2013年2月アーカイブ ..

千葉夷隅ゴルフクラブ
総支配人 岡本 豊さん

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    企業の競争優位性は結果指標ではなく、
    それを生み出す組織の強さ、社員のモチベーションに規定される(後編)

     

    サービスで差別化する戦略を明確に掲げる千葉夷隅ゴルフクラブは、ゴルフ専門誌のランキングで12年連続接客日本一を獲得するなど、質の高いサービスで独自のポジションを築いている。インタビューを読み進めると、顧客満足に向けて現場が主体的に新たなサービスを考え、実行に移していることが同社の優位性であることがわかるが、特筆すべきは社員のモチベーションの高さである。同社は2005年、親会社の経営再建にともない民事再生法を申請しているが、その際も社員のモチベーションは変わらなかったという。「ベクトルがブレなかったことが大きかったと思います。日本経営品質賞を受賞して、私たちのお客さまは誰なのかということをみんなで常に考えていましたので」と語る総支配人の岡本氏。将来の経営環境を正確に予測することは不可能である。その中で競争力を培うためには、環境変化に対応できる組織としての強さ、そして、その源泉となる社員のモチベーションに他ならない。
    (聞き手:OBT協会 菅原加良子)

  • [OBT協会の視点]

    「サービスには終わりがない」と語って下さった岡本支配人 今回お話を伺った夷隅ゴルフクラブさんではその言葉のとおり、現場で働く人が"顧客を喜ばせよう"と、自ら様々なサービスを考え実行に移していた。
    現在、製品や機能面での差別化では難しくなり、サービスであるソフト部分でしか戦えない時代になってきた。そして、そのサービスの多くは、現場で顧客と実際に接する人が行なうものである。その為、現場で働く(接客する)人の対応一つで、その企業のイメージが決められてしまうこともよくある。つまり、いかに現場の人々のモチベーションを上げ、お客様の為に一生懸命尽くす事が出来るかどうか、ということにかかってくる。
    いくら経営陣が"サービス重視"の施策を掲げても、実際にそれを実行するのは現場であり、現場がその考えに共感し、意識が変わらなければ、サービスの質は磨かれない。
    結局、経営者側が『現場が一番状況を分かっている』ということを心底理解し、現場を尊重することが必要なのではないだろうか。現場の"やる気"なくして、いいサービスは出来ない。今回、岡本支配人のお話を伺い改めて、現場の声の重要性を実感した。

  • 千葉夷隅ゴルフクラブ(http://www.chibaisumi.jp/)
    1979年開業。株式会社日交総本社(日本交通グループ)の全額出資により設立された株式会社グリーンクラブが運営するゴルフ場としてスタートする。開業時は18ホール、1989年に9ホール増設し、27ホールで営業。都心から離れた立地に加えて、千葉県内には極めて多くのゴルフ場がある競争環境の中、サービスの品質で差別化する戦略を立て、社員教育や組織づくりに注力。1988年には日本能率協会の『JMAサービス優秀賞・特別賞』を、1997年には日本生産性本部の『日本経営品質賞』を受賞。2000年から12年連続でゴルフ専門誌『週刊パーゴルフ』のベストコースランキング・接客部門全国1位を獲得し、連続記録を達成中。2005年には日本交通の経営再建に伴い民事再生法を申請するが、2009年に再生手続きの終結決定を受領。再建中も運営方針がぶれることなく、おもてなしで選ばれるゴルフ場を追求し続けている。
    コース概要/コース規模:27H、10,463Y、P108 コース面積:148万㎡(45万坪)会員数:正会員 2281名、平日会員581名 従業員数:126名(うちキャディ36名)

    YUTAKA OKAMOTO

    1947年生まれ。大学卒業後、1973年に株式会社日交開発に入社。1979年に株式会社グリーンクラブに転籍。副支配人、支配人などを経て、2003年より現職。

  • 情報の資産化──属人的な情報を共有し、活用する

    ────1997年に日本経営品質賞を受賞されました。ご業界では初の受賞だと伺っています。

    ええ、アサヒビールさんと一緒に受賞しました。あの賞に挑戦してよかったのは、評価結果だけでなく、改善に向けて36項目の提言をいただいたんです。それによって、自分たちができていないことが明確にわかりました。

