OBT 人財マガジン

2010.07.28 : VOL96 UPDATED

人が育つを考察する

  • 第一回【自律型人財-後編】関係した人の関わり方によって育ち方が決まる

    • 「自ら課題を発見し、その課題解決に向け、周囲をリードしながら主体的に行動できる人財」。今、多くの企業がそんな"自律型人財"を求めて います。どうすればそのような社員が育つのか。ヒントを求めて、現場で活躍する若手リーダーを訪ね、成長の軌跡を伺いました(聞き手:OBT協会 伊藤みづほ)

      シリーズ──「自律型の人財」の成長プロセスとは (第一回-後編)

       

      株式会社ベジテック 営業第3グループ課長
      大野真大さん(38歳)

      大野さんは、青果物商社大手のベジテックで新商品開発プロジェクトを担う若手リーダー。19歳で入社して野菜の配送担当からスタートし、大手スーパーから低迷していた注 文拡大などの数々の偉業を成し遂げてこられました。何が大野さんに影響を与え、自律的な人財へと導いたのか。じっくりとお話を伺いました。

    • おおの・まさひろ

      1972年生まれ。中学・高校では野球部員として活躍し、高校卒業後に青果物商社の多摩サービス(現・ベジテック)に入社。配送担当、大手スーパーの営業 担当を経て現職。「国産たけのこの水煮」など、新商品の開発プロジェクトのリーダーを務める。

      株式会社ベジテック http://www.vegetech.co.jp/

      青果物の大手専門商社。加工センターや流通センターを全国的に幅広く展開。産地開発にも積極的に取り組み、安心・安全で新鮮な野菜・果物を 供給している。設立/1969年、資本金/4億3,750万円、従業員数/554名(臨時社員含、2010年4月1日現在)、売上高/542億円(2009年3月期)

    • 「この人は本物だ」と感じる経営者に出会う

      伊藤 最初の上司である"親方"の教えや、大手スーパーを担当したときの上司に学ばれたことなど(前編参照)、大野さんの仕事に対す る自律的な姿勢は、上司の方々の影響によるところが大きいのですね。

      大野 もう一人、俺のサラリーマン人生を変えたのが社長(遠矢康太郎 代表取締役社長)です。2008年に名古屋のある会社から社長と してうちに来て、初めて会ったときにこう言われたんです。「お前みたいにモノをはっきり言う奴は嫌いじゃないよ」と。実はその直前、会社の経営方針に納得できなくて、 反発していまして。そんな最中の社長交代で、新社長はそれを聞いていたんですね。続けてこう言われました。「文句を言うだけなら誰でもできる。プロジェクトを1つ担当さ せるから、力のあるところを見せてみろ」と。

          

      伊藤 どんなプロジェクトだったのですか。

      大野 新しい冷蔵システムの導入です。「お前らは相場がどうの、天気がどうのというけれど、鮮度を維持できる冷蔵システムがあれば 、旬のものや豊作で大量に収穫できたものを保存できれば、消費者の方々が手に入れにくい時期に提供できるし、生産者の方々にも無駄な廃棄をさせないですむ。相場が安い ときに仕入れて、高くなってから売ることもできる。そうすれば、利益が伸ばせるだろう」と。そんな夢のような話が本当になったらいいなとは思いましたが、"プロジェク ト"なんて聞いたことはあってもやったことはない。しかも、大学院卒の研究員と組めと言われて。俺は学がないでしょう。どうしよう、と。

      そうしたら社長が、「サラリーマンなんてのは、人生に3回くらいチャンスがあればいい方なんだぞ。そのチャンスが早々に来たんだ。挑戦してみ たらどうだ」と言うんです。それに、社長が今後ベジテックをどうしていきたいかという話も聞いて、すごくワクワクしました。言うことに筋が通っているし、社長の体全体 から溢れるエネルギーがとにかくすごかった。この人は本物だな、と。これは、ちゃらんぽらんなことはできないと、俺もやる気になったんです。

       

