OBT 人財マガジン
2010.05.26 : VOL92 UPDATED
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百貨店商戦の行方
流行りのファストファッションブランドのオープンラッシュが影響だろう。
銀座の街で見かける若い女性の数がぐっと増えた気がする。
当初は、「大人の街・銀座」に似つかわしくないとの声もあったが、今ではすっかり街にも馴染んだ様子。
その勢いは止まらず、ファストファッションの波は、100年企業がしのぎを削る百貨店業界にも及んでいる。
「百貨店はこうだ、と決めつけているからダメになった。百貨店も、時代に合わせて
変化していかなくては」
こう話すのは、大手百貨店・大丸と松坂屋を傘下に持つJ・フロントリテイリングの奥田会長。
今年は、松坂屋が呉服店からデパートに業態転換した1910年から、数えてちょうど100周年の年。来年2011年には創業400周年を迎えるという、業界きっての老舗企業だ。
会長の奥田氏は、百貨店という概念にとらわれず、売場改革に尽力してきた方で、
セールの前倒し商戦を積極的に仕掛け、大丸梅田店には紳士服の量販店・はるやま商事をテナントとして誘致したことでも知られている。
こうした新しい動きに業界も触発されたのか、新宿の高島屋店内にも「ユニクロ」が
オープンした。こちらも創業1831年と、100年を優に超える長寿企業だ。
対する銀座・松坂屋も、4月に米カジュアル衣料品チェーンのフォーエバー21をオープンさせたばかりで、開店初日には1000人もの行列ができたという。
先日両店舗に伺ったが、どちらも大変なにぎわいをみせていた。一方、低価格路線には走らず、依然として高級なイメージを守り続けているのが、
創業300年以上・老舗三越を抱える三越伊勢丹グループ。
「消費者が三越と伊勢丹に求めるものは低価格が売りのファストファッションではない」というのが見解のようだ。
こういったこだわりの姿勢が改めて成果を生むにはしばらく我慢が強いられそう、との声もあったが、ここに来て少し動きが見え始めている。
業界内での客単価が上がり、景気が多少戻ってきた、というのだ。
たとえば松屋銀座では、昨年初日に完売となった9800円スーツが、今年はセール
から1週間経った後も売れ残っていたとか。
代わりに3、4万円台のオーダースーツが人気を呼んでいるという。
競合店においても同じような傾向にあるそうだ。4月の百貨店売上高は26ヵ月連続前年割れを続けているが、減少率は3%台に
とどまり、持ち直しの兆しを見せ始めている。
100年以上もの間当たり前とされてきた、業界内の"常識"を覆す革新的な試みと、
長年培ってきたイメージを守り続ける老舗のこだわり。
数百年の歴史を刻む百貨店業界の不況商戦は、果たして、どちらに軍配が上がるのか。
今後の動向が気になるところである。