    その一つに「情報が散乱してまとまりがない」という指摘があり、お客さまの情報を整理して共有化しようと、2000年からロイヤルカスタマーの顧客リストを作成しています。そこにはお名前と顔写真、ドライバーの飛距離やアプローチの使用クラブなどのプレースタイルのほかに、ヘッドカバーは外さないでお渡しするといった細かな情報も記録しているんです。

    ────まるでカルテのようですね。

    そう、カルテです。キャディはみんな、自分の中にそうしたお客さまのデータを持っているんですね。レストランはレストランでお食事の好みを把握していますから、例えばビールはアサヒをお出しするとか、お蕎麦には薬味のねぎを多めに添えるとか、そういったことを記録します。それらをシステムで一元化してみんなで共有し、キャリアが浅い社員もベテランと同じ対応ができるようにしているんです。

    ────そうした顧客情報の管理は、他のコースでもしておられるのでしょうか。

    どうでしょうか。いわゆる営業用のデータ収集はあるかと思いますが、当コースのように集客目的ではなくお客さま満足の向上のためということでは、少ないのではないかと思いますね。

    ────顧客リストを導入されて、現場はどのように変わられましたか。

    みんながお客さまを意識して見るようになったと思いますね。顧客リストは常に更新していますので、例えばコーヒーはブラックだった方が、急に砂糖を入れるようになったとか、変化があれば書き加えていくんです。

    ────お客さまの好みが変わることもあるのですね。

    ええ、お客さまをよく見ていると、そういうことも出てくるわけです。ですから楽しいですよ(笑)。顧客カードは700名分ほどになりましたが、さらに増やして個別の対応をよりスムースにできるようにしたいというのが今の課題です。お客さまにとっては、自分が名前で呼ばれて、自分の好みをわかってくれているということが最大のサービスですから。

    ノウハウの資産化
    ──現場の独自サービスをマニュアル化し、伝承する

    お客さま情報の一元化のほかに、情緒的サービスを標準化した例もあります。もう27、8年前のことになりますが、お客さまが朝「今日は二日酔いで調子が悪い」と話されるのを聞いたキャディがレストランに連絡して、昼食後に二日酔いの薬と白湯をお出しするよう手配しましてね。お客さまは非常に感動して、喜んでくださいました。

    これをみんなができるように標準化して、情緒的サービスを機能的サービスに進化させていこうと。二日酔いだけでなく、風邪だとか胃の調子が悪いとか、そういった言葉を聞き逃さず対応できるように、新入社員はその試験に合格しないとお客さまの前に出さないという風にしてやっているんです。

    ────試験があるのですか?

    フロント・レストランの社員は、入社1カ月目の試験で言葉遣いや料理の出し方などを確認するのですが、我々社員がお客さま役になって、「昨日は飲みすぎた」とか「風邪気味だ」という言葉を会話にわざと入れるんです(笑)。それを聞いて、胃薬や風邪薬を出せれば合格。お客さまの会話に注意を払っていなければ、こうした言葉は耳に入ってきません。その意識を持たせることで、注意力や観察力が研ぎ澄まされていくわけです。

    ただ、特にキャディの業務についてはマニュアルにできない部分もありますから、そうした匠のサービスをいかに後輩に伝承していくかが今後の課題ですね。

    ────キャディさんはコース上ではお一人ですから、先輩を見て学ぶということも難しいですね。

    それについては年に一度、サービスを総点検する『ありがとうキャンペーン(※)』という約2カ月間のキャンペーンを実施していまして、キャディ教育もその期間に行っています。ベテランと新人がペアで9ホールずつ担当し、後輩は先輩の流れるようなキャディワークを学び、先輩は新人のフレッシュな一所懸命さに刺激を受ける。そして一年間の仕事を見直して次年度の目標を決め、それに向かっていくということを32年間続けています。

