2009年11月アーカイブ ..

株式会社ティア
代表取締役社長 冨安 徳久さん

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    日本で一番「ありがとう」と言われる葬儀社の組織づくりと人づくり(後編)

     

    人はみな、いつかは『最期』を迎えます。しかしそれは、できれば考えずにおきたい『縁起でもないこと』。葬儀のときを迎えても、費用を細かく確認するなどのお金の話は『はしたないこと』だとされ、葬儀社の言い値がまかり通る風習が長くはびこっていました。そんな葬儀業界に一石を投じたのが、名古屋を中心に葬儀会館を展開するティアです。『目指せ──日本で一番「ありがとう」と言われる葬儀社』をスローガンに、葬儀料金の明細をホームページやチラシで細かく公表し、業界平均の半額以下という驚異的なプランを提示。社員はみな会社の信条を記した『クレド・カード』を所持し、1つ1つの葬儀に心を込めて故人の旅立ちをおくる。隅々にまで理念が浸透した組織は、どのようにして生まれたのでしょうか。裸一貫、ゼロからティアを立ち上げた代表取締役社長 冨安徳久さんに伺いました。

  • 株式会社ティア http://www.tear.co.jp/

    1997年設立。社名の意味は『涙』。葬儀会館『ティア』を展開し、葬儀施行を手がける。料金は、ドライアイス1回分の費用に至るまで詳細に公開する明朗会計。入会金1万円のみで、月々の掛金や年会費は一切不要な『ティアの会』を組織し、会員には特別価格でサービスを提供する。旧来の葬儀業界にはない独自のビジネスモデルが消費者に支持され、会員数は累計で13万人を超え、会館数は36館にまで拡大(2009年10月現在)。2006年に名証セントレックスに上場、2008年に名証二部に指定変更。フランチャイズ事業も手がけ、葬儀会館『ティア』の全国展開を目指している。
    企業データ/資本金:5億円8075万円、従業員数/203名(連結、2009年7月現在)

    NORIHISA TOMIYASU

    1960年生まれ。1979年、18歳のときに、短期アルバイトのつもりで始めた葬儀の仕事に感動し、大学入学を辞めアルバイト先に入社。1981年に愛知県にある大手互助会に転職。1994年に独立を決心し、1997年にティアを設立。著書は『ぼくが葬儀屋さんになった理由(わけ)』(講談社刊)、『ありがとうすべては感動のために―「命の尊さ」を知る!究極のサービス業・ティア流葬儀ビジネス』(綜合ユニコム刊)、『1%の幸せ あなたのココロを磨く45の気づき 』(あさ出版刊)など。

  • 理念教育はくり返し、徹底的に行う

    ────現在、社員数は200名を超えました。社長の目が社内に行き届かなくなるといったことはございませんか。

    もちろん、そういったことはあるのでしょうが、それを最小限に抑えることが最大の課題だと思っています。『日本一』を目指すということは、日本全国に会館を作ってティアのサービスを届けることであり、ティアイズムを背負った人財を全国に届けるということ。そういった多店舗展開を行う以上は、理念教育に最大限の時間と労力と費用を投資するのは当然のことです。人財育成を怠るのであれば、そもそも『日本一』なんて目指してはいけないんです。

    では、どのように人財を育てるか。この答えは一つしかありません。それは、新人が配属された先に、この仕事に誇りと思いを持って取り組んでいる先輩や上司がいるかどうか。言い換えれば、いかに私の分身を作っていくか。この一点だけなんです。

    私自身が、まさにそうです。18歳で出会った先輩から受けた教えがあったから、30年間迷うことなくこの仕事を続けてこられました。先輩のようになりたい、先輩のように心から誰かに尽くしたいというその思いでティアを創業し、ここまできたんです。

    ですから、私は支配人たちにはいつもこう言います。「あなた自身が誇りを持って、この仕事に対する思いを語れますか」と。「『私の人生は、この仕事に出会ったことで変わった』と、熱く語れますか」と。語れる上司がいれば、部下も必ずそうなっていきます。逆に、どれほど洗練された教育体系を作っても、カリキュラムをどれほどブラッシュアップさせても、配属先の上司が仕事観を持っていなければ、人が育つわけがないんです。

