OBT 人財マガジン
2010.07.14 : VOL95 UPDATED
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ホチキスを説明せよ――あなたは何と答えますか?
TVCMで耳にした「針のいらないホチキス」というフレーズが、どうにも気になって調べてみた。製造元は2005年に創業100周年を迎えた、大手文具メーカーのコクヨ。このホキスに紙を差し込み、ハンドルを握るだけで、針を使わずに用紙をとじられるのだという。U字型に切れ込みを入れた部分を折り返し、別の切れ込みを通すことで紙をとじる。針によるケガの心配や新たな針の購入の必要がないばかりか、シュレッダーで書類を処分する際の分別も必要ない。まさに、画期的な商品といえる。針を使わずに、一体どのようにして紙をとじるのか。製品の仕組みが気になったのはもちろんなのだが、私がこのCMを気になった一番の理由は、「針を使わないホチキスを作ろう」という"発想"に感服したからである。「ホチキスとはどんな道具か」と問われたら、大抵の人は「針で紙をとじるもの」と答えるのではないだろうか。例えば、「ホチキスの新製品を考えなさい」と言われたら、「力のない人でも簡単にとじられる」とか「収納時の利便性を考えてデザインを改善する」といった、従来のものに機能性を"プラス"するアイディアは思いついても、「針を使わない」という、ホチキスの概念から"マイナス"する発想は容易に浮かぶものではないだろう。どれだけ頭をひねったとしても、少なくとも私には、おおよそ思いつく自信がない。これまでも、コクヨの商品には度々驚かされることがあった。例えば、2003年に発売した10個のキューブを組み合わせた「28個のカドを持つ消しゴム」。すぐに丸くなってしまう普通の消しゴムとは違い、次々と新しい"カド"が使えるようになるので、細かい部分をいつも快適に消すことができるという。ユニークな形状の消しゴムがこの年のグッドデザイン賞を受賞したことは、私の記憶にまだ鮮明に残っている。さらには、2年ほど前に発売された「ドット入り罫線ノート」。この商品は私も愛用しているが、ノートが美しくとれるという優れものだ。すべての横罫線に等間隔のドットが入っているため、各行のドットとドットを結ぶだけでフリーハンドでも美しい線を引くことができる。図や表がきれいに描けるばかりか、文字の書き出しも揃えられ、切り取った資料もまっすぐ貼ることができるという。当初から「東大合格生のノートのとり方を研究して生まれた製品」として、各方面から広く注目を集めていた。ホチキスは紙を針でとめる道具で、消しゴムは四角、ノートは罫線だけが引いてあるもの......。そんな固定概念にとらわれていた自分が恥ずかしい。「シンプルがある故に、どれもすでに完成形にあるのでは」と勝手に思い込んでいた文房具が、思わぬ形で――それもよりよい商品となって登場する度に、毎度のことながら感心してしまうのである。あぁ、こんな発想もあったのか、まだまだ改善の余地はあったのか、と。どんなことにも"これでよし"という終わりはないのだ、と。文房具というひとつの分野に注力しながらも、固定概念を打ち破り、新たな発想を持ち続けるコクヨ。長寿の秘訣たるやを改めて考えさせられた、新商品発売のニュースであった。