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「出資者」と「労働者」と「経営者」を社員が兼務
――究極のオープン経営がもたらす合理性(後編)大方の企業には経営者と社員との間に「考えるのは上の人」「実行するのが下の人たち」という暗黙ルールが存在する。しかしながら、広島を中心にメガネの販売チェーン『メガネ21(トゥーワン)』を展開する株式会社21は全くの逆。財務や人事評価など会社運営のすべてを社内に公開している。そこには「現場でやっている人たちが一番アイデアを持っている」という創業からの考えがある。また、もう一点特筆すべきは社員が出資する『共同出資方式』を採っていることだ。自分の身銭を切ってこそ初めて経営への参画意識が芽生え、また、本当の意味で平等になれる。但し同社が本質的に凄い点は広島だけで社員から11億円(当時)出資を募っていることである。果たして、我が社に出資したい社員はどれだけいるだろうか。
(聞き手:OBT協会代表 及川 昭)。 -
[及川昭の視点]
『メガネ21』は、一般的な企業とはまったく逆の経営手法を取り入れ、成功されている企業だ。例えば銀行からの融資は受けず、必要な資金は社員からの出資でまかなっておられる。通常、社内株主制度はあっても、出資という形をとる企業は稀である。しかし、社員が出資しているからこそガラス張り経営が求められ、そのことが経営陣への牽制にもなっている。「出資したからには!」と、社員のモチベーションも高まる。同社の施策は、通常の企業ではありえないものばかりだ。ただ、だからといってその正否を論じることはできない。それらは意図されたものではなく、生き残りをかけた模索の中から結果として誕生したものだという。経営の仕組みとは、既成の形式を取り入れればよいのではなく、内発的に生まれるべきものである。そのことを、我々は同社から学ばなくてはならない。
聞き手:OBT協会 及川 昭
企業の持続的な競争力強化に向けて、「人財の革新」と「組織変革」をサポート。現場の社員や次期幹部に対して、自社の現実の課題を題材に議論をコーディネートし、具体的な解決策を導き出すというプロセス(On the Business Training)を展開している。 -
株式会社21 ( http://www.two-one.co.jp/a21/)
1986年設立。広島県内で6割近いシェアを持つ大手メガネチェーンを解雇された同僚4人で創業。「会社に利益を残さず、お客さまと社員に還元する」ことを経営方針に、利益はすべて値下げと社員の賞与の原資に。社員が株主となり、会社運営のすべてをイントラネットを通じて社内にオープンにする『丸見え経営』で、全員参加の経営を実現。社員が高いモラルとモチベーションを持って働き、業績が社員に還元されるという好循環で事業を伸ばし、創業時の2店舗から、広島を中心に全国120店舗以上、年商85億円のチェーンを展開するまでに成長している(数値はいずれもグループ連結)。
企業データ/資本金:5000万円、売上高/42億3467万円(単独、2011年2月期実績)、従業員数/197名(単独、2011年4月現在)KIYOSHI HIRAMOTO
1950年生まれ。高校卒業後、広島最大手のメガネチェーンに入社。高い業績を挙げ、26歳で本店副店長に就任し、商品部長や電算室長を歴任。その後、社長交代劇に巻き込まれ、86年に解雇される。同じく解雇された同僚4人で「メガネ21」を設立。2010年に定年退職し、現在は非常勤の相談役として勤務。著書に「お金を会社に残さない!」(大和書房)、「丸見え経営」(ソフトバンククリエイティブ)。
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エリア別に別会社化し、リスクを分散
────独自のシステムを貫くという観点からいえば、私は、企業は無理に規模を追わない方がいいのではないかと思います。どのような考えを持っていても、規模を追うと、大きくするためにはその考えと違うこともしなくてはいけない。そういったことが起こりがちです。
わが社も株式会社21が広島を基盤にしていますが、隣の山口県では株式会社21山口という会社をつくり、そのほかの地域も21沖縄、21島根、21長野、21東京とすべて別会社にしています。我々も少しは株を持ちますし、資金も援助しますが、社長はそれぞれに置いて自分たちで運営してくださいと。そうすると、みんな元気ですよね。
