2010年3月アーカイブ ..

株式会社アイケイコーポレーション
取締役副社長 大谷真樹さん

| | コメント(0) | トラックバック(0)
  • <$MTEntryTitle$>

    【急成長企業の人財育成】
    "効率化するもの"と"しないもの"(後編)

     

    長引く不況下で、「経営の効率化を推し進める」といった表現が経済誌や企業各社の株主通信などに頻出するようになりました。しかし例えば、短期的な費用対効果を重視しすぎると長期的な投資が後手に回るなど、何かを効率化すれば必ず副作用もあるもの。万能の効率化策はありません。では、"効率化するもの"と"しないもの"をどう見極めるのか。1994年に創業し、2006年には東証二部上場を果たしたオートバイ買取専門店「バイク王」を運営するアイケイコーポレーションでは"目的に対する合理性"を基準に、"効率化"と"非効率化"が人財育成を始めとする経営のあらゆる場面で巧みに使い分けられています。同社取締役副社長 大谷真樹さんにお話を伺いました。

  • 株式会社アイケイコーポレーションhttp://www.ikco.co.jp/

    1994年創業。取締役会長 石川秋彦氏と代表取締役社長 加藤義博氏が、オートバイの買取専門店「メジャーオート有限会社」を共同出資で設立。翌年から、1法人・1ブランド・1店舗の多ブランド戦略を掲げ、グループ会社を次々と設立する。1998年にグループ会社の総合コンサルティングを目的に、株式会社アイケイコーポレーションを設立。その後、経営の効率化を図るために2001年から2003年にかけてグループ会社を順次アイケイコーポレーションに統合。店舗名を「バイク王」に統一する。2005年にジャスダック、2006年に東証二部に上場。2009年に「バイク王」100店舗を達成。「オートバイライフの総合プランナー」を目指して、オートバイ買取に加えて、オートバイ小売販売、オートバイ駐車場事業、パーツ販売などを幅広く展開する。
    企業データ/資本金:585百万円、従業員数/923名(2009年8月末日現在、連結) 、販売台数(買取販売)/155,914台(2009年8月期)

    MAKI OTANI

    1971年生まれ。代表取締役社長 加藤義博氏は、小学校・中学校の同級生。1992年に外食企業・株式会社ル・グランに入社。1995年以降、グループ会社の有限会社オーケイ、有限会社バイク王、有限会社モトガレージオープンの設立に参加し、取締役、代表取締役に就任。その後グループ会社統合にともない、2000年に株式会社アイケイコーポレーションに入社。2001年取締役に、2007年副社長に就任。営業本部と教育研修室を管掌

  • 社員一人ひとりと向き合い、「1000名の壁」を乗り越える

    ────社員数が1000名近くなり、急に意思統一が難しくなってきたという課題(前編参照)に対して、どのような手を打たれているのでしょうか。

    今、管理職に対して取り入れているのは、何事もフォローを徹底するということです。例えば、管理職を集めて何かの講義を行ったとしましょう。昔はそれで終わりでしたが、今は、出席者に後日アンケートを取ります。その内容を見て、講義で伝えたことを理解していない人、これは危ないなと思う人は、すべて個別にフォローアップをしています。

    そして、フォローするための編成チームも立ち上げました。グループ会社の取締役や社員教育を担当する教育研修室のスタッフなど、組織横断でメンバーを集めたチームが、アンケートの実施から記入内容のチェック、その後のフォローまでのすべてを担当します。フォローが必要な人に対しては、本社に呼ぶかスタッフが店舗を訪ねるなどして、マンツーマンで再講義し、理解できたという状態にまでもっていく。そのうえで、フォローアップの対象が営業サイドの管理者であれば、営業本部にバトンタッチする。組織の指揮命令系統とは異なりますが、今はそういうやり方を取っています。

    ────個別にフォローすることは、ご本人の今後の自覚を促すことにもつながりますね。

    アンケートを取ることも事前に伝えていますので、あらかじめ心構えはできていると思います。それでも「その話は聞いていません」ということも往々にしてあるんです。それを放置したのでは、管理職を集めて講義をした意味がありませんから、やはり何らかのフォローはせざるを得ないと思います。ですから最近は、何かを伝えてそれで終わりという方法は、まず取らないですね。

