OBT 人財マガジン
2010.11.24 : VOL104 UPDATED
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"変わらない"味を守るために、味を"変える"
物心がついた頃から、茶の間にいつも置いてあった地元の銘菓。子どもの頃、家族で出かけた近所のラーメン屋。お金のなかった学生時代に通った馴染みの食堂。誰にでも思い出の味、懐かしい味というものがあるだろう。久しぶりに食べた当時の"ご馳走"の味に、「うーん、こんなもんだっけ」と、期待を裏切られたような気分になることも多々あるが、「これこれ、この味! いつ食べても旨い」と、ひと口食べて懐かしさがこみ上げてくることもまた多い。けれども実は、昔のまま味が変わっていないというのは、前者の方。後者に該当する商品のメーカーやメニューの作り手に話を聞いてみると、驚くことに「実は少しずつ味を変えているんです」と、皆口をそろえる。「"変わらない"味を提供するために、味を"変える"」とは、一体どういうことなのか。たとえば業界のなかでも"老舗"と呼ばれるラーメン屋。いわゆる昔懐かし系の中華そばを扱うお店だ。親子三代にわたって通うファンもいるというこの店の店主は、「日々の進化なくして、変わらない味は守れない」と言い切った。時代や嗜好の変化に合わせて、少しずつマイナーチェンジを繰り返しているのだという。何十年も前の味をそのまま出しても、食べ手が昔から"旨い"と感じて食べている料理にはならないからだ。別の人気店のシェフの方はこんなことも言っていた。「野菜もお肉も、育てている人が改良を重ねてよりよい物を作ってくださるのに、それを調理する人が料理に改良を加えなくて何とするか」と。この店もまた、同じ料理でも少しずつ作り方を変えて、"変わらない"味に磨きをかけている。共通して言えることは、人気店、老舗ほど日々の研鑽に励み、少しずつ味を改良しているということ。これは、食べ物に限らず、物やサービスを扱う店舗や企業であっても、同じではなかろうか。売れるから、受けているから、と現状にあぐらをかいていては消費者の心を長く惹きつけることなど、到底できないからである。時代の流れにしなやかに対応し、ブラッシュアップを重ねることこそが、商品やメニューの味や価値にホコリをかけさせない秘密。時代を超えて愛されるロングセラーとは、まさに小さな改良の"積み重ね"の上に成り立っている。