    ※顧客への感謝の意を込めて「ありがとう」と名付けたキャンペーン。期間は1月から3月上旬まで。全社をあげて業務の棚卸やケーススタディによるディスカッション、接遇研修会や小集団活動の発表会などを実施し、各自の提供するサービスが品質基準を守っているかを総点検する。

    クロスファンクショナルな業務で、
    セクショナリズムをなくし、社員の情報感度を高める

    ────先ほどお話のあった顧客情報の収集に関しては、情報感度の個人差があるのではないかと思います。それを底上げしてみなさんの感度を高めるために、何かなさっておられることはありますか。

    例えば、レストランのメニューが定期的に変わるときには、キャディがお客さまに料理の感想をお聞きするようにしています。後半のスタート時に、「お昼は何を召し上がりましたか、お味はいかがでしたか」とさりげなくうかがうわけです。お客さまはそうしたときに本音を言われますから、それを情報カードに書いてフィードバックします。ですから、キャディはレストランのことにも気を使わなくてはいけませんが、そうすることで自分の担当以外にも目を向けられるようにしているんです。

    また、フロントとレストラン、コース売店の社員は、ローテーションでこの3つを兼務します。その目的の一つは、どの業務でもできるようにすることで、お客さまを家族として迎える態勢をつくるということ。例えば、コース売店で「プレーの予約を取りたい」と言われても対応できますし、食事の内容を聞かれてもお答えできます。クレームというのは、こうしたセクションの狭間で起こることが多いんですね。「ここではわかりません」とたらい回しにされるとか、そういったところで不満が出る。それを防ぐということです。

    もう一つの目的は、お互いの仕事を理解することで、セクショナリズムをなくすということです。今はレストランが忙しいとか、フロントが忙しいとか、相手の状況を理解できると、社員同士のコミュニケーションがよくなる。それが、お客さまとのコミュニケーションをよくすることにもつながるんです。

    ただ、実は兼務を始めたのは、レストランの社員の採用難がきっかけでしてね。フロント単独で募集すると応募があるのに、"ウエイトレス"というと学校に求人票を出しても反応がなく(笑)、"フロント・レストラン"として募集したことが始まりです。そうしてやっていくうちに、これはメリットがあるなと気づき、それからは伝統としてずっと続けています。

    お互いの仕事を知ると、社員同士がファミリーのようになりますから、何かあったときも互いにカバーして、トラブルをチャンスにできる。そうした効果もあります。

    ────具体的にはどういったことでしょうか。

    例えば、レストランの社員がお客さまに粗相をしたとすると、午後のスタート時にキャディが「先ほどは大変失礼しました」と、お客さまにレストランのことを謝るんです。するとお客さまは、「そこまで知ってくれているのか」と驚かれるんですね。

    ────失礼があったという情報が、キャディさんにも伝わるのですか。

    ええ、トラブルは報告するルールになっています。言われたキャディも家族の気持ちでいますから、"娘が粗相をした"という感覚で謝ることができる。お客さまは情報が素早く共有されていることに感動して、ビールをこぼされたといったことが帳消しになる(笑)。だから、"トラブルはチャンス"なんです。

    民事再生時、"見えざる資産"が会社を支えた

    ────その間、2005年には親会社さまの経営再建にともない、民事再生法を申請されました。そのときには、社員の方々のモチベーションが下がるといったことはありませんでしたか。

    モチベーションは変わりませんでした。一つには、ベクトルがブレなかったことが大きかったと思います。日本経営品質賞を受賞して、私たちのお客さまは誰なのかということをみんなで常に考えていましたので。ですから、辞める人は一人もいませんでしたし、週刊パーゴルフさん(ゴルフ専門誌)のベストコースランキングの接客日本一も、その年もいただいています。

    ────新しいオーナー企業さまが、経営方針を変えると言われれば従わざるを得なかったと思いますが、そういったこともなかったのでしょうか。

    それもなかったんです。「今まで通りのサービスを維持してほしい」と。そのバックアップのお陰もあって、みんなが意識を持ち続けることができたのだと思いますね。

    ────それまで築いてこられたものが"見えざる資産"としてコースの価値を高めていることを理解されていたからこそ、ですね。

    そう、そういうことです。普通なら社内が動揺するような状況で、みんなのモチベーションがまったく変わらなかったのは、やはり今までやってきたことが正しかったということなのだと思います。