    ────社内の意思を統一するためには、管理職の役割は大きいですね。

    階層を分ければ分けるほど伝言ゲームが難しくなりますから、管理職はキーマンでありネックにもなるポジションです。ですから情報伝達に関しては、組織のラインを通して・・・という理想形だけに頼ることはしなくなりました。もちろん、初期の伝達はそこに頼りますが、それで完全に伝わるだろうという考えをしなくなりましたね。

    例えば、私の下に本部長、その下に副本部長、次にマネージャーという階層がありますが、本部長に伝えて終わりではなく、必ず週に1度、マネージャー以上を集めたミーティングを持っています。伝えたことがしっかり伝達されているかを、週に1度必ず確認するということです。次はそこからまた、マネージャーからシニアリーダー、シニアリーダーから店長へという伝達がありますが、これも伝えて終わりではなく、伝達事項が行き届いているかどうかを、先ほどお話した編成チームが一般社員にヒアリングをかける。このフォローに、今は非常に重きを置いています。

    ────そういったフォローが重点課題になっている背景には、組織が急拡大して管理職への昇進昇格スピードが速まった、などのご事情もありますか?

    それはありますね。2009年8月に「バイク王」が100店舗を達成するまでは、かなりの急ピッチで出店しましたので、人事考課での評価が追いつかないくらいのスピードで昇格してもらわないといけませんでした。新卒2年目で店長になる人も多く、実力が伴わないまま店長やシニアリーダー、マネージャーになったケースもあったと思います。

    一方で、こうした登用は当社の社風によるところもあります。完全な状態にまで育成してから管理職にする企業もあれば、成長の期待を込めて任命する企業もあり、当社はまさに後者のケース。期待を込めた分、本人を成長させるのは会社の役目になる。そういったスタンスでいます。

    手間を惜しんでいては、人は育てられない

    ────人財育成についてもお聞きしたいのですが、多店舗展開を機に教育研修体系を構築されたと伺いました(前編参照)。しかし、研修効果が見られず、研修の限界を感じる企業も少なくありません。研修で人を育てることはできるのでしょうか。

    どこまでを「研修」と捉えるかによると思いますね。ただ受講してもらうだけでは、まったく効果はないと思います。まず、どんな研修を受講したのかを上司が知っていることが重要です。さらに、研修内容と上司の指導内容が一致しなければいけませんし、指導内容がその通りにずっと一貫していなくてはいけない。しかし人間がすることですから、その保証はありません。ですから当社では、研修して終わりではなく、研修で教えたことが現場で実行されているのか、そのフォローまで行います。組織内の情報伝達のフォローを重視しているように、研修もフォローが必ず必要だということです。

    ────研修のフォローは、どなたがどのようにされるのですか。

    まさに今年から始めようとしているところですが、研修の2、3カ月後を目途に教育研修室のスタッフが店舗を訪問し、受講内容を覚えているかを、研修に参加したスタッフにヒアリングします。ただし、"覚えている""理解している"というだけでは不十分。実行していることが重要ですから、例えば査定に一日同行するとか、店舗での店長とスタッフのやり取りを確認するなどして、問題がないということを判定する。そういったフォロー策を考えています。また、管理職が研修内容に沿った指導をしていることも重要ですから、管理職に対するフォローも同時に行います。

    ────大変な手間がかかる方法かと思いますが、研修の内容を定着させるにはそこまでのフォローが必要なのでしょうか。

    手間はかかりますが、手間を惜しんでいては、人は育てられません。物事は何でもそうですが、特に研修は"実施した"、"受講した"というだけで満足してしまいがちです。しかし、それでは時間を割いて研修した意味がない。意味のないことに時間を注いでも、それこそ意味がありません。であるならば、フォローに手間をかけるしかないんですね。教育研修室は、こういったフォロー策を始めとして社員教育をさらに進化させるために、昨年の12月に新設した部署です。これまでは人事部門が、採用、教育、制度、労務という四つの人事機能を担っていましたが、教育は切り分けて専任の部署としたのです。

    ────大規模な基幹システムを導入して業務を効率化される一方で、情報伝達や人財育成には手間をかけるなど、効率化するものとしないものを明確に分けておられるように感じます。何を基準に、その線引きをされているのでしょうか。