────自分たちのものだから、ですね。
そう、自分たちのものなんです。ただ、我々の欠点は、ここが売れそうだというところに店を出さないんです。そこでメガネ屋をやりたいという人がいたら、店を出す。そうすれば経費があまりかかりませんでしょう。これが例えば、広島から沖縄に転勤させると転勤費用はかかりますし、家族も苦しむ。それでは幸せではないですよね。
広島は私の代でここまで大きくなりました。このノウハウがあるから、21山口も同じようにやれば山口でナンバーワンになれます。沖縄もそう。そうやっていけば日本一になれるのではないかと。それが誰かの所有物になって、全体を動かす社長がおかしくなったら全部がダメになるというのが一番怖い。ですから、株式はそれぞれのメンバーが5割以上を持ち、広島から何か言われても「ノー」と言えるようにしてあるんです。
────ゆくゆくは各地の21でそれぞれのやり方が生まれるかもれませんが、それもよしとされると。
それはもう大歓迎です。山口のものがいいとなれば、こちらは学べばいい。学ばないなら、潰れていけばいいのです。
会社は順調なときの方が危ない
────21の考え方や風土は、平本さんが中心となってつくってこられたわけですが、変わっていくことについてはどうお考えですか。
私は全部残していきますが、後に「私はこうしたい」「ああしたい」ということが出てくれば、その人たちの考えでやればいいことだと思いますね。会社というものは、美田を残せば残すほどダメになりますから。
21がぐんぐん伸びていったときに、ある卸会社からこう言われたことがありました。「21の成長の影で、小さなメガネ店が次々となくなっていく。これをどう思うか」と。だから私は、「わかりました。そういう店を私が救いましょう」と。21の広告や企画は私が手がけていましたから、他のメガネ店の広告や商品企画、仕入れも私が引き受けることにしたのです。
若い社員は、「そんなことをしたら、うちがやられます」と反対しましたが、「やられるなら、やられてしまえ」と。今は会社の力で安く販売しているから、誰でも勝てる。今度は私が向こうの仕入れも広告もやるから、一所懸命に接客しなくては負けますよ、と。
────社員の方々にとっては、大きな刺激になりますね。
そうです。会社は順調なときの方が危ないんです。ですから、資金を内部留保するというのは、会社をぬるま湯にすることですよ。美田を残せば残すほどダメになるということは、ことわざにもあって昔から教えられているにも関わらず、一所懸命に美田を残そうとするんですね。
────先人の教えがあるのに学習しない。我々も含めて、そういう例はたくさんあるように思います。
「満足度」ではなく、「幸福度」を追求する
────お話を伺って、御社がなさっていることはまさに商売の基本だと実感しました。冒頭で、他社には真似ができないというお話がありましたが(前編参照)、追随しようとする企業がなぜ出てこないのかと、本当に思いますね。
価値観の違いだと思います。先日、講演に行ったときに、ある大学の先生がこう言われました。「みなさんは、平本さんの話を勘違いしていますよ」と。その先生によると、アメリカの調査で、年収と満足度や幸福度のとの相関を調べたデータがあり、年収が増えると満足度も上がるという結果が出たのだそうです。けれども幸福度は、年収600万円を超えたあたりから下がっていくらしいんです。それ以上になると、相続はどうするとか、誘拐されるのではないかとか、心配なことが出てくるんですね。「だから平本さんは、幸福度のことを言っているのですよ」と。
その意味では、私は今、とても幸福です。たまたま創業には参加しましたが、気持ちは"サラリーマン"ですから。サラリーマンというのは、たくさん売り上げたのに給料がそれほどでなくても楽しめるんです。私には、経営者や創業者といった特別な意識はなくて、今もサラリーマン気質を忘れていません。その方が、幸福になれるんですよ。
────御社の社是にも「社員の幸福を大切にします」とあります。社員の幸福とは、どういうものだと思われますか。
幸福の青い鳥を探して旅に出たら、その鳥は実は家にいたという童話がありますね。「これがあれば幸福になる」と考えるのではなくて、辛いことを取り除いていくと不幸ではなくなるんです。例えば、最新の6000万円の車が欲しいといって買っても、2年も経てばもう幸せではないですからね。次のものが欲しくなりますから。
