2010年11月アーカイブ ..

カルビー株式会社
上級副社長執行役員 長沼 孝義さん

| | コメント(0) | トラックバック(0)
  • <$MTEntryTitle$>

    社内の都合ではなく、顧客の論理に適応し続けることが、
    強い組織をつくる(後編)

     

    スナック菓子市場で、国内ナンバーワンシェアを誇るカルビー。看板、ブランドに胡座をかいて閉鎖的な企業風土に陥り、競争力を失った企業とは何が違うのか。最大のポイントは常に顧客に眼を向けてきた風土にあるのではないか。例えば、同社商品のパッケージの裏面には「お客様の声をおきかせください」と記載してある。「お金を出している方のほうが、いろんなことをお考えになっているわけだから、『もっとこうだったらいいのに』というお客さまの声を聞こうということです」と語る上級副社長執行役員、長沼氏。顧客の声を聞き、絶えず商品の改良を積み重ねた結果が、数々のロングセラー商品に繋がっている。また、他社に先駆けて「お菓子に製造年月日を記載したエピソード」も同社の考え方を物語っている。社内志向に陥れば組織は脆弱化する。それを防ぐためには、社内の論理でなく、社外(顧客・取引先)の厳しい基準に適応し続けることが重要なのではないだろうか。
    (聞き手:OBT協会代表 及川昭)

  • カルビー株式会社 http://www.calbee.co.jp/)1949年創業。創業者 松尾孝氏が、実父の和菓子メーカーを引き継ぎ、「松尾糧食工業株式会社」として設立。キャラメルや団子を製造するかたわら、戦後の食糧不足を解消すべく小麦粉を原料とするあられの開発に成功。1955年には、「カルビー製菓株式会社」に社名を変更。1964年に『かっぱえびせん』を、1975年に『ポテトチップス』を発売。消費者から広く愛されるロングセラー商品となる。原料の仕入れから製造までを自社で管理する一貫体制にこだわり、全国の約2200軒の馬鈴しょの生産者と直接契約。グループ企業には栽培方法を指導する専任スタッフも配置し、産地の育成にも努めている。2009年には米国の食品大手 ペプシコ社と資本・業務提携。世界市場進出への布石を打つ。
    企業データ/資本金:77億5699万円、従業員数/2609人(うち正社員 1359人、2010年3月現在)、売上高/1464億5200万円(連結、2010年3月実績)

    TAKAYOSHI NAGANUMA

    1949年生まれ。1976年にカルビーに入社。商品本部マーケティング企画部長、中部事業部長、取締役執行役員、取締役常務執行役員、取締役専務執行役員を歴任した後、2009年6月に上級副社長執行役員に就任、現在に至る。

  • 聞き手:OBT協会  及川 昭

    OBTとは・・・ 現場のマネジャーや次世代リーターに対して、自社の経営課題をテーマに具体的な解決策を導きだすプロセス(On the Business Training)を支援することにより、企業の持続的な競争力強化に向けた『人財の革新』と『組織変革』を実現している。

  • 組織力を高めるキーワードは、「簡素化」「透明化」「分権化」

    ────企業のDNAは、一般的には時代とともに薄らいでいくものですが、御社では変わらず受け継がれておられます。そのための対策を何か講じておられるのでしょうか。

    特に何かをしているわけではありませんが、かなりオープンな会社ですので、そういったことは影響しているかもしれませんね。わが社は、幸いにもまだ官僚主義には陥っていないんです。しかし一歩手前です。連結の売上高が1500億円近い会社になりましたので、風通しが悪くなるのは目に見えています。実際、かなり陥りかけていましたので、これは危険だなとみんな思っていました。

    それを阻止するために、トップ(代表取締役会長 兼 CEO松本 晃氏)が徹底しているのが、「簡素化」「透明化」「分権化」です。本社を移転(※)したのも、この3つのキーワードを実現することが最大の目的なんですよ。

    ※2010年1月に北区赤羽から千代田区の丸の内トラストタワーに移転

    ────「簡素化」「透明化」「分権化」は、それぞれどういったことを意図されているのでしょうか。

    「簡素化」は、物事はわかりやすくシンプルであるべきだということです。60年も会社が続いていますと、いろいろな人がいろいろなことを考えますから、結果的に物事が複雑になるんです。ですから、特に本社を移転してからのこの1年間は、あらゆるものを徹底して見直しています。

