2009年9月アーカイブ ..

ユニ・チャーム株式会社
執行役員 グローバル人事総務本部長
経営監査部参与、お客様相談センター担当
秋田 泰さん

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    経営施策の浸透・実効は"徹底度"で決まり、
    徹底するプロセスが強い組織を作る(後編)

     

    2002年からの10年間で海外売上を5.7倍に引き上げ、この20年で企業価値を最も高めた企業の一社として評されるユニ・チャーム。2003年、独自の経営手法『SAPS(サップス)経営モデル』を導入し、戦略実行力の強化、コミュニケーションの活性化、人財育成などのあらゆる面で成果をあげているが、これは一朝一夕に為し得たものではない。同社では『SAPS経営モデル』の全社的導入までに3年をかけ、完全な定着には「まだ何年もかかる」と秋田氏(執行役員グローバル人事総務本部長:取材当時)は語る。多くの企業では新たな経営施策を導入しても成果が上がるまで辛抱が効かず、途中で止める、違う施策に入れ替える等の果てに、実効があがらない上に組織も脆弱化している。ユニ・チャームの事例は「経営施策の浸透・実効は愚直なまでの"徹底度"で決まること」そしてその「徹底度が強い組織を作る事」を我々に示唆している。

  • ユニ・チャーム株式会社 http://www.unicharm.co.jp/

    1961年設立。「女性が生活の中で感じる不安や不満を少しでも解消したい」という思いを出発点に、生理用品メーカーとしてスタート。生理用品分野で培った不織布・吸収体の加工・成形技術を核に、ベビーケア(子ども用紙オムツなど)、ヘルスケア(高齢者向け排せつケア用品など)、クリーン&フレッシュ(ホームケア・キッチンケア用品など)、ペットケアなどに事業分野を拡大する。すべての事業を貫くのは、創業の精神を受け継ぐ『快適な生活を支援する』という思い。その事業は今やグローバルに広がり、設立した海外法人は21社。製品は世界80カ国以上に提供されている。
    企業データ/資本金:159億9200万円、従業員数/978名(グループ合計6,904名、2009年7月現在)

    YASUSHI AKITA

    1957年生まれ。1979年、ユニ・チャーム株式会社に入社。営業本部、マーケティング本部を経て、1999年人材開発部長兼総務担当部長、2001年に執行役員に就任。同年、秘書室長兼人材開発部長、02年経営マネジメント部長、04年内部監査室長、07年グローバルSAPS人材開発部長を経て、09年4月グローバル人事総務本部長に就任。

  • 優先順位の高い課題に時間と行動を集中する

    ────SAPS経営モデルとは、どのような経営手法なのか、改めて概要をお聞かせいただけますか。

    戦略を行動目標と実行計画に変換し、優先順位の高い課題に時間と行動を集中するための仕組みであり、社是を実現するための一つの手段として取り入れた経営手法です。具体的には、計画(Schedule)を立て、実行(Action)し、振り返って(Performance)、次の計画を立てる(Schedule)。これを、繰り返し行っているということです。仕組みとしては、まず、中期経営計画の達成に向けて、部門全体として実行すべき戦略を洗い出します。その戦略を個人単位、週単位の行動目標と実行計画にまで落とし込み、進捗も週次で管理します。

    そのプロセスで最も重視するのが、『1P(ワンピー)ローリング』という手法です。『1P』は『ファースト・プライオリティ』の略で、週単位で重点課題を洗い出し、それに対する行動計画を立てるというもの。優先順位の高い課題に時間と行動を集中させるための仕組みです。要するに、無駄な仕事には時間を割かせないでおきましょうということなんですね。

    この仕組みの根底には、『人間尊重』と『達成感重視』という当社の人に対する考え方があります。誰しも与えられた時間は限られていますから、最も有効な物事に時間を割き、成果があがるようにしてあげることが、その人の人間性を尊重することに繋がるという考え方です。例えば、売れない物をたくさん作らせて、結果的に廃棄するというようなことは、最も人間性を無視したやり方です。その人が使った時間が無駄になるわけですからね。それなら別のことをさせてあげたほうがよかったのではないか。そういう考え方です。

