OBT 人財マガジン

2008.10.29 : VOL55 UPDATED

OBTカフェ

  • 人事プロフェッショナルへの提言- 第7回 企業と人との関係

    (4)二律背反の統合


    二律背反とは、相反すること、矛盾である。
    平たく言えば、「一方によいようにはからうと、もう一方に悪くなる」、「あちらを立てれば、こちらが立たぬ」という状況に陥ることである。
    物事の両立しがたいことのたとえに使うが、経営における意思決定においては、常に二律背反性の問題に突き当たると言っても過言ではない。
    特に、人事部が抱えている今日的課題の多くは、相矛盾する対立軸を人間の高い叡智で如何に統合化するかである。
    今日的課題とは、「営業時間は長く、労働時間は短く」「賃金は高く、労働分配率は低く」「リスクは小さく成果は大きく」・・・「生産性と人間性」「個人と組織」「厳しさと温かさ」など、今までのような二者択一的な解決を許さない状況にある。
    まさに、人間の高い叡智で如何に統合化するかである。
    「叡智」とは、『広辞苑』によれば、「深遠な道理をさとりうるすぐれた才知」とされている。
    人事の今日的課題は、過去の経験に囚われることなく柔軟な発想ができないと、ブレイクスルーできないだろう。
    次の3点で着眼点を変えてみよう。
    (1) 目的思考で考える
    人も組織もその存在の目的、目的は分からずとも、その意義を確認できれば、未来に向かって力強く歩むことができる。
    目的を明確にすることは、組織やメンバーに強い動機付けを与え、現状に変革をもたらす。
    もう一度目的(何のために)を問うことから始めること。
    目的と手段・方法を混同するようなことがあってはならない。
    (2) 未来思考で考える
    現在から未来を設定し、設定した未来から現在をふり返って考えていくことで、未来に軸足をおいて考えることである。
    10年後も今のままで対応しえるのか、過去の成功体験やしがらみを捨て、柔軟な発想を持たなければならない。
    (3) 統合思考で考える
       「統合」とは、分離や排除の考え方に縛られることなく、思考や行動、感情などを1つの目的に沿ってまとめていくことである。
    哲学者のアリストテレスは、説得には次の3種類があるといっている。
    ①エトス・・・話しての信頼性によって行われる説得
    ②パドス・・・聞き手の感情を動かすことによって行われる説得
    ③ロゴス・・・理論そのものによる説得
    このうち最も有効な説得は、エトスであると、言っている。
    話し手=人事部 聞き手=従業員とすれば、人事管理の要諦ともいえる。
    自らの思想性を高め、高い価値観を習得し、「目的・未来・統合的な思考」ができる
    ようになれば、二律背反的な課題は必ず克服できるであろう。 

     

    On The Business Training 協会 栗田 猛