    ────岡本さまご自身は総支配人というお立場として、社員の方々にどのような姿勢で臨まれたのでしょうか。

    やはり「今まで通りに」ということですね。お客さまの方を見て、みんなで一緒に協力してやりましょうと。それにみんなが賛同してくれたということです。

    顧客とともに成長・進化する

    今、みんなで目指そうと話しているのは『紹介したいゴルフ場日本一』になることです。そのために「来てよかった」というだけでなく、メンバーが誇れるゴルフ場になろうと。それには社員のサービスだけでなく、プレーヤーのマナーも大切な要素になりますので、マナーのいいメンバーを社員と分科委員の投票で選ぶ『グッドマナープレーヤー(※)』制度を7年前から取り入れています。

    ※"進行が速く常に前後の組を意識している、同伴競技者への気遣いがある、言動が紳士的"などの観点で、全社員と分科委員が投票し、上位10人を選出する制度。

    選ばれた方は一年間フロント前に写真が掲げられますから、それがご自身の誇りになるんですね。そして年に一度の開場記念杯にお呼びして、みなさんの前で表彰すると、感激されて「恥じないプレーヤーになります」と言われる。それが伝播して「あそこに載りたい」という方が増え、全体のマナーがレベルアップしていきます。悪いマナーを注意するよりも、良いマナーを褒める。そうすると全体が良くなっていくんですね。

    ────企業がお客さまを評価するというのは、ご業界でもユニークなお取り組みですか。

    そうですね。業界の方たちからは評価をいただいていまして、取り入れたいというコースもいくつかありますが、ここまで機能してやっているところはないのではないでしょうか。ゴルフコースと社員のサービス、そしてプレーヤーのマナー、この3つが共に成長していく。そういうゴルフ場になっていきたいと思いますし、そのことが我々が評価される最も大きなポイントではないかと思います。

    市場の変化に合わせた新しいステージを模索

    ────今後についてもうかがいたいのですが、ゴルフ人口が減少し、セルフプレーが増加する流れの中で、これからの差別化をどのようにお考えでしょうか。

    セルフのお客さまにも、おもてなしを体感していただける対応を考えていきたいと思っています。その一つとして、雨の日にはキャディ付のお客さまと同じように、ハーフ終了後の休憩時にマスター室の社員がカッパをお預かりして乾燥させ、午後のスタートのときに温かくしたカッパをお出ししています。セルフの方はそういうことをまったく予想されていませんから、非常に感激されるようです。

    ────セルフプレーの方は、全体の何%程度いらっしゃるのでしょうか。

    セルフ率は50%を少し超えましたね。ただ、セルフの方もいつもそうだというわけではないんですね。プライベートで来られるときはセルフプレーで、お取引先と回られるときはキャディ付と、個人の中でも選択性があります。ですから、場面によってお客さまが使い分けられるようにそうした選択性を持つことも大切ではないかと考えています。そして、フルサービス型とセルフサービス型のどちらにも対応できるようなモデルをつくりあげていきたい。それが今後の我々のテーマです。

    ────見えざる資産は時代に合わせて常に磨き続ける必要があり、その継続こそが強い企業をつくるのだということを改めて実感しました。貴重なお話をありがとうございました。

  • 聞き手:OBT協会 菅原加良子

    OBT協会とは・・・ 現場のマネジャーや次世代リーターに対して、自社の経営課題をテーマに具体的な解決策を導きだすプロセス(On the Business Training)を支援することにより、企業の持続的な競争力強化に向けた『人財の革新』と『組織変革』を実現している。

千葉夷隅ゴルフクラブ
総支配人 岡本 豊さん

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  • <$MTEntryTitle$>

    企業の競争優位性は結果指標ではなく、
    それを生み出す組織の強さ、社員のモチベーションに規定される(前編)