    明確にどこかで線を引いているということはありませんが、例えば、システムを使えば1時間で終わるけれども、手作業なら1日かかる仕事があった場合、手作業は時間がかかる反面、システムを構築するのと同じくらいの知見が身に付く利点があります。一方で、その知見を持っている人が手作業でやっても合理的ではありませんので、そのときはシステムを使う。そういった使い分けをしています。

    ただ、買取業務をシステム化したことについては、弊害が一つだけ起こっています。査定で最も大切になるのは、お客さまにご納得いただける価格を提示することですが、重要なのは、提示した金額ではなく、価格をご理解いただけるだけの丁寧な説明をするということなんです。査定をシステム化したことで、説明を怠る査定員が増えた。これが、唯一の弊害です。

    手作業で査定していたときは、オートバイに傷があれば、「お客さまご覧ください、ここに傷があります。どのようにしてついたものですか」と、一つひとつやり取りをして、「車体にこういう問題がありますので、この金額になります」と、価格の根拠を必ずご説明していました。しかし、システムでこれをやると、車体に傷がある箇所を入力するだけで金額が出てしまう。お客さまからすれば、買取価格を提示されても「どうして?」ということになるわけです。

    初期研修はしっかり行っていますから、説明する能力はあるはず。問題は、心構えにあります。お客さまの心理になってみれば、価格に納得できなければ「売ろう」という気持ちにはならないわけで、そこに思いが至らないことが問題なのです。この点の教育にも、今後は力を入れていきたいと思っています。

    小売販売にも進出。"オートバイライフの総合プランナー"を目指す

    ────"オートバイライフの総合プランナー"をビジョンに掲げておられます。そこに向けた次の一手としてお考えのことをお聞かせください。

    次の一手として考えているのは、小売販売です。"オートバイライフ"がいつ始まるかといえば、オートバイを買ったとき。売るのはその次の行動です。ですから、"オートバイライフの総合プランナー"になるには、 お客さまがオートバイを買うところから接点を持つことが必要です。また、オートバイ人口は、年々減少傾向にあります。ライダーの数が減っているというよりは、新規のライダーが増えていない状況。当社の新卒採用に応募してくる学生でも、オートバイの運転免許を持ってない人が多いですからね(笑)。ですから今後は、オートバイに興味を持ってもらうための事業に注力する必要があるということです。

    さらに、オートバイ販売店の数は全国に約1万店舗ありますが、当社が出店する販売店「バイク王ダイレクトSHOP」は10店舗。まだまだ拡大の余地があります。買取店の「バイク王」は、視認性という当初の目的は果たしましたので、出店を加速するステージは卒業しました。今後は、小売販売が次の出店の柱になります。

    ────100店の店舗網を持つ買取店の「バイク王」を、小売販売も兼ねる業態に転換していかれるということでしょうか。

    いえ、「バイク王」はあくまでも買取店としての立地に出店していますので、販売に適しているとは限りません。販売は、基本的には別の立地で、別の店舗と屋号を構えて、スタッフも別の人員で展開する予定です。一店舗だけ買い取りと販売を兼ねる店舗がありますが、店内は壁で仕切って、スタッフも管理者も完全に分けて運営しています。そこはこだわる境界線かもしれないですね。

    ────なぜ分けて運営されるのですか。

    販売店が買い取りも兼ねると、主な収益源が買い取りなのか販売なのかが、よく分からなくなると思うんですね。仮に販売に主軸を置くとすると、買い取りは販売の在庫を仕入れるためのものになりますので、「売れる」と思えば高く買っても構わないなど、買取基準もいい加減になってしまいます。自動車業界でもその失敗例は見ていますし、オートバイ業界にも同様の失敗例は多くあります。

    また、「バイク王」がお客さまから信頼されているのは、「買い取りの専門店だから」ということが大きな理由の一つ。販売も兼ねてしまったら「何をしたい店なのか」とお客さまも戸惑われるかもしれません。ですので、効率的ではないかもしれませんが、販売店と買取店のオペレーションは完全に分け、販売店のスタッフは買取店からの異動か新規に採用して展開しています。

    ────やはり、効率化するものとしないものが明確ですね。

    明確かどうかはわかりませんが、物事は理想通りにはいかないということですね。理想論でいえば、オペレーションを分けたりせずに共通の人員で運営したほうがいいのでしょうが、恐らく計算通りにはいかないと思うんです。

