2011年7月アーカイブ ..

株式会社21
相談役 平本 清さん

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    「出資者」と「労働者」と「経営者」を社員が兼務
    ――究極のオープン経営がもたらす合理性(後編)

     

    大方の企業には経営者と社員との間に「考えるのは上の人」「実行するのが下の人たち」という暗黙ルールが存在する。しかしながら、広島を中心にメガネの販売チェーン『メガネ21(トゥーワン)』を展開する株式会社21は全くの逆。財務や人事評価など会社運営のすべてを社内に公開している。そこには「現場でやっている人たちが一番アイデアを持っている」という創業からの考えがある。また、もう一点特筆すべきは社員が出資する『共同出資方式』を採っていることだ。自分の身銭を切ってこそ初めて経営への参画意識が芽生え、また、本当の意味で平等になれる。但し同社が本質的に凄い点は広島だけで社員から11億円(当時)出資を募っていることである。果たして、我が社に出資したい社員はどれだけいるだろうか。
    (聞き手:OBT協会代表 及川 昭)。

  • [及川昭の視点]

    『メガネ21』は、一般的な企業とはまったく逆の経営手法を取り入れ、成功されている企業だ。例えば銀行からの融資は受けず、必要な資金は社員からの出資でまかなっておられる。通常、社内株主制度はあっても、出資という形をとる企業は稀である。しかし、社員が出資しているからこそガラス張り経営が求められ、そのことが経営陣への牽制にもなっている。「出資したからには!」と、社員のモチベーションも高まる。同社の施策は、通常の企業ではありえないものばかりだ。ただ、だからといってその正否を論じることはできない。それらは意図されたものではなく、生き残りをかけた模索の中から結果として誕生したものだという。経営の仕組みとは、既成の形式を取り入れればよいのではなく、内発的に生まれるべきものである。そのことを、我々は同社から学ばなくてはならない。

    聞き手:OBT協会  及川 昭
    企業の持続的な競争力強化に向けて、「人財の革新」と「組織変革」をサポート。現場の社員や次期幹部に対して、自社の現実の課題を題材に議論をコーディネートし、具体的な解決策を導き出すというプロセス(On the Business Training)を展開している。

  • 株式会社21 http://www.two-one.co.jp/a21/
    1986年設立。広島県内で6割近いシェアを持つ大手メガネチェーンを解雇された同僚4人で創業。「会社に利益を残さず、お客さまと社員に還元する」ことを経営方針に、利益はすべて値下げと社員の賞与の原資に。社員が株主となり、会社運営のすべてをイントラネットを通じて社内にオープンにする『丸見え経営』で、全員参加の経営を実現。社員が高いモラルとモチベーションを持って働き、業績が社員に還元されるという好循環で事業を伸ばし、創業時の2店舗から、広島を中心に全国120店舗以上、年商85億円のチェーンを展開するまでに成長している(数値はいずれもグループ連結)。
    企業データ/資本金:5000万円、売上高/42億3467万円(単独、2011年2月期実績)、従業員数/197名(単独、2011年4月現在)

    KIYOSHI HIRAMOTO

    1950年生まれ。高校卒業後、広島最大手のメガネチェーンに入社。高い業績を挙げ、26歳で本店副店長に就任し、商品部長や電算室長を歴任。その後、社長交代劇に巻き込まれ、86年に解雇される。同じく解雇された同僚4人で「メガネ21」を設立。2010年に定年退職し、現在は非常勤の相談役として勤務。著書に「お金を会社に残さない!」(大和書房)、「丸見え経営」(ソフトバンククリエイティブ)。

  • エリア別に別会社化し、リスクを分散

    ────独自のシステムを貫くという観点からいえば、私は、企業は無理に規模を追わない方がいいのではないかと思います。どのような考えを持っていても、規模を追うと、大きくするためにはその考えと違うこともしなくてはいけない。そういったことが起こりがちです。

    わが社も株式会社21が広島を基盤にしていますが、隣の山口県では株式会社21山口という会社をつくり、そのほかの地域も21沖縄、21島根、21長野、21東京とすべて別会社にしています。我々も少しは株を持ちますし、資金も援助しますが、社長はそれぞれに置いて自分たちで運営してくださいと。そうすると、みんな元気ですよね。