     

    サービスで差別化する戦略を明確に掲げる千葉夷隅ゴルフクラブは、ゴルフ専門誌のランキングで12年連続接客日本一を獲得するなど、質の高いサービスで独自のポジションを築いている。インタビューを読み進めると、顧客満足に向けて現場が主体的に新たなサービスを考え、実行に移していることが同社の優位性であることがわかるが、特筆すべきは社員のモチベーションの高さである。同社は2005年、親会社の経営再建にともない民事再生法を申請しているが、その際も社員のモチベーションは変わらなかったという。「ベクトルがブレなかったことが大きかったと思います。日本経営品質賞を受賞して、私たちのお客さまは誰なのかということをみんなで常に考えていましたので」と語る総支配人の岡本氏。将来の経営環境を正確に予測することは不可能である。その中で競争力を培うためには、環境変化に対応できる組織としての強さ、そして、その源泉となる社員のモチベーションに他ならない。
    (聞き手:OBT協会 菅原加良子)

  • [OBT協会の視点]

    「サービスには終わりがない」と語って下さった岡本支配人 今回お話を伺った夷隅ゴルフクラブさんではその言葉のとおり、現場で働く人が"顧客を喜ばせよう"と、自ら様々なサービスを考え実行に移していた。
    現在、製品や機能面での差別化では難しくなり、サービスであるソフト部分でしか戦えない時代になってきた。そして、そのサービスの多くは、現場で顧客と実際に接する人が行なうものである。その為、現場で働く(接客する)人の対応一つで、その企業のイメージが決められてしまうこともよくある。つまり、いかに現場の人々のモチベーションを上げ、お客様の為に一生懸命尽くす事が出来るかどうか、ということにかかってくる。
    いくら経営陣が"サービス重視"の施策を掲げても、実際にそれを実行するのは現場であり、現場がその考えに共感し、意識が変わらなければ、サービスの質は磨かれない。
    結局、経営者側が『現場が一番状況を分かっている』ということを心底理解し、現場を尊重することが必要なのではないだろうか。現場の"やる気"なくして、いいサービスは出来ない。今回、岡本支配人のお話を伺い改めて、現場の声の重要性を実感した。

  • 千葉夷隅ゴルフクラブ(http://www.chibaisumi.jp/)
    1979年開業。株式会社日交総本社(日本交通グループ)の全額出資により設立された株式会社グリーンクラブが運営するゴルフ場としてスタートする。開業時は18ホール、1989年に9ホール増設し、27ホールで営業。都心から離れた立地に加えて、千葉県内には極めて多くのゴルフ場がある競争環境の中、サービスの品質で差別化する戦略を立て、社員教育や組織づくりに注力。1988年には日本能率協会の『JMAサービス優秀賞・特別賞』を、1997年には日本生産性本部の『日本経営品質賞』を受賞。2000年から12年連続でゴルフ専門誌『週刊パーゴルフ』のベストコースランキング・接客部門全国1位を獲得し、連続記録を達成中。2005年には日本交通の経営再建に伴い民事再生法を申請するが、2009年に再生手続きの終結決定を受領。再建中も運営方針がぶれることなく、おもてなしで選ばれるゴルフ場を追求し続けている。
    コース概要/コース規模:27H、10,463Y、P108 コース面積:148万㎡(45万坪)会員数:正会員 2281名、平日会員581名 従業員数:126名(うちキャディ36名)

    YUTAKA OKAMOTO

    1947年生まれ。大学卒業後、1973年に株式会社日交開発に入社。1979年に株式会社グリーンクラブに転籍。副支配人、支配人などを経て、2003年より現職。

  • 顧客の期待を超えるサービスを追求し続ける

    ────千葉夷隅ゴルフクラブさまは、ゴルフ専門誌のベストコースランキングで12年連続、接客部門全国1位を獲得されるなど、高いサービスで多くの支持を得ておられます。今日は、そうした高いサービス力やそれを生み出す仕組みといった、いわば"見えざる資産"といえるものについてうかがえればと思います。まずサービスに関してですが、こちらでは"機能的サービス"と"情緒的サービス"に分けて定義されているとお聞きしています。それぞれどのようなものなのでしょうか。