    優先順位の高い課題に時間と行動を集中させれば成果もあがり、そのことが達成感にもつながり、達成感を得ることで好奇心が高まってイノベーションが起こる。そういった良い循環を個人の中に生み出し、社員の幸せにつなげていこうというのがSAPS経営モデルの考え方です。

    重視するのは、結果ではなく行動

    ────成果をあげるためには、いち社員の行動にも『選択と集中』の発想が必要なのですね。

    そうです。そして、行動計画もかなり細かく、具体的に立てます。簡単な例でいいますと、ある営業スタッフが1カ月に100万円売るという販売目標を持っていたとします。そこで、得意先のA社とB社からそれぞれ50万円を受注するという計画を立てる。ここまではよくある話ですが、SAPS経営モデルではさらに、A社とB社を何回訪問するのか、いつ訪問して、誰に会うのか。そこまで、行動計画に落とし込むんです。

    行動計画を振り返る際も、重視するのは結果ではなく行動です。『A社を10回訪問して50万円を受注する』という計画を立て、実際は8回訪問して40万円しか売れなかったとしても、SAPS経営モデルの会議では金額については何も言われません。数字を追及する場は別にありますので(笑)。ただし、「なぜあと2回訪問できなかったのか」については、追及されるわけです。

    ────結果ではなく行動を重視するのはなぜですか。

    結果は、さまざまな要素によって左右されるものだからです。本人の行動だけでなく、知識や交渉力といった能力の問題もありますし、競合の問題もある。"運"もありますね。その中で、自分で変えることができる一番手をつけやすいものは、自分の行動だということです。A社を10回訪問するという計画を立てたなら、まずは10回訪問する。交渉力が足りないといった問題は、その次のステップの課題なんです。

    ────よくあるマネジメントでは、そういった要素の切り分けができていないことが多いように思います。

    そう思いますね。「なぜ100万円を受注できなかったのか」というだけでは、複数の要素が混在したままですが、「なぜA社を10回訪問できなかったのか」という話であれば、「風邪をひいていけなかった」など原因を具体的に確認できます。原因が具体的にわかれば、「今後は健康管理を改善する」など、対策も具体的に打てるわけです。

    ────行動基準を細かく明確にすれば、うまくいかない原因がどこにあるかが、おのずと見えてきますね。

    そうです。ですから、SAPS経営モデルでは『1P6W2H』がキーワードの1つになっています。『最も優先順位の高い課題に対して、誰が、誰に、どこで、何を、何のために、いつ、どのように、どれだけ』行うかを決め、それを実行していくんです。

    最近では、行動基準の精度が高まり、実行も徹底されるようになってきましたので、成果があがらない場合は、戦略が間違っているという見方もされるようになってきました。その結果、これは余談になりますが、社員には評価の悪い人はほとんどいないんです。評価制度と連動した年収も、必ず上がる仕組みになっています。仮に決算が減益でも、昇給は必ず行います。行動基準が明確になっているのに利益が出ないとすれば、それは戦略が間違っているから。その責任を負うのは、経営陣だけでいいんですよ。

    SAPS経営モデルは、『原理原則』を学ぶ仕組みでもある

    ────SAPS経営モデルは、学ぶ風土を作るためのものだとも伺っています。具体的には、どのように学びにつながるものなのでしょうか。

    ポイントは、『自己流の排除』を徹底することにあります。仕事というのは、つい自己流でやってしまいがちですが、何事も原理原則を習得したうえで取り組むことが成功への近道。SAPS経営モデルを実践することを通して、その原理原則を学び、日々の行動の中で徹底しようということです。

    具体的には、週次SAPS会議(前編参照)が、一番の学びの場になります。人というのは周囲から教えを受けることによって学ぶもの。『1Pローリング表』を発表することで自分の課題と行動計画をオープンにし、それに対して周囲からアドバイスをもらったときに学びが起るわけです。