    ────自分たちのものだから、ですね。

    そう、自分たちのものなんです。ただ、我々の欠点は、ここが売れそうだというところに店を出さないんです。そこでメガネ屋をやりたいという人がいたら、店を出す。そうすれば経費があまりかかりませんでしょう。これが例えば、広島から沖縄に転勤させると転勤費用はかかりますし、家族も苦しむ。それでは幸せではないですよね。

    広島は私の代でここまで大きくなりました。このノウハウがあるから、21山口も同じようにやれば山口でナンバーワンになれます。沖縄もそう。そうやっていけば日本一になれるのではないかと。それが誰かの所有物になって、全体を動かす社長がおかしくなったら全部がダメになるというのが一番怖い。ですから、株式はそれぞれのメンバーが5割以上を持ち、広島から何か言われても「ノー」と言えるようにしてあるんです。

    ────ゆくゆくは各地の21でそれぞれのやり方が生まれるかもれませんが、それもよしとされると。

    それはもう大歓迎です。山口のものがいいとなれば、こちらは学べばいい。学ばないなら、潰れていけばいいのです。

    会社は順調なときの方が危ない

    ────21の考え方や風土は、平本さんが中心となってつくってこられたわけですが、変わっていくことについてはどうお考えですか。

    私は全部残していきますが、後に「私はこうしたい」「ああしたい」ということが出てくれば、その人たちの考えでやればいいことだと思いますね。会社というものは、美田を残せば残すほどダメになりますから。

    21がぐんぐん伸びていったときに、ある卸会社からこう言われたことがありました。「21の成長の影で、小さなメガネ店が次々となくなっていく。これをどう思うか」と。だから私は、「わかりました。そういう店を私が救いましょう」と。21の広告や企画は私が手がけていましたから、他のメガネ店の広告や商品企画、仕入れも私が引き受けることにしたのです。

    若い社員は、「そんなことをしたら、うちがやられます」と反対しましたが、「やられるなら、やられてしまえ」と。今は会社の力で安く販売しているから、誰でも勝てる。今度は私が向こうの仕入れも広告もやるから、一所懸命に接客しなくては負けますよ、と。

    ────社員の方々にとっては、大きな刺激になりますね。

    そうです。会社は順調なときの方が危ないんです。ですから、資金を内部留保するというのは、会社をぬるま湯にすることですよ。美田を残せば残すほどダメになるということは、ことわざにもあって昔から教えられているにも関わらず、一所懸命に美田を残そうとするんですね。

    ────先人の教えがあるのに学習しない。我々も含めて、そういう例はたくさんあるように思います。

    「満足度」ではなく、「幸福度」を追求する

    ────お話を伺って、御社がなさっていることはまさに商売の基本だと実感しました。冒頭で、他社には真似ができないというお話がありましたが(前編参照)、追随しようとする企業がなぜ出てこないのかと、本当に思いますね。

    価値観の違いだと思います。先日、講演に行ったときに、ある大学の先生がこう言われました。「みなさんは、平本さんの話を勘違いしていますよ」と。その先生によると、アメリカの調査で、年収と満足度や幸福度のとの相関を調べたデータがあり、年収が増えると満足度も上がるという結果が出たのだそうです。けれども幸福度は、年収600万円を超えたあたりから下がっていくらしいんです。それ以上になると、相続はどうするとか、誘拐されるのではないかとか、心配なことが出てくるんですね。「だから平本さんは、幸福度のことを言っているのですよ」と。

    その意味では、私は今、とても幸福です。たまたま創業には参加しましたが、気持ちは"サラリーマン"ですから。サラリーマンというのは、たくさん売り上げたのに給料がそれほどでなくても楽しめるんです。私には、経営者や創業者といった特別な意識はなくて、今もサラリーマン気質を忘れていません。その方が、幸福になれるんですよ。

    ────御社の社是にも「社員の幸福を大切にします」とあります。社員の幸福とは、どういうものだと思われますか。

    幸福の青い鳥を探して旅に出たら、その鳥は実は家にいたという童話がありますね。「これがあれば幸福になる」と考えるのではなくて、辛いことを取り除いていくと不幸ではなくなるんです。例えば、最新の6000万円の車が欲しいといって買っても、2年も経てばもう幸せではないですからね。次のものが欲しくなりますから。