    また、販売店の役割はオートバイに興味を持ってもらうことにあります。昔からのオートバイのイメージだと初心者や女性、ファミリーには入りにくいと思いますし、オートバイに興味を湧くこともないと思います。そのイメージを覆すために、当社のバイク王ダイレクトSHOPは、アパレルやインテリアショップを思わせるような明るいデザインで「明るくて、大きくて、入りやすい」をコンセプトに出店しています。

    写真:バイク王ダイレクトSHOP GLOBO蘇我店(写真提供/アイケイコーポレーション)
    「バイク王ダイレクトSHOP」: http://www.8190ds.jp/

    ────オートバイ人口を広げることも狙った店舗展開なのですね。

    そうですね。目先の商売を優先するのであれば、昔なじみのイメージのほうがいいのかもしれません。しかし、常にユーザー視点に立って考えないと、一時的な業績は好調だったとしても、長い目で見ると業界自体が縮小する可能性が出てくるかと思います。

    ありがとうございました。

株式会社アイケイコーポレーション
取締役副社長 大谷真樹さん

| | コメント(0) | トラックバック(0)
  • <$MTEntryTitle$>

    【急成長企業の人財育成】
    "効率化するもの"と"しないもの"(前編)

     

    長引く不況下で、「経営の効率化を推し進める」といった表現が経済誌や企業各社の株主通信などに頻出するようになりました。しかし例えば、短期的な費用対効果を重視しすぎると長期的な投資が後手に回るなど、何かを効率化すれば必ず副作用もあるもの。万能の効率化策はありません。では、"効率化するもの"と"しないもの"をどう見極めるのか。1994年に創業し、2006年には東証二部上場を果たしたオートバイ買取専門店「バイク王」を運営するアイケイコーポレーションでは"目的に対する合理性"を基準に、"効率化"と"非効率化"が人財育成を始めとする経営のあらゆる場面で巧みに使い分けられています。同社取締役副社長 大谷真樹さんにお話を伺いました。

  • 株式会社アイケイコーポレーション http://www.ikco.co.jp/

    1994年創業。取締役会長 石川秋彦氏と代表取締役社長 加藤義博氏が、オートバイの買取専門店「メジャーオート有限会社」を共同出資で設立。翌年から、1法人・1ブランド・1店舗の多ブランド戦略を掲げ、グループ会社を次々と設立する。1998年にグループ会社の総合コンサルティングを目的に、株式会社アイケイコーポレーションを設立。その後、経営の効率化を図るために2001年から2003年にかけてグループ会社を順次アイケイコーポレーションに統合。店舗名を「バイク王」に統一する。2005年にジャスダック、2006年に東証二部に上場。2009年に「バイク王」100店舗を達成。「オートバイライフの総合プランナー」を目指して、オートバイ買取に加えて、オートバイ小売販売、オートバイ駐車場事業、パーツ販売などを幅広く展開する。
    企業データ/資本金:585百万円、従業員数/923名(2009年8月末日現在、連結) 、販売台数(買取販売)/155,914台(2009年8月期)

    MAKI OTANI

    1971年生まれ。代表取締役社長 加藤義博氏は、小学校・中学校の同級生。1992年に外食企業・株式会社ル・グランに入社。1995年以降、グループ会社の有限会社オーケイ、有限会社バイク王、有限会社モトガレージオープンの設立に参加し、取締役、代表取締役に就任。その後グループ会社統合にともない、2000年に株式会社アイケイコーポレーションに入社。2001年取締役に、2007年副社長に就任。営業本部と教育研修室を管掌。

  • 創業直後から、『24時間・365日・全国』に対応

    ────「バイク王」は、オートバイ買取業界で初めて『24時間365日の申し込み受付・全国無料出張買取(※)』というサービスを手がけ、業界ナンバーワンの実績をあげておられます。この『24時間・365日・全国』というサービスコンセプトは、ご創業後のいつ頃から掲げ、どのようにして実現されたのでしょうか。

    ※一部離島を除く

    メジャーオート(有)の設立当初から意識していました。

    ────1店舗の時代から、全国対応をされていたのですか。

    対応していました。さすがに九州まで行くとなると時間がかかりますので、現地に出張所を置きましたが、そのほかは2トントラックをレンタルして、社長の加藤や私が東北や関西へ出張買取に出かけていました。