    ────SAPS経営モデルは、行動を管理するだけでなく、人財を育成する仕組みでもあるのですね。

    そうです。例えば月曜日のSAPS会議では、毎週持ち回りで2人が『1Pローリング表』を発表します。聞くのは約300人の参加者。その中に『実践リーダー』といいまして、"アドバイスができる資格を持った人"がいるんです。それが約50人。そのうち、会議の場でアドバイスするのは4人と、これも人数が決められていまして、残りの実践リーダーは、会議終了後にメールで発表者にアドバイスを送ることになっているんです。

    ────発表者のもとには、50通近いメールがくるということですか。

    そうです。といいましても、役員や部門長クラスですと3カ月に1回くらいの頻度で発表が回ってきますが、基本的には参加者が300人もいますので、順番がくるのは半年から1年に1回程度。しかし、そのときはもう、ワッとメールがきます。

    ────発表する側は半年に1度でも、アドバイスする側の実践リーダーは、毎週、発表者にアドバイスを考えなくてはいけないというのは、かなりの負担になるのではないですか。

    私もその1人ですが、金曜日に翌週の発表者の『1Pローリング表』が届きますので、私の場合は、土曜日の午前中を使って2人に対するアドバイスをまとめています。『PNIルール』(前編参照)にのっとって、「ここがいいですね。でも、この部分をもっとこうしたら、さらによくなりますよ」と、私などはまだ少ない方で、1人につきA4版で1枚程度。それでも2人分ともなりますと1時間半から2時間近くかかります。発表者の側も、受け取ったメールには返信をするでしょうから、50人近い相手に返事を書くだけでも、半日くらいかかっているのではないかと思います。それだけの時間をかけて、発表者が原理原則を学ぶように導いているわけです。

    なぜここまで『学び』にこだわるかといいますと、人は誰でも成長する可能性を持っているという人間観が根底にあるからなんです。SAPS経営モデルのマニュアルの冒頭には、社長からの次のようなメッセージが書かれています。

    「そもそも我が社では、生まれながらに備わった能力には差がなく、誰しも平等であるという人間観に立って経営をしています。もし能力に差があるとすれば、それが開花しているか開花していないか。やる気が充実しているか、していないかという点だけです。SAPS経営モデルは思考と行動に光を当てることによって、能力と気力充実の双方を同時に改革させることが可能なビジネスモデルです」

    ですから当社では、入社していただいた人は定年まできちっと面倒をみますし、仮にパフォーマンスが発揮できていないとしても能力が開花するのを待ち、成長の機会を提供します。その1つがSAPS経営モデルであり、1Pローリングであるということなんです。

    『すべきこと』だけでなく『してはならないこと』も規定

    ────SAPS経営モデルでは、『厳禁4項目』というものも設けておられます。

    強力な経営モデルであるがゆえに、取り扱いを誤れば組織に深刻なダメージを与える恐れがありますので、そのリスクを回避するために設定したものです。具体的には『1.トレードオフなしでの導入、2.行動基準のない行動計画、3.週次SAPS小集団ミーティングを行わないで資料だけを作らせる、4.コミュニケーション不足(懇親会なし)のままのSAPS経営の実施・継続』の4項目を規定しています。

    ────それぞれ、どのようなものなのでしょうか。

    『1.トレードオフなしでの導入』とは、今ある仕組みを変えないまま、足し算でSAPS経営モデルを導入してはならないということです。『1Pローリング表』を書くのに、毎週約2時間。部門長クラスは、月曜の朝の会議に1時間。部門でも、全員が何らかの週次SAPS会議に参加する、その所要時間が約1時間。少なくとも毎週3時間から4時間を、『1Pローリング』に費やしているわけです。

    これをそのまま導入したのでは、時間外労働が増えるだけですので、「時間相当分の仕事を削ったうえでSAPS経営モデルを導入してください」ということを、厳禁項目の最初で規定しているんです。ただ実際は、それだけの仕事を削減できているかといえば、そうはなっていないのが現状。これは今もまだ、課題として残っている部分です。