    ────管理職の役割は重要ですね。

    管理職だけでなく、先輩社員の役割も重要。当社では、現場の社員をくり返し教育しています。『呼び戻し講習』といいまして、既存社員は定期的に社内の徳育セミナーを受講することになっているんです。しばらく参加していない社員には、「あなたは半年間『命の講習』を受けていないから、セミナーに参加してください」と、人財開発本部から呼び出しがかかります。「社長、その話はもう聞きましたよ」といわれても、何度も何度も理念を伝えるわけです。「同じことを、自分の言葉で友だちに話せますか。それくらいにならないと、本物ではないんですよ」といってね。

    ────くり返し伝えないと身につかない、ということですか。

    そうです。そうでなければ忘れますし、慣れてしまう。人間というのは、そういうものなんですね。それを、慣れさせないようにするための企業努力が必要なんですよ。論語の冒頭にもこうあります。「子曰く、学びて時に之を習う、亦た説ばしからず乎(またよろこばしからずや)」。学んだことを、時折おさらいをしなさい。そのことによって自分の成長が実感できる。それが人生の喜びなのだと。2000年以上も読み継がれているロングセラーの最初にも、くり返し学ぶことの大切さが書かれています。

    ですから、社員に対しても、同じことをどれだけ言い続けることができるか。これは、経営幹部や管理職の大切な資質の一つだと思いますね。特に、経営幹部にはこの資質が必要です。建物は高ければ高いほど基礎を深く掘るのと同じように、ティアのネットワークを広げれば広げるほど、組織の基礎も深く掘らなくてはいけない。経営に即していえば、徹底的に理念教育を行い、理念や方針、思いを社員と共有しなくてはいけない。『日本一』を目指す以上は、これを怠ってはいけないんです。

    求めるのは『一流を目指す』人財

    もう一つ、人財について私がこだわるのは『一流を目指す人』をそろえるということです。採用時にも、新卒であっても中途であっても、「当社の仕事で一流になりたいですか」と必ず聞きます。すると、たいていの人は「一流を目指したい」と答えます。一応はね。もしそう言えないのであれば、「ふざけるな」という話なんです。

    なぜかといえば、一流を目指さないということには3つの失礼があるんです。1つは、お客さまに対する失礼です。お客さまは一流を求めて当社に依頼してくださっている。そのお客さまに、「私は二流でも三流でも構わない」という人が接客をするのは失礼だと私は思うんですね。

    もう1つは、会社に対する失礼。ティアは一流を求める会社です。そこに、「一流を目指す」と言えない人が入社してくるのは、会社に対して失礼。これが2番目ですね。

    3番目は、ティアに応募してきてくれた人たちに対する失礼です。今年度の新卒採用(2010年春入社)でいえば、映画『おくりびと』の影響もあって、会社説明会にはトータルで700人近い学生の参加がありました。しかし、採用予定は12人です。たまたま選考をうまくパスして、「私は一流じゃなくても構わない」という気持ちで入社してくる人がいたとすれば、12人の中に入れなかった人たちに失礼なんです。

    といっても、実際に一流になれるかどうかはまた別の問題です。しかし、「一流を目指したいか」と聞かれたら「目指したい」と答えられるようでないとダメなんですよ。

    一流を目指せる人は、日ごろの生活の過ごし方からして違います。サービス業でいえば、プライベートで外食したときでも、その店の店長やスタッフの動きから何かを学び、盗むことができるかどうか。休日まで仕事のことを考えろとはいいませんが、一流を目指す人は自然とアンテナを張り巡らせているものなんですね。来店客がトイレから出てくると、少しの間隔をおいてスタッフがスッとトイレに入る。そして、洗面台の水滴などをサッと拭いて出てくる。そうしたことを、食事をしながらでも察知して、この店の対応は素敵だなと、感じ取ることができるかどうか。そうした感性を持つことが、一流への道なんです。

    ──── 『一流を目指す人』は、教育によって育てることはできますか。それとも、資質によるところが大きいのでしょうか。

    経営の観点からいえば、教育に費やす時間もコスト。採用の段階で原石を見分けることが、とても大事になります。一時は、葬儀業界にまったく人が入ってこないこともあり、基準を下げてでも採用した時期がありましたが、今はある程度のレベルでもって選考を行っています。