    ────例えばどのようなことを廃止されたのですか。

    例を挙げればきりがありませんが、わかりやすい例で言いますと、どこの会社にも出張旅費規程というものがありますね。その中に出張日当に関する規定があったのですが、日当ってなに?と。よく考えてみたら、誰もわからない。おそらく、昔は出張といえば夜行列車で長距離を移動して、「大変だから、これでご飯でも食べなさい」と。そんなことで支給されたのだろうと思いますが、今はそんな旅はもうありませんよね。だったら日当も止めようといって、廃止してしまったんです。移転後の本社には、応接室もありません。広い部屋にソファを置く必要があるのかということなんです。

    ────そうですね。それが付加価値を生むわけではありませんね。

    そういった、「昔からそうだから」としか説明できないような物事が山ほどあります。それらはすべてコストです。ですから、簡素化はコストリダクション(コスト低減)にもつながるんです。廃止したものは恐らく100や200は下らないでしょう。仕分けは、国よりもカルビーのほうが早かったんですよ(笑)。

    オープンな社風は、オープンなオフィスから生まれる

    ────まさに仕分けですね。次の「透明化」は、どのようなことを指すのでしょうか。

    「透明化」は、いろいろな意味でオープンであろうということです。社内に対しても、社外に対しても。これも非常に重要なキーワードで、カルビーはもともとオープンな会社ですが、今の本社は壁がないワンフロアで、会長室も社長室もありません。社員に聞かれて困ることはないということなんです。

    (写真左)オフィスに入ると正面(白い什器の奥)に、松本会長、伊藤社長、長沼副社長ら役員の席があり、出入りする社員は必ず役員の執務スペースの前を通る設計になっている。手前には社員が随時利用する打ち合わせスペース、左右にはオフィスが広がり、すべての部署がオープンなワンフロアに入居している。
    (写真右)オフィスは、社員が固定席を持たないフリーアドレス制。書類や資料は、個人ロッカーに保管する。フロアでは部長と一般社員が隣同士に座る光景も日常的に見られ、部門や役職を超えたコミュニケーションが自然と生まれている。

    ────文字通り、風通しのいいオフィスですね。

    「人は横にしか動かない」というのが、会長の松本の考えなんです。ですから、ワンフロアにすることが新本社の条件でした。そもそも会長はオフィスが嫌いでして(笑)、会長も社長(代表取締役社長 兼COO 伊藤 秀二氏)も、本社にはほとんどいません。いつもお客さまのところに伺って、生のいろいろな声を聞いているんです。

    ────そういった現場主義は、今の経営陣になられてからのことですか。

    創業者も同じでしたから、やはり似ているところがありますね。松本がよく言うのは、「情報は下から吸い上げろとよくいうけれども、上から流していくことが情報なのだ」と。「現場の情報を取れというなら、我々も含めて自分から取りに行けば良いじゃないか」と言うんです。「透明化」はそのためのものであって、非常に重要なキーワードなんですよ。

    最後の「分権化」は、任せたら一切の口を出さないということです。その前提として、ビジョンの共有に力を入れています。カルビーのビジョン(※)では、最初に顧客と取引先、2番目に従業員とその家族、3番目がコミュニティ、株主は4番目に置いていまして、この考えを徹底的に大事にして、順番を間違えないようにやろうと言っているんです。

    ---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
    ※カルビーグループのビジョン:
    顧客・取引先から、次に従業員とその家族から、
    そしてコミュニティから、最後に株主から
    尊敬され、賞賛され、そして愛される会社になる
    (カルビーの企業サイトより http://www.calbee.co.jp/company/rinen.php)
    ---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

    ────考え方の順番はとても大事ですね。

    順番を間違えると、大変なことになりますからね。もちろん収益目標も掲げますが、ビジョンの順番を守って、正しい業績をあげようということです。例えばある問題が起きて、解決策が複数あるのであれば、まずは顧客・取引先にとってどうか、次に従業員にとってどうかという順番で判断するわけです。

    このビジョンと「簡素化」「透明化」「分権化」という3つのキーワード。すべてはこれに照らしてジャッジするのが、カルビーの経営です。社員が現場で何かを判断するときもそれは同じなんですよ。

    ────価値判断の基準を明確にされているから分権化ができるのですね。

    そうです。ですからこのビジョンは非常に大切で、松本さんはいろんな場面で何百回と引用して社員に伝えています。

    官僚的な体質はバランスシートを悪化させる

    ──── 業績の悪化など、何か問題が表面化してから動くのではなく、先手を打ったお取り組みですね。

    わが社も一時は借入金が増えて、バランスシート(貸借対照表。以下BS)は決して良くはありませんでした。将来に向けて何かをやろうとするときに、BSがいい状態でなければ何もできませんから、松本さんは左右のバランスと同時に上下のバランスも大事なんだと言っています。固定資産よりも流動資産がある方がいいですしね。わが社はどちらかといえば下の部分が膨らんでいましたので徹底して改善して、お陰様で今は健全な状態になってきました。