────きりがないですね。
そう。満足度は味わえるんです。でも幸福ではなない。では何を一番幸せに感じるかというと、例えば、私が事務所を出たらみんながホッとするというのでは、幸せではないですよね。でも、私は講演料や本の印税、私の特許の使用料も全部会社に入れていますから、みんな優しくしてくださるんです(笑)。ですから、私は今、すごく幸せです。
────おっしゃっておられるのは「利他の精神」ですね。自分があるところまでいけば、それ以上は他人に還元し、人のために使う。それのお考えは、とてもよくわかります。
日本人は、みんなそうしてきたわけですからね。
創業期を知らない社員に、創業期を体験させる
────ご業界全体としては、かつてのような上昇トレンドから下降トレンドに向かっておられますが、そういった中で今後の課題としてお考えのことはおありですか。
「創業期を体験しなさい」ということですね。創業期を体験するのは簡単で、価格を下げればいいんです。そして、給料を下げてお客さまに還元しましょうと。価格を下げるわけですから、業績は下がります。業績が下がっても、お客さまは減りませんから、これはとても大きな内部留保ですね。
────「お客さま」という内部留保ですね。
そうです。「21は本気だ」と。「本気で会社に利益を残さず、還元している」と。
────厳しいときほどそういう姿勢をはっきりと見せることが大切になりますね。
ツルなしメガネの先行品としてすでに発売されている「Fit-mini」シリーズ。
そうです。ぬるま湯には浸かってはならないということです。同時に、新しい商品もどんどん開発しています。例えば、今私がかけているツルなしメガネ。鼻パッドにヌーブラ(※)などにも使われている粘着性の素材を使うことで、ピタっとくっつくようにしてあるんです。うちの女性社員から、「美容室でメガネを外されると雑誌が読めない。平本さん、何か考えてください」と言われて開発したものです。
※ 特殊シリコーンで作られた、素肌に直接貼りつけて使用するブラジャー。
今は、プラスチックレンズを留めている金属部分を改良して、メンテナンス性を高めたものを試作中です。これは大手のレンズメーカーにもない技術で、私の特許を使ってできるようになったんです。
もう一つ、こめかみまでの短いつるのメガネも試作中です。小耳症といって、生まれつき耳の形が不完全な方が6000人から1万人に1人の割合でいらっしゃるのですが、そういった方に使っていただけるものです。私たちも普段、ソファーで横になるときなんかに、耳が圧迫されてもメガネがずれませんからいいんですよ。ほかにも、花粉症の人のためのメガネも試作中です。
────そうやってアイデアを次々と打ち出していかれれば、市場の可能性はまだまだ大きいですね。
ええ、もうまったく大丈夫です。だって、他のメガネ店にはないんですから。今や我社は、フレーム部品とレンズを仕入れてメガネのデザインを創作するメガネメーカーに変身しています。フレームは私の特許を使ってフレームメーカーにつくってもらうわけですが、これもデザインやサイズごとに200万円の金型代が必要だったものを、金型を創らずにデザインをデータで送受信・加工するシステムを独自に構築しました。創作したデザイン情報はお客さまにカタログとしてアピールし、店舗へは制作情報を配信する革命的なシステムです。
これによって20円の型板でデザインやサイズが無制限に生産できるようになり、圧倒的な競争力を得たんです。『綺麗なメガネ』というキーワードで、インターネットで検索していただければ、詳しい情報を公開していますから、よくご覧いただけると思います。
────今までに何種類くらいご自身で開発されたのですか。
20くらいはあると思いますね。でも、それも簡単なんです。知り合いから「困っている」と相談されることに応えるだけで、結構アイデアが出るんですよ。それも、私の場合は寝ながら、です。夜、問題を考えて回答が出ないうちに寝ると、目覚めたときにアイデアが浮かびます。夜中の1時、3時、5時、7時と何度も目が覚めては、忘れないようにパソコンに打っておくんです。
思えば先代のおやじさんがそうで、トイレや枕元に常にメモ用紙を置いていました。若い頃は、「寝るときくらい気持ちよく休めばいいのに」と思っていましたが、年を取ったら私も同じことをしています(笑)。
────次のことを常に考えておられるのですね。
