に必要不可欠である。
聞き手:OBT協会 伊藤みづほ
OBTとは・・・ 現場のマネジャーや次世代リーターに対して、自社の経営課題をテーマに具体的な解決策を導きだすプロセス(On the Business Training)を支援することにより、企業の持続的な競争力強化に向けた『人財の革新』と『組織変革』を実現している。
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