    ────BSが悪化された時期は、さきほど言われた官僚主義の傾向を察知された時期と重なりますか。

    官僚主義になると、数字も悪くなりますね。ですから、「バランスシート」という言い方は、実に見事ですよ。まさに通信簿であり、企業を見るのにふさわしい指標だと思いますね。

    世界最大規模の食品・飲料会社 ペプシコと資本提携

    ────風土改革に取り組まれる一方で、2009年にはアメリカの大手食品・飲料会社のペプシコと戦略的提携契約を結ばれました。提携の狙いを改めてお聞かせください。

    日本のマーケットには限りがありますし、わが社が単独で何かを考えてやっていくことにも限界があります。数年前からそういったことを考えてきた中での選択肢の一つが、ペプシコとの提携でした。アライアンスで重要なのは、相手のビジネスをお互いにきちんと理解できる企業と組むということです。やってみて、つくづくそう思いますね。

    特に、わが社の主力商品であるポテトチップスは、馬鈴しょの加工品です。今年は猛暑による北海道の不作が報じられていますが、そういった天候の影響も受ける中でビジネスをやっているわけです。そのことを理解できる世界で唯一の会社がペプシコなんです。ポテトチップス事業を我々よりも50年長くやっていますし、日本の馬鈴しょ事情もよくわかっている。ある年の業績を説明するのに、その時の馬鈴しょの歩留まりはどうで、比重(※)はどうだったのかと彼らから質問してくるんです。そういう共通言語をもった唯一の食品企業です。さらにペプシコと組めば、彼らが持つ馬鈴しょビジネスのノウハウを活用できる。これも大きな理由でした。

    ※馬鈴しょのでんぷん含有量を測る指標の一つ

    ────企業のDNAという観点で見たペプシコとの相性は、どのように判断されましたか。

    「簡素化」「透明化」「分権化」という我々のキーワードの中で、ペプシコは分権化を最もグローバルに実践している海外の食品企業です。日本に進出している外資系企業の中には、手取り足取りあれこれ指示する会社もありますが、ペプシコは正反対。ある意味で、結果主義なんですね。

    ────資本提携に対する社内の受け止め方はいかがでしたか。

    いろいろな意見があり、ポジティブとネガティブが5分5分といったところでした。しかし、もちろん経営陣は提携交渉を進める考えでいましたし、最終的には創業家にも十分にご理解いただきました。

    ────ご創業家の存在は、やはり大きいのでしょうか。

    一番大切なのは、大株主との問題ですからね。しかし、創業家は世襲には固執せず、この会社の正しい発展を考えた選択をされました。ジョンソン・エンド・ジョンソンの日本法人前社長の松本晃をトップに据えるという決断も、創業家が下したわけです。これは大変な決断です。ペプシコとの提携も、決断していただきました。この会社の将来を、非常に客観的に見ておられるからこそのこと。そういったいろいろな意味で、我々とペプシコとのアライアンスは、良いスタートを切れたと思います。

    経営トップ自ら、全国の拠点を行脚する

    ────ペプシコとの提携とほぼ時期を同じくして、社外取締役を増員され、取締役会の改革も決行されました。

    現在のボードメンバーは監査役を除いて7人ですが、そのうち5人は社外取締役の方に入っていただいています。狙いは、経営と資本を分離するということです。さらに、経営と執行も分離する。取締役は、経営を"取り締まる人"です。経営者と取締役が同じでは、取り締まれるはずがないんですよ。

    ────取締役本来の役割に忠実な体制ですね。

    ですから、取締役会では、いつも大変な議論が行われていますよ。社外役員の方々は形だけの就任ではなく、非常に大きなご尽力をいただいています。

    ────社員の方々に対しては、経営トップが直接対話する「タウンホール・ミーティング」を実施され、松本会長と伊藤社長が全国の拠点を行脚されています。新体制の趣旨や御社が目指す方向性を、経営トップ自ら現場に伝えておられるということでしょうか。

    そうです。松本がトップになってすぐに、「やろう」と自ら発案して始めた取り組みです。関連会社も含めると拠点が22カ所もあるものですから、一巡するのに2カ月間かかるんです。しかしすべて回り、契約社員も含めた全社員に集まってもらって。まさに今週、第3回の「タウンホール・ミーティング」が終わったところです。