ええ。仕事中はゴルフのスイングで悩んで、ゴルフ場では「あのフレームはどうしよう」と考えて(笑)。悲壮感を持ってもいいアイデアは出ませんからね。もちろん、結果はしっかりと出していきますが。
幸せに働ける会社をつくるには、トップのモラルが不可欠
────現在のメガネ21は、ご創業時に考えておられた会社に近いのか、それとも違った形になっておられるのか、改めて振り返ってみてどうご覧になりますか。
ここまでのことは考えていませんでしたね。創業のときは辛かったですし、会社がうまくいかない時期に離れていった人もいました。仕事がうまくいくと妬まれたり、そういう辛さがありましたが、結局は「いい集合・いい分散」で、集まってくれた人はみな気心の知れた人ばかり。だから、本当に今が幸せだと思っています。
いつ潰れるかと思ってやってきましたが、潰れずに今日まで来て。若い後継ぎがたくさん入ってきて、その人たちが新しい店を出してくれる。私どもの歴代の社長の息子さんも、みな入社しています。息子が入ってくる会社というのは、やはりいい会社だと思いますね。
若い社員も会社にお金を貯めて、その金額もみなわかりますし、全員が素晴らしいということはありませんが、でも一緒に10年くらい働けば、お金を出してやろうかという気になるんですよ(※)。年を取ったら、若者を応援して育てる。それができるのは、とても幸せなことですよ。
※メガネ21では人事コースが大きく「一般職」と「経営職」に分かれ、経営職の社員は独立を目指す。その際の開業資金は給与から積み立てるほか、社内で出資を募る仕組みになっている。
────平本さんがお作りになられた会社のありようが、ずっと広がっていくとよろしいですね。
それはもう、望外の喜びですね。経営を世襲にすると泥沼になりますが、それは禁じているわけですから、変な事はできませんしね。平本の息子だから社長になるということもないし、私の仕事ができるわけでもありません。みんな、それぞれの力量に合った仕事をしていって欲しいと思っています。
────そのように自分をコントロールされるのは、とても難しいことだと思います。頭ではわかっていても、なかなかできない経営者の方も多いのではないでしょうか。
みなさん年を取ると頭が回らなくなるのと、家族が許さないんですよ。ということは、個人の資産にするからいけないんです。わが社では、株主の上位3者が合計で5割を超える株を保有することも禁じています。3者というのは、私の義理の弟夫婦とその息子、私のいとこ、はとこまで、親族のほとんどを合わせて1人と数えます。民主主義になったから日本が今日あるわけで、会社も民主主義の方が継続すると思いますね。
────御社のこのシステムを維持するためには、トップのモラルが一番大切だと著書にも書いておられますが、世襲や株の大量保有を禁ずるのもその一つということですね。
そうです。経営者のモラルが低ければ、周囲のモラルも低くなります。高ければ、周囲も高くならざるを得ない。低い人を排斥しますからね。
────自己管理するために、他律的なものをいつもどこか意識の中に置いているという経営者の方もいらっしゃいました。「常に神様に見られていると思うことが、自分の戒めです」と。
ですから、私は全部オープンにしているんです。外から見えるようにしておけば、何かあばみんなから言われますから。
────最後に伺います。平本さんにとって、メガネ21はどういう存在ですか。
私の趣味であり実益であり人生で貫いた仕事、ですね。最近になってやっと商品開発までできるようになりました。もう少し早くできていればと思いますが、やはり時期があるのでしょうね。だから若い人にも言うんです。お客さまのリクエストに応えられないことがあっても、ただ「できません」というのではなく、「今の能力ではできません」と、謝り続けていればそのうちに解決策が見つかる、と。私も最近になって商品のアイデアが出始めましたから。ただし、特許を取って儲けてやろうと思うと、儲け話ばかりになってしまう。そうではなくて、このお客さまにこんな風に使ってもらったら喜んでいただけるという、その思いが大切なんです。
────おっしゃることはまさに経営のあるべき姿であり、経営者であれば誰しもそのことを理解できるはずですが、わかっていながらできない企業があるとすれば、なぜできないのかと。やはりそう思わずにはいられません。本日は貴重なお話をありがとうございました。