    ────きりがないですね。

    そう。満足度は味わえるんです。でも幸福ではなない。では何を一番幸せに感じるかというと、例えば、私が事務所を出たらみんながホッとするというのでは、幸せではないですよね。でも、私は講演料や本の印税、私の特許の使用料も全部会社に入れていますから、みんな優しくしてくださるんです(笑)。ですから、私は今、すごく幸せです。

    ────おっしゃっておられるのは「利他の精神」ですね。自分があるところまでいけば、それ以上は他人に還元し、人のために使う。それのお考えは、とてもよくわかります。

    日本人は、みんなそうしてきたわけですからね。

    創業期を知らない社員に、創業期を体験させる

    ────ご業界全体としては、かつてのような上昇トレンドから下降トレンドに向かっておられますが、そういった中で今後の課題としてお考えのことはおありですか。

    「創業期を体験しなさい」ということですね。創業期を体験するのは簡単で、価格を下げればいいんです。そして、給料を下げてお客さまに還元しましょうと。価格を下げるわけですから、業績は下がります。業績が下がっても、お客さまは減りませんから、これはとても大きな内部留保ですね。

    ────「お客さま」という内部留保ですね。

    そうです。「21は本気だ」と。「本気で会社に利益を残さず、還元している」と。

    ────厳しいときほどそういう姿勢をはっきりと見せることが大切になりますね。

    ツルなしメガネの先行品としてすでに発売されている「Fit-mini」シリーズ。

    そうです。ぬるま湯には浸かってはならないということです。同時に、新しい商品もどんどん開発しています。例えば、今私がかけているツルなしメガネ。鼻パッドにヌーブラ(※)などにも使われている粘着性の素材を使うことで、ピタっとくっつくようにしてあるんです。うちの女性社員から、「美容室でメガネを外されると雑誌が読めない。平本さん、何か考えてください」と言われて開発したものです。

    ※ 特殊シリコーンで作られた、素肌に直接貼りつけて使用するブラジャー。

    今は、プラスチックレンズを留めている金属部分を改良して、メンテナンス性を高めたものを試作中です。これは大手のレンズメーカーにもない技術で、私の特許を使ってできるようになったんです。

    もう一つ、こめかみまでの短いつるのメガネも試作中です。小耳症といって、生まれつき耳の形が不完全な方が6000人から1万人に1人の割合でいらっしゃるのですが、そういった方に使っていただけるものです。私たちも普段、ソファーで横になるときなんかに、耳が圧迫されてもメガネがずれませんからいいんですよ。ほかにも、花粉症の人のためのメガネも試作中です。

    ────そうやってアイデアを次々と打ち出していかれれば、市場の可能性はまだまだ大きいですね。

    ええ、もうまったく大丈夫です。だって、他のメガネ店にはないんですから。今や我社は、フレーム部品とレンズを仕入れてメガネのデザインを創作するメガネメーカーに変身しています。フレームは私の特許を使ってフレームメーカーにつくってもらうわけですが、これもデザインやサイズごとに200万円の金型代が必要だったものを、金型を創らずにデザインをデータで送受信・加工するシステムを独自に構築しました。創作したデザイン情報はお客さまにカタログとしてアピールし、店舗へは制作情報を配信する革命的なシステムです。

    これによって20円の型板でデザインやサイズが無制限に生産できるようになり、圧倒的な競争力を得たんです。『綺麗なメガネ』というキーワードで、インターネットで検索していただければ、詳しい情報を公開していますから、よくご覧いただけると思います。

    ────今までに何種類くらいご自身で開発されたのですか。

    20くらいはあると思いますね。でも、それも簡単なんです。知り合いから「困っている」と相談されることに応えるだけで、結構アイデアが出るんですよ。それも、私の場合は寝ながら、です。夜、問題を考えて回答が出ないうちに寝ると、目覚めたときにアイデアが浮かびます。夜中の1時、3時、5時、7時と何度も目が覚めては、忘れないようにパソコンに打っておくんです。

    思えば先代のおやじさんがそうで、トイレや枕元に常にメモ用紙を置いていました。若い頃は、「寝るときくらい気持ちよく休めばいいのに」と思っていましたが、年を取ったら私も同じことをしています(笑)。