    ────第3回ということは、全拠点を3回訪問されたということですか。

    そうです。2009年の6月に松本が就任してからまだ1年と少しですが、すでに3回行っています。昨年は、新しい経営陣がどんなことを考えているのかを伝えることが目的でした。社員はみんな不安に思っているはずですからね。取締役会は変わるし、ペプシコとは組むし、この会社はどうなるのかと。そういうことに関して、きちんと話をしようということです。

    今年は、将来どんな会社にしたいのかを伝えることがメインです。「早く、ナンバーワンの菓子メーカーになろう」と、はっきり皆にそう伝えましてね。わが社は今どういうポジションにいるのか、経営状況はどうなっているのか、2017年にはどうなっていたいのかといったことを共有したんです。そのうえで、現場の質問も受けました。その場では手を挙げにくいでしょうから、無記名もOKにして事前に聞きたいことを集めたら、1カ所あたり45件くらいの質問が来ましたけれども、手分けしてすべて答えました。

    ────例えばどのようなご質問が出たのですか。

    何でも聞いていいことになっていますので、いろいろなものがありましたね。「どうしたら社長になれますか」とか、「社長の年収はいくらですか」とか。そういう質問にも、すべて答えます。ミーティングの後は必ず立食パーティをやりますので、「さっきは聞けなかったのですが」と話しかけてくる社員もいて。やはり現場に行って、直接会うことが大事。これも、「透明化」の取り組みの一つです。

    ────改革に王道はなく、そうした地道ともいえるお取り組みが大切なのですね。

    今はまさに、次に向けて何をしなくてはいけないかを、あらゆる意味において問われるステージにさしかかっているんですよ。創業者の松尾孝がこの会社を興して、大成功しました。でもそれは続かない。永遠であるはずがないんです。この2、3年は企業のあり方をもう1度つくり直す時期になります。ただし、商品開発のこだわりといったカルビーに残さなくてはいけないものと、捨てるべきものはきちんと仕分をする必要がある。そのうえで、会社の形を変え、継続して成長する仕組みをつくる必要があるということです。

    企業の成長は"人"で決まる

    ────今後の経営課題として、特に重視されていることをお聞かせください。

    一番のテーマは、策定した成長プランをどう実現していくかということです。実行するのは人ですから、人をどう育て、活躍させ、グループ全体の成長につなげるか。すべては"人"に集約されます。

    人を育てるには、時間はかかっても思い切って任せてやらせてみることです。プロジェクトをいくつも立ち上げてどんどん抜擢して、とにかくやらせる。すべてうまくいくとは思いませんが、できるかどうかは、やらせてみなければわかりませんからね。プロジェクトを立ち上げて任せるということを、特に30代の社員を中心に力を入れてやろうと考えています。

    ────失敗を許容する文化がなければできないことですね。

    もともとそういう文化がありましたが、今の会長はさらにそうですね。責任者を集めたときに我々がよく話すのは、「やらせた方に責任がある」ということです。「失敗しても責任を取れとは言わない。この仕事を君に任せたのは我々なのだから」と。先ほどリーダーの話をしましたが(前編参照)、リーダーの仕事は「ジャッジをする」、「責任を取る」。この2つだけなんですね。それができないなら、リーダーをやってはいけない。責任はやらせるほうにあるんです。もちろん任された方も、受けた以上は自分で判断をして責任を果たす心構えがなければ成功はできません。その両方のスタンスが大事だと思いますね。

    ────企業は人なりという意味では、どういった人財を採用するかも重要なポイントかと思います。採用ではどのような点を重視されるのでしょうか。

    私は採用の最終責任者ですが、基本的には人物で判断します。具体的にいえば、嘘をつかない人かどうかということ。それを面接で徹底的に判断するんです。嘘をつかない人は、失敗しても取り繕ったり、誰かの責任にしたりはしませんからね。ですから、面接で聞いた質問に対する答えが適切なものではなかったとしても、本人が本当にそう思って言った答えなら、私は評価します。自らの判断のもとに、意見がきちんと言えるということが大事なんです。

    ────自分なりの見解を持っているということは、とても大事ですね。

    学生時代の経験の中でも、自分で判断するような場面はあったはずです。そのときに自分で答えを出さずに、いつも誰かの判断に任せていたような人は、成績がどれほど優秀でも採用しません。一般に当てはまる採用基準ではないかもしれませんが、私はこの点を非常に重要視しますね。

    ────最後にもう1つご質問させてください。長沼副社長にとってカルビーとはどのような存在でしょうか。

    いろいろな意味で人間的な成長をさせてくれたところです。私は創業者から薫陶を受けた最後の世代ですが、経営のドラスティックさを目の当たりにすることができ、非常に勉強をさせてもらいました。成長させてもらったというひと言につきますね。