    ────営業部門では、金曜日の営業活動を一切中止して、SAPS会議に全日を充てているそうですね。

    ええ。営業部門は金曜日が発表の日になっていますので、午前中かけて『1Pローリング表』を作成し、その後に営業全体の会議、所課別の会議、小集団のミーティングと、午後いっぱいをかけて翌週の重点課題と行動計画を議論しています。以前は商談が入ったなどの理由で会議を欠席する者もいましたが、今は徹底していますので全員集まるようになりましたね。

    ────会議が営業活動の妨げになるといったことはありませんか。

    それはあると思います。競合他社の間でも、ユニ・チャームの営業は金曜日には来ないということが知れ渡っているようですし(笑)。SAPS経営モデルを導入したことで得たものは大きい一方で、当然ながら失ったものもあるということです。

    ────そうであっても、SAPS経営モデルは続けていかれる。

    ええ。全社的な仕組みとして推進するという決定のもとに進めています。厳禁事項の3番目がまさにこの会議を規定したもので、『週次SAPS小集団ミーティングを行わないで資料だけを作らせる』を禁じています。直接のコミュニケーションを通して行動計画を徹底しないと、実行が担保できないんですね。会社全体では小集団は300ほどになりますが、すべての小集団で毎週必ずSAPSミーティングを実施しています。

    ────4つ目の厳禁項目『コミュニケーション不足のままのSAPS経営の実施・継続』でも、コミュニケーションに言及されていますね。

    ここでいう『コミュニケーション』は懇親会、つまり飲み会のことなんです。3つ目までの厳禁項目を徹底しても、SAPS経営モデルに対する不満を持つ人はいるでしょうから、月に1回必ず、会社が予算を出して飲み会を行うことになっているんです。

    ────飲み会も『月に1回』と頻度が決まっているのですか。

    ええ。それが、2番目の項目でいう『行動基準』なんですよ。

    優れた経営管理システムは、簡単にはマネできない

    ────SAPS経営モデルは、社員を管理することが目的ではなく、コミュニケーションを活性化し、社員同士が学び合う風土を作ることで、共に成果を上げる仕組みだということがよく理解できました。しかし、それでもなお、SAPS経営モデルに対して"管理されている"という印象を持つ社員の方もいらっしゃるのではないかと思いますが、いかがでしょうか。

    そう感じている社員は多いと思いますよ。しかし、人間というのは、原理原則を身につけないと、成果を出せるようにはなりません。SAPS経営モデルはそのための仕組みであり、原理原則を身につける過程においては、"管理する"というプロセスも必要だと考えています。

    そして実際に、原理原則を一つひとつ自分の中に蓄積して習慣化し、成果をあげるという成功体験を積んだ人から、SAPS経営モデルの必要性を理解してくれる。そうやって順次、この仕組みが浸透していくのだろうと思います。

    ────全社的な導入には、3年をかけられたそうですね。

    ええ。その過程では現場からの抵抗もありましたが、まずは2003年に役員と部門長クラスに導入し、2年目にマネジャークラス、3年目に一般社員というステップを踏んで広めていきました。

    ────現場の方々からは、どのような抵抗があったのですか。

    大きくは2つありました。1つは時間の問題です。『1Pローリング表』は書くのに約2時間かかるのですが、「そんな時間があるなら営業に行ったほうがいい」と。そこにまず抵抗がありました。

    もう1つは、海外拠点の問題です。毎週月曜の朝8時から行われるグローバルのテレビ会議は、中国では朝7時、タイでは朝6時から始まることになります。6時に始まる会議に出席するには、早朝の5時30分くらいには出社しなくてはいけないわけで、初めのころは「なぜ暗いうちから働かなくてはいけないのか」という抵抗がありました。

