2009年5月アーカイブ ..

常盤産業株式会社
代表取締役 清水英敦さん

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    付加価値を追求する「創作商社」の組織づくり・人づくり(後編)

     

    深刻さを増す経済状況のもと、多くの業界で差別化を高める動きが加速しています。機械設備関連の専門商社である常盤産業は「創作商社」というコンセプトを掲げ、お客様にとって「真の付加価値は何なのか?」を突き詰める事業にチャレンジしています。「創作する」商社とは、どのような商社なのか。代表取締役 清水英敦さんに伺いました。

  • 常盤産業株式会社 http://www.tokiwa-group.co.jp/

    1947年創業。機械設備の企画・販売などを通じて、モノづくりの要である生産ラインの自動化、合理化、品質向上、環境対策をサポートする。コンセプトは「創作商社」。1000社を超える仕入れ先のネットワークを活かして、自動車関連・工作機械関連・電気電子関連の大手メーカーを中心とする顧客に、ニーズに合った生産設備、システムなどを提供。そのコーディネート力とノウハウには定評がある。
    企業データ/資本金:5000万円、売上高:80億円(2007年度実績)、社員数:65名(同)

    HIDEATSU SHIMIZU

    1959年生まれ。大学卒業後は大手電機メーカーに入社。文系でありながら、工場での生産管理や製造・技術などに携わり、モノづくりの現場で働く。1986年、常盤産業に入社し、前職で得た知識と経験を活かした提案営業を実践。1996年に取締役、2000年に代表取締役に就任。

  • 社員の満足がなければ、顧客に満足は提供できない

    ────社員の自主性をはぐくむ風土は、どこから生まれるのでしょうか。

    私は以前から「役職ではなく『さん』づけで呼ぼう」と、上下関係はうるさく言わないのですが、そういったことも影響しているかもしれませんね。組織図でもその点は意識しています。よくある組織図というのは、トップが上にいるピラミッド型ですね。弊社では、それが逆なんです。一番上はお客様や仕入先。それらと対峙するように営業グループが並び、管理者層はその下。一番下に私がいるというのが、弊社の組織図です。以前はこうではなかったのですが、構図を変えてやれと思って創作したんですよ。

    ────顧客が最優先だということが伝わる組織図ですね。

    そうです。そして、「お客様と向き合っているのは、私ではなくてあなたたちなんですよ」ということを伝えたかったんです。これと関連していえば、弊社には、社長室はありません。私は、営業の片隅で窓際族(笑)。机のサイズも椅子も、みんなと同じです。

    (写真左)本社ビルの改装時(2005年)に採用された椅子。長時間座っても疲れないデザインのものを選択し、役職や立場に関係なく全員この椅子に座る。
    (写真右)写真の中央、奥に見えるのが清水社長の席。社長室を持たないだけでなく、机の配置も独立させずに社員の席に隣接。互いのコミュニケーションを重視し、かつ生産性を上げるレイアウトとなっている。

    ────あえて社長室を設けない会社はよくありますが、机と椅子も同じとは徹底されていますね。

    私の発想は、そもそも社員はなぜ必要なのかという視点から出発しています。社長一人で100億の商売ができるなら話は別ですが、そんなことは不可能ですよね。何よりも、経営理念に沿って弊社が社会に存在する意義を事業として形にするには、一人の力だけでは不可能だから仲間が必要なのです。

    つまり、自分の代わりに仕事をしてくれる、目的を同じくした仲間たちがいるから、会社として「お客様のため」の活動ができるわけです。そう捉えると、社員は「会社の分身」であり、お客様の前では「会社の代表者」。幹部社員はなおさらそうですね。ですから、会社の構成員全員が力を発揮しやすい働く環境を整備することは、会社にとっての重要事項であるわけです。