    ────原石となりうる資質を、どのようにして見抜かれるのですか。

    面接で話せばわかります。当社の選考は四次面接くらいまであって、現場の教育係や役職に就いている社員にも面接してもらい、最後に社長面接。ありきたりの質問はしません。「こんな場面に遭遇したら、あなたならどうしますか」といった、とっさの判断が求められるようなことを、いろいろと聞いていくわけです。それに答えるときの間合いや、答え方を見ていれば、本人の感性が見えてくるんですね。

    親に対する感謝の気持ちを持っているかどうかも重要です。家庭に関する質問はあまりできませんが、例えば「親孝行をしたことがありますか」と聞いて何と答えるか、とかね。創作しようと思えば何だって言えますが、中にはこういう学生もいるんです。「大学まで出させてもらって、何もかも親の援助を受けてきました。親孝行らしいことはしてこなかったけれども、今後は自立することが最大の親孝行だと思っていますので、社会に出てしっかりやっていきたい」と。こういう人は、間違いなく親への感謝を知っています。

    人生もビジネスも、根底には感謝の気持ちが必要です。与えてもらったことへの感謝を知っているから与える側になれるわけで、これまで育ててもらったことの感謝を持たずに、社会に何を返せるのかということなんです。

    同業他社の出身者は採用しない

    ────同業他社の出身者は採用しないというお話がありましたが(前編参照)、その基準は今も変わらないのでしょうか。

    変わりません。数年でも他社を経験した人は、そこのやり方に染まっていますから、やむを得ぬケースを除いては、基本的には未経験者しか採用しません。これは、どんな業界でもそうではないですか。特に会社を変えようと思ったら、同業出身者は採用してはいけないと思いますね。

    当社はフランチャイズ展開も行っていますが、加盟いただく企業も異業種と決めています。同業他社から「看板を変えて、ティアでやりたい」とお申し出いただいても、お断りしているんです。

    ────ゼロから『ティアイズム』に染まることができる企業と組むということですか。

    そうです。理念が共有できなければ、ティアのビジネスは成り立ちませんからね。ですから加盟審査では、相手企業の社長とも面談します。1店舗作るのに1億円から2億円はかかる事業ですから、信用調査も念入りに行いますが、最終的な判断は理念に賛同していただける会社かどうかということ。相手企業の社長と直接話をして、この人とは理念を共有できそうだと判断できた企業としか、契約はしないと決めているんです。

    ティアの本当の事業は『人を育てること』

    結局のところ、人生においても仕事においても大切なのは、志を持てるかどうかということなんですね。『願心なきは菩薩の魔事』という言葉をご存知でしょうか。菩薩のように悟りを開いた人でも、願う心、つまり夢や目標、志といったものを持っていなければ、悪魔の心が入ってきてしまう、という意味の言葉です。

    「お客さまのために」という志がない人は、「支配人が見ていないからサボろうぜ」と言われたら、サボってしまう。人間はそういうものです。ですから、人生で一番大切なのは、「目標・使命感・志」といったものを心に持つこと。高い志でなくてもいい。何か目指すものを持つことです。

    夢や目標がないのなら、冨安の夢、それはティアの夢でもありますが、それを一緒に共有しませんか。社会のために葬儀ビジネスを変えるという使命を負っているティアで、日本で一番「ありがとう」と感謝される葬儀社を作りませんか、と。入社してくる人たちには、そんな話をします。そうすると、目指すベクトルも自然と合ってくるんです。

    また採用選考では、もう一つ必ず聞くことがあります。それは、「幸せになりたいですか」ということ。これには、100人いれば100人が「幸せになりたい」と答えます。だから、私はこう言うんです。「では幸せになれる生き方を、このティアという葬儀ビジネスを通じて教えます」と。

    私は、葬儀のビジネスだけを教えるつもりはありません。私が思う『企業の務め』とは、人を育て、人を幸せにすること。この思いを表すものとして、ティアには『三大定義』というものがあります。『人生とは』『仕事とは』『会社とは』。この3つを、明確に定義づけているんです。

    『人生とは、成長し続けること』です。私は、入社した人たちにこう言っています。「今日から、上りの階段だけを思い描いてください。振り向いて、下りる階段はありません」と。そして、「階段の1つ1つは、すべて学ばなくてはいけないことです。ときには高い壁にぶつかり、どうしようと戸惑うこともあるでしょう。問題が起きることもあるでしょう。それでも、前を向き続けてください。次の階段を上ろうとするそのときが、修業のとき。今のあなたには何かが足りないから、それを学んでくださいというサインなんですよ」と。