    ────そういった抵抗には、どのような対応をされたのですか。

    ユニ・チャームで働く限りは、SAPS経営モデルを実践することが『行動基準』だ、ということです。当初は社長も『1Pローリング表』を書いていましたし、役員や部門長もやっているのだからと、仕方なくやり始めた人も多かったと思います。今では海外も、「月曜日は仕方がない」と思ってくれているようですね。

    ────SAPS経営モデルが完全に定着するためには、何年くらいかかるとお考えですか。

    それはもう、まだ何年もかかると思います。

    ────導入して6年になられますが。

    まだまだ、ですね。本当に定着させるためには、さらにいろいろな工夫が必要になってくるのだろうと思います。例えば、『1Pローリング表』は木曜の夜か金曜の朝に書く人が大半ですが、本当は毎日振り返りを行ったほうが、PDCAのサイクルがより短くなりますよね。月曜日の行動を金曜日に振り返るのではなく、その日のうちに反省すれば火曜日に対策が打てるかもしれない。今はそこまで要求していませんが、本来の目的を考えると、そんな風になってくるのだろうと思います。改善の余地は、まだまだありますね。

    ────より厳密な運用が必要になるということですね。

    ええ。ですから恐らく、ほかの企業がSAPS経営モデルをマネるのは、非常に難しいのではないかと思います。マニュアルや『1Pローリング表』といったツールのフォーマットをお見せして講演する機会もあるのですが、そういったものをコピーしたとしてもマネるのは非常に難しいのではないでしょうか。まず、長続きはしないと思います。

    ────SAPS経営モデルは、ユニ・チャームのDNAや人財に対する思想を伴って初めて成立するものだという印象を受けました。

    そうです。だからこそ、われわれオリジナルのマネジメントシステムなんですよ。トヨタ生産方式などもそうですね。私どもトヨタ生産方式を10年以上学んでいますが、近づいたとは思うものの、完全にマネることはできません。マネることができないからこそ、他社と差別化する一番のツールになり、ひいてはそれが自社の強みになるのだと思います。

    ────ありがとうございました。

ユニ・チャーム株式会社
執行役員 グローバル人事総務本部長
経営監査部参与、お客様相談センター担当
秋田 泰さん

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    経営施策の浸透・実効は"徹底度"で決まり、
    徹底するプロセスが強い組織を作る(前編)

     

    2002年からの10年間で海外売上を5.7倍に引き上げ、この20年で企業価値を最も高めた企業の一社として評されるユニ・チャーム。2003年、独自の経営手法『SAPS(サップス)経営モデル』を導入し、戦略実行力の強化、コミュニケーションの活性化、人財育成などのあらゆる面で成果をあげているが、これは一朝一夕に為し得たものではない。同社では『SAPS経営モデル』の全社的導入までに3年をかけ、完全な定着には「まだ何年もかかる」と秋田氏(執行役員グローバル人事総務本部長:取材当時)は語る。多くの企業では新たな経営施策を導入しても成果が上がるまで辛抱が効かず、途中で止める、違う施策に入れ替える等の果てに、実効があがらない上に組織も脆弱化している。ユニ・チャームの事例は「経営施策の浸透・実効は愚直なまでの"徹底度"で決まること」そしてその「徹底度が強い組織を作る事」を我々に示唆している。

  • ユニ・チャーム株式会社 http://www.unicharm.co.jp/

    1961年設立。「女性が生活の中で感じる不安や不満を少しでも解消したい」という思いを出発点に、生理用品メーカーとしてスタート。生理用品分野で培った不織布・吸収体の加工・成形技術を核に、ベビーケア(子ども用紙オムツなど)、ヘルスケア(高齢者向け排せつケア用品など)、クリーン&フレッシュ(ホームケア・キッチンケア用品など)、ペットケアなどに事業分野を拡大する。すべての事業を貫くのは、創業の精神を受け継ぐ『快適な生活を支援する』という思い。その事業は今やグローバルに広がり、設立した海外法人は21社。製品は世界80カ国以上に提供されている。
    企業データ/資本金:159億9200万円、従業員数/978名(グループ合計6,904名、2009年7月現在)