    ────本当に大切なものだけをシンプルに、徹底して突き詰める。そのことの大切さを教えていただいたように思います。本日はありがとうございました。

カルビー株式会社
上級副社長執行役員 長沼 孝義さん

| | コメント(0) | トラックバック(0)
  • <$MTEntryTitle$>

    社内の都合ではなく、顧客の論理に適応し続けることが、
    強い組織をつくる(前編)

     

    スナック菓子市場で、国内ナンバーワンシェアを誇るカルビー。看板、ブランドに胡座をかいて閉鎖的な企業風土に陥り、競争力を失った企業とは何が違うのか。最大のポイントは常に顧客に眼を向けてきた風土にあるのではないか。例えば、同社商品のパッケージの裏面には「お客様の声をおきかせください」と記載してある。「お金を出している方のほうが、いろんなことをお考えになっているわけだから、『もっとこうだったらいいのに』というお客さまの声を聞こうということです」と語る上級副社長執行役員、長沼氏。顧客の声を聞き、絶えず商品の改良を積み重ねた結果が、数々のロングセラー商品に繋がっている。また、他社に先駆けて「お菓子に製造年月日を記載したエピソード」も同社の考え方を物語っている。社内志向に陥れば組織は脆弱化する。それを防ぐためには、社内の論理でなく、社外(顧客・取引先)の厳しい基準に適応し続けることが重要なのではないだろうか。
    (聞き手:OBT協会代表 及川昭)

  • カルビー株式会社 http://www.calbee.co.jp/)1949年創業。創業者 松尾孝氏が、実父の和菓子メーカーを引き継ぎ、「松尾糧食工業株式会社」として設立。キャラメルや団子を製造するかたわら、戦後の食糧不足を解消すべく小麦粉を原料と するあられの開発に成功。1955年には、「カルビー製菓株式会社」に社名を変更。1964年に『かっぱえびせん』を、1975年に『ポテトチップス』を発売。消費者から広く愛さ れるロングセラー商品となる。原料の仕入れから製造までを自社で管理する一貫体制にこだわり、全国の約2200軒の馬鈴しょの生産者と直接契約。グループ企業には栽培方法 を指導する専任スタッフも配置し、産地の育成にも努めている。2009年には米国の食品大手 ペプシコ社と資本・業務提携。世界市場進出への布石を打つ。
    企業データ/資本金:77億5699万円、従業員数/2609人(うち正社員 1359人、2010年3月現在)、売上高/1464億5200万円(連結、2010年3月実績)

    TAKAYOSHI NAGANUMA

    1949年生まれ。1976年にカルビーに入社。商品本部マーケティング企画部長、中部事業部長、取締役執行役員、取締役常務執行役員、取締役専務執行役員を歴任し た後、2009年6月に上級副社長執行役員に就任、現在に至る。

  • 「自然の恵みを大切に活かす」という創業のDNAを今に受け継ぐ

    ────御社は国内のスナック菓子市場でトップシェアを誇り、数々のロングセラー商品を生み出してこれらました。今日はカルビーの強 さの秘けつをテーマに、さまざまな観点からお話を伺わせてください。

    カルビーの創業者の松尾孝という人物は大変な起業家で、昭和39年に「かっぱえびせん」を世に出すのですが、そこには日本人の食に対するこだ わりみたいなものがありましてね。戦後の食べ物がない時期に、「日本人はいずれ、カルシウムやビタミンB1が欠乏する時代が来る(※)」と。チョコレートといった進駐軍 から入ってきたものがもてはやされていた時代に、そういうことに関心を持つんですよ。そして、「かっぱえびせん」をつくったわけです。えびを丸ごと、殻もすりつぶして 練り込みますので、まさにカルシウムの塊なんですね。

    ※「カルビー」の社名は、カルシウムとビタミンB1を組み合わせて命名された。


    もう一つ、松尾がビジネスを起こした原点には、「もったいない」という思いがあります。彼が生まれ育った広島では、瀬戸内海でえびが山ほど 獲れたんですが、みんなハマチのエサになっていた。それを、「こんなにいいものが、エサにしか使われないのはもったいない」と。幼少のころに、川で獲ったえびを母親が 天ぷらにしてくれたことも忘れられなくて、それで「かっぱえびせん」をつくるんです。