      伊藤 学歴に関係なく、やる気があればチャンスが与えられるのなら、モチベーションも高まりますね。

      大野 さらに「うまくいってるか」と進捗を聞いてくれて、「ここがネックになっています」と問題点と俺なりの解決策を相談すると、 「費用はかかっても構わないから、その案でいこう」と、その場で決裁してくれる。うまくいっていると、「それ、次の会議で発表してよ」と。発表するほどのことではない ですと言うと、「なぜ共有しないんだ。お前の成功に感化されて、やる気のある奴が一人でも出てくれば、会社としては財産なんだ」と。

      社長は社員がどんな仕事をしていて、何に困っているのかといったことを、本当によく知っています。当時は管理職でもなかった俺のことも含め て、社員のことをよく見てくれているんですよね。

      伊藤 遠矢社長のように「財産」だと考えてくださると、"自分はこの組織にいていいんだ"という自己肯定感が芽生えて、難題を与えら れても立ち向かうエネルギーが湧いてくるのではないですか。

      大野 そうですね。例えば、こちらから何かアイデアを出したときに、社長は、まず「いいね」と。で、「それって、先々はどういう風 に考えてるの?」とこちらのビジョンを聞いてくれて、「こう考えています」とやってみたい事を伝えると、「いいね。じゃあ、いつまでにやる?」と。

      伊藤 やる気の芽を摘むのではなく、伸ばしてくださる。

      大野 同時に、怖くもありますよ。やりますと言った以上は逃げられないし、いい加減なことはできませんから。社長にも、「泣きを入 れるなよ」と釘を刺されますしね。

      トレーニングの場での"知"との出会い

      伊藤 今はどんなプロジェクトを担当されているのですか。

      大野 いくつかやらせてもらっているものの1つに、2年前から取り組んでいる国産たけのこの水煮をつくる加工品開発があります。偽装 品が後を絶たない中、正真正銘の国産品で安心・安全な水煮をベジテックがつくろうじゃないかと。そいうプロジェクトなんですが、ここで初めて"考える"ということを経 験しています。

      伊藤 といいますと?

      大野 野菜を右に左に動かしていたときは、義理人情は大切にしようとか、そういう世界でやっていたわけです。まして、5年後、10年 後なんて考えたこともなかった。でも、たけのこプロジェクトではそれができたんです。1年目はモノづくりの経験や知識を蓄積し、2年目は志を同じくする同業者を募って連 合軍を結成しよう。3年目は売りを広げて、4年目、5年目にはベジテックの水煮は安心だという認識を定着させ、最終的にはシェアNo.1を狙おう、と。そういうビジョンを描く ことができたんです。

      伊藤 どうして、たけのこプロジェクトでは5年先のことまで考えられたのですか。

      大野 プロジェクトがスタートして少ししてから、会社の中堅幹部研修が始まりまして。そこで、また新たな出会いがあったんです。最 初は嫌で仕方がなくて、どのタイミングで寝ようかぐらいの気持ちでいたのが、講師の先生が話すことが、まったくブレない。俺たちを伸ばそうとしてくれる本気の思いも伝 わってきて、先生の言うことがすごく心に響くんです。トレーニングの課題も、やっていくうちにこれは役立つなと思うようになって。それで真剣に取り組むようになり、" 考える"ということを教わったんです。

      伊藤 なぜ研修が仕事に役立つと思われたのですか。

      大野 研修では議論を繰り返すのですが、テーマは架空のものではなく、会社が今抱えている問題や会社の将来についての議論なんです 。今まで考えたこともなかったけれども、「自分たちで答えを出せ」と。研修では、考え方を学ぶための題材もいろいろと出されて勉強します。その題材も、俺が仕事で置か れている立場や会社の状況とすごく似ていて、興味が持てたんですよ。俺は学校の宿題はまともにやったことはなかったけれど(笑)、研修の宿題は教わったことを忘れない うちにやりたくて、翌日には書くようにしています。ワークシートをびっしり埋めていくから、周囲のメンバーからは「なぜそこまでやるのか」と不思議がられますが、興味 があるからやってるだけなんです。すごく考えさせられますので、頭を使うとこれだけ疲れるんだということを実感しますね。

      それに、この6月からは"選抜リーダー研修"というものが始まって、初日のキックオフでは遠矢社長と常務から「事業部長を抜かすくらいの勢い で成長しろ。生半可な気持ちでやるなよ」という話があって、研修の重要性もよくわかりましたし。