    では、仕事とは何か。『仕事とは、学ぶための手段』です。人生を『成長し続けること』と定義づけると、仕事もそれにリンクしてくるんですね。人というのは、仕事をすることによって成長し、満たされるものなんです。心理学によると、人には無条件に欲する4つの願いがあるそうです。それは、『愛されたい、褒められたい、役に立ちたい、認められたい』というもの。『愛されたい』は、親から愛されることで満たされるかもしれません。しかし、『褒められたい、役に立ちたい、認められたい』というこの3つは、仕事を通じてしか味わうことができないんです。

    最後に、会社とは何か。『会社とは、成長するための場所』です。先ほども言いましたように、人を育てるということが企業の一番大切な役割です。故・松下幸之助さんは「松下電器は何を作っている会社ですか」と問われて、こう言われたそうです。「人を作っている会社です。ついでに電化製品も作っています」と。私も、「ティアは人を育てている会社です。そのために葬儀ビジネスをやっています」といえる会社にしたいんです。

    子どもたちにこそ『命の教育』を

    話は飛躍しますが、人を育てるということについてもう1つ思うのは、今の日本の子どもたちにこそ『命の教育』が必要だということです。この仕事をしていて実感するのは、みんな『死』をタブー視しているということなんですね。でも、死なない人はいません。みんな『死』に向かって生きている。それなのになぜ、『死』をタブー視するのか。命は限られたものだということを受け入れて初めて、『生』が充実するのではないでしょうか。

    例えば、今日という1日も、1年365日あるうちの365分の1として生きるから、「これは明日やろう」と、物事を先送りにするんです。けれども現実には、「行ってきます」と元気に出かけた先で交通事故にあい、亡くなる方が大勢います。そういった方の葬儀に、私は何度も立ち会ってきました。

    昨年は東京の秋葉原で、「誰でもいいから殺したかった」という通り魔殺傷事件がありましたね。今でこそマスコミが騒いでいますが、ああいうことは昔もありました。その犠牲者のご遺族とも、私は何度も打ち合わせをしてきたんです。どこでどうなるかわからない命の時間を、私はずっと見てきました。ですから、私にとっての1日は365分の1ではありません。1分の1を365回生きているんです。そう考えれば、やるべきことを後回しにする人生なんてあり得ないんですよ。

    そこで思うのは、各方面からの反対はあるかもしれませんが、子どもたちにこそ『命の教育』が必要だということです。年間の自殺者が3万人を超えるようになってから10年以上が経ちますが、世界で最も豊かな国の1つである日本で、なぜ自殺者がこれほど多いのか。人は、物だけでは満足しない生き物だからです。であれば、教育の場に『命の教育』を吹き込むべきだと私は思うんです。

    命があるのは人間だけではないというのも、ぜひ伝えたいことです。ある中高一貫校では、こんな教育をしています。研修旅行と称して、子どもたちを北海道に連れていくんです。そして、夕食に豚の生姜焼きを食べさせるんですね。「豚さんも命あるものだから、『いただきます』といおうね」といって。そして、その翌日に豚の屠殺場を見学させるんだそうです。目の前で泣き叫びながら屠殺される豚の命、それを人間はいただいている。その命に感謝することが、本当の『いただきます』なんだよ、と。実体験を通して、命に感謝するということを教えているんです。

    私は年間に100回ほど各地で講演をするのですが、そこでも『いただきます、ごちそうさま』という、私が20歳ごろに聞いた『命の法話』をしています。『いただきます』も『ごちそうさま』も、ただの挨拶ではありません。省略されていますが、そこには必ず枕詞がつくんです。『その命、いただきます』、『その命、ごちそうさまでした』と。

    人間が生きていくには、いろいろな命をいただかねばならない。そのことに感謝して生きることが、人として生きていくということです。そう思えば、「あれが手に入らない」、「これが手に入らない」と思う気持ちもなくなるはず。幸せになる一番の近道は、今、身近にある幸せを感じられる心を持つことなんです。

    私は18歳でこの仕事に出会い、天職だと思ってこれまでやってきました。そして、人の命とはどういうものなのか、人として生きるとはどういうことなのかを、この仕事を通して教えられてきました。そうやって与えていただいたものを、今度はアウトプットしたい。命の尊さを伝えることが、天職を通り越して天命だと思って、日々取り組んでいます。