    一方では、私に社長室はありませんし、社長専用車もありません。通勤は公共交通機関を使い、車が必要なときは事前に調整して営業車を借りています。当社で働く全員が仕事に集中でき、本来抱かなくてもいい疑問が生じない状況の下で、十全に活躍してこそ、お客様に満足を提供できる。そのためには、顧客満足もさることながら社員満足が不可欠なんです。いかに彼らが活躍しやすい環境をつくるかということには、常に意識し、気を配っていきたいですね。

    「求める人財像」だけでなく「求めない人財像」も明確化

    ────そういった一つひとつのお取り組みから、「社員を大切にする」という清水社長のお考えがメッセージとして伝わってきます。採用した方の定着率もよいのではないですか。

    お陰さまでいいと言えばいいのですが、弊社の何に魅力を感じたかによっては、ミスマッチが起こることもあります。具体的に言えば、社風の魅力だけで入社した人。こういう人は、うまくいかないことが多いですね。

    ────長く続かないということですか。

    そう。だめですね。お客様満足のための営業活動は結構厳しいですから。逆に、弊社の仕事にはまった人は、こちらが大丈夫かなと心配するような大変な状況も軽く乗り越えて、結構なレベルに育ちます。そういう人は、仕事の中身に反応してくれたということなんですね。「この仕事が好きだから、やっているんだ」と。この思いが必要なんです。

    これはまでは、学生さんたちにそういったメッセージをあまり上手く伝えられていなかったのですが、2010年春の卒業予定者の採用活動からは、プレゼンやパンフレットなどの採用ツールを一新して、理念や事業に対する姿勢を伝えるように努めています。お陰さまで、優秀な学生さんの内定が決まりました。

    学生に配布する会社案内。タイトルは、「料理する、商社」。「いい商社は、いいレストランに似ている」「当店には定番メニューがございません」とコピーが続き、学生にもわかりやすいレストランに例えて、事業の独自性が解説されている。

    ────採用選考では、どのような点を重視されるのですか。

    自主性や自発性、自律性ですね。自分で考えて自分で行動できるかということが、一つの大きなポイントです。チームを組んで動くといっても(前編参照)、お客様と向き合ったときには営業マンは一人になるわけです。つまり会社を代表してモノをいわざるを得ないときにその場から逃げてしまうようでは、先輩や上司がいつまでも同行しなくてはならない。それでは、だめなんですね。

    もう一つ大事になるのは、相手の立場になって物が考えられるかどうかということ。これも、非常に大切です。これができないと、一方的な押し売りになってしまいます。そうではなくて、お客様に合わせた仮説を立て、それを検証するのが営業の現場であり、相手がどう受け止めるかを考えた提案をするのが営業なんです。要するにRPGをやっているわけですね。

    その上で、弊社の理念や価値基準にマッチする人かどうか。文系、理系は問いません。そもそも、モノづくりの現場や製品に関心があるか。採用ではその点を見ます。私自身の前職の経験からいっても、モノづくりの現場に興味と関心を持って向き合えば、お客様に納得していただける提案をすることは、文系出身者にも十分に可能です。どんなプロでも最初は初心者だと気づけば納得できることです。

    ですから、弊社に対する適性と素質がある人を採用することが一番大切になるんですね。そういう人であれば、「同じ価値基準で自発的に活動してくれる人」に自然と育っていきます。

    そのために、面接には時間をかけますね。最終の役員面接は、約1時間半。学生1人に対して、弊社側は私を含めて幹部が3人出席します。自分の代わりに動ける人であり、同じ釜の飯を食う仲間になる人を選ぶわけですから、採用はきわめて大切な事業課題。最大限のこだわりをもって対応しています。

    ────1時間半の面接は、学生さんにとっては長い長い時間ですね。

    それが、そうでもないんです。実は面接と言っても、中味は雑談しているだけですから、面接が終わって時計を見て「もうこんなに時間が経ったんですか」という人が多いですよ。