    ────経営効率からいえば、非効率ではありませんでしたか。

    確かにそうですが、例えばバイク雑誌などに買い取りの広告を出すと、全国からお問い合わせをいただくんですね。最初のうちは、地方のお客さまには「お伺いできません」とお断りしていたのですが、そういった対応はお客さまからすればご不満でしょうし、当社としてももったいないな、と。それで徐々にお伺いする地域が広がって、全国対応するようになっていったのです。

    『24時間・365日』も同じ発想です。オートバイを売るというのはプライベートなことですから、お問い合わせはどうしても夜に集中します。それを「受けないのはもったいない」と対応し続けているうちに、気づいたら朝まで電話を取っていたなんてことも頻繁にありました。それが『24時間365日の申し込み受付』につながっていったのです。

    ────ご創業当初は、『1法人・1ブランド・1店舗』という形式をとり、多ブランド戦略を取られたと伺っています。

    当時は、車の買い取りがようやく認知され始めた頃で、オートバイの買い取りは、そもそも認知されていませんでした。では、どう世の中に認知されていくかと考えたときに、オートバイの買取業が普及している状態をまずはつくろうと。そこで、すべて別会社・別ブランドで展開し、オートバイ買取専門店の急速な普及を図ったのです。

    これは、お客さまにとっては、お店がいくつもあって比較できるというメリットがある方法でしたが、当社にとってはブランドが増えていくうちに、経営的には非合理的な面が増えてきました。1998年には、グループ会社を統括するために(株)アイケイコーポレーションを立ち上げましたが、それでも、このままブランドが増え続けるのは辛い状態になった。そこで創業7年目、2001年のことでしたが、当時7社あったグループ会社のうちの4社をまずはアイケイコーポレーションに合併し、2003年に残りの3社も合併、3年をかけてグループ会社を統合したのです。

    自前主義で、独自のシステムを構築

    ────事業拡大に伴って、IT投資にも力を入れられたと伺っています。

    ITシステムは、グループ会社の統合を始めたときに導入しました。当時は1店舗あたり1日約15件のお問い合わせに対応していた時代。その程度の数ならIT化する必要もないのですが、まずは4社を統合したところ、4社分のお問い合わせが集約されますので、1日約60件という数になり、1カ所で対応する件数が一気に数倍になりました。

    そうなると、まずつまずいたのが運行管理です。それまでは、ホワイトボードに「誰が、どこに、何時」と書くというアナログ的な方法で管理していたのですが、それでは到底さばけない件数になり、まずは運行管理からシステムを内製していきました。

    ────外注せずに、自社でつくられたのですか。

    2005年に導入した「i-kiss」(※)という基幹システムをはじめ、ほぼ全てのシステムを社内設計してきました。パッケージシステムは価格がリーズナブルであっても、当社のオペレーションに沿ったものではありませんので、カスタマイズしなくてはなりませんし、ほんの少しのカスタマイズにも時間や費用がかかり、必ずしも意図したものが完成するとも限りません。それを考えると、内製したほうがいいという判断をしました。現在は、約10名の担当者でシステムを開発、運用しています。

    ※i-kiss:IK Interactive Solution System。全国統一の査定基準による買い取りを支える基幹システム。査定項目を係数化した「パソコン査定システム」や、オリジナルのノウハウで広告宣伝の効果を測る「広告費用対効果測定システム」など、同社が独自に開発した五つの業務システムを統合している。

    ────同業他社にもこういったシステムはあるのでしょうか。

    オートバイ業界では、恐らくないと思いますね。

    ────雑誌広告やテレビCMなどの広告宣伝にも、システムを活用されていると伺っています。

    これも、当社の強みの一つです。どんな媒体に、どんな広告を、どのように展開し、どんな反響があったのかを、当社が独自に構築した「広告費用対効果測定システム」で測定し、結果を次の広告展開に反映する。その積み重ねを継続しています。他業界の大手企業と比べても、ひけを取らないレベルの仕組みではないでしょうか。

    といっても、当社も最初からノウハウがあったわけではありませんので、広告代理店の提案をそのまま受けていた時期もありました。しかし、どうもお金のかけ方にムダがあるのではないかと疑問を持ち始めました。そこで、会社の規模に関係なく、複数の広告代理店の意見を聞いた結果、自分たちで戦略をきちんと立てないと、効果的な宣伝はできないなと感じ、独自のシステム開発に着手したのです。