    その後、馬鈴しょに目を向けるわけですが、北海道で採れる馬鈴しょの半分は、実はデンプンになります。食糧資源が乏しい日本で、馬鈴しょを デンプンにしてしまうのはもったいない。今の日本を予感したかのように、松尾がそう考えてつくったのが「ポテトチップス」です。

    こういったように、いい食糧資源に対して「もっとこうすれば、みんなが喜ぶ食べ物になる」という思いがもの作りのこだわりとしてあって、そ れがカルビーのDNAになっているんです。ですから商品開発にはものすごく時間をかけますし、ものになるまでやめません。「こうしたらもっとよくなる」という改良、改善を 徹底して追求します。

    例えば「じゃがりこ」の開発には、5年はかけたでしょうか。1990年ごろから着手して、ああでもない、こうでもないと。最初の原型がわからなく なるくらい、改良に改良を重ねました。年間約250億円を売り上げる商品に育ちましたが、これなども基本はポテトサラダですからね。もっと食べやすくお菓子にできないかと 考えたら、ああなってしまうんですよ(笑)。

    世に山ほど出回っているフライドポテトも、温かいうちは美味しいけれども、冷めたら風味も食感も落ちますね。それをもう一工夫しようと考え てつくったのが「Jagabee(ジャガビー)」です。世の中にあるものを「もっと食べやすく」、「もっと工夫する」。それをとことん突き詰める。そんなDNAが、カルビーの中 にあるんですよ。

    未上場を武器に、ものづくりに徹底的にこだわる

    ────他社に目を向けてみると、そこまで行き着くことができず、「どのくらいコストがかかったのか」という議論に負けて、新商品の 芽を摘んでしまうケースも少なくありません。

    おっしゃる通りですね。一つ運が良かったのは、カルビーは未上場だということです。上場してないということは、短期的なことに捉われずに、 ある種の探究心を持って追い求めようとする風潮が強くなるんですね。商品開発に5年もかけてコストを回収できるのかという議論に勝るものがあるんです。もちろん、一般論 としてはそれだけではいけませんが、それがここまでロングセラーといわれるヒット商品を提供し続けられた所以ではないでしょうか。

    ですから企業理念(※)にもある通り、食の産業から一切逸脱していませんし、素材には徹底的にこだわります。このことを貫いて、61年間やっ てきた。これは「開発力」というハウツー的なものではなくて、「創業者がもたらしたDNA」としかいいようがないんじゃないかなと思いますね。

    ------------------------------------------------------------------------------------------------------- --------------------------------------------------
    ※カルビーの企業理念:
    「私たちは、自然の恵みを大切に活かし、
    おいしさと楽しさを創造して、
    人々の健やかなくらしに貢献します。」
    (カルビーの企業サイトより http://www.calbee.co.jp/company/rinen.php)
    ---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

    ────トヨタや花王など、ご業界は違いますがトップ企業はみな、「徹底して突き詰める」という点で共通しておられますね。

    食品業界でいえば、ある分野に徹底してこだわっているのは「トマト」のカゴメさんと、「卵」のキューピーさんと、「馬鈴しょ」のわが社と。 実は意外に少ないのですが、この3社は共通の「こだわり」を持っているように感じます。

    ────事業を横展開する企業は多くありますが、縦に統合するという点でも御社は非常に特徴的です。

    垂直統合といいますか、そこまでやらなくてもいいのにと思いますけれどもね(笑)。わが社は北海道で20万トン弱の馬鈴しょを調達する、日本 で最も多く馬鈴しょを集める会社ですが、社内でよく議論するのは、もしも日本が大変な食糧難になったら、ポテトチップスをやめて馬鈴しょを供給しよう、と。そういう形 で役に立てるのではないかという考えすらあるんです。

    ────30年以上前から、馬鈴しょの生産者と直接契約をしておられます。これもご業界では異例のことでしょうか。

    そうでしょうね。専門の流通会社にお願いするのが普通ですが、わが社は品質にこだわりますのでね。ポテトチップスのパッケージにはQRコード をつけていまして、携帯電話で読み取れば、馬鈴しょの産地や品種、生産者の名前もわかる。そういうことまで徹底してやります。生産者の方たちとは私ももう十数年来の付 き合いで、毎年多くの方々とお会いして話をさせていただいています。

    また、余談になりますが、ポテトチップスに使用できる生の馬鈴しょは5年前まで植物防疫法による輸入禁止作物だったんです。現在も例外的にわ ずかに輸入が許可されているにすぎません。ところが実は、馬鈴しょの輸入は増えています。さきほど申し上げたフライドポテトです。冷凍ポテトといった、加工した馬鈴し ょがどんどん入ってきて、結果的に国内の馬鈴しょの用途を縮めている。日本には約280万トンの生産能力があって、生産者がせっかくそれだけの馬鈴しょをつくっているもの を、もっと有効に幸せな形で活かそう、と。そういう意味では、相当な風穴を開けている会社かもしれません。