    ────御社との相性がいい方は、長く感じないということでしょうか。

    そう。そういう人に絞っていくんです。弊社では、先輩面談とマネジャー面接を経て役員面接に進むのですが、それぞれが、かなりしっかり見ている(笑)。ただ、不思議なことに、どの先輩もマネジャーも視点や基準が統一されていてブレが少ない。よく擦り合わされてきたなと思いますね。

    ────求める人財像は、どのようにして共有されているのですか。

    簡単な目線合わせしかしていないのですが、一つには、私が単なる指示待ちの人を徹底的に嫌っているということがあるかもしれませんね。

    ────徹底的に嫌っておられる。

    そう。指示待ちは大嫌いです。「こうしたいけれども、どうしましょう」ならわかるけれども、単に「どうしましょう」という相談はするなと、社員にはいつも言っています。もっと言えば、日常に疑問を持たない人はだめですね。何かを見て、それがなぜそうなっているのかをつい知りたくなるとかね。うちの営業はそれが自然にできてくれないと困るんです。だからこそ、「常盤産業の○○さんだから頼みたい」という話になるわけです。

    そういう人たちの集まりだから、自分の案件以外のことも黙っていられないのかもしれませんね。誰かが営業から戻ると「どうだった?」に始まって、「それは違うよ」とやり始めると、横からまた「それなら、こうだよ」みたいなね。そういったコミュニケーションが自然と生まれるんですね。

    もう一つ、私も含めて他社を経験している者が大勢いることも弊社の特長です。若手はプロパー社員の比率が高くなっていますが、基本的にはプロパーと転職者が半々くらい。一から入社してくる新卒者ももちろん必要ですが、よその釜の飯を知っている兄貴分的な中途入社の人も大切なんです。

    なぜ大切かと言えば、新卒入社者は弊社のやり方だけが常識になってしまうわけですね。そういう若手を軌道修正してくれるのが、中途入社の社員。弊社とは企業規模が異なる、大手のお客様の環境や価値観を理解して仕事をするという意味でも、他社を経験している社員がいることが効果的なんです。

    ────中途入社の方が多いにも関わらず社風がしっかりと醸成されているのは、求める人財像だけでなく、求めない人財像も明確にされていることも大きいのでしょうか。

    それもあると思います。その点でいえば、弊社の採用活動は、自社にどんな人が見合っているのか?という基準を作り続けていると言えると思います。誰かが「いいかな」と思った応募者も他者に「だめです」と言われて、「弊社の採用基準ってこういうことだったのか」と(笑)。私も勉強させられます(笑)。

    当たり前を積み重ねると、特別になる

    ────圧倒的な競争優位を確立する特効薬はなく、一つひとつの取り組みを積み重ね続けることが大切である。今日お話を伺って、そのことを非常に感じました。

    おっしゃる通りです。私はそれを「2つのサプライズ」と呼んでいます。一つは、「常盤産業は、こんなものも提案してくれるのか」とお客様に満足と感動を提供するサプライズ。もう一つのサプライズは何かと言いますと、「当たり前を積み重ねると、特別になる」ということなんです。

    ────当たり前を積み重ねる。できそうで、なかなかできないことですね。

    例えば、約束や納期通りにいかないということが、この世界ではいくらでもあります。でもそれは、仕入れ先に前もってフォローの連絡を入れておけば防げることも多いんです。それをギリギリまで何もしないでいて、お客様から「あれはどうなった?」と聞かれて初めて「すみません、今からメーカーに確認します」と。挙句に、「メーカーの対応が悪くて、少し遅れます...」と、いかにもメーカーが悪いようにいう。これでは、商社が介在する意味はないわけで、だから商社不要論なんてものが生まれるんです。

    そうではなくて、お客様が期待していることを先回りしてやっていく。そこまでいかなくても、期限をキッチリ守るとか普通のことがちゃんとできるだけで、実は特別な存在になれるんです。そのためにも、お客様の気持ちを理解し、自分で考えて動ける人財が必要です。そうでない人は、「あれはやったか」「これはやったか」と常に指示しなければいけないわけで、そんな人が10人もいた日には上司は参ってしまいます。だから、「人財」が大切なんですね。