    ────ありがとうございました。

株式会社ティア
代表取締役社長 冨安 徳久さん

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    日本で一番「ありがとう」と言われる葬儀社の組織づくりと人づくり(前編)

     

    人はみな、いつかは『最期』を迎えます。しかしそれは、できれば考えずにおきたい『縁起でもないこと』。葬儀のときを迎えても、費用を細かく確認するなどのお金の話は『はしたないこと』だとされ、葬儀社の言い値がまかり通る風習が長くはびこっていました。そんな葬儀業界に一石を投じたのが、名古屋を中心に葬儀会館を展開するティアです。『目指せ──日本で一番「ありがとう」と言われる葬儀社』をスローガンに、葬儀料金の明細をホームページやチラシで細かく公表し、業界平均の半額以下という驚異的なプランを提示。社員はみな会社の信条を記した『クレド・カード』を所持し、1つ1つの葬儀に心を込めて故人の旅立ちをおくる。隅々にまで理念が浸透した組織は、どのようにして生まれたのでしょうか。裸一貫、ゼロからティアを立ち上げた代表取締役社長 冨安徳久さんに伺いました。

  • 株式会社ティア http://www.tear.co.jp/

    1997年設立。社名の意味は『涙』。葬儀会館『ティア』を展開し、葬儀施行を手がける。料金は、ドライアイス1回分の費用に至るまで詳細に公開する明朗会計。入会金1万円のみで、月々の掛金や年会費は一切不要な『ティアの会』を組織し、会員には特別価格でサービスを提供する。旧来の葬儀業界にはない独自のビジネスモデルが消費者に支持され、会員数は累計で13万人を超え、会館数は36館にまで拡大(2009年10月現在)。2006年に名証セントレックスに上場、2008年に名証二部に指定変更。フランチャイズ事業も手がけ、葬儀会館『ティア』の全国展開を目指している。
    企業データ/資本金:5億円8075万円、従業員数/203名(連結、2009年7月現在)

    NORIHISA TOMIYASU

    1960年生まれ。1979年、18歳のときに、短期アルバイトのつもりで始めた葬儀の仕事に感動し、大学入学を辞めアルバイト先に入社。1981年に愛知県にある大手互助会に転職。1994年に独立を決心し、1997年にティアを設立。著書は『ぼくが葬儀屋さんになった理由(わけ)』(講談社刊)、『ありがとうすべては感動のために―「命の尊さ」を知る!究極のサービス業・ティア流葬儀ビジネス』(綜合ユニコム刊)、『1%の幸せ あなたのココロを磨く45の気づき 』(あさ出版刊)など。

  • 業界で初めて、『適正な葬儀価格』を打ち出す

    ────平均費用が200万円とも300万円ともいわれる葬儀業界において、御社の平均単価は119万6000円。業界の常識を打ち破る価格を打ち出された背景をお聞かせください。

    当社の価格設定は、『激安価格』や『価格破壊』だとよくいわれます。12年前に会社を設立した当初から、テレビや新聞、雑誌などマスコミにはよく取り上げていただいているのですが、みなさんそうおっしゃる。しかし、私はその度にお伝えしているんです。「当社は価格破壊をしているわけでも、激安価格でご提供しているわけでもありません。業界で初めて、適正な価格をご提示しただけなんです」、と。

    例えば、ご遺体に添えるドライアイス。10キロで1万円が、この業界の平均価格です。中には1万5000円という価格をつけているところもありますし、10キロという量すら明記していなところもあります。このドライアイスの仕入れ値がいくらか、ご存知ですか? 1キロ150円です。それを1万円で売っているんですよ。

    これはほんの一例で、これまでの葬儀業界では、こういった明細すら提示されないことも珍しくありませんでした。どんなデパートに行っても値札のない商品は一つもないのに、こと葬儀に関しては値札のある商品が一つもない。消費者も葬儀の値段を細かく確認することをタブー視してきましたし、業界も価格をブラックボックス化してきたわけです。

    それに対して、サービスにすべて値札をつけ、チラシにも価格をハッキリと提示して、基本的なものはすべて『祭壇セット』としてセット価格にしましょう、と。当社は、そのことをやっただけなんです。なぜ常識破りの価格にできたかといえば、本当の原価はもっと安いから。これまでの価格は、業界が勝手につけていただけなんです。

