OBT 人財マガジン
2010.06.23 : VOL94 UPDATED
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冷蔵庫の中の七味缶に思う
近頃"食べるラー油"が注目を集めているが、私の地元・長野県には江戸の中期から続く「八幡礒五郎」という七味唐辛子の老舗がある。礒五郎の七味は、地元では大変馴染みの深い調味料のひとつで、自宅の食卓はもちろんだが、改めて思い返してみると、食堂、蕎麦屋、どこに行っても当たり前のようにテーブルの上に並んでいた。ちなみに、八幡礒五郎が善光寺のお膝元で七味を売り出したのは280年近くも前のことだ。最近は長野を代表する土産物として観光客にも親しまれているそう。地元出身の者としては喜ばしいことだが、全国の百貨店や高級スーパーなどでも"礒五郎の七味"が購入できるようになった。ご存知のない方もいると思うが、礒五郎といえば、唐辛子のイラストが入った赤いブリキ缶の"七味"がお馴染み。定番の七味唐辛子だけかと長いこと思っていたのだが、先日、ホームページを見て驚いた。見たことのない商品が多数展開されていたのだ。柚子入り、胡麻入りの七味を筆頭に、炒め油、ポン酢、オリーブオイル(もちろんどれも唐辛子入り)と、様々なシチュエーションで幅広く使える調味料類が充実していた。お馴染みの七味も毎年"イヤーモデル"と呼ばれる限定パッケージを展開。定番の商品にも稀少感を出し、ファンの心をくすぐっている。さらにはブリキの七味缶をアレンジしたプチ缶携帯ストラップ(缶の中には実際に七味を入れることも可能)や、屋号をあしらったトートバッグ(色は唐辛子色と山椒色の2色を展開)といった、グッズ類の販売も。先日、同社の方と話す機会があったのだが、これらのグッズは若い層に大変好評とのことで、県外からの問い合わせも多いという。昨年登場した七味素材入りの色鮮やかなスイーツ"マカロン"も、オリジナリティがあっておもしろい。礒五郎の商品は、どれも独創的で、アイディアとユーモアにあふれたものばかりなのだが、素晴らしいのは、すべて同社の伝統の技法やブランドを生かしたものであるということ。七味という昔ながらの調味料を"今"の食生活にどう組み合わせるか。一見"渋い"ともとられがちなデザインを、若年層にも受け入れられるにはどんなアイテムにしたらよいか――。"七味"という創業当時からの商品を軸に持ちながらも、そこからブレずに、かつ新しいジャンルを開拓していく様は、"地元"という贔屓目抜きにしても、目を見張るものがある。伝統と革新を見事に融合させ、オンリーワン企業として発展させた好例ではないだろうか。