    YASUSHI AKITA

    1957年生まれ。1979年、ユニ・チャーム株式会社に入社。営業本部、マーケティング本部を経て、1999年人材開発部長兼総務担当部長、2001年に執行役員に就任。同年、秘書室長兼人材開発部長、02年経営マネジメント部長、04年内部監査室長、07年グローバルSAPS人材開発部長を経て、09年4月グローバル人事総務本部長に就任。

  • 社是を実現するための『原理原則』を、明文化して共有

    ──── ユニ・チャームといえば、組織の隅々にまで浸透している3つの『DNA』──『尽くし続けてこそNo.1』、『変化価値論』、『原因自分論』が有名です。これらは、どのようにして生まれたものなのでしょうか。

    DNAの前提になるものとして当社には3つの社是があり、社是を実現することが、当社が存在する理由だと考えています。社是を実現するには原理原則が必要になりますので、創業者である高原慶一朗(現会長)が蓄積してきたものを明文化しようということで、1986年に『ユニ・チャーム語録』というものを作りました。収録されている語録は、全部で235。その中から、特に重要な3つを選び出したものを『DNA』と呼んでいるのです。

    ------------------------------------------------------------------------------------------------------------
    (参考1)ユニ・チャームの社是
    1. 我が社は、市場と顧客に対し、常に第一級の商品とサービスを創造し、日本及び海外市場に広く提供することによって、
    人類の豊かな生活の実現に寄与する。
    1.我が社は、企業の成長発展、社員の幸福、及び社会的責任の達成を一元化する正しい企業経営の推進に努める。
    1.我が社は、自主独立の精神を重んずると共に、五大精神の高揚に努め、誠実と和協を旨として、全社員協働の実をあげる。
    (ユニ・チャームの企業サイトより http://www.unicharm.co.jp/corp/rinen/index.html)
    -------------------------------------------------------------------------------------------------------------
    (参考2)ユニ・チャームのDNA
    ●尽くし続けてこそNo.1
    常に最高の満足をお客様にお届けできるよう、尽くし続けてこそナンバーワンになれる。また、ナンバーワンの責務として前人
    未踏の満足を創造し続ける必要がある。そのためには、全社員の英知と行動力を結集してベストを尽くし続ける必要がある。
    ●変化価値論
    変化こそ新しい価値を生む。自ら変化することによって自分自身が成長し、その結果、業績成果が上がる。変化を価値が
    生み出されるレベルまで高めなければならない。
    ●原因自分論
    物事の原因と責任は全て自分にある。いつも人の話しを素直に聞き、問題が発生した場合も自分の非力さを原因に求め、
    他に責任を転嫁しない。原因を自分に求めることにより失敗の教訓に生かすことができ、人は成長する。
    (ユニ・チャームの企業サイトより http://www.unicharm.co.jp/corp/history/03.html)
    ------------------------------------------------------------------------------------------------------------

    ────235もある語録から、どのようにして3つを選ばれたのですか。

    語録は、大項目としては6つに分かれます。具体的には、『経営戦略/自己開発/組織開発/仕組み開発/UTMSS(アトムス)/U-AMET(ユーアメット)』の6つ。『UTMSS』は、『ユニ・チャーム トータルマネジメントストラテジックシステム』の略。『U-AMET』は、京セラの『アメーバ経営』を参考にまとめた項目になります。

    その中から、『尽くし続けてこそNo.1』と『原因自分論』は『自己開発』から、『変化価値論』は『組織開発』から選びました。さまざまな経営資源の中で、最も大切なのは『ヒト』。『DNA』も『ヒト』や『組織』にまつわるカテゴリーから選んだということです。