    今では、当社が名古屋地区で15%の占有率を持つまでになりました。その結果、この地区の葬儀の平均費用は、約300万円といわれていたものが、約250万円にまで下がりました。当社の平均価格はさらにその半額以下、119万6000円です。それでも、売上高経常利益率は7.1%(※)、総資産経常利益率は8.3%(※)。この価格でやってもきちんと利益が出るんですよ。

    ※平成20年9月期実績

    経営者は『公憤』を持たなくてはならない

    葬儀業界の価格のあり方に疑問を感じるようになったのは、2番目に勤めた葬儀社で、25歳で店長になったときのことです。店長になると仕入れ価格がわかるようになります。その安さには、驚きました。こんなに原価が安いものを、なぜ200万円、300万円で売るのか。それが私には理解できませんでした。

    決定的な問題意識を持ったのは、その5年後のこと。その年に会社から、「今後、生活保護者の葬儀は扱わない」という方針が発表されたんです。当時、会社が請け負う葬儀全体の約3%から5%は、生活保護の方々の葬儀だったんですね。100件のお葬式があれば、3件から5件はそういった方のお葬式。こういった葬儀には、市町村によって金額に多少の違いはありますが、葬儀扶助といって20万円ほどが自治体から支給されます。その費用でもって病院にお迎えに行き、生活保護の方の最期をおくるということをしていたわけです。

    20万円といえば、人件費も入れると収支トントンか、やや赤字という金額です。でも残りの9割以上の葬儀では、いってみれば暴利を得ているわけですから、全体の3%や5%くらいは赤字でも、生活保護の方々を助けてあげればいいじゃないですか。それを会社は、「生活保護者の葬儀は請けるな」という。

    それを聞いたときは心底驚いて、何を言ってるんだ、と思いました。最初に勤めた葬儀社で教わったのは、「人の死を、分け隔てしてはいけない」ということです。ご遺族がお1人でも100人でも、お金持ちでもそうでなくても、人の命の最期に大きな悲しみがあるのは同じ。差別をしてはいけない、と。それが、この葬儀ビジネスの揺るぎない根幹だと私は思っていたんです。

    冷静に考えてみれば、人の死と悲しみを持って、売上や利益を追求するビジネスをさせていただいているのは、葬儀社だけです。命の最期に接するビジネスに関わる者として、亡くなった方を尊ぶ気持ちを持ち、ご遺族の悲しみをきちんと受け止めるのは当然のこと。そう考えると、相手によって差別するというのは、許されないことなんです。

    しかし、会社は「生活保護者の葬儀は断れ」という。「うちは、全国で10本の指に入る大手互助会だ。お金のない末端の人たちの葬儀は、個人の葬儀社に任せておけばいい」と。そこで私は、店長会議で経営幹部に反論したんです。ほかの店長たちにも事前に相談したら、「会社のあの方針はないよな」と、みんな私に同意してくれました。

    ですから、「反対しても会社が聞き入れてくれなかったら、みんなで賛同してくださいね」と店長たちにお願いして、今言ったような話を経営陣にしたんです。「人の死をビジネスにしていいのは、葬儀社だけですよね」と。「もちろんボランティアではないということは理解していますので、ほかの葬儀で売上と利益はきちんとあげます。ですから、生活保護者の葬儀もお手伝いさせてください」と。そうしたら、「その方針はもう決まったことだ」と、雷が落ちるくらいに幹部に怒鳴り散らされまして。店長たちはといえば、みんな黙って下を向いている。誰も顔を上げないんですよ。

    ────話が違いますね。

    そう。ただ、考えてみれば仕方がないんですね。当時、店長の多くは40代の年輩の方々でしたが、私は30歳。若かったこともあり、一族郎党の経営幹部に逆らうのがどういうことか、考えたこともありませんでした。でも聞けば、過去に一度、親族に逆らった人がどこかへ飛ばされてしまったらしいんですね。だからみんな、一族が決めたことには逆らえないわけです。