    ────次のことを常に考えておられるのですね。

    ええ。仕事中はゴルフのスイングで悩んで、ゴルフ場では「あのフレームはどうしよう」と考えて(笑)。悲壮感を持ってもいいアイデアは出ませんからね。もちろん、結果はしっかりと出していきますが。

    幸せに働ける会社をつくるには、トップのモラルが不可欠

    ────現在のメガネ21は、ご創業時に考えておられた会社に近いのか、それとも違った形になっておられるのか、改めて振り返ってみてどうご覧になりますか。

    ここまでのことは考えていませんでしたね。創業のときは辛かったですし、会社がうまくいかない時期に離れていった人もいました。仕事がうまくいくと妬まれたり、そういう辛さがありましたが、結局は「いい集合・いい分散」で、集まってくれた人はみな気心の知れた人ばかり。だから、本当に今が幸せだと思っています。

    いつ潰れるかと思ってやってきましたが、潰れずに今日まで来て。若い後継ぎがたくさん入ってきて、その人たちが新しい店を出してくれる。私どもの歴代の社長の息子さんも、みな入社しています。息子が入ってくる会社というのは、やはりいい会社だと思いますね。

    若い社員も会社にお金を貯めて、その金額もみなわかりますし、全員が素晴らしいということはありませんが、でも一緒に10年くらい働けば、お金を出してやろうかという気になるんですよ(※)。年を取ったら、若者を応援して育てる。それができるのは、とても幸せなことですよ。

    ※メガネ21では人事コースが大きく「一般職」と「経営職」に分かれ、経営職の社員は独立を目指す。その際の開業資金は給与から積み立てるほか、社内で出資を募る仕組みになっている。

    ────平本さんがお作りになられた会社のありようが、ずっと広がっていくとよろしいですね。

    それはもう、望外の喜びですね。経営を世襲にすると泥沼になりますが、それは禁じているわけですから、変な事はできませんしね。平本の息子だから社長になるということもないし、私の仕事ができるわけでもありません。みんな、それぞれの力量に合った仕事をしていって欲しいと思っています。

    ────そのように自分をコントロールされるのは、とても難しいことだと思います。頭ではわかっていても、なかなかできない経営者の方も多いのではないでしょうか。

    みなさん年を取ると頭が回らなくなるのと、家族が許さないんですよ。ということは、個人の資産にするからいけないんです。わが社では、株主の上位3者が合計で5割を超える株を保有することも禁じています。3者というのは、私の義理の弟夫婦とその息子、私のいとこ、はとこまで、親族のほとんどを合わせて1人と数えます。民主主義になったから日本が今日あるわけで、会社も民主主義の方が継続すると思いますね。

    ────御社のこのシステムを維持するためには、トップのモラルが一番大切だと著書にも書いておられますが、世襲や株の大量保有を禁ずるのもその一つということですね。

    そうです。経営者のモラルが低ければ、周囲のモラルも低くなります。高ければ、周囲も高くならざるを得ない。低い人を排斥しますからね。

    ────自己管理するために、他律的なものをいつもどこか意識の中に置いているという経営者の方もいらっしゃいました。「常に神様に見られていると思うことが、自分の戒めです」と。

    ですから、私は全部オープンにしているんです。外から見えるようにしておけば、何かあばみんなから言われますから。

    ────最後に伺います。平本さんにとって、メガネ21はどういう存在ですか。

    私の趣味であり実益であり人生で貫いた仕事、ですね。最近になってやっと商品開発までできるようになりました。もう少し早くできていればと思いますが、やはり時期があるのでしょうね。だから若い人にも言うんです。お客さまのリクエストに応えられないことがあっても、ただ「できません」というのではなく、「今の能力ではできません」と、謝り続けていればそのうちに解決策が見つかる、と。私も最近になって商品のアイデアが出始めましたから。ただし、特許を取って儲けてやろうと思うと、儲け話ばかりになってしまう。そうではなくて、このお客さまにこんな風に使ってもらったら喜んでいただけるという、その思いが大切なんです。

    ────おっしゃることはまさに経営のあるべき姿であり、経営者であれば誰しもそのことを理解できるはずですが、わかっていながらできない企業があるとすれば、なぜできないのかと。やはりそう思わずにはいられません。本日は貴重なお話をありがとうございました。