    ────『ユニ・チャーム語録』には、高原慶一朗会長のお言葉だけでなく、他社の経営システムを参考にしたものも含まれているのですか。

    ええ。高原会長の考えがベースにはなっていますが、すべてを自分たちでゼロから作ったわけではないんです。『U-AMET』は京セラから学ばせていただいたものですし、『UTMSS』はトヨタ生産方式を勉強してまとめたもの。そのほかの項目にも、他社や大学の先生方がお考えになったフレームを参考にしたものが多くあります。

    DNA継承のための変革(1) 上下のコミュニケーション変革

    ────『ユニ・チャーム語録』の初版を作成されたのが1986年のこと。これによって原理原則を社内で共有してこられましたが、2001年に高原豪久・現社長が経営を継承されたときには、企業風土に課題をお感じになっておられたと伺っています。

    当時はどちらかといえばトップダウンで、何をするにも数人の経営幹部で決めるという状況がありましたね。現社長になってからは、『共振の経営』と社長はよく言うのですが、一人ひとりの社員が自分で考えて行動する『自立型の社員』を育てることに、より一層注力するようになりました。

    ────『変化価値論』、『原因自分論』といったDNAは、『自立型の社員』を育むことにはつながらなかったということでしょうか。

    『変化価値論』といっても、どちらを優先するかという話になると、やはりトップダウンが優先された部分があったということです。副作用として、社員の中に『指示待ち』の体質も見られました。

    その状況を打破するために、まず行ったのがコミュニケーションの変革。具体的には、トップからの情報発信の頻度を高めました。当社はトップメッセージを非常に大事にしていまして、現会長が社長の時代は毎月1回、社内に向けてメッセージを発信していたのですが、現社長になってからはそのサイクルが毎週になっています。

    毎週月曜日の朝、海外の拠点もつないで行われるSAPS経営会議の冒頭で、約20分ほど社長がスピーチを行い、参加する約300人の経営幹部が、社長の話を直接聞きます。そのときに必ず3つのDNAを含めた235の語録のどれかが引用されますので、語録をどう解釈すればいいのかということを理解する機会にもなっているんです。

    その後、幹部クラスは自部門に戻ってミーティングを開き、社長の言葉を受けて感じたことを、自分の言葉で咀嚼して部下に伝えることが決まりになっています。例えば、『原因自分論』といわれても社員はピンとこないと思うんですね。それを、どんな場面でどう活かせばいいのか、一つひとつかみ砕きながら、組織の末端まで伝える仕組みを整えたということです。

    ────原理原則の意味がわかれば、自分なりの応用ができるようになりますね。

    そうです。単に原理原則を教えるだけでなく、実際の仕事でどう活用できるものなのかということを、それこそ何度も何度も、いろいろな例を出しながら、くり返し伝え続けることが大切なんです。

    DNA継承のための変革(2) 部門間のコミュニケーション変革

    さらに最近では、部門間のディスカッションも活発に行われるようになりました。その発端となったのが、上述の月曜日のSAPS経営会議です。そこでは各部門長が持ち回りで、自部門の課題とその解決策を発表することになっているんです。現在、どのようなことを手がけていて、どんな課題を抱え、それを解決するためにどのような手を打とうとしているのか。その発表を聞いて、その他の同席者がアドバイスをする。そんな会議を毎週行っています。

    ────過去には、そういった会議は行っておられなかったのですか。

    していませんでしたね。この会議を行うようになったのは、ここ5年ほどのことです。私などは、取締役会に同席しますので他部門の事情も比較的理解しやすかったのですが、中には他部門の話を聞いてもピンとこなかった人もいたのではないかと思います。例えば、生産部門の人が営業の話を聞いても、よくわからないことも多いでしょうしね。しかし、今はお互いの事情に精通していますから、何かのときには協力し合えるような関係がかなりできてきているように思います。

    ────具体的に効果が生まれたものもありますか。

    ありますね。例えば、商品開発一つとっても、より多くの人が協力するようになりましたから、開発スピードは相当速まりました。商品開発だけでなく、何をするにもスピードは確実に速くなっています。