    そのときです、業界のあり方に疑問をハッキリと感じたのは。それまでも、遺族の方々にはとても感謝される仕事なのに世間では偏見の目にさらされて、「人の死で飯を食っているのか」とか、「祭壇なんて、あってないような値段なんだろう」とかね。いろいろと言われてきたことも思い出されまして。この社会性の低さの原因は、閉鎖された業界にあるということがよくわかりました。これは何としても業界を変えなくてはいけない、と。そこから、独立を考えるようになったわけです。

    私は、商売には『怒り』が必要だと思っているんです。誰かが歩いた道を歩くのであれば、『怒り』なんてものは、いらないかもしれない。しかし、道なき道を切り開くのは、ゼロから1を作るということ。これには『怒り』が必要です。

    では、『怒り』とは何か。『公憤』という言葉がありますね。故・松下幸之助さんの『指導者の条件』にはこうあります。「指導者たる者、いたずらに私の感情で腹をたてるということは、もちろん好ましくない。しかし指導者としての公の立場において、何が正しいかを考えた上で、これは許せないということに対しては大いなる怒りを持たなくてはいけない(※)」と。

    ※「指導者の条件」(松下幸之助著 PHP研究所刊)より

    資産家の息子でもなければ、葬儀屋の息子でもない私が、独立のリスクを負ってでもティアを創業したのは、葬儀業界に一石を投じなくてはならないという思いから。適正な価格を打ち出す葬儀社として業界基準を作り、セレモニーブランド・ティアを作り上げてやろう、と。その使命感に駆られたのは、この『公憤』という怒りからなんです。

    『日本で一番「ありがとう」と言われる葬儀社』を作る

    その後、37歳で独立したときに最初にしたのは、経営理念を自分の言葉で書き表わすことでした。『目指せ──日本で一番「ありがとう」と言われる葬儀社』というスローガンです。なぜそうしたかといえば、会社を創業するのは理念を実現するためだから。理念は、私の生涯のスローガンです。

    もちろん企業ですから売上や利益も追求しますが、それは経営者であれば当然のこと。そうでなければ、大切な資金を投資してくださった方々に顔向けができません。でも、そこに理念がなければ、本質がずれていってしまいます。このところ企業の不祥事が続いていますが、ああいったことは完全に経営者の責任。売上や利益だけを追求するから、そういうことが起るんです。

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    理念を創りあげた当時のことを、冨安氏は自著「ぼくが葬儀屋さんになった理由(わけ)」の中でも次のように語っている。
    「新会社設立のためにやらなくてはいけないことが山のようにあったけれども、中でも最初にやった重要なものは理念作りであった。
    (中略)
    目指すは「売上・利益の日本一」ではなく、どこの同業他社よりも「ありがとう」と感謝される葬儀社になりたかった。それと企業の旗印として、会社が存続する限り、変わることのない想いを「生涯スローガン」として言葉にした。それが『目指せ──日本で一番「ありがとう」と言われる葬儀社』である。
    ──「ぼくが葬儀屋さんになった理由(わけ)」(講談社刊)より
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    経営理念をつづるときに大事にしたのは、わかりやすい言葉で表現することです。社員と共有するためには、難しい言葉で語らない。『単純化戦略』はとても大切です。

    さらに、理念をかみ砕いた『クレド・カード』も作成し、社員に配布しました。『クレド』はザ・リッツ・カールトン ホテルが有名ですが、リッツ・カールトンが日本で初めて大阪の梅田に進出した97年に当社は始まったんです。その雑誌の記事に、「リッツ・カールトンのモットーは、『We are Ladies and Gentlemen serving Ladies and Gentlemen(紳士淑女をおもてなしする私たちもまた紳士淑女です)』だ」とあるのを読んで感動しましてね。お客さまにただ仕えるだけの存在ではダメだ、ということです。これはすごいな、と。

    さらにリッツ・カールトンには、「理念や信条をまとめた『クレド・カード』がある」と書いてある。今でこそリッツ・カールトンを紹介する書籍が多く出ていますが、当時はまだそういったものがない時代です。私は、すぐにリッツ・カールトンに泊まりに行きました。「『クレド・カード』をください」というお願いは断られましたが(笑)、見せてもらうことはできましたのでその場で大方を頭に入れ、それを参考にティアの『クレド・カード』を作成したのです。