株式会社21
相談役 平本 清さん

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    「出資者」と「労働者」と「経営者」を社員が兼務
    ――究極のオープン経営がもたらす合理性 (前編)

     

    大方の企業には経営者と社員との間に「考えるのは上の人」「実行するのが下の人たち」という暗黙ルールが存在する。しかしながら、広島を中心にメガネの販売チェーン『メガネ21(トゥーワン)』を展開する株式会社21は全くの逆。財務や人事評価など会社運営のすべてを社内に公開している。そこには「現場でやっている人たちが一番アイデアを持っている」という創業からの考えがある。また、もう一点特筆すべきは社員が出資する『共同出資方式』を採っていることだ。自分の身銭を切ってこそ初めて経営への参画意識が芽生え、また、本当の意味で平等になれる。但し同社が本質的に凄い点は広島だけで社員から11億円(当時)出資を募っていることである。果たして、我が社に出資したい社員はどれだけいるだろうか。
    (聞き手:OBT協会代表 及川 昭)。

  • [及川昭の視点]

    『株式会社21』は、一般的な企業とはまったく逆の経営手法を取り入れ、成功されている企業だ。例えば銀行からの融資は受けず、必要な資金は社員からの出資でまかなっておられる。通常、社内株主制度はあっても、出資という形をとる企業は稀である。しかし、社員が出資しているからこそガラス張り経営が求められ、そのことが経営陣への牽制にもなっている。「出資したからには!」と、社員のモチベーションも高まる。同社の施策は、通常の企業ではありえないものばかりだ。ただ、だからといってその正否を論じることはできない。それらは意図されたものではなく、生き残りをかけた模索の中から結果として誕生したものだという。経営の仕組みとは、既成の形式を取り入れればよいのではなく、内発的に生まれるべきものである。そのことを、我々は同社から学ばなくてはならない。

    聞き手:OBT協会  及川 昭
    企業の持続的な競争力強化に向けて、「人財の革新」と「組織変革」をサポート。現場の社員や次期幹部に対して、自社の現実の課題を題材に議論をコーディネートし、具体的な解決策を導き出すというプロセス(On the Business Training)を展開している。

  • 株式会社21 http://www.two-one.co.jp/a21/
    1986年設立。広島県内で6割近いシェアを持つ大手メガネチェーンを解雇された同僚4人で創業。「会社に利益を残さず、お客さまと社員に還元する」ことを経営方針に、利益はすべて値下げと社員の賞与の原資に。社員が株主となり、会社運営のすべてをイントラネットを通じて社内にオープンにする『丸見え経営』で、全員参加の経営を実現。社員が高いモラルとモチベーションを持って働き、業績が社員に還元されるという好循環で事業を伸ばし、創業時の2店舗から、広島を中心に全国120店舗以上、年商85億円のチェーンを展開するまでに成長している(数値はいずれもグループ連結)。
    企業データ/資本金:5000万円、売上高/42億3467万円(単独、2011年2月期実績)、従業員数/197名(単独、2011年4月現在)

    KIYOSHI HIRAMOTO

    1950年生まれ。高校卒業後、広島最大手のメガネチェーンに入社。高い業績を挙げ、26歳で本店副店長に就任し、商品部長や電算室長を歴任。その後、社長交代劇に巻き込まれ、86年に解雇される。同じく解雇された同僚4人で「メガネ21」を設立。2010年に定年退職し、現在は非常勤の相談役として勤務。著書に「お金を会社に残さない!」(大和書房)、「丸見え経営」(ソフトバンククリエイティブ)。

  • 当たり前のことを当たり前に追求していたら
    真似のできないシステムが生まれた

    ────私どもは、さまざまな企業の風土改革や人財育成に関わってきましたが、特にこの5、6年、ある問題意識を強く持つようになりました。「人こそ最大の経営資産」とおっしゃる経営者が多い一方で、その経営施策が結果的に社員を疲弊させている企業が少なくありません。例えば、アメリカ型の精緻な戦略や過度の効率化、成果主義型の人事制度といったものが前線の士気を低下させているように思います。かたや御社では、独自の経営スタイルで取り組んでおられるさまざまなことが、社員の方々のやりがいや意欲にすべて結びついておられます。その背景にどのような経営観がおありなのか、今日はその点をぜひ伺えればと思います。

