OBT 人財マガジン
2008.12.10 : VOL58 UPDATED
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限界の線はひかずに、越す
以前、出版社に勤めていたことがある。
創刊して間もない、新雑誌の編集部に配属された私はドタバタと奔走する先輩たちに、文字どおり「放置」された。
右も左もわからない私に、上司がたまにかける言葉は「とりあえず、行ってこい。とりあえず、やってみろ」。
Macの使い方もわからない。どんな流れで雑誌ができていくかもわからない。取材の仕方もわからない。
もっと言えば、名刺の渡し方すら知らなかった。――それでも、仕事は山のように渡された。
見様見真似で、一年。新人が配属された。最初の一週間で、彼女はその全てを「教育」された。
私が一年間、必死で覚えたことを彼女は一週間で把握したのである。
会社で人知れず涙を流したのを覚えている。
「私の一年は何だったのだろう」と。
「一週間で全てを教えてもらっていたら、今の自分は、もっと高いところにいたに違いない」と。
しかし、当の本人は「思っていたような楽しい仕事ではなかった。仕事が辛いので、辞めます」とほどなくして退社してしまったのである。
「きちんと教育してほしかった」と今でも、それは強く思う。
が、私はすごく恵まれた環境にいたのかもしれない。
普通の会社だったら任せてもらえないような仕事や企画も好きなようにやらせてもらえたのだから。ただ、「教えて」もらっただけだったらあそこまで必死に働けなかったかもしれない。
貴重な場を設けていただいことに、今では本当に感謝している。
自分の企画をプロジェクトとして発足できる制度を取り入れた日本原料の斎藤氏も
こんなことをおっしゃっている。
「できなくて追い込まれたままの人間が伸びることはない。できた時に初めて伸びる」。誰かと比べて、「伸びた」とは決して思わない。
ただ、がむしゃらに働く中で「もうダメだ」と思う自分の限界値がどんどん高くなっていったのは事実だ。腹筋も腕立て伏せも「もうダメだ」と思った後の1回が筋肉になるのだという。
――私の仕事筋は、最近、なまってはいないだろうか。