    ロングセラーのヒントは、お客さまの声の中にある

    ────発売と同時に大ヒットする商品と、改良を重ねてロングセラーとして育つ商品と、御社はどちらのケースが多いでしょうか。

    後者が多いでしょうね。短命であることをよしとせず、改良に投資し続けて、長く支持されることにエネルギーを注ぎますから。

    ────改良のヒントは何から得られるのですか。

    「1才からのかっぱえびせん」
    2003年に地域限定で発売し、2004年から全国で販売。食べきりサイズの小分けにし、油を一切使わず、塩分量を半分にした。

    基本はお客さまの声です。わが社はパッケージの裏面が非常に独特でして、「お客様の声をおきかせください」と書いてあるんです。以前は、「 商品に不都合があったらご連絡ください」といった一般的な文言でしたが、5年ほど前に今の表現に変えました。昔はわが社もプロダクトアウトで、お客さまの声を聞こうとも しない会社だったんですね。それで成功はしましたが、それだけで本当にお客さまが欲しているものを提供し続けられるわけがない。何年も前からその議論があり、営業を通 じて売り場担当者の声を聞いただけでも、「なるほど、お客さまはそんな風に感じているのか」という発見が山ほどありましてね。

    社内では「Voice of Customer」と呼んでいますが、お客さまのクレームだけを聞くのは違うんじゃないかと。お金を出している方のほうが、いろ んなことをお考えになっているわけだから、「もっとこうだったらいいのに」というお客さまの声を聞こうということです。

    ────パッケージの裏面を変えて、寄せられる声は増えましたか。

    2倍に増えました。細かなことまでご意見をお寄せいただいて、それがすべて改良のヒントになっています。パッケージの高さや、開封用の切り目 の入れ方一つとってもそうですし、改良のヒントなんていうものは、ゴロゴロころがっているんですよ。

    例えば、お客さまの声から生まれた商品に「1才からのかっぱえびせん」があります。お母さんが「かっぱえびせん」が大好きで、カルシウムが採 れるからお子さんにも食べさせたいけれども、小さなお子さんの口には入らないし、塩分も気になる。「安心して子どもに食べさせられるものがほしい」という声をたくさん いただいて開発した商品です。

    小さな改善も、積み重ねればイノベーションになる

    ただ、改良の多くは「なるほど変わったね」といわれるようなものではありません。それこそ、「かっぱえびせん」の溝の数を一本増やすといっ た、小さな改良の積み重ねです。

    ────その積み重ねが大きい。

    ですから、昭和39年に発売した当時の「かっぱえびせん」を、今つくれといわれてもできませんね。まったく違うえびせんですから。

    ────小さな改善も、積み重ねればイノベーションになりますね。

    パッケージデザインは、大きくは3年に1度リニューアルしますし、マイナーチェンジは毎年行います。「かっぱえびせん」は発売して46年経ちま すから、少なくとも40回は変えているはず。ほかの商品も同様に、お客さまが気づかないうちに、少しずつ変化しているんです。

    ただ、お客さまの印象というのは面白いもので、1980年代半ばごろのことですが私が商品企画をしていたときに、「かっぱえびせん」のパッケー ジを大きくリニューアルしたことがありました。品質保持の指令が厳しくなって、包材をアルミ蒸着フィルム製(※)のものに変えなくてはいけなかったんです。創業の商品 ですから、パッケージのデザインを変えるというのは大変なことです。当然ながら、いろいろな消費者調査をきちんとやりましたが、お客さまに「かっぱえびせん」と聞いて イメージする色を聞くと「赤だ」とおっしゃる。でも実は、それまでのパッケージの色は赤ではないんですよ。

    ※アルミ蒸着フィルム:フィルムにアルミの薄い膜をつけたもの。遮光性があるため、内容物の品質を長期間保持で きる。

    (写真左/「かっぱえびせん」の初代パッケージ。中身の見える透明な袋に、白い渦巻と赤いえびが描かれている 。 写真右/2010年10月現在のパッケージ)

    ────何色だったのですか。

    透明です。そこに瀬戸内海の渦を表した白い渦巻とえびが描かれているのですが、そのえびの赤い色の印象が強烈にあるんです。人のイメージと いうのは、そういうものなんですね。アルミ蒸着の袋に変えるということは、中身を見えなくするわけですから、えびせんが見えなくなる。でも袋を赤い色にすれば、「かっ ぱえびせん」だと思っていただけるのではないか。そう考えて、パッケージを思いきって赤にしました。お客さまの記憶に残っているものは、こちらが勝手に思っていること とは違うことがあります。それを丁寧に観察してお声を聞くことで、改良の方向性が見えてくるんです。