    ────かなり綿密なシステムだそうですね。

    計算式も複雑ですし、綿密ですね。完成したシステムだけを見れば、誰にでもつくれそうなものですが、同業他社ではここまでたどり着けないのではないかと思いますね。バイク雑誌、テレビCM、WEBと広告媒体は複数ありますが、お客さまは何を見たのか覚えていらっしゃらないことも多い。テレビCM一つとっても、ストレートにお問い合わせにつながるケースもあれば、WEBに流れてホームページからアクセスいただくなど、仕訳しきれないものもあります。そこは推定値を入れたり、そのほかの複合的な要素も加味して、どの広告にどの程度の予算をかけて、どういう露出をすれば最適かということを、常に検証し続けているのです。

    目先の効率よりも、目的に対する合理性を重視

    ────同業他社と同様に1店舗からご創業されたわけですが、他社に大きな差をつけて全国に100店舗を出店されるまでに成長されたのは、ご創業当時から「全国展開する」という明らかな目標を掲げておられたことが最大のポイントでしょうか。

    それもありますが、常にお客さまの視点に立ち続けてきたことも大きいのではないかと思います。当社が店舗展開を始めたのは2002年のことで、新潟市に出店した「バイク王新潟店」が第一号店です。そこから多店舗展開を始めたのですが、当社のビジネスモデルは"出張買取"ですから、見方によっては、実は店舗は不要なんです。お問い合わせを受けるコールセンターと査定員の出張所、オートバイを収容する倉庫があれば、業務はできてしまいます。実際、2002年までは出張所・倉庫型で展開していました。

    しかし、お客さまの視点に立ってみれば、店舗がないということは見たこともない会社に問い合わせをしなければならないことになります。それでもお問い合わせはいただいていましたが、「そういえばあそこに店舗があったな」くらいの認識は持っていただけるようにならないと、ご利用いただきにくいのではないか、と。また、ご自分でオートバイを持ち込みたいというお客さまもいらっしゃいましたから、その意味でも店舗は必要です。そういった経緯から、多店舗展開に踏み切ったのです。

    ただし、一般の小売業と違って出店は視認効果による広告宣伝活動の一環という意味合いが強く、新しく店舗を出したからといって、いきなり1店舗分の売り上げが増えるわけではないんですね。お問い合わせは、あくまでもコールセンターでお受けするものが中心です。しかし、店舗を出すとそこで働く社員も抱えることになりますから、収益を成り立たせなくてはいけない。ですから、出店した地域のお問い合わせをいかに増やすかが大切になります。多店舗展開を始めた2002年当時は、地域特化型のテレビCMや地域のフリーペーパーが普及し始めたころで、それ以前から活用していたタウンページなども含めて、各地の広告媒体を一つずつ開拓していきました。

    また、当社の事業はそんなに頻繁にご利用いただくものではなく、オートバイを売るというのは、4、5年に1回あるかどうかというもの。いつ訪れるかわからないそのタイミングに、当社を利用したいとお客さまに思っていただく必要があるのです。そのためには広告宣伝を続けて、お客さまにリーチし続けなくてはいけませんが、それには莫大な費用がかかります。何とか低予算でできないかと考えたことから、先程お話した「広告費用対効果測定システム」の開発に至ったのです。こうして築いた100店の店舗網とそれを支えるITシステムが、当社の強みの一つです。

    働く意欲があれば採用し、入社後に育てる

    ────オートバイの買取業は「サービス業である」として、人財育成にも力を注いでおられます。求める人物像や教育研修施策で工夫されていることなどをお聞かせください。

    まず採用ですが、多店舗展開を始めた当初は、「求める人物像」などという理想論が通用する業界ではなかったというのが正直なところです。ある地方都市で4名の社員募集を行っても、応募自体4名あるかは分からないということも少なくありませんでした。ですから無条件とまではいいませんが、当社で働く意欲さえあればとにかく入社してもらって、入社後に教育する。当社はそういったスタイルでやってきました。