    2つの定義の前に、まずサービスとは何かということですが、"実績評価"が"事前期待"を上回ること。ここにサービスの本質があるんですね。その差が大きいほどお客さまの満足度は高くなり、逆に、少しでも下回ればマイナスイメージになる。ですから、常に事前期待を超えるサービスを提供し続けなければいけないということです。

    そうした中で、機能的サービスとは、例えばレストランなら料理を提供する、キャディでいえばラインをアドバイスするといった、みんなができる基本的なサービスのこと。当たり前の欠かせないサービスですが、これだけでは温かみがありませんので、それをいかに感動を与えるサービスに変えていくか。これは、社員一人ひとりが独自に見つけるものになりますが、そこのところが情緒的サービスになるというように見ているんです。

    ────機能的サービスは事前期待を少なくとも下回らない、最低限必要とされるサービスであり、それを超えるものが情緒的サービスであるともいえるでしょうか。

    そうですね。そして、ある一人が情緒的サービスを見つけて実践していたら、それをみんなができるように水平展開して、機能的サービスに組み込んでいく。そうしてサービスをグレードアップさせていくことが、進化の一つの方法だと考えています。ですから、社員にはいつも言うのですが、サービスには終わりがない。常に進化していくものなんです。

    ────顧客が満足すればするほど次への期待が高まりますから、御社にとってのハードルは上がり続けるということですね。

    そう、高くなりますね(笑)。オープン10年目くらいまでは「田舎のゴルフ場にしてはサービスが良かった」と感動していただけたのが、"接客日本一"として有名になると、事前期待を超え続けることがなかなか難しい。お客さまの目がそれだけ厳しくなっていきますのでね。

    ────その厳しい状況に、自らを追い込んでいかれると。

    そう。そういうことです。

    トップダウンからボトムアップへ

    ────1979年の開業当初から、"機能的と情緒的"という2つの観点でサービスのレベルアップを考えてこられたのでしょうか。

    開業時からではなかったと思いますね。最初はどの社員も同じ水準のサービスができるように、ある程度トップダウンで指導していくことから始めました。ただトップダウンには限界があって、「やらされている」という意識がどうしても生まれてしまうんですね。そうなると、相手の立場になるといった考え方が出てこなくなるんです。

    ────やらされ感が生まれると、「言われたことさえすればいい」という思考に陥りがちですね。

    そう、「ミスをしなければいい」と。それでは人に感動を与えるサービスは生まれません。自分たちで考えたことを試行錯誤しながら実践して、お客さまに喜ばれることで「やった」という達成感を覚える。こうしたことが大切なんです。

    それができるきっかけになったのが、オープン5年目に始めた小集団活動です。当時、当社がいた日本交通グループで、小集団活動を取り入れる動きがありましてね。当社でも自分たちでテーマを決めて課題を明らかにし、改善活動を行って。それが評価されれば全社に展開して、みんながそれに沿って動くようになる。景気のいいときも悪いときも関係なく、このサイクルを続けてきました。

    そうするうちに、自分たちで考えて動くことの楽しさがわかってくるんですね。すると、仕事もやらされるのではなく、自分たちでやるという感覚になってくる。それが成長の糧になるのだと思います。

    今は主に標準化活動を進めていまして、例えばキャディチームが考えたミニバッグ(小型のキャディバッグ)。これはお客さまに非常に好評です。

    ────それはどのようなものですか。

    アプローチのクラブをですね......、ゴルフはされますか?