    ────「人材」ではなく「人財」だということですね。

    そう。人財はコストではなく、大切な設備だということです。私や幹部の代わりに「同じ価値基準で自発的に活動」できる人でないと、お客様に満足いただけるような提案営業は実現できないんです。

    目指すのは、超一流の中小企業

    ────最後に、今後のビジョンをお聞かせください。

    弊社のビジョンは、「超一流の中小企業を目指す」ことです。企業規模を単純に大きくすることは、目標にしていません。我々のビジネスは、ある前提条件のなかで最適化を図ることが、成果を最大化できることだと思います。ですから、その前提条件が変化したときには、こちらも柔軟に変化する必要があるということです。

    例えば、第二次大戦で、戦争の主役が、空中を三次元に飛び回る小型の戦闘機に移ってしまっているにもかかわらず、大艦巨砲主義の大型戦艦では勝ち目がなかったのと同じことだと思います。なぜなら、戦うべき相手という前提条件が変われば、必要な兵器や装備は変えざるを得ませんよね。過去の成功方程式にこだわるあまり、方程式の前提条件が変化しているのに、同じ式を使っても、解は得られませんから。

    弊社はそういう意味で環境変化に対応できる、存在感のある中小企業でありたいと考えています。それと同時に、中小企業だからといって我慢したり、あきらめたりはしたくない。だからこそ、「超一流の中小企業」なんです。

    ただ、フレクシブルに変化するといっても「お客様に満足を届ける」ことと「モノづくりのお手伝いをする」という会社の軸(理念)は不変です。しかし、お客様の製造現場の状況はどんどん変わっていきますから、満足していただくための弊社の商材も当然変わっていくわけです。

    生産設備や部品に限らず、工場の環境整備といったこともモノづくりのお手伝いになる。そのために、すでに弊社はISO14001(※1)を取得しております。これらに関連する商品についても、お客様にとって相談できる相手となることが、取得の目的です。こういったことも、弊社の仕事になってくるということなんです。また企業情報保護の観点からISO27001(※2)も取得し、お取引先様との信頼性向上を目指しています。

    ※1 ISO14001:2004:環境マネジメントシステムに関する国際規格
    ※2 ISO/IEC 27001:情報セキュリティマネジメントシステムに関する国際規格

    ────日々、進化されているのですね。

    と言っても、一気に飛躍するような飛び道具があるわけではありません。現状の市場環境は、極めて厳しい状況ですから、自分たちの柄にあったことを着実にやっていくしかないわけです。だからこそ着実な成長ができると考えながら。

    ────ありがとうございました。

常盤産業株式会社
代表取締役 清水英敦さん

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    付加価値を追求する「創作商社」の組織づくり・人づくり(前編)

     

    深刻さを増す経済状況のもと、多くの業界で差別化を高める動きが加速しています。 機械設備関連の専門商社である常盤産業は「創作商社」というコンセプトを掲げ、お 客様にとって「真の付加価値は何なのか?」を突き詰める事業にチャレンジしていま す。「創作する」商社とは、どのような商社なのか。代表取締役 清水英敦さんに伺 いました。

  • 常盤産業株式会社 http://www.tokiwa-group.co.jp/

    1947年創業。機械設備の企画・販売などを通じて、モノづくりの要である生産ラインの自動化、合理化、品質向上、環境対策をサポートする。コンセプトは「創作商社」。1000社を超える仕入れ先のネットワークを活かして、自動車関連・工作機械関連・電気電子関連の大手メーカーを中心とする顧客に、ニーズに合った生産設備、システムなどを提供。そのコーディネート力とノウハウには定評がある。
    企業データ/資本金:5000万円、売上高:80億円(2007年度実績)、社員数:65名(同)

    HIDEATSU SHIMIZU

    1959年生まれ。大学卒業後は大手電機メーカーに入社。文系でありながら、工場での生産管理や製造・技術などに携わり、モノづくりの現場で働く。1986年、常盤産業に入社し、前職で得た知識と経験を活かした提案営業を実践。1996年に取締役、2000年に代表取締役に就任。