    ────コミュニケーションが活性化することによる影響は大きいのですね。

    大きいです。1人の知恵よりも2人、2人よりも3人で考えたほうが、よりよいものができますからね。さらに部門を超えて話し合うことで、視点もおのずと変わってきます。例えば、営業はAという商品を売りたいのだけれど、Aの生産ラインはすでに生産キャパシティが一杯で増産ができず、製造側としてはBという商品の営業に力を入れてほしいと思っているという状況があったとしましょう。

    それに対して、各自の都合を主張しているようでは部分最適の発想しかできていないわけですが、今はお互いの事情がわかっていますから、営業側から「ではBに重点を変えて営業しよう」といった、全体最適を考えた話が出る。そんな流れに変わってきています。

    こういったことは、語録の中にも『三人文殊』というものがありまして、以前から言われていたことではあるんです。しかし、「他部門とも話し合いましょう」と言われても、実際には営業と生産が話し合うといったことは、なかなか実現しませんでした。それが、毎週月曜日の会議を始めたことによって、部門長間のコミュニケーションが生まれ、実際の仕事の場でも部門を超えたやりとりが行われるようになってきたのです。

    DNA継承のための変革(3) 「SAPS経営」の導入

    ──── 一般には会議は面倒なものであり、前向きな議論が活発に起こる会議というのは少ないようにおもいます。御社の会議が、知恵を出し合う場になっている秘けつはどこにあるのでしょうか。

    月曜日のSAPS経営会議を皮切りに各部門でのミーティングと一連の会議が開かれますが、これらは『SAPS(サップス)経営システム』という経営手法の一環として行っているものです。社内では『週次SAPS会議』と呼んでいますが、そこで発表するのは、各自が最優先に取り組まなければならない課題。うまくいっていることは、発表しない決まりになっているんです。

    週次SAPS会議では、アドバイスする側にもルールが決められています。『PNIルール』といいまして、Pは『Pleasure(プレジャー)』の略。まずは、相手を褒めるということですね。ルールには「褒めまくる」とありまして、最初に褒め言葉を必ず言わなくてはいけない。Nは『Negative(ネガティブ)』の略ですが、批判するということではなく、「こんな風にしたらもっとよくなりますよ」という、前向きなアドバイスをするということです。最後のIは『Interest(インタレスト)』の略。相手に興味を持つということですね。そして、最後は必ず発表者をやる気にさせて終える。このようにして、アドバイスの仕方も決めてあるんです。

    ひと昔前なら。例えばマーケティングは「営業の努力が足りない」、営業は「マーケティングの販促が悪い」と、互いに非難し合うようなこともありましたが、今はそういった話は基本的には出てきません。

    ────できなかったことを発表しても責められないのであれば、マイナス情報も安心してオープンにできますね。

    ええ。そうしてお互いの事情がわかれば、前向きなアドバイスができるという好循環も生まれますしね。また、ベースには『原因自分論』というDNAもありますから、今抱えている課題は自分たちの問題であるという発想が最初にくる。これも大きいと思います。例えば、われわれメーカーが気になることの1つに在庫の問題がありますが、仮に余剰在庫を抱えたとして、それを取り上げる場合は、生産側は「生産計画に販売データを十分に反映させなかったことがいけなかった」という発表をする。営業側は「営業力が至らなかった」という発表をする。まずは発表の段階で、自分たちが改善できる点を出しあうんです。

    すると聞いている側も「いや、自分たちにもこういう反省点がある」ということになり、「お互いにもっとこうしていこう」という前向きな話に発展する。SAPS経営モデルの仕組みとDNAが相まって、こういったいい流れが生まれているように思います。

    SAPS経営モデルを導入したことで、さまざまなプラスの効果が生まれていると、秋田さんは言います。SAPS経営モデルとは、具体的にはどのような仕組みなのか。後編では実際の運営方法や、仕組みの根底に流れる思想について伺います。

*続きは後編でどうぞ。
  経営施策の浸透・実効は"徹底度"で決まり、徹底するプロセスが強い組織を作る(後編)

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