    ────はい、初心者ですが(笑)。

    そうですか(笑)。実は6年前に乗用カートを導入してから、カートがコース内に入れなくなってしまいましてね。アプローチでクラブを変えるたびにカートまで行かなくてもいいように、クラブが十数本入るミニバックをキャディが担いで、パターと併せて持っていくというものです。

    大阪のあるゴルフ場に、キャディマスターと班長の2人を連れてベンチマークに行ったときに見たサービスを参考にさせてもらったのですが、あちらはスタンドがない丸い筒で、寝かせて置くためにヘッドが汚れるんですね。そこでキャディチームが考案して「脚をつけよう」と。自分たちで業者さんを呼んで、オリジナルのミニバッグをつくりました。こうして自分たちで決めたことは、みんなに浸透してうまく活用するようになります。その積み重ねが改善につながっていくのだと思いますね。

    ────現場の自主性を大切にすることが、良いサービスにつながるのですね。とはいえ、開業当初のトップダウンも必要なことだったといえるでしょうか。

    そうですね。やはりマニュアルも大切ですから、みんなが同じ水準のサービスを提供できるように基礎をつくることは必要だったと思います。しかし、基礎ができた後は現場の人たちがマニュアルを改良して、"生きたマニュアル"にしていく。そうして進化していくことが大切なのだと思います。

    褒めて伸ばし、自発性を育てる

    ────小集団活動を継続されるにあたって、何かご苦労されたことはありましたか。

    手当は月2時間までは認めていましたがそれ以降は無給になり、活動のために帰りが遅くなることもありましたので、「家庭の主婦なのに、なぜこんなことをしなくてはいけないのか」という声があったり、そういう点では苦労しましたね。ただ、成果を発表して、それが標準化されて全体に広がり、お客さまの評価もいただけるようになってくると、活気が出てきます。この循環をうまくつくることが必要なのだと思いますね。

    ────活動の成果を認めて、褒めることが大切なのですね。

    そう、それが大切です。成果が認められるからやってよかったと思うわけで、それがなければやはりやらされ感が生まれてしまいますのでね。

    ────褒める仕組みはどのようにされているのですか。

    小集団活動については発表大会を行い、最終優秀賞、優秀賞、佳作をみんなの前で表彰し、それを標準化していくというプロセスで行っています。

    また、小集団活動とは別に『まごころ賞』という社員表彰制度がありまして、月に一回、お客さまからお褒めの言葉や手紙が多く寄せられた社員を全体朝礼で表彰しています。キャディやレストランだけでなくコース管理の人たちなども対象で、OBがロストボールになりそうなところを、ちゃんと見ていてお客さまに教えてあげたとか、そういうことも対象になります。そうするとみんなが「コース管理はそういうこともしてくれているのだ」ということを共有化して、それがワンランク上の連係プレーにつながっていくんです。

    キャディとキャディの新人については月次の表彰で終わらせずに、毎年、年末に『キャディ・オブ・ザ・イヤー』、『ルーキー・オブ・ザ・イヤー』として、トロフィーと賞金をみんなの前で渡します。お客さまのアンケート評価が一番高かった社員を表彰するものですが、これもみんなの励みになっていますね。子どもの教育と一緒で、いいことはきちんと褒める。そして、いい取り組みをみんなで共有していくことが働き甲斐につながり、やる気を引き出すのだと思います。

    全社員が"お客さまの声の窓口"

    ────『まごころ賞』の対象になるお客さまの声は、どのようにして集めておられるのですか。

    社員が自主的に書く『情報カード』。赤は不満やクレーム、青は満足、黄色はロイヤルカスタマー(常連顧客)、白はそれ以外の意見・情報と、色分けして運用している。

    直接アンケートも取りますが、お客さまというのは他セクションで本音を言われるんですね。例えば、フロントで「今日のキャディさんはよかった」と言われたり、帰りの送迎のバスの中で「食事が美味しかった」ともらされたり。バスの運転手がその言葉を聞いて"情報カード"に書くという仕組みで、お客さまの声を集めています。つまり、全社員が"お客さまの声の窓口"になるということです。

    ────情報カードとお客さまアンケートは、それぞれ月に何枚くらい集まるのですか。

    情報カードは月に200枚ほど、お客さまアンケートは約900枚が集まります。お客さまには、1組に1名は必ず書いていただこうということで、マスター室に担当の者がいて、ご協力をお願いしています。