  • モノが売れない時代の切り札は「付加価値」

    ────常盤産業は、「創作商社」というコンセプトを掲げておられます。「創作商社」とは、どのような商社なのでしょうか。

    既存の商品を売るだけにととまらず、ないものはつくってしまう商社ということです。もちろん、商社ですから自社工場を持つわけではありませんが、右から左にモノを運ぶ単なるサプライヤーではなく、もっと積極的にモノづくりに関わっていこうということなんです。

    例えば、A社、B社、C社といろいろなパートナー企業の機器や部材を集めてオリジナルな装置にまとめてしまうとか、世の中には存在しない、世界に一台だけのお客様専用マシーンを部品から企画・製作しています。既存のモノで対応するだけなら、常盤産業ではなくてもできることです。お客様が望む課題解決に対してどれだけの付加価値をつけられるかが、お客様が弊社を使うメリットになるわけです。

    写真は、ある顧客からの依頼を受けて企画した、世界に一台のスイッチ複合組立機。「騒音を低減する」「1台で多品目を組み立てる」「設備コストを削減する」といった数々のニーズに、すべて対応する一台を実現した。(画像提供:常盤産業)

    私どもの事業のあり方のもう一つのポイントは、「人材」はコストではなく価値を生み出す優秀な設備だということです。オーダーメードが多いということは、仕事が属人的だということでもあります。仕事に付加価値がつけば、その担当者にも付加価値がついているわけです。人件費を抑えるために人員を削減するケースが今は増えていますが、弊社では「人」はコストではなく設備であり、財産。つまり、「人材」ではなく「人財」なんです。そういったことも「創作商社」としての特長かもしれませんね。

    ────「創作商社」というコンセプトは、いつ頃から打ち出しておられるのですか。

    言葉として使うようになったのは、今年の新卒採用活動からですが、意識としてはバブルの頃から考えていたことですね。

    ────バブル期といいますと、1990年前後ですね。

    そう。ですから、もう20年近くになりますね。私が弊社に入社したのが1986年のことで、少しずつお客様のニーズがわかってくるうちに、今後は商社にも「モノを創る視点が不可欠である」と感じたんです。どういうことかと言いますと、営業に行った先で問われるのは「あなたは何をしてくれるのか」ということなんですね。それに対して、単に「これを売ります」というだけなら他社でもできる。本当に求められているのは「どういう付加価値を提供してくれるのか」ということなんです。

    高度成長期は、「物さえあれば売れた」と言われるように、在庫や品揃えといったことが付加価値になりました。よく売れる定番商品に対してアプローチしていれば、それで十分に業績があがった。営業は上司に言われたことさえやっていればいいという時代です。何か意見すると「そんなことは、お前の考えることじゃない」と言われて、余計なことは考えず疑問を持たずクイックデリバリーのみが求められた。今では考えられない話ですが、当時はそれでいけたわけです。

    でも、これには限界があります。特に、バブル崩壊後はそうですね。お客様は、どんな商品があるかをもう十分にご存知で、モノも間に合っているわけです。そういった中で必要なモノだけを買うというときには、価格と納期の勝負になる。しかし、価格と納期で取ったニーズは、同じ理由で他社に持っていかれるんですよ。そうではなくて、何か別な軸での差別化を図らなくてはいけない。それが「付加価値」であり、付加価値のある商品を提供するのが「創作商社」だということです。

    1000社あった顧客を400社に絞り込む

    ────「創作商社」を目指すにあたって、どのようなことから手をつけていかれたのですか。

    まず、弊社は直販と卸売をやっていますが、今後は付加価値をつけにくい卸売を縮小して、直販大手のお客様を中心にやっていくと決めました。弊社がすべきなのは、取引社数を増やす新規開拓ではなくて、ひとつのお客様のあらゆるニーズに対応する深耕開拓です。そのために1000社近くあった「売り」の取引口座を約400社、実動としては200社くらいにまで絞り込みました。