    設立5年目に組織が急拡大。求心力を失う危機を迎える

    ────しかし設立5年目に、理念が組織内に伝わらないという事態を経験されたと、ご著書で拝見しました。会館を5店舗から一気に10店舗に増やされ、組織が急拡大したことが原因だったとか。その状況を、どのようにして打開されたのでしょうか。

    創業時には、『毎年2店舗ずつ会館を増やし、10年で20店舗にする』という事業計画を立てていました。そして2年目、3年目は計画通りにオープンできたものの、4年目は27人の地主さんに交渉してすべて断られましてね。それが、5年目にたまたま話が重なって、一気に5店舗から10店舗に増やすことになったんです。それに伴って急きょ社員募集もかけ、初めて経験者を何人か採用しました。基本的には同業他社の出身者は入れたくなかったんですが、出店の必要に迫られて採用したわけです。

    ────経験者の採用を避けるのは、なぜですか。

    同業他社に何年かいると、仕事の手を抜くということを覚えてしまうんですよ。当時応募してきたのは、経験がまだ3、4年の若手でしたので、他社のやり方にそれほど染まっていないかなと思って採用したのですが、結局のところは2、3年もいれば、もう横着を知っているんですね。

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    当時を、冨安氏は自著でこう振り返る。
    「会館が増えるに従って、『ティア』の何かが違ってきたことに気がついた。遺族のアンケートや施行社員の報告書から、遺族との心の触れ合いが伝わってこないのだ。店長会議でも売上と利益の無味乾燥な話だけしか出ない。
    (中略)
    七、八館に増えた頃から、すでに会館ごとに方向性のばらつきが見えはじめ、『このままではダメになってしまう』とまで思った」
    ──「ぼくが葬儀屋さんになった理由(わけ)」(講談社刊)より
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    また、社員数が倍になりましたから、教育係の社員が全員を見渡せなくなり、建物が5店舗から10店舗に増えたことで、物理的な物事をこなすので精いっぱいだったという事情もありました。

    この経験で実感したのは、やはり『人』がすべてだということです。建築に例えれば、建物が高くなればなるほど、基礎は深く掘りますね。会社も同じで、組織を大きくするには、それだけ理念という基礎をしっかりと共有する必要がある。それまでも共有する努力はしてきたつもりでしたが、実際には足りなかったということなんですね。

    これはもう忙しくても何でも、理念を徹底的に再教育しようと。当時、私が講師を務める90分の社内セミナーを月に16回は開いたでしょうか。それまでも、葬儀がない友引の日に社員を集めて理念教育のセミナーを開いていたのですが、友前(ともまえ)といって、友引の前日の夜にも開催するようにしました。友前はお通夜がありませんから集まりやすいんです。社員には夜に来てもらうことになりますが、残業代を払ってでも研修を受けてもらおうと。そのようにして、われわれがなぜティアという会社を立ち上げたのか、その根底にある考え方や物の見方、捉え方を、一字一句ひも解いて、再教育をしていったんです。

    ────その過程では、辞めていかれた社員の方もいらっしゃったそうですね。

    主に経験者が退職していきましたね。横着を知っている者が排除され、楽な仕事を求めるほかの社員も一緒に辞めていき、結果として社員がものすごく精査されました。今、残っている幹部は、当時の苦労を一緒に乗り越えてきた者ばかり。ハードな経験でしたが、そのことによって、人を育てることがいかに大切か、管理体制をしっかりと構築して組織力を強化することがいかに大切かということを学んだのです。

    各会館の支配人を統括する、マネジャーのポジションを作ったのもこの時期です。自分たちの職制や職域も、日々もまれる中で理解していきました。例えば、社員の誰かが休んだからといって、支配人が代わりに葬儀についたのでは、会館全体の運営を見ることができなくなります。支配人が病欠したからといってマネジャーがその会館に入り込んで仕事をしていては、複数の会館を統括することはできません。誰かが欠けたときにどうするかまで考えておくのがマネジメントなんです。そういったことを現場で学んできた社員たちが今、部長や事業部長になって、組織を支えてくれているんです。

    急成長期の危機を乗り越えたティアは、その後も右肩上がりの成長を続けます。現在の社員数は200名超。組織が拡大しても強固な一枚岩であり続ける秘けつはどこにあるのか。後編では、冨安さんの組織観、人財観を伺います。

*続きは後編でどうぞ。
  日本で一番「ありがとう」と言われる葬儀社の組織づくりと人づくり(後編)

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