    どちらもそれぞれ集計システムを構築して、翌日には入力したものが見られるようにしています。本人にフィードバックするだけでなく、他の社員にもオープンにしていますので、誰がどのような評価を得ているのか、お客さまからどんなお声があったのか、すべて共有できるようにしているんです。

    社員の評価基準は"顧客満足"

    『お客さまアンケート』。画像はキャディに関するもので「ボールを渡すタイミング」など具体的な14項目が並ぶ。このほかにコース、レストラン、ショップ、フロント、営業についての計6種類のアンケートを来場者から取得している。

    また、キャディに関するアンケートは始めて32年になりますが、驚くことに、お客さまのアンケート評価と我々の評価がぴったり一致するんですね。これはすごいですよ。最初の2年間すべてのアンケートに目を通す中でそのことに気づき、これは人事評価に活用できると。それ以来、アンケートの結果を給与やインセンティブにある程度反映させるようにしています。

    ただ当初は設問が7つしかなく、評価も"優・良・可・不可"の4段階でしたので、キャディから「何が優で、何が可なのかわからない」と言われましてね。そこでアンケート項目を14に増やして、「距離のアドバイス」や「パターを渡すタイミング」など具体的な内容にし、評価も1から5までの5段階に変えたんです。

    ────具体的に指摘されると、何をどう改善すればいいかが明確にわかりますね。

    そうです。そして、"5"の達成率95%以上をプラチナ、90%以上95%未満をゴールド、85%以上90%未満までをシルバー、85%未満をブロンズとランク分けし、ランクで手当の額を決定しています。ランクは毎年見直しますから、プラチナからブロンズになれば手当も減額、反対にブロンズからゴールドに上がれば手当も上がり、それを一年間保障するという仕組みです。

    32年前は"評価5"の獲得率は平均68%でしたが、5年前に初めて90%を超え、今年は92.3%にまで上がりました。一般には、こうしたアンケートの最高評価獲得率は平均80%が一つの目安ですので、それを上回りたいとは思っていましたが、92%までいくとは思いませんでしたね。

    ────事前期待が年々高まる中で、実績評価を高めていくのは大変なことですね。

    毎年0.5%から0.7%くらい徐々に上がって、少しずつ進化してきた結果です。小集団活動やいろいろな教育を継続してサービスをグレードアップさせていくということ。それに尽きると思いますね。

    ────進化が数字で目に見えることも、モチベーションにつながりますね。

    つながります。これが我々の評価では、誰かに高い点数をつけると依怙贔屓だと言われる心配もありますが(笑)、"お客さまの目"ですから、みんな納得するんです。

    ────逆に、いい評価が得られず伸び悩む方には、何か教育をされるのですか。

    教育というよりも、一緒になって考えてやってみようということですね。例えば、お客さまに「はい」がきちんと言えないとか、原因はそういった些細なことだったりするんです。「はい」だけを意識するようにしたら、ほかの部分もよくなって急成長した例もありますし、人間の能力というのは、みんなそんなに大差はないのだろうと思いますね。

    ですから、今はほとんどのキャディが"5"の獲得率80%をクリアしています。新人たちもそうした先輩を見て育ちますから、成長が早いです。今まで3年かけてたどり着いていたレベルに、1年でパッと追いつける。そういったいい循環が生まれています。

    褒めることで人は伸びるという岡本総支配人。32年間培ってきたこの社風が、サービスマインドある人財を生み出す土壌となっています。その中で、個々の社員が持つ知識やサービスの工夫をどのように共有しているのか。後編では、見えざる資産を共有し、活用する仕組みづくりについて伺います。


    *続きは後編でどうぞ。
      企業の競争優位性は結果指標ではなく、
      それを生み出す組織の強さ、社員のモチベーションに規定される(後編)

  • 聞き手:OBT協会 菅原加良子

    OBT協会とは・・・ 現場のマネジャーや次世代リーターに対して、自社の経営課題をテーマに具体的な解決策を導きだすプロセス(On the Business Training)を支援することにより、企業の持続的な競争力強化に向けた『人財の革新』と『組織変革』を実現している。

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