    ────取引先の社数を絞り込むことには、リスクも伴うのではないですか。

    ゼロとは言いませんが、大きなリスクは感じませんでしたね。モノを売るにも、設備としての人財が動くわけですから、コストがかかります。例えば1つ100円の部品を売って10円の利益が出たとしても、それを売るためのコストに何千円もかかっていてれば赤字です。そこで、「これ以上の仕事でないと利益にならない」という取引の基準を設けたわけです。

    ────営業現場の抵抗はありませんでしたか。

    抵抗する人はいましたね。特に抵抗したのは、高度成長期のスタイルが染みついた、「言われた通りやっていればいい」というベテランの人たちです。どういう人かと言うと、付加価値要求のない小口の取引ばかり受注してくる人。すでに付加価値要求の厳しい大手のお客様には対応できなくなっていました。

    そうなると、ますます小口で楽なお客様とのつながりに没頭していくんですね。話し合った末、弊社を去っていく人たちも少なからずいた。結果的に、お客様の構成も弊社の営業スタイルも、そしてコスト構造もガラッと変わりました。

    ────同じような構造的な問題に悩みながらも、手を打てずにいる企業も多いのではないかと思います。問題に手を打てるか打てないかというのは、何が分かれ道になるのでしょうか。

    最終的には、問題の本質を理解した上で、腹がくくれているかどうかということになるのではないでしょうか。そのためには、自社は「何のために誰のために存在しているのか」という経営の理念が明確でないと、おそらくだめなんですね。

    弊社の経営理念は、「お客様に満足を届ける」ことです。それに加えてもう1つ大事なのは、われわれは「モノづくりのお手伝い」をしているのだということ。そのために、お客様と一緒に成長しようということなんです。これが弊社の大義名分であり、弊社が社会に存在する意義です。そこに照らしたときにマルなことはやればいいし、ペケなことはやめようということなんですよね。

    ────突き詰めれば、シンプルなことなのですね。

    「これはしなくていいな」と思うことを、パッとやめて整理するだけですから、ごく簡単なことなんです。結果、お陰さまで今年で創業63年目を迎えましたが、売上の90%以上は一部上場企業を始めとした大手企業とのお取引によるものになっています。

    強みは、社員の自主性と全体最適を考える風土

    ────大手企業との取引には、競合も多いのではないかと思います。「創作商社」として、独自性を確立できた秘けつは何でしょうか。

    創作商社としてのソリューション営業の強さは、端的に表現すれば「指示されて動く営業ではない」ということと、「個人成績ではなく全体の成果を目指す」ところからきていると思います。

    例えば、創作商社にとって何をおいても大切なのは仕入れ先(メーカー)の開拓ですが、これについては私自身も開拓していますが、ほとんどは各営業が勝手にやってくれているんです。今では、少なくとも1000社はあると思いますが、実際には何社口座があるのかわからないぐらい、日々増えています。

    なぜそれができるかといえば、弊社では、いかにお客様に満足していただけるかということが自分の業績でもあるからです。弊社の営業は「このお客様がダメならあっちのお客様」という狩猟型ではありません。畑を一生懸命耕して種をまき、実りを刈り取って・・・という農耕型の営業です。

    そんな中で、「とにかく売ってしまえばいい」とお客様を踏み台にするようなことをしたら、大変なことになります。これでは「売り上げさえあがればいい」という自分のための営業であって、そもそもの目的意識がおかしいんです。弊社が、一見営業に任せているようでいてうまく回っているのは、「何のために仕事をしているのかをハッキリさせようぜ」と、そこは現場としっかり共有しているからなんです。