    まず、ここ(本部)にいる彼女たち(※)は、この会社が異質だと思ってはいないですね。大学の先生やいろいろな企業の方が話を聞きに来られて、彼女たちは「どうしてみなさん真似されないんですかね」と。結局、来られて話を聞いても真似ができないんですね。けれども、決して奇をてらったわけではなく、社員が困っていることを1つずつ解決していったら、こういうシステムになったということなんです。

    ※メガネ21の本部は一般職の女性社員だけで構成されている。人事、総務といった専門部署はおかず、採用、広報、広告宣伝、経理といった本社業務を全員がマルチタスクで兼務している。

    ────ご創業時から今のような構想を描いておられたわけではないのですか。

    それができていたら、私はたぶん天才だと思います。実際は、1つずつ解決していったということです。

    ────そのときに平本さんが一番大事にされたのは、どのようなことだったのでしょうか。

    前の会社の先代社長が急成長させたときの教えを守ることです。その方は、一代で会社を大きくされた素晴らしい方でした。私も含めてうちの創業メンバーは会社がまだ小さいころから、その社長と一緒になって100店舗以上にまで伸ばしたわけですが、会社が小さいうちはいい人財がなかなか集められないんですね。

    ですから一所懸命に給料を出し、大卒が入ってくるともう嬉しくて大切にするわけです。そうやって大切にされると、社員も一所懸命に働きます。しかし2代目になると、今度は入社を希望する学生さんを「ダメ」、「よし」と。こうなるわけです。「入社していただく」という気持ちがあれば、自分の給料を少しがまんしてでも、社員にボーナスを出しますよね。それが「入れてあげる」になると、給与はこの規定通りでいいでしょ、と。残った利益は経営者のもの、ということになってしまうんです。

    では、その先代社長の教えはどなたからのものかというと、松下幸之助さんといった方々です。社員を大切にしなければと企業は大きくならない。それも、モラルの高い人を育てようとすると、経営者のモラルが高くなければいけない。それを一番よく知っているのは、やはり創業者じゃないですか。

    出資者と労働者と経営者を、社員が兼務する

    また、さきほど言われた欧米型の経営は、支配する思想が強いですね。サボる人間をチェックして、たくさん働いたらインセンティブを出すというように。けれども、日本は農耕民族ですから、一つの田んぼにみんなで一緒に田植えをする。中には働かない者もいるけれど、まあ目をつぶろうじゃないかと。そういった、「みんなで何とかしよう」という考え方でいた方が、楽しく働けると思うんです。

    ですからうちでは、出資者と労働者と経営者を、みんなで兼務しましょうと。これが、対峙する形になるとうまくいきませんからね。今、広島だけで社員から11億円くらい集めていますよ。

    ────社員の方々からの直接金融として実施されている「社員借り入れ」制度の残高ということですか。

    そうです。昔はいつ倒産するかわかりませんでしたから、女性社員(一般職)からの融資は受け付けていなかったんです。けれども、それでは差別だということになって、今は女性社員は200万円、そのほかの社員は1000万円を上限にしています。役員は無限で、恐らく私が一番多くて8000万円か9000万円くらいでしょうか。利息は、最初のうちは払えませんでしたが、今はきちんと支払っていますよ。

    ────今の日本の多くの企業では、御社とは逆に、経営者と社員との区別が暗黙のうちに非常にはっきりしているような気がします。考えるのは上の人たちで、考えたことを実行するのが下の人たちだと。これそのものが、とても大きな弊害だと私は思っているんです。

    完全にそうですね。現場でやっている人たちが、一番アイデアを持っているんですから。それを、社長は最大の情報源を持っていながら、その人たちには情報を制限して、「どうしてお前たちは俺と同じように先見性がないのか」といっても、情報弱者にしているわけです。「俺と同じようにアイデアを出せ」というのは失礼ですね。だから、私たちはすべて情報を公開します。そうすると、本当に実力がある人はアイデアを持ってきますし、「こうしたらいい、ああしたらいい」と、方向性を示してくれますよ。