      伊藤 教育会社に丸投げせずに、そうやってトップが自ら会場に足を運んで思いを伝えてくださると、研修に対するモチベーションも高ま りますね。

      大野 常務なんて「時間が許す限り来るからな」、と。こっちはいい迷惑なんですが(笑)、それだけ俺たちに託してくれるのなら、そ の思いは裏切れないですよね。

      伊藤 お話を伺っていますと、人を育てるということに対して、経営トップや上司の影響力がいかに大きいかを感じます。ただ、1つお聞き したいのですが、大野さんご自身がそこまで仕事に真剣に向き合われるのはどうしてなのでしょうか。

      大野 俺には過去に2度、逃げた経験があって、そのことを今も後悔しているんです。どちらも高校時代のことで、野球部に入部してピ ッチャーを希望しながら、外野手に転向したんです。これが1度目の逃げ。ピッチャーの練習がキツくて、走りこみが投手より少ない外野手を選んだわけです。教師になる夢を あきらめたのが2度目の逃げ。今でも熱を出して寝込むと、この2度のことが夢に出てくるんです。だから、どんな課題も逃げないで突き進む。討ち死にしたらそれでいいやと 、そんな思いでやっていて(笑)。それに、俺は周りの人達に本当に恵まれていますから、その期待に必ず応えたいと思っています。

      伊藤 人には誰しも"逃げた"経験が何かしらあるのではないでしょうか。大野さんが、その後悔から目をそらさずにいらっしゃることが すごいと思いますが、大野さんを信じて任せる経営トップや上司の方がいらっしゃることも大きいと感じました。本日はお忙しい中、ありがとうございました。

    インタビュー後記

    人はどのようにして育つのか

    <学歴の呪縛を捨てる!>

    企業人としての能力を生得的なものと捉えている企業や人事担当者はことの他多い。
    出身校によって企業人としての能力や優劣が規定されるという前提があるために世でいういい学校の卒業生を獲得するということに躍起になっている。
    言葉を変えれば、企業人としての能力は学歴が決めるというパラダイムであろう。

    日本社会には未だにこのような硬直した考え方がはびこっているが、大学卒業ぐらいまでの人間の能力にはほとんど差はなくまた、仕事の能力と学歴はほとんど関係がない。
    ましてや偏差値などで人間の人生をランクづけするのは愚の骨頂である。
    これでは、社会に出た時点で出口が見えている、決まっているという人生観を持たされることになってしまい、その典型的な悪例が官僚制度で、日本の世の中の仕組みの最悪の欠陥のひとつといえよう。
    大体、能力云々といったって大学の4年間ですべてを決めること自体が馬鹿げている。
    それから40年も社会人としてやっていくにもかかわらず、何故4年間で優秀かどうかなんて決められるのだろうか。
    滑稽且つ不可思議ですらある。

    偏差値ではなく企業人としての成長は「人間力」、「生きる力」そして「精神力」等が伸びるかどうかに大きく影響する。

    立ち居振る舞いや話し方、目の輝き等に映し出される人としての力、若いうちからそれがはっきりと見てとれる人もいるし、仕事での努力によってどんどん磨かれ変わっていく人もいる。

    勿論、能力が開花するまでの時間、即ち,本人が持っているもののランプがつくまでには時間差があり、その時間の差は天性の部分として存在するのも事実である。
    ところがほとんどの場合、持っているもののランプがつく前に本人自身が「自分は向いていないのでは」とあきらめてしまう場合と会社側が「能力なし」という烙印を押してしまう場合のいずれかでそこで可能性が消滅してしまうのである。

    どこでつくかわからないけど言えることは途中でやめたら永遠にランプはつかない。

    学歴なんてものは、社会に出れば自分の力でどうにでもひっくり返る。
    「人間の肉体と技術には限界があるが人の心には限界は存在しない」ということを今回、対談にご登場頂いた、株式会社ベジテックの大野 真大さんの事例は、そのことの証左といえよう。

    ご本人の持つ人間力、生きる力そして精神力等と場を提供し成長をサポートしてきた上司の方々との出会いが現在のご本人の成長を形づくってきたといえる。

    世の中の多くの企業や我々に学歴パラダイムからの脱却を促す好例といえるのではないだろうか。

    On the Business Training 協会  及川 昭