    ────とはいえ現場の方々に任せた場合、何らかの判断を誤るというリスクはありませんか。

    そういう心配があるとすれば、放任しているからではないですか。任せる場合には、どこかで誰かが見ていることが必要です。その意味では、弊社ではチームで動く態勢を取っていますので、あれこれ話しながら進める中でうまく軌道修正されているのではないかと思いますね。フロアで打ち合わせをしている横から「それはこうじゃないか」「ああじゃないか」と、チームメンバー以外の者が入ってくることもしょっちゅうですし(笑)。そうやってワイワイ、ガヤガヤとやる中で、自然と方向性が統一されていくんですね。

    ────職場のコミュニケーション不全に悩む企業も多くあります。御社ではなぜ、活発なやり取りが自然に生まれるのでしょうか。

    1つには、扱う商品の特性によるところが大きいように思います。例えば、売る商品はみんな同じで営業は全員ライバル同士、事務所には成績グラフが張り出されて......という環境では、個人の成績が大切になりますから、みんなで協力してお客様の案件に取り組むことは、まず難しいでしょう。

    弊社の場合は、お客様の満足を追求したことで取り扱い商品が多岐に渡り、結果的にすべての商材に対応できる営業というのは困難。それぞれの営業が自分の得意分野で勝負し、足りない面は助け合って「お客様に満足を届ける」にはどうすればよいかを考えていくことが必要なんです。指示されるまでもなく、お互いが補完しあって成果をモノにしようと協力しあう。弊社の風土は、こういったことから形成されているように思いますね。

    ────「個人成績ではなく全体の成果を目指す」にあたって、各人の業績評価はどのようにされるのですか。

    業績も評価の対象ではありますが、目標の設定は部門単位まで。個人目標にまではしていません。チームプレイでないと弊社のサービスは成り立ちませんから、「個人目標を達成したらマル」、「達成しなかったらペケ」というやり方はしていないんです。

    といっても、個人の業績がまったく反映されないというわけではありませんが、個人の評価で主に見るのは会社への貢献度。会社の業績に対する、参加の度合ですね。「適当にやっておけばいいや」という態度の人は、見ていればすぐにわかります。一方で、「これ」と決めたテーマや課題に一生懸命に取り組んでいる人は、すぐに結果が出なくても評価します。

    属人的な仕事を奨励し、アメーバ的に事業を広げる

    ────現場の一体感や一人ひとりの強みが活かされるチームプレイなど、日本企業が効率化と引きかえに失ってきたものが、御社にはそのまま残っているように思います。

    業務を標準化したほうが効率がいいケースもあると思いますが、たまたま私どもの仕事は、そうはいかない属人的な部分が多いんですね。だからこそ、どうすればいいかを考え抜いたことで、今の状況があるのだろうと思います。

    ────生産設備という顧客企業のコア事業に直結する商材を扱っておられるだけに、「属人」の主体となる社員の方々には、高い意識が求められますね。

    お客様に認めていただかなければ始まりませんので、そのためには何をすればいいのかを突き詰めていくうちに、今のような仕事の態勢や風土ができたともいえるかもしれませんね。依頼を待っていたのでは話にならないということだけは、誰もが共通して認識しています。だからこそどうするか、というところから発想していく。そうしてあれこれやっているうちに成功事例が出てきて、その実績をもとに次の展開を仕掛ける。弊社の事業は、そうやって広がってきたようなところがあります。

    入社5年目になる女性の営業が、こちらが驚くような大手製造業のお客様での新規口座を開いてきたこともあります。それも、今まで弊社が扱ったことのない商材を使っておられる部門で。「どうやって、お取り引きいただけることになったんだ?」という話ですよね。そういうことを、勝手に走っていってやってくるんですよ。今では、その商材がその人ならではのものになっています。そういう世界が社内のあちこちで勝手にできているのが弊社なんです。

    創作商社であるためには、「社員の自主性が不可欠」と清水社長は言います。社員の自主性は、どのように育めばいいのか。後編では清水社長の組織観、人財観について伺います。

*続きは後編でどうぞ。
  付加価値を追求する「創作商社」の組織づくり・人づくり(後編)

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