OBT 人財マガジン
2010.07.28 : VOL96 UPDATED
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伝統は"革新"の積み重ね
近頃、仕事の関係で東京・日本橋の街をよく訪れる。街中を歩いて気付いたのだが、
この街にはとにかく老舗が多い。それも、果物の専門店「千疋屋総本店(1834年創業
)」や飴で有名な「榮太樓總本舗(1857年創業)」といった、格式高い老舗とは日頃無縁
の私でさえもその名を知る名店ばかりだ。一体、どれほどの老舗がこの街にはあるの
か。
調べてみると、日本橋をはじめ、銀座や築地などの街を抱える東京・中央区には、実
に350件以上もの老舗企業が点在していることがわかった。帝国データバンクの調査
によると、全国には約2万社(企業全体の約1.6%)の100年企業が存在するというが、
最も多く老舗企業が所在している都道府県は意外にも東京都(1,675件)なのだそうだ
(私はてっきり、発展の歴史が長い京都だとばかり思っていた。※京都は各都道府県
別企業数に占める長寿企業数の割合が全国1位)。さらに驚くべきは、中央区というこ
の小さなエリアに、東京都に所在する20%以上の老舗企業が密集しているということ。
恐らく、ここ中央区は、日本で一番老舗が所在するエリアと言っても過言ではないだろ
う。
長い歴史を持ちながらも、今なお廃れることのないブランド力の秘密はどこにあるのか。
東京商工会議所中央支部の調べによると、中央区内の約70%の老舗企業が「社訓
(家訓)や経営理念(社是)がある」と回答したそうだ。例えば、前述の千疋屋総本店の
経営理念は、「本業第一」。バブルの時も株や不動産に手を出さず、多角経営もしな
かったという。フルーツという軸をしっかり持ち続け、邁進してきた成果が今日のそれ
だろう。榮太樓總本舗もまた然り。「甘味喫茶をはじめとする副業はあくまで補助エン
ジンであり、本業の和菓子の製造販売を重視せよ」と教えられてきたという。
しかし、「本業、本業」と謳いながらも、これらの企業が決して"保守的"というわけでは
ない。例えば、千疋屋総本店では高級フルーツばかりでなく、今ではフルーツを使った
手ごろなスイーツも販売しているし、榮太樓總本舗では、「時代が変わろうとも『金つ
ば』の味は断じて変えぬ」という頑固な姿勢を貫く一方で、時流を汲み取り、伊勢丹限
定ブランドの飴の専門店「Ameya Eitaro」をプロデュースしている。確かに、千疋屋総
本店のフルーツサンドイッチは時々無性に食べたくなるし、Ameya Eitaroの商品は、
実にポップでついつい足を止めてしまう。老舗の高級商品とはまるで無縁だった私も、
見事顧客層拡大の策にはまっているというわけだ。
榮太樓總本舗では「暖簾は守るものではなく、磨き育てるものである」と、教えている
そうだ。「時代に流されないことは大切だが、乗り遅れてはいけない。時代にあったや
り方を選ぶことが"暖簾の育て方"なのだ」、と。伝統とは、"保守"に"革新"というスパ
イスを重ねることで受け継がれていくものなのかもしれない。
参考文献:「老舗企業の生きる知恵」~時代を超える強さの源泉 東京商工会議所中央支部