    ────どのようにして教育されたのですか。

    出店を始めた2002年当時は、教育体系もありませんでしたので、マンツーマンの完全なOJTでした。出店の仕方にも特徴がありまして、まず新潟に一号店を出し、2店目は東海地区、3店目は九州地区と、出張所がなくて移動効率が悪かったエリアを優先に展開しましたので、それぞれバラバラの地域に店舗があるわけです。合同で研修するには本部に呼ぶしかありませんが、それでは研修中は店舗を閉めることになってしまいますので、私か加藤(社長)が店舗に出向いて直接指導しました。

    店長は関東地区のベテランの査定員から登用しましたが、査定はベテランでもマネジメントの経験はありませんから、店長とスタッフの両方を教育する必要がありました。ですから、店舗がオープンしたときには、1カ月からときには3カ月くらい張り付きましたね。現地である程度の形にまで教育して、また次の出店地へと向かう。このくり返しでした。

    しかし、多店舗展開を始めて2年ほどのうちに、そのやり方にも無理が生じるようになり、研修制度を作って東京で集合研修する形式に変えました。今は、5日間に縮めましたが、当時は2週間くらい研修していましたね。

    ────中途採用で2週間の研修は長いですね。

    なぜそこまで研修するかといいますと、出張買取は、査定員は外出したら夕方まで帰ってきません。お客さまとどのようなやり取りをしているかを、店長が常にチェックすることができないんですね。また、1店舗あたり約4人の査定員が1日に10件から20件の査定に対応するのですが、店長はその管理で精いっぱい。教育している時間はありません。ですから、ある程度一人前の状態にして送り出さないと、こちらとしても不安で仕方がない。そのため、初期研修にはかなり時間を割きました。

    ────どのような研修をされるのですか。

    まず、最初の二日間を使って、そもそもの心構えを教えます。一つは、社会人としての心構え。もう一つは、当社で仕事に取り組むうえでの心構え。その後に、職種ごとの専門研修に入ります。

    ────心構えで一番重視されているのはどのようなことでしょうか。

    相反するかもしれませんが、一つは「自律心」。当社ではこれを「経営者意識」と呼んでいます。もう一つは「素直さ」。この二つは必須ですね。会社組織に入る以上は、当社の理念に共感し、方針を受け入れてもらわないといけない。そのためには「素直さ」が必要です。ただし、それだけでは受け身になってしまいます。買い取りの現場では一人でお客さまに対面しますから、自分の判断で臨機応変に対応できなくてはいけない。そのためには、自分で考えることができる「自律心」、つまりは「経営者意識」も必要です。

    といっても、入社間もない社員に「経営者意識」といってもピンとこないでしょうから、まずは「素直さ」が大切であることを研修や現場のOJTの中で教え、仕事がステップアップしていくに従って「経営者意識」を持つことを教えていくようにしています。特に店長以上には「経営者意識」を強く求めますが、研修の場で急に要求するようなことはしません。急な方向転換をしたところで、身には付かないですからね。店長になる以前の段階から、少しずつ、徐々に教えていくようにしています。

    ────2009年8月には「バイク王」の100店舗を達成されました。ここまでの事業拡大の道のりは順調だったのでしょうか。もしくは、途中で壁にぶつかられたこともあったのでしょうか。

    今、まさに壁にぶつかっています(笑)。社員数が1000名近い規模になり、社内の意思統一が少し難しくなってきました。

    ────どういった場面で、意思統一の難しさをお感じになるのですか。

    例えば、昔は20名程度で行っていた役職者の会議が、今は50名から60名の規模で行っています。これだけの規模になると、会議内容を聞いていない人が続出し、注意するにも目が行き届かない部分が出てきました。500名程度までは意思統一にさほど苦労はしませんでしたが、1000名という規模になってから急に難しくなったと感じています。

    創業17年目にして迎えた「1000名の壁」。この壁を乗り越えるべく、これまでにない取り組みを始めているといいます。後編では、アイケイコーポレーションの組織づくり、人づくりの施策を伺います。

*続きは後編でどうぞ。
  急成長企業の人財育成 ──"効率化するもの"と"しないもの"(後編)

« 2010年2月 | メインページ | アーカイブ | 2010年4月 »

ウェブページ

Powered by Movable Type 4.1

このアーカイブについて

このページには、2010年3月に書かれたブログ記事が新しい順に公開されています。

前のアーカイブは2010年2月です。

次のアーカイブは2010年4月です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。