    ────お客さまの声にもさまざまなものがあり、そのどれに対応すべきかは判断が難しいところかと思います。やはり、ご意見が多いも のを優先に対応していかれるのでしょうか。

    そうとは限りません。多数派であることと、正しいということとは別ですからね。わが社の場合、お客様相談室のほかに、ゾーンセールスという 店頭をフォローする部隊がありますし、多方面からいろいろな情報が入ってきます。その中の、どの声に応えるべきなのかという議論は常にあります。基本的には商品部がジ ャッジしますが、やってダメなら戻せばいいじゃないかと。そう考えれば、それほど悩むこともないのではないかと思いますね。

    どんな組織も、風土はリーダーで決まる

    ────改良を徹底的に追求する風土は、どのようにして培われたものなのでしょうか。

    同じご質問をよくいただきますが、これはもう説明不能ですね。ただ、結局はリーダーの立場にある者がそういうことを率先垂範してやっていか ない限り、続かないと思いますよ。どんな組織も、リーダーで決まりますからね。わが社でいえば、1949年に松尾孝という一人のリーダーが始めたことが、今につながってい るわけです。それも意図してそうしたわけではなく、やりたいことを突き詰めたらそうだったということであって、松尾にはこのやり方しかなかったのだと思います。

    その意味で、カルビーの歴史の中で最大の決断というのは、パッケージに製造年月日を記載したことなんです。製造年月日を明記していたのは牛 乳や豆腐といったものくらいしかない1975年頃のことですから、お菓子に日付を入れるなんてとんでもないわけです。日付がなければ"先入れ先出し(※)"の手間もありま せんから、明記したとたんに卸も小売も含めて流通業界全体から大反発があったんですよ。「こんなバカなことをする会社はない」と。

    ※先入れ先出し:保管期間の長い在庫から順に売り場に出すこと

    ────売る側にとっては都合が悪いですね。

    そうです。しかしその当時、神戸市では油を使用した食品には全て製造年月日を入れるべきだという地方条例を制定する動きが起こっていまして 、将来、世の中全体が必ずこうなると思ったわけです。買う側にしてみたら、その食品がいつつくられたかを知りたいと思うのは当たり前のこと。その気持ちに素直になった ら日付は入れるべきだ、と。正しいと感じたことは、やるのがカルビーなんです。

    ────社内に反対意見はありませんでしたか。

    それが、実はあまりなかったんです。ポテトチップス事業を始めて、うまくいっていなかったということもあるんですね。ポテトチップスは揚げ 物ですから、大変申し訳ないけれども、できたてが一番美味しいんです。ですから、なるべく早く食べていただきたい。製造年月日を入れて、できてそんなに日が経っていな いということを伝えれば、お客さまにも食べていただけるのではないかと。そういう思いがありましたから、むしろ積極的でした。

    もちろん法律上は賞味期限だけでいいのですが、その商品の賞味期限が3カ月なのか4カ月なのか、知らないお客さまもいらっしゃいます。その方 にとっては、賞味期限を見ただけではいつつくられたのかはわからない。それを、だったらわからなくていい、とはしたくないんですね。例えば、「何月何日に製造して、今 日はできて何日目です」ということをきちっと伝えたい。その姿勢はずっと変わりませんね。

    食品業界、流通業界から反発されながらも、製造年月日を入れる決断をリーダーがする。リーダーがどこを向いて、何を決断するのかということ が、社内の体質になっていくわけです。カルビーにはそれが染みついているということなのだろうと思いますね。

    業界シェアトップの強さの源を語る言葉は、明快かつオープン。「すべての物事は、シンプルであるべきです」と、長沼副社長は語ります 。シンプルな強さを生んだカルビーの風土とは。ペプシコとの提携で目指すものとは。後編ではカルビーの人と組織、そして今後について伺います。


*続きは後編でどうぞ。
  社内の都合ではなく、顧客の論理に適応し続けることが、強い組織をつくる(後編)

« 2010年10月 | メインページ | アーカイブ | 2010年12月 »

ウェブページ

Powered by Movable Type 4.1

このアーカイブについて

このページには、2010年11月に書かれたブログ記事が新しい順に公開されています。

前のアーカイブは2010年10月です。

次のアーカイブは2010年12月です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。