    世襲は禁止。社長は4年で交代する任期制

    一般に会社の社長といえば、アメリカのプレジデントみたいに、もう天才ですからね。外交も親善も担わなくてはいけない、パワーを見せて指揮命令もしなくてはいけない。でも日本には天皇がいて、総理大臣がころころ変わっても周りがどうにか支えてね。うちはこのやり方に近いんです。社長は4年の任期制で、大きな権限はありませんから、誰も社長になりたいとか、選挙をしたいということはないんです。日本風だと思いますね。

    ────社長といえども、ある意味では「機能」だということですね。

    名誉職です。ですから今も、社長は店にいますよ。また、私自身は一度も社長になっていないんです。私は、仕事はできる方ですし、アイデアもしっかり出しますが、私がすべてをやると、何といいますかカリスマに近くなるんです。それともう一つ、社長だから仕事ができるとか、社長という名前をもらったら能力が高まるといったことはありません。社長でなくても提案をして、それがみんなに認められれば実行できる。そのことを見せたいという思いもあります。

    ────先ほど私が「機能」と申し上げたのは、一般的に企業人はみんなそうだと思うのですが、「役職が上の人間の方が、能力がある」という暗黙の前提があるような気がするんですね。ですから、経営者でいえば「なぜ自分がいった通りにやらないのだ」という話が出てくるわけです。これが、「能力」ではなく単なる「機能」なのだと合理的に捉えれば、御社のようなシステムに行きつくのではないかと思います。

    社長も、年を取れば鈍くなってきますから、ずっと能力があるといったことはいえませんね。それに優れた社長は、若くて学歴がない社員も力があれば出世させますが、能力に欠けた人が社長になると、それでは社長の体面が守れなくなる。社員が競争相手になって、本当の評価ができなくなるんです。それでは、会社はうまくいきません。

    そういう関係をつくらないようにするには、世襲制はない方がいいですし、株式の全体保有もないほうがいい。ですから、私は定年になったときに、それまでは筆頭株主でしたが、すべて額面で社員に売却しました。

    ────平本さんにとって、こういった組織体をつくられた一番の前提になったものは、何だったのでしょうか。

    やはり前の会社で、あれだけ優れた社長が世襲制にしてしまったということですね。「今は小さなパイだけど、みんなで大きくして、みんなで食べよう」とがんばってきて、さあ大きくなったと思ったらなくなるわけです。マスコミからすごいといわれた経営者でも、年を取っておかしくなった方はたくさんいますね。それほどの方々でもそうなら、私は100%そうなる。それがわかっているから、世襲は禁止、定年したら株はすべて売り渡すといったことを定めたのです。

    定年後の再雇用は、現場の後輩が決める

    私どもでは60歳で定年ですが、その後は再雇用といって、引き続き働いて欲しいと思う人には後輩からオファーを出す。クビにしたければいつでもできる。そういう仕組みにしてあるんです。

    ────先輩の仕事を後輩が評価する。それが大事だということですね。

    再任を誰が選ぶかということなんです。社長が選べば、みんな社長の顔色を伺うようになります。その点、わが社では後輩が選びますから、定年前になったら先輩たちは誰も横柄な態度はとりません(笑)。けれども、給料をたくさんくれと言われると、後輩も来てほしくないですね。ですから、再雇用後の月収は14万円と決めています。私もその給与で働いていますよ。

    ────こういった組織体をつくられたことで、社内が活性化しているなというご実感はありますか。

    活性化しているメンバーの率は、一般の会社よりも多いと思います。しかし、そうでない人もいます。仕事の成果があがらない、メンバー同士の相性が悪いといったことはありますから、全員というのは無理です。例えばある店では、そこの若い責任者が女性社員から「ギブアップ(※)」と言われました。うちではそれも全部オープンにしているんです。

    ※メガネ21では、一緒に働きたなくない上司や社員がいれば人事異動を要求できる「ギブアップ宣言制度」を設けている。

    そうなったら責任者であっても、他店に異動させます。ただ、どちらが悪いかは問わず、異動させやすい方を配置転換することになっていますので、言った本人が動く可能性もありますが。

    ────どんな方がギブアップを宣告されるのですか。

    やはり、実力以上に威張った態度を取るとか、みんなが元気にならないような采配をする人ですね。それにも関わらず給料をたくさんもらっているのは、みんなわかるわけですから。そういう人も、ギブアップが3回目くらいになれば、楽になりますよ。「あなたは多くの人と合わないのではないですか」と言えますから。「次は引き取り手がないかもしれませんよ」と。

    ────異動先から拒否されることもあるのですか。

    あります。そうなったら仕方がありませんから、「僕のそばで働きなさい」と。そして数年経ったら、また店に「誰か引き取ってくれないか」といってね。そんなこともありました。

    ────そういった異動のローテーションは、会議が何かで決定されるのですか。

    一緒に仕事をすれば、どういうタイプの人かわかるじゃないですか。それをいちいち、会議をする必要はないですね。異動先がなければ、「では私が引き取りましょう」という正義感のある人もいますし、そうやって引き取ってもらった人は、感謝して一所懸命働く可能性が高くなります。ギブアップが続けば本人も発言しなくなりますし、周りも「あの人はそういう人」という目で見るようになりますしね。

    ────自然の摂理のようなものですね。

    そうです。農家で一緒に畑仕事して、「あそこの次男坊はちっとも仕事しない」というのはみんな知っていても、しょうがないなと。「あそこのお父さんはすごく働くから」とか「嫁さんがいいから」と、何とか許しますよね。ただ、その人がたくさんの分け前をくれと言ったら、みんな反対すると思うんです。うちでは分け前まですべてオープンですから。

    オープン経営は究極の合理的な経営

    ────御社では管理職をつくらず、人事や経理などの専門部署も設けておられません。こうした一連のシステムを「人事破壊」と呼んでおられますが、「破壊」の目的は何だったのでしょうか。

    創業したときには資金がありませんでしたから、無駄なことは一切できなかったということです。広島県で6割のシェアを握るメガネチェーンを解雇になってメガネ店を出しましたから、潰されないためにはどうしたらいいか。前の会社が出せない販売価格でやろうと考えたわけです。そのために利益を全部なくし、高額な報酬を得る役員もなくして、中間管理職も全部廃止しようと。つまり、非生産者をなくさない限りはやられてしまうということです。

    ────競争力という意味で「やられてしまう」ということですね。

    そうです。先輩たちは「値引き競争で、大きな会社に勝てるはずがない」と反対しましたが、私は「違う」と。タダで売ったらどちらが損をしますか。うちは小さな店でしたから、1日40人接客して40本タダにすればいい。でも相手は、4万本をタダにしないといけない。ということは、ギリギリの線でやれば我々は勝てるんです。

    ────では「人事破壊」は、経費節減のためのであると。

    そうです。それ以外に何もありませんよ。ただ、よくこう言われますね。うちでは会社のお金をすべて本部の女性社員に預けていますので、「平本さん、大丈夫なんですか」と。だから私はこう言うんです。「それは確率の問題です」と。会社の金を盗んで海外逃亡する確率は、女性社員と私のどちらが高いか。当然、私の方が高い(笑)。それなら、彼女たちに渡しておく方が正しいでしょうと。

    ────「大丈夫か」という発想は、「監督者はいなければいけない」ということですね。

    そうです。でも悪いことをするのは、たいていは監督者ですからね。うちでも創業間もないころは、経営幹部の間で資金運用をめぐるトラブルがありました。そういった問題を一つずつ解決して、オープン経営に至ったわけです。ただ、社員にとっては厳しい会社ですよ。誰が利益をあげているかが、全部わかりますからね。

    ────初めからいろいろなことを考えていたと、後付けでおっしゃる方もいますが、平本さんのお話はとてもよく納得できます。

    それなら天才ですね。本を2冊出しましたが、そこに書いてあることが全部ではなく、やってきたことはものすごく沢山あります。そういうものの積み上げが、今なんです。私はその一つひとつを全部考えてきましたから、どれも必ずリンクしています。つじつまが合わないということがない。すべてが有機的につながっているんです。

    創業後に直面した問題を一つひとつ解決していったら、『人事破壊』『オープン経営』に行きついたと平本氏は語ります。しかし世の中を見渡せば、創業時の理念や体制を貫き続ける企業は多くはありません。成長してもなお、経営効率と働きがいを両立されている秘けつは何か。後編でご紹介します。

*続きは後編でどうぞ。
  「出資者」と「労働者」と「経営者」を社員が兼務――究極のオープン経営